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2周目は幸せになります11.5「どんな環境でも人間は学ぶ権利がある」アメリカの大学にいた頃、とある教授が言った言葉だった。小さい頃から自分は何事も周囲の目を気にしていた記憶しかなく、それは幼少期に両親から植え付けられた躾が関係しているのだと理解していた。元々代々貿易商を営んでいた家系の影響で張(チャン)家はあまり定住した国が無かったという。まるで流浪の民の様だと内心揶揄った事もあったが、ある時持病を患っていた祖父が倒れてしまいその街の病院に運ばれた。元々心臓が弱い祖父が無理をし、海外
2周目は幸せになります⑪ヒールをカツカツと打ち鳴らし歩いて来た女性に誰も声を発しなかった。ワンレンの艶やかな黒髪を腰まで伸ばした彼女は目鼻立ちの綺麗な顔立ちで、生まれた時から大事にされてきたのだろうとわかる程に気品と自信が内側から溢れている。生まれながらのお嬢様と苦労してこの立ち位置に辿り着いた自分。自分がどうしても無理な場所に彼女が立っている。まだ私は片隅に残った敗北感を思い出していた――。別窓⑪へ△△△△△△△△△△🐥🐥🐥🐥🐥🐥🐥🐥🐥🐥🐥皆様お久しぶりです、りまでござい
Insensitive【前】「俺、結婚する事になりました」週末の夜は仕事終わりの客でどの店も賑わっている。江南区に新しく出来たという焼肉屋もまた店員の声と客の騒音で時々話が聞き難かった。だからか、4人がけのテーブル席を2人で占領し注文したビールを口元に持っていたウンスは、一瞬正面にいるヨンの発言が聞こえなかった様でそのままグビリと飲んでいる。はぁーと満足気なため息を吐き出した後、顔をヨンに向けてきた。「え?何?」「だから、俺、結婚するんです」そこで漸くグラスを置こうと
2周目は幸せになります⑩「・・・今日は、これで終わりです」少しの静寂の後、彼が再び呟いた。しかし、それは独り言でなくどうやらウンスに向けられたものだった。――・・・・・あーーっ。漸く家に帰れるわ!チャン先生との約束も無くなり、既にウンスの体力ゲージと気力は底に着きかけている。「そうですか」「・・・・・上に彼が待っているかと」イ氏との待ち合わせ場所に移動し、私は自宅まで送って貰う。それで今日の仕事は無事終了。早く帰りたい。シャワーを浴びて、お酒を飲んでさ
2周目は幸せになります⑧さて、私が今いる状況を把握するべく自分の中に1つの秤を想像してみた。横には数年前に私を裏切り幸せな人生を歩んでいる男。何故か、この男の会社からやって来た弁護士に連れ回され気付けば何時の間にか憎い男の行動を共にするはめになっている。そして。自分の右手にはその数年間私の傍にいて、医者として、人として尊重し支えてくれた人からの着信音を響かせた携帯電話。ギリシャ神話の天秤を持つ女神の如く、中心に立つウンスは一瞬張り詰めた空気を車内で感じ、チラリと横に座る男の表
2周目は幸せになります⑦(追記あり⬇)――ああ、あれだわ。見た事あると思ったらよくある高校の校舎だわ。ウンスはビルにすると10階建てになる施設を静かに見上げ思った。横にいるイ氏がそんな呆けた表情のウンスに気付き説明を始めたが、やはり数年前に廃校になった学校を再利用したという。――うん、やはり私には関係無い事なんだけど。自分がこの場所に立つ理由も納得も出来ないままウンスは死んだ眼差しでただその建物を見つめている。いや、正確には他の場所に視線を移したくないからで、特に少し離
2周目は幸せになります⑥ウンスが驚愕したのは、あの気まづいランチから二日しか経っていないというのに再びイ氏から連絡が入った。「チェ社長が帰国致しまして」「だから、何ですか?」「・・・も、もう一度会って頂きたいのです」「遠くからこっそりとで良いと言っていましたよね?何故また会わなくてはならないんです?」すっかり自分の事も見つかってしまった。だとすると最初に話して来た契約内容と違うではないか?ウンスがそう言うとイ氏はごもっともですと言葉を返して来た。だが、だからといってこ
2周目は幸せになります⑤仁川空港近くのハイクラスホテルの中にある小洒落たレストランに来るまで車の中では、イ氏は疎かチェヨンもウンスも一切話す事は無かった。重苦しい空気が漂う空間で目的地まで車を動かした運転手を褒めてやりたい。ウンスは反対にいるチェヨンを見ずに窓の外流れる景色を見ながらそれだけを考えていた。やはり彼のスーツは寸分の狂いもなく採寸され、彼の為だけの服なのだと思える程のデザインと素材だとわかった。きっと有名テーラーがあちこち世界を飛び回っているであろう彼の事を考え、通気性や
2周目は幸せになります④三日後、ウンスは漢江近くにあるビルのエントランスに立っていた。目立つ格好は困るという事で、地味なスーツと赤茶色の髪を1つに纏め一応サングラスまで掛けイ氏を待っていたが近付いて来たイ氏はウンスを見ると困った様に眉を下げた。「・・・まあ、大丈夫だと・・・多分ですが」「これでも地味にしたつもりなんだけど?」「そ、そうでしたか。ありがとうございます」困った顔をしたままこれからの予定をと胸元から手帳を出した彼にウンスは目を薄める。どういう格好が正解なのかも
2周目は幸せになります③一気に疲れ果てながらウンスは自分の家に帰って来た。結局はあの男の頼みを飲んだ自分が馬鹿だと罵りながらとぼとぼと玄関に入ると、そんなタイミングで鞄の携帯電話が鳴り急いで目を通す。やはり朝連絡した相手からのメールでウンスは眉を下げながら画面をタップした。久しぶりの休日にウンスの方から誘ったというのに、都合が悪くなったと連絡しなくてはならなかった情けなさに再び謝罪したが、『気にしないで、また違う日に行きましょう。楽しみにしています。』――グハッ!ウン
2周目は幸せになります②それはウンスがよく知る江南区の街並みが映された写真だったが、彼は大きなビルを指差した。「この隣にもその施設を予定しております。大体このビルの2倍になります」「・・・ちょっと待なさいよ。そのビルの横の商業ビルの中にうちのクリニックが入っているんだけど?」「この商業ビルはかなり昔に建てられており、新しく作り直す計画です。中の会社や店舗は新築した後、再びこの中に移転します」「その間どうするの?生活出来ないじゃない」「会社は別に仮支部を建て、店も少し離れた場
※シンイ現代話です。2周目は幸せになります①突然の来客にベッドから起きたばかりのウンスはもそもそと髪を整え、インターホンのボタンを押した。この独身用ヴィラに住んでもう10年経ち、ある意味ウンスが古株の1人にもなっている。それでも良い、自分の夢を着実に叶えている今この部屋もまた愛着がある。「はい?」だから、この自分だけの世界に余計な事は持ち込みたくない。例えそれが周囲から寂しい女だと言われても。だが、そんな考えもインターホン越しに見えた人物に嫌な予感を覚えていく。「・
底から⑦曇天は嫌いだ。長く親しんだ場所を失った日も自分の人生を共に歩む筈だった仲間が亡くなった日も、こんな今にも雨が降りそうな曇り空だった。空気も重苦しく、何一つ良かった思い出も無い天候の日はヨンは任務をするのでさえ億劫だった。次の任務の為にまだ慣れない隊を引き連れ目的地に向かっていると、ふと荒れた道の端に小さな石像があった。顔だけはその石像に向いていたのだろう、背後にいるチュンソクもまた同じ方を見て“あぁ”と声を出した。「あれは道標です。この場所から郡主が変わり、納める税も
底から⑥ヨンは俯いていた顔を上げ、立っている場所を理解すると身体を強ばらせた。自分は何時の間に湖の中に入っていたのか。魚釣りをする為に来た筈が無意識にここまで入ってしまったのだろうか?手を見ると竿も籠も持っていない。なのに、ここまで入ったというのか?「隊長ー!」声が聞こえ其方を見ると慌てているテマンが叫んでいた。「・・・参った」自分にか、弱くなってしまった精神にか。ヨンは身体半分ずぶ濡れになり微かに重くなった身体を動かし、バシャバシャと音をさせ湖から上がって
底から⑤ぼやりと水面の上に明かりが浮かんでいる。今日は波も無い穏やかな日ゆえ波に日差しでも当たっているのだろうか?ヨンはそう思い足を進め短く刈られた草原を歩きだした。ヨンがこの地に来るまでは小さな湖は鬱蒼とした林と好き放題に伸びた雑草で人が近付けない程になっていた。鎌を持ち少しづつ刈っていき、二日掛けて漸く湖が少しだけ見える様になるとそれ以上は刈る事を止め、釣りを始めていく。来た当初からここの湖の魚で充分だろうと考えていた。日々生きるだけの食料だけで良い。小さな藁葺き
底から④「王宮が土地併呑(併合)の御触れを出したので、官僚や地主達がこぞって土地を買い占めています」「だから、何です?」「・・・結局民はその地主に雇用して貰い、働くという事になってしまいます」「・・・」「官僚や地主達は代々土地を確保出来るでしょうが・・・民達には何も残らなくなってしまうんです」「・・・それを、某に言ってどうするんです?某は既に平民になった身で、貴方方の方が王様の近くにいるではないですか?」「それは、そうですが・・・」そこで会話は途切れ、ずっと前を向い
底から③最近寝覚めが良くない。日に日にあの夢を見る機会が増え、だがその内容は禍々しいものに変化していく。二人でよく鍛錬した場所にメヒが佇んでいるが、その姿は最期に見たあの中身が空洞になった姿だった。それでも彼女は言う。『懐かしいわ、ここも二人だけの場所よ。覚えてる?』「・・・ああ。・・・」だが、“覚えている”とは口から出なかった。はたして自分が覚えているのは、こんな姿のメヒと鍛錬した場所だろうか?浮き足立つ中、集中出来ない程に木漏れ日の様に穏やかな空気を浴びてい
底から②途中王様達の様子を伺う為に馬車を止めたが、それ以外は休まず進めた為朝早く旅籠屋を出立し日が落ちる前に宮殿に無事着く事が出来た。馬車の中で王妃が何か言っていたらしいが、そのうち静かになり時々女人の声が聞こえるだけになっている。結局自分は天からの客人を帰す事が出来なかった。名を掛けた約束も破り、武士としての誇りさえ捨てた。“王命”。その一言で済むとわかっている。だが、女人との約束を違えた時、詫びるモノは自分の命しかない。瞬時にそう考えた。・・・あの時の師匠はどういう気
底から①ゆらゆら。揺れているのは船か、はたまた自分か。ふと漂う波の薄暗い隙間から白い肌が見え、まさか噂に聞く妖という奴だろうか?浮遊感に任せながらそれを掴もうと手を伸ばしたが――。触れたのは、ただの冷たい水だった。確かに今白い肌の・・・「まさか下に何か沈んで・・・」しかし、ヨンの後ろから波間を覗く様に見ている顔が映りヨンは顔を上げ振り返る。「あぁ何だ、メヒか」メヒが持っている灯篭で彼女の顔が暗闇にぼんやり現れ、その顔が波間に映りこんだのだと思い漸くヨンは身体を起こした。小舟
※少し原作やドラマに被る部分がありますが、あくまでもこの話は“空想的幸福論の二人”ですのでそのつもりで読んで頂けるとありがたいです✨。空想的幸福論[まとめ・後]長いのでお暇な時にでもどうぞ(^ω^)_凵2人のベッドシーン、描写は省きました。[2023.02.28]朝まだ日が昇る前に二人は目を覚ました。「夢の中でまた寝れるのだな・・・ふむ」「どこに感心しているの?チェヨンさん・・・」男性を自分のベッドに招き入れるなど人生で初めてで、ウンスに覆い被さって来るチェヨンに激しく動揺し、暫
空想的幸福論[まとめ・中][2023.02.28]※[前]から読んでね(・∀・)「ばっかじゃないの!!」突然のウンスの怒鳴り声に、チェヨンは唖然と口を開けたまま怒るウンスの姿を見ていた。「そういう気持ちが今まであって貴方を見守っていたんじゃない!何で少しも気付かなかった訳?親切心でしていたと思っていたの?」乙女心をわかっていない!と声を上げ再びウンスが怒り出す。だが、チェヨンは怒られている意味がわかっていないのか、呆けた顔のまま黙って見ているだけだった。「機械云々に興味が無いとか
空想的幸福論[まとめ・前][2023.02.28]※長いのでお暇な時にでもどうぞ(^ω^)_🍵『イマジナリーフレンド』私は小さい頃からそんな者が見えていたらしい。らしいというのは、まだ5歳だった私はそれが何なのかわからず両親に友達が出来たと嬉しそうに話し、両親も疑問に思わず、『良かったね』と笑顔だった事を今でも覚えているからだ。だが、1週間程経った頃、その友達の姿を見ないと両親は不思議がり私に尋ねて来た。『
とある一つの物語【後】③終数日後、王妃と共に元から来ていた女官が王宮の外で遺体となり発見された。女人の口や耳から出血し、どうやら鼓膜も破裂している。自らでとは言い難い状態にチャンビンが何とも言えない表情になった。「体の内から、何かがあったのは間違いないのですが」そう言いチャンビンの眼差しは部屋の壁に背を付け、話を聞いていたヨンに向けた。「・・・何だと思う?」「内功だと」「ふん」「“生き残り”では無く、これを武器として生業にしている者がいるのだと・・・」“生き残り。”とはいえ
とある一つの物語【後】②『“チェヨン”さんが生きてて、本当に良かったわ!』もう一度頭の中でその言葉を繰り返し、ハッとヨンは我に返った。やはり、この女人があの戦場にチャンビンを向かわせその間自分の様子を調べていたのか。『お前は誰だ。理由を言え』内心では自分を知っている謎と溜まっていた不満を言葉としてぶつけるべきだとわかっている。だが、どうしても口が開かない。早く言えと焦る程、乾いていく喉に潤いを持たせようと嚥下までしていた。「・・・あー、ごめんなさい」返事もしないヨンにウンスは乾
とある一つの物語【後】①それから三年経ち。ある日ヨンが後方にある天幕に向かうとチャンビンが荷作りを始めていた。昨夜再び来た補充部隊の中に王宮からの書簡を持って来た者がいて、その内容はヨンやチャンビンを含め一部隊の帰還を命ずるものだった。「断わる」ヨンは即座に拒否をした。だが、チャンビンは冷めた眼差しを彼に向け手元の未開封の書簡を差し出して来る。「チェ尚宮様からも来ております」「・・・ハァ」この数年で知ったのはこのチャンビンという男、どうやら最前線の様子を王宮にいる叔母に知らせて
とある一つの物語【中】領土的にはまだ元のものだが、この遥か遠くまで流れている鴨緑江を越えさてしまうと、我々の小国はあっという間に占拠されてしまう。華江島から王都を移し、高麗として長年この場所を何とか守って来ていた。高麗軍は敵本土が見える東側河岸に陣を張っており、小競り合いは頻繁にはあったが今まで向こうの主戦力をなかなか見せてはくれなかった。生憎天候が悪く生暖かい風まで吹いて何時雨が降ってもおかしくない。高麗陣地には敵陣が見える程の高台が一つあったが、ヨンが戻って来るとそこは崩れ落ちてい
とある一つの物語【前】どうして俺を信じてくれなかった?お前になら背中を預けられると伝えた筈なのに。伝え切れなかった何かがあったのだろうか?彼女が自分を信じるまでには何が足りなかったのだろう?「あの医員、帰ったら婚儀を挙げるらしい」渡された質素な飯を受け取りながら仲間の話に耳を傾けていたヨンは誰だ?と聞き返した。飯を渡して来た男はあそこにいる奴だと空いた手を炊き出し場に向けた。自分達先陣部隊の軍では無く、飯炊きする下っ端と共に動く面々の中に目立つ白衣の数人が見える。「どの医員だ?
永久機関と君と⑧血が出ている腕を抑え、ヨンとメヒを唖然と見ていたウンスの傍にチャンビンが駆け寄って来た。「大丈夫ですか?ウンスさん!」「はい・・・」しかし、ウンスの血の滲んだジャケットを見てウンスの手を退かし傷を凝視しチャンビンは険しい眼差しになる。「これは・・・早く病院に行きましょう」座り込んだウンスの身体を支えながら立ち上がらせたが、ウンスはそれよりもと2人に視線を向けると押さえ付けられたメヒはまだその怒りをヨンに吐き出しており、それを何の感情も映らない瞳のチェヨンが静かに見下ろ
永久機関と君と⑦奉恩寺に足を進める度にウンスは機嫌が悪くなっていく。元々こういう場所は嫌いな上、自分の前を歩く“メヒ”と名乗る女性がチェヨンの関係者だと知り嫌な予感しか湧かないからだ。女性が絡むのは何時も相場が決まっている。行き着く先は修羅場だ。あの顔とスタイルのチェヨンが女性にモテない訳がない。更に有名製薬会社の次期社長なら彼が手を振り払ってもぞろぞろと寄って来るだろう。・・・もしかしたら、自分もその中の愚かな一人に入るのかしら?チラリとメヒを見ると、長い黒髪を靡かせ細くスタイル
永久機関と君と⑥しかし、ヨンの幸せな時間は束の間で日も置かずにウンスから連絡が来たかと思えば、何と“チェヨン”には海外に住む恋人がいるのではないかと言って来た。呆然と放心したヨンを一瞥し、冷たい眼差しのウンスは去って行ってしまった。近くにいたチャンビンも慌ててチェヨンの身辺を調べると“恋人”らしき人物は確かにいた様で彼が交通事故を起こした原因のきっかけでもあった。しかも、何とその女性の名前は“メヒ”という。「メヒだって?!」そんな馬鹿なと放心し、ヨ