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★★★8-16「キャンディ・・お待たせ・・」打ち合わせ通りの席で映画を観ていたキャンディに声を掛ける。「・・上手くいったみたいね。よかった・・」小声で話すキャンディの横の席にテリィは腰を下ろした。午前の早い時間の映画館。上映作品は西部劇のようだ。客など殆ど入っていない。「私、西部劇って初めて。お芝居とはまた違って、すごく新鮮・・」テリィも映画を観ようとするものの、もはや話の筋に付いていけない。キャンディの肩に頭を乗せ、うとうとしかけた時、画面がラブシーンに切り替わった。反射的に
★★★4-10川沿いまで歩くと、遠く対岸に劇場の展望塔が見えた。悠久の時を告げる様に延々と流れるエイボン川。その歩みさえ一本の弦のように取り込んでしまう、彼方まで続く黄昏色の景色。再会してから十日。この間の出来事が遠い過去のようにも感じる。「―・・なんだか、にせポニーの丘にいるみたいだわ・・―」川辺に座ったキャンディの隣で、腕を枕に寝そべったテリィはおもむろに話し始めた。「・・・五年前かな。最初のロンドン公演の時、一人の観客が走り寄ってきたんだ。国王陛下の子息で、同じ幼年学校
★★★6-3「・・・ここは仕事部屋だとジョルジュから聞いたのですが?」数歩足を踏み入れたところでテリィはぼう然と立ち尽くす。「はは、趣味の部屋と言った方が良かったかな」アルバートがそう説明するその部屋には、あまりに多くの物が溢れていた。木彫りの大きな象や鷲のブロンズ像、クリスタルの蛇に松ぼっくりで作った―・・何かの動物。壁に貼ってある大きな世界地図、デスクの上にも地球儀がある。本棚には動物の写真集や図鑑、冒険家の紀行文、偉人の伝記、アメリカの文学書、経済の本、法律の本が目につく。
★★★5-8「ねえ、あれ何?たのしそうっ!」ロンドン市街を走り抜ける車の窓から、キャンディは人が集まっている広場を指さした。「マーケットだよ。週末はあっちこっちで開かれてる。ロンドンの蚤の市は有名なんだぜ?」「テリィ、行ったことあるの?」「この先に劇場が立ち並ぶウエストエンドがあるんだ。あの広場を回避してたどり着くのは難しいな。ま、ぶらぶらするだけでも結構楽しいぜ。掘り出し物だけじゃなく、チーズやパンの出店もあるし、路上パフォーマンスなんかもやってる」「わあ・・!帰りに寄
★★★5-6髪を結んだその姿に一瞬別人かと思ったが、その声と威圧感は先日のハムレットそのもの。「な、なんでお前がいきなり登場するんだよっ、、!」テリィに高い位置から見下され、ジャスティンは思わずたじろいだ。「悪いね、ここは私有地だ。・・気づかずに入ってくるネズミがたまにいるが」「私有地?」一瞬意味が分からなかった。この森は公園の予定地か何かと思って深く考えたことはなかったからだ。(・・ここが敷地だとでも?)貴族の圧倒的な財力を目の当たりにし、思わず喉がゴクリと鳴る。「テリィ、
SONNETのあとがき物語は全て終わりました。如何でしたでしょうか。スッキリしていただけたでしょうか一番思い入れのある8章。5月の誕生石エメラルドの緑とキャンディの瞳の色との符合は、おそらく偶然ではないのでしょう。原作者の名木田先生、神です!!そして宝石言葉が「幸せ」と知った時にはもう鳥肌が立ちました。物語の中でキーワード的に何度も登場する言葉。これも瞳の色と掛けていたのだとしたら・・、ホント神業ですね。「エピローグ」の最後の数行は、FINALSTORYからの抜粋です。原
★★★8-17「どうされましたか?ウィリアム様」運転席のジョルジュは、笑いをこらえているようなアルバートの声に気付き、後部座席にちらっと目を向けた。「いやぁ~、この設定はすごいよ。キャンディは住み込みの看護婦で、テリィがマーロウ家に入り浸っていたのはそのせいだって。ゴシップのプロの発想はすごいな。そんな筋書き、僕には思いつかない」ニューヨークで調達した新聞を見て、アルバートはしきりに感心していた。「グランチェスター様はインタビューに応じたようですね。その記事、どうなさるおつもりです?」
小説FINALSTORYに出てくる「エレノア・ベーカーへの手紙」を基にした一話完結の物語です。ファイナル、SONNET本編が未読でもご覧いただけます。※ネタバレには絡みません11年目のSONNETスピンオフハムレットの招待状★★★ごめんなさい、ミス・ベーカー。ミス・ベーカーのお気持ちは痛いほどありがたいのに。この招待券を見つめているだけで、わたしにはテリィの舞台が観え、歓声と鳴りやまぬ拍手が聞こえてくるような気がします。この招待券はわたしの宝物として大
★★★2―22マンハッタン区。路地裏の隠れ家的なレストラン。テリィの馴染みの店のようだ。窓際のテーブルに向かい合って座った時、キャンディは気が付いた。「あら、変装してなかったのね。もういいの?」「変装なんかする気は無いって言っただろ。事実を撮られたところで痛くもかゆくもないね」今日一日散々変装していた人のセリフかと、キャンディは半笑い。「それに帽子やサングラスをしたままで食事なんかできるか?マナーに反する」テリィはすました顔で答えた。「マナー?」学院の礼拝堂の机を土足で踏ん
★★★1-11草木も眠る真夜中、けだるいエンジン音がこの家の門前で止まった。暗闇で目の自由がきかない。冷たいポストに手を伸ばす。小ぶりだが厚めの封筒が一通だけ入っている感触に突き当たる。無理して帰ってきた甲斐があったと思ったのはその時だ。そこからは、先ほどと同一人物とは思えないほど俊敏な行動を見せた。勢いよくエンジンを再点火させると、深くクラッチとアクセルを踏み込んで敷地内に侵入し、急いで部屋の灯りをつける。差出人の名を確認するとようやく夢ではないことを実感し、笑みがこぼれた。
★★★4-20「シカゴのアードレー家と言えば、アメリカでも屈指の大富豪。国王と同じ出入り口を使うなんて普通じゃないと思って警備関係者に確認したら、どうやら正真正銘アードレー一族の総長のようだ」アメリカの事情には明るいミセス・ターナーの説明に、劇団員は固唾を飲んで耳を傾ける。「それが今あそこでダンスをしている人物なんですね?」「ほら、出入口付近にアタッシュケースを持った黒服の男がいるだろ?あれは凄腕のSPか秘書だね」ミセス・ターナーが指をさす方向に一同は一斉に刮目する。パーティ
★★★1-8その夜、キャンディは淡いピンク色の便箋と封筒を取り出した。返事を書くのは至極当然なのに、アルバートから言われるまですっかり忘れていた。机の前に座ってはみたものの、文章が何も思い浮かばない。ペンを持つ手が石膏のようにかたまり、眼だけが便箋の線とひたすらにらめっこしている。「あ~、もう!おしゃべりと手紙は得意なはずなのにっ・・!」キャンディは無意識にとめていた息を一気に吐き出すと、ベッドに身を投げた。「ダメダメっ!とにかく手紙が無事届いたことだけでも知らせなきゃ、きっと待っ
★★★3-9まっさきに大型船から降ろされたボンネットが凹んだテリィの愛車。持ち主である本日の伯爵は、髪を下ろし、黒縁メガネの代わりにサングラスをかけていた。髭はもちろん跡形もない。「テリュース・G・グランチェスター様、及びキャンディス・W・アードレー様、どうぞ」二人の名前が一番に呼ばれた。スウィートルームの乗客なので当然、と言いたいところだが、伯爵が権力を乱用したに違いない。真っ先にタラップを下りる二人の耳に、船上からさまざまな声が聞こえてくる。「・・例の伯爵カップルか?この前と
★★★3-8劇は登場人物もセリフも必要最低限にカットされ、テンポよく進んでいった。子供からお年寄りまで楽しめる大衆向けのアレンジは、テリィが披露している演劇とはおそらく全く異なっているのだろう。第一線で活躍しているシェークスピアアクターの目にはどのように映っているのか。(喜劇に見えたりして・・)そんなことを思いながら、キャンディは隣にいるテリィを時折見たが「・・・・」度々目を閉じてうつむくテリィに、キャンディは何かを感じていた。物語がクライマックスの霊廟のシーンに入った時だった。
★★★3-6大広間では管弦楽団による生演奏が加わり宴もたけなわだった。程よくお酒をたしなんだ紳士や淑女であふれかえり、食事を済ませた乗客たちが花の様に舞い始め、ダンスに参加しない者も経済や政治、芸術や娯楽の話で大いに盛り上がっている。数日間同じフロアーで過ごしてきた一等の乗客たちは、既に全員が顔見知りの間柄だ。――にもかかわらず、見慣れぬ若いカップルが突然現れたものだから、人々は一斉に好奇の目を向けた。彫刻の美しい大階段にも負けていない、そのカップルの堂に入った立ち居振る舞い。「
今までの考察を受けて、個人的なイメージをまとめてみました。あのひとの謎かけには全て答えていますので、宜しければ一読ください。ある程度の検証と主観が混ざった長い物語時系列スザナが死亡した後にテリィが手紙を書き、その後再会し、キャンディが30才前後に結婚しイギリスへ移住したと思っています。※三章の手紙の順番は、出来事の時系列と解釈こちらの記事参照★ファイナルで大幅に加筆されたテリィへの恋心。破局した二人が密かに想い続け、その成就を描くことで『真実の愛の物語(ファイナル
★★3-3どうやら伯爵は籠城作戦をとるらしい。「朝は食欲がなくてね、レディ一人でどうぞ。朝一番なら数量限定の特製クロワッサンが有るってさ」そう言って、伯爵は未だに寝ている。一人でレストランホールに行く分には、確かに何も起こらない。平和な朝だ。きちんとした身なりの上級乗客に交じるのは、普段着の自分には少々場違いな気もするが、朝食は一日の原動力。そんな理由で抜くことはできない。「おはよう!クッキー」ホールにクッキーの姿を見つけた。限られた人員。乗務員は一人何役もの業務をこなすようだ。
続いて、また別の視点からの考察になります。長い物語が必要なのは誰?「あのひとが誰かをきちんと描くには、長い物語が必要なのです」下巻336と名木田先生は言っています。長い物語は20年分、単に恋愛の成就だけではありません。どうでしょうか?検証してみます。アルバート編①恋愛期間②(結婚)③アードレー家、危機?エイボン川の町に引っ越し④第二次世界大戦勃発・アメリカへ帰国?既に漫画や旧小説において確固たる関係を築いているアルバートなら、恋の成就はあっさり成し遂げ
★★★3-5「君、今夜の舞踏会のパートナーになってくれない?」懲りないダニエルはキャンディを誘った。タイミングでも計っているのか、話しかけてくるのはいつもクッキーがいなくなってからだ。「あいにくですが、出席しませんので」朝食を済ませたキャンディはそっけなく答え、席から立ち上がる。女の子なら舞踏会と聞いて、ときめかないはずがない。しかし、ドレスもなければパートナーもいないのだ。伯爵が人前に出ることはありえない。「あら?アードレー家のお嬢様じゃございませんこと?」突然見しらぬ貴婦
★★★7-13「フンギャー・・フグッ・・オンギャー」どこかで泣き声がする。車内を見渡すと、いつの間にか混雑し始めていた。都市が近いからなのか、夕刻の一時的な混雑なのかは分からない。通路にも人が立ち始め、押し出されるように赤ん坊を抱いた若い夫婦がキャンディの直ぐ横に立った。「あの、この席をどうぞ」即座に立ちあがったキャンディは、テリィに肘で合図を送り通路へ出た。「え・・いいんですか?」「赤ちゃん、お腹が空いているのかしら?・・立ったままじゃ無理でしょ?どうぞ」奥に座った若い母親
★★★8-18黄金のオーラを身にまとい、本物のエレノア・ベーカーが目の前に座っている。テリィはその大女優を『母さん』と呼び、キャンディは『ママ』と呼んでいる。分かり過ぎる状況なのに、アーチーにはこの状況がてんで理解できない。(こ、これは、・・いっ、いったい、・・どういうことだ――!?)アーチーはまばゆいばかりの美しさを放つその人に恐る恐る目を向け、隣にいるキザな奴と見比べた。何故今まで気づかなかったのか。二人が親子であることは一目瞭然だ。(そのままの顔じゃないかっ、いったい今まで、
★★★8-8グランチェスター家の封印が押された手紙が届いたのは、それから間もなくだった。父さんの直筆で書かれたその手紙には、たった一言『帰国せよ』。外国在住でしかも外国人との結婚は異議が多く、議会の承認が下りないと書かれた弁護士の書簡も同封されていた。グランチェスターの名を捨てることは絶対に認めないとも。不肖の息子とはいえ公爵家の長男であることはゆるぎない事実。どこか納得している自分もいた。実家と縁を切り結婚話を進めることも出来たが、もうそんな必要もなかった。マーロウ夫人を諦めさせる
【2024年3月4日加筆しました】テリィという人物は、いがらし先生の絵と共に性格も漫画のイメージで完成されていると思いますしかし、漫画版と小説版では、テリィを描いた人物が違うので、微妙に違います。では実際に、どんな風に違うのか、比較したいと思います。まずは漫画のテリィ破壊系テリィビリッガシャーンバッ!暴力系テリィビシッ!!ピシ!ピシ―ッ!!並べると、すごく荒っぽい奴に見えますね「(連載当時)乱暴者で情緒不安定なテリィが嫌
★★★4-19割れんばかりの大歓声で幕は閉じ、劇場全体が揺れているようにさえ感じた。シェークスピア四大悲劇の中で最も長編のこの戯曲は、デンマーク王国の若き王子ハムレットの復讐劇。国王である実父の突然の死、義父になった叔父への憎悪、実母への不信感、友人の裏切り、恋人との別れと不慮の事故死。怒涛の絶望の中で狂人を装いながら生き方を模索する王子ハムレット。複雑で繊細な心を持ちながら、時に大胆で国民からの人望も厚い孤高の存在。そんなテリュース・グレアム演じるハムレットの圧倒的な存在感に、観客の
★★★5-2今、狭い車内にバターと小麦粉の香ばしい匂いが充満している。キャンディは忠告通り襟のついたワンピースという清楚なスタイルだ。ロンドン郊外にあるグランチェスター家。正式な結婚に向けての話をするためだが、テリィの心は今日の空の様に快晴とはいかない。「着いたよ、ここだ」「あら、普通の家なのね。お城かと思ってたのに」学院ではテリィはお城に住んでいると噂が流れていた。確かアーチーもそんなことを言っていた。「そうだな、アードレー家に比べたら普通の家だ」「いっ、いえ、そんな意味
★★★3-14キッチンには、先刻ジェイが届けてくれた食材がにぎやかに並んでいた。「すぐ作るわね。待ってて」キャンディは慣れた手つきでエプロンをつけ、髪をリボンで結い上げて夕食の準備に取り掛かる。エプロンはジェイが結婚祝いにとプレゼントしてくれた、と言えば聞こえがいいが、お店に陳列してあった品をジェイが横領したと言った方が近いだろう。鼻歌を歌いながら野菜を切り始めたキャンディの肩に、背後からテリィが顔を乗せた。「何を作るの?」キャンディはハッとした。(この体勢・
これって引っ掛け?ファイナルは推理小説ではないので、素直に読むのが一番だと思っています。しかし「こんなあからさまな文は、かえって怪しい。引っ掛けにちがいない」と疑ってしまう人も少なくありません。どの部分が怪しいのか(笑)抜き出してみます。Aファンにとって引っ掛けと感じる部分①本棚にあるシェークスピア全集②エイボン川の町に住んでいる③スザナの死④テリィから手紙シェークスピア全集があるからってテリィとは限らない。どこの家にもあるよ。エイボン川は世界中にある。ス
★★★8-5『春の公演の慰労会・・ですか?―・・あいにくその日はスザナと予定が、彼女の誕生日なんです』『それならスザナと夫人も連れてくるといい。陰の功労者だ、一緒に祝わせてくれ。久しぶりに会いたい』その日ロバート先生が恒例行事に俺を誘ったのはいつもの事だが、スザナにまで話が及んだのは初めてだった。そろそろ団員たちに紹介した方がいい、という団長らしい配慮だったのかもしれない。『何もかも白いパーティですって?素敵!テリィはこういうパーティに参加したことあって?』『すっぽかしたことならあ
★★★8-13「おはよう、あなた・・」甘い声・・。キャンディの・・。「・・・おはよう」少し頭が混乱する。「・・犯罪者になった気分だわ。――こんなに囲まれちゃって」とぼけた声に変わり、テリィは全ての状況を一気に理解する。「やっちまった―・・」テリィは一言漏らすと、脱力したように枕に顔を埋めた。やはり壁が薄すぎたのか、カンテラの灯りが強かったのか。いや、たぶん窓を全開にして、シーツをはたいたのがいけなかったのだろう。テリュース・グレアムの在宅を嗅ぎ付けた記者達が、朝からアパートの
★★★4-23「フハっ・・―、ハハハッ・・!」深夜のリビングに笑い声が響く。帰宅してもまだ笑いが収まらないテリィは苦しそうにお腹を抱えている。「ククっ、俺たちが駆け落ちだって!?どうしてそんな話になるっ」お酒も入っているせいか上機嫌だ。「どうして否定しなかったのよ!あんな風に答えたら、まるで本当みたいじゃないっ」真相を確かめようとクリオが伝説の内容をキャンディ達に話した時、それはたぶん俺たちの事だ、とテリィは可笑しそうに答えたのだ。「噂なんていい加減なものさ。大げさだったりねつ造