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★★★4-19割れんばかりの大歓声で幕は閉じ、劇場全体が揺れているようにさえ感じた。シェークスピア四大悲劇の中で最も長編のこの戯曲は、デンマーク王国の若き王子ハムレットの復讐劇。国王である実父の突然の死、義父になった叔父への憎悪、実母への不信感、友人の裏切り、恋人との別れと不慮の事故死。怒涛の絶望の中で狂人を装いながら生き方を模索する王子ハムレット。複雑で繊細な心を持ちながら、時に大胆で国民からの人望も厚い孤高の存在。そんなテリュース・グレアム演じるハムレットの圧倒的な存在感に、観客の
★★★5-5『返してくれないか』『いやよ、こんな物があるから、いつまでもあなたは――!!』『やめろっ、スザナ―!』「やめろっ!ㇲ・・!」思わず出た自分の声に驚き、ハッと飛び起きる。「どうしたの・・?」声に気付いたキャンディも目を覚まし、体を起こした。「―・・っ・・キャンディ・・」テリィは張り詰めたような声を出し、キャンディをきつく抱きしめた。「お化けの夢でも見た・・?」荒い息遣い、心拍数も速い―・・。「――ごめん、大丈夫・・。もう、朝か・・」おもむろに腕を離したテ
謝っていないスザナテリィに会いにNYへ行ったキャンディは、自分の手紙がスザナによって(殆ど)隠されたことに対して憤慨しています。「私が出した手紙を隠されたように、もう、二度とスザナに邪魔をして欲しくなかった。はっきりそう言ってやろう、と意気込んでいた」下巻235ですが、スザナの自殺未遂の現場に居合わせたキャンディは急転直下テリィとの別れを決意します。その後、キャンディとスザナは病室で話をしたと思われますが、キャンディは手紙のことを話題に出せるような状況ではなくなりました。
★★★4-9稽古が早く終わり、夕刻帰宅したテリィは、馬小屋にセオドラがいない事に気が付いた。まだキャンディも帰宅していないようだ。「―おや、セオドラを連れてご出勤でしたか」やれやれ、と思いながらセオドラを迎えに川沿いの小道をゆっくりと歩き始めた。キャンディが届けてくれた脚本。確かにあの脚本でずっと稽古はしていたが、新しい脚本を渡され、劇もほぼ完成した今となっては、絶対必要という代物ではなくなっていた。「これからはキャンディに無茶をさせないように、きちんと話さないといけないな―・・俺も
★★★1-7いつもより一時間ほど早い帰宅だ。まっすぐ帰る気持ちにはなれない。キャンディはポニーの丘に寄り道をして久しぶりに木登りでもしようかと考えた。大人になってからその機会はめっきり減っていた。常に時間に追われる二足のわらじを履いた生活は、些細な気分転換の時間さえ簡単には許してくれない。「わぁ・・、いつの間にかこんなにきんぽうげと白つめ草が・・」もうすぐ一面に白い絨毯を敷いたような、一年で一番美しい季節を迎える。頬をかすめる風はまだ冷たいものの、湿った心が少しだけ軽くなった
★★★2―22マンハッタン区。路地裏の隠れ家的なレストラン。テリィの馴染みの店のようだ。窓際のテーブルに向かい合って座った時、キャンディは気が付いた。「あら、変装してなかったのね。もういいの?」「変装なんかする気は無いって言っただろ。事実を撮られたところで痛くもかゆくもないね」今日一日散々変装していた人のセリフかと、キャンディは半笑い。「それに帽子やサングラスをしたままで食事なんかできるか?マナーに反する」テリィはすました顔で答えた。「マナー?」学院の礼拝堂の机を土足で踏ん
💛前回までのあらすじ再会した二人は、テリィの代役公演の登板に向け慌ただしくアメリカを後にした。イギリスへ着くなり結婚式をすると言い出したテリィは、母・エレノア・ベーカーから託されたウエディングドレスをキャンディに見せた。キャンディは戸惑いつつも受け入れ、二人は結ばれた。新居はテリィの移籍先の劇団があるストラスフォード・アポン・エイボン。その街には広大な森を擁するグランチェスター家の別荘があった。新生活を迎えた朝、キャンディは看護婦の仕事をしたいと申し入れた。テリィの新しい劇団でのデビュー公演は
★★★3-6大広間では管弦楽団による生演奏が加わり宴もたけなわだった。程よくお酒をたしなんだ紳士や淑女であふれかえり、食事を済ませた乗客たちが花の様に舞い始め、ダンスに参加しない者も経済や政治、芸術や娯楽の話で大いに盛り上がっている。数日間同じフロアーで過ごしてきた一等の乗客たちは、既に全員が顔見知りの間柄だ。――にもかかわらず、見慣れぬ若いカップルが突然現れたものだから、人々は一斉に好奇の目を向けた。彫刻の美しい大階段にも負けていない、そのカップルの堂に入った立ち居振る舞い。「
★★★3-5「君、今夜の舞踏会のパートナーになってくれない?」懲りないダニエルはキャンディを誘った。タイミングでも計っているのか、話しかけてくるのはいつもクッキーがいなくなってからだ。「あいにくですが、出席しませんので」朝食を済ませたキャンディはそっけなく答え、席から立ち上がる。女の子なら舞踏会と聞いて、ときめかないはずがない。しかし、ドレスもなければパートナーもいないのだ。伯爵が人前に出ることはありえない。「あら?アードレー家のお嬢様じゃございませんこと?」突然見しらぬ貴婦
★★★7-13「フンギャー・・フグッ・・オンギャー」どこかで泣き声がする。車内を見渡すと、いつの間にか混雑し始めていた。都市が近いからなのか、夕刻の一時的な混雑なのかは分からない。通路にも人が立ち始め、押し出されるように赤ん坊を抱いた若い夫婦がキャンディの直ぐ横に立った。「あの、この席をどうぞ」即座に立ちあがったキャンディは、テリィに肘で合図を送り通路へ出た。「え・・いいんですか?」「赤ちゃん、お腹が空いているのかしら?・・立ったままじゃ無理でしょ?どうぞ」奥に座った若い母親
11年目のSONNETスピンオフ空白の時最終話★★★劇場に、キャンディが来ていたかどうかは分からない。分からなくて良かったのかもしれないとテリュースは思った。その方が、希望がつながるから――結局、その日は病院に泊まった。ホテルには帰らないで、とスザナに懇願されたからだ。――キャンディと逢い引きするとでも思っているのか。(・・・信用されてないんだろうな・・)イライザをキャンディと勘違いしたことは棚に上げ、テリュースの胸中はいささか複雑だった。今
★★★3-14キッチンには、先刻ジェイが届けてくれた食材がにぎやかに並んでいた。「すぐ作るわね。待ってて」キャンディは慣れた手つきでエプロンをつけ、髪をリボンで結い上げて夕食の準備に取り掛かる。エプロンはジェイが結婚祝いにとプレゼントしてくれた、と言えば聞こえがいいが、お店に陳列してあった品をジェイが横領したと言った方が近いだろう。鼻歌を歌いながら野菜を切り始めたキャンディの肩に、背後からテリィが顔を乗せた。「何を作るの?」キャンディはハッとした。(この体勢・
★★★7-4「ただいまー!」ぎしぎし鳴る古い木の扉を思いっきり開いて、キャンディは全員に聞こえる様に大声を上げた。奥からジミィと子供たちが飛び出してくる。ジミィはキャンディを見るや否やタックルに近い状態で飛びついた。「ひどいよ、親分!!黙って遠い所に行っちまって!!」半べそで恨みつらみを捲くし立てる。「ごめん、ごめん、ジミィ、、、本当にごめんねっ」少し遅れてポニー先生とレイン先生が小走りでやってくる。その様子を一歩下がったところからテリィは見ていた。(親分・・?)その斬新な
★★★8-13「おはよう、あなた・・」甘い声・・。キャンディの・・。「・・・おはよう」少し頭が混乱する。「・・犯罪者になった気分だわ。――こんなに囲まれちゃって」とぼけた声に変わり、テリィは全ての状況を一気に理解する。「やっちまった―・・」テリィは一言漏らすと、脱力したように枕に顔を埋めた。やはり壁が薄すぎたのか、カンテラの灯りが強かったのか。いや、たぶん窓を全開にして、シーツをはたいたのがいけなかったのだろう。テリュース・グレアムの在宅を嗅ぎ付けた記者達が、朝からアパートの
★★★8-14「テリュースさん、ご結婚おめでとうございます!一言お気持ちをお聞かせください!」今日のテリィは当然逃げない。「ありがとうございます。管理人の許可を取りましたので、どうぞ中へ―」浮足立っている記者連中を綿あめ製造機のごとく絡め取る様に徐々に後退し、アパートの踊り場へ招き入れる。喜色満面のテリュース・グレアムを前に、記者たちは一様に目を丸くした。箸にも棒にも掛らないような態度を取り続けてきた人物とは思えないほどの対応の良さ。さすがにハレのネタは違うようだと感じた記者たちは
小説版を確認していると、くだらぬ発見をしてしまう事が多々ございまして今回はそんな発見を書き綴りたいと思います。みなさまの「ど~でもいい」というつぶやきが多ければ多いほど悦を感じるという、そんな記事を目指しました。どうぞお付き合いくださいカーソンさんは再婚していた!愛妻の名前はビクトリア早速の「ど~でもいい」ありがとうございます。蓼食う虫も好き好きといいますし、この情報に「カーソンロス」を感じたご婦人もいるのかもしれません。次、行ってみよう!
★★★4-10川沿いまで歩くと、遠く対岸に劇場の展望塔が見えた。悠久の時を告げる様に延々と流れるエイボン川。その歩みさえ一本の弦のように取り込んでしまう、彼方まで続く黄昏色の景色。再会してから十日。この間の出来事が遠い過去のようにも感じる。「―・・なんだか、にせポニーの丘にいるみたいだわ・・―」川辺に座ったキャンディの隣で、腕を枕に寝そべったテリィはおもむろに話し始めた。「・・・五年前かな。最初のロンドン公演の時、一人の観客が走り寄ってきたんだ。国王陛下の子息で、同じ幼年学校
★★★3-11いつ用意したのかと訊いたら、アメリカを発つ前日だとテリィは言った。ドレスではない、指輪の話だ。結婚指輪はキャンディの指に吸い込まれるようにピッタリと収まった。「入念な下調べをした上での当然の結果だよ」テリィは得意げに言ったが、再会した夜、寝入ったキャンディの左手にこっそりキスをし、指のサイズを確認していたことは秘密にしておこう。「入念ね・・」キャンディはクスッと笑った。指輪の内側には何も刻まれていなかった。メッセージも名前も日付も。指輪も結婚式もおそらくその瞬間を
★★★8-10宛名はテリュース・グレアム様―雑誌の切り抜きに載っていたテリィの新しい名前。テリュース・G・グランチェスターの“G”がグレアムだったことを初めて知り、確実に届いて欲しいと、慣れないこの名前を戸惑いながら書いたのを覚えている。シカゴの病院に移ったばかりの多忙な日々の中で、手紙を書くのはいつも夜になった。同室のフラニーを気遣い、デスクの弱い光を自分の背中でブロックしても、コホンという迷惑そうな咳払いが聞こえると、慌てて書くのを中断した。アパートの住所を知った後も、巡業中
★★★2-14「さぁ、最後の患者を診るとしよう」「今の人で最後のはずでは?」キャンディが不思議そうに尋ねると、先生はキャンディの肘をゆっくり持ち上げ、二の腕を指した。「・・あっ、忘れてました。傷口は直ぐに水で洗いましたから平気です」「いやいや、破傷風は怖いからの。わしのバッグの中に薬が―」「私は実験台ですか?全て認可前のですよね・・?」できれば遠慮したいと引きつり笑いをするキャンディに、先生はバッグの中をあさりながら「いや、特効薬がな・・おっ、これこれ、就寝前の一杯」先生は携帯用
★★★8-11暗闇の中に白い灯りがともる。灯りじゃない。白いカップ・・湯気が上っている・・甘い香りの・・。「気分はどう?・・これを飲めば温まるよ。レイン先生から貰ってきたんだ。ココア、好きなんだって?もっと早く言えよ、家族なんだから」ベッドからゆっくりと身体を起こしたキャンディの前に、何事もなかったようにテリィが立っている。「・・私、寝てたの・・?」「・・十分ぐらい。現役の看護婦がキスで気絶したなんて、自慢できる話じゃないな」「・・テリィのせいよ。指の位置が・・ちょうど後頭動脈を
★★★3-4交代時間だからとクッキーがレストランから姿を消したタイミングでダニエルは話しかけてきた。「やあ!昨日会ったね。今日も一人?お友達はまだ船酔いなのかい?」キャンディは朝から嫌な奴につかまったと思った。「君、昼と夜はここに来なかったけど、どうしたの?君も体調が悪い?」どうでもいいから、どこかへ行ってほしい。「今日のこの服、どこで買った?彼女の服はなかなか手に入らないだろ?パリまで行ったのかい?それともロンドン?」「知らないわ」レディの服を舐めるように見ている無礼な奴とは、
★★★7-5「皆がお昼寝している間に、ポニーの丘に散歩に行かない?」そろそろお疲れかしら?と思ったキャンディは、三時のお茶が済んだ頃テリィを誘った。キャンディの好意を即座に察し、「いいよ」と答えると、テリィは一冊の本を手に取った。「・・この木?君が木登りの練習をしたっていうのは」テリィは大きなナラの木を見上げた。全ての葉が落ちた今の季節、空に高く突きだす煙突のようだ。「そうよ。お父さんの木って呼んでいるの」「へえ、お母さんの木もあるのかい?」辺りを見回すテリィに、キャンディはそん
考察前のつぶやき「あのひとのことは、はじめから曖昧にしようと決めていました」下巻336これはファイナルのあとがきに書かれている、原作者名木田先生の言葉です。これを『どちらともとれるように書いた』と解釈する人がいるようです。そう思いますか?この言葉だけ見ると、そうかもしれません。なので「文脈」を見てみます。後に続く言葉を紹介します「あのひとが誰かをきちんと描くには、長い物語が必要なのです。あのひとを明かしてしまうと、長年の読者たちの夢を奪うことになるか
★★★8-22暖炉の薪がパチパチと大きな炎を上げ始めた頃だった。「・・降り始めたのか・・」窓ガラスの向こうがうっすらと白くなっていることに気付いたテリィは、ちらちらと光りながら落ちてくる雪に誘われテラスへ出た。雲の割れ間から令月が覗く雪月夜・・。幻想的な光景だった。「テリィ・・?」食器を洗っていたキャンディの耳に、柔らかなハーモニカの音色が届いた。雪のカーテンで視界がぼやけ、ガラス戸の外は何も見えない。テラスへ近寄って行くと、ついたばかりの足跡が三つ四つ。冬のあの日、ポニー
★★★2-11ニューヨーク、グランドセントラル駅。まるで欧州の宮殿のような立派な駅舎だ。壮大な吹き抜けのホールを持った巨大ターミナル駅には何本もの路線が乗り入れる。三日三晩地面を濡らし続けた雨がようやく止み、この日は四日ぶりにお陽さまが顔を出していた。「到着は三番ホームか・・・」テリュースは十年前とさほど変わらない変装でキャンディを迎えに来ていた。頭に深くハンチングをかぶり、サングラスをかけて顔を隠す。「先頭車両からおりると書いてあったな。確かにこれなら探しやすい」二十五歳のキャ
★★★8-12ブロードウェーから四ブロック入ったウエストサイド地区。狭い道路の頭上には蜘蛛が巣をはるように洗濯物が干されている。お世辞にも高級住宅街とは言えない。「寒くないか?角部屋で窓が多いから、隙間風が入ってくるんだ。この部屋、冬は最悪で、」「大丈夫よ。部屋が狭いから暖かくなるのも早いわ。ストーブの薪がいいのかしら?」キャンディは部屋をゆっくり見回した。きれいに掃除されているとはいえ、テーブルの横はすぐベッド。一流の役者に似合う部屋とも思えない。「・・引っ越そうとは思わなか
★★★8-21消えかかった暖炉の炎も、一吹きの息で橙色に変わる。やがてパチパチと心地よい音を立て、再び燃え上がる。こんな炎はもういらない・・。燠(おき)のように、静かに、熱く、いつまでも――「何を考えているの?」キャンディは運んできたトレイを暖炉の脇に置いた。「ジャムとの別れを噛みしめている・・」暖炉を炊きながら真顔でふざけた事を言うテリィに、「それを言うならアーチーとアニーとのお別れでしょっ」キャンディはテリィの額をチョンっと指で押した。「アーチー嬉しそうだったわ
前の内容を踏まえ、主観混じりで深堀りしていきます。スザナとキャンディスザナからの手紙は、テリィと別れたばかりの頃にシカゴのマグノリア荘に届いたはずです。キャンディの手紙を抜き取っていたスザナは、この住所(と看護婦寮の住所)しか知りませんし、「キャンディスWアードレー様無事にシカゴに戻られたでしょうか」下巻279という文面からも「直後」であることが読み取れます。スザナからの手紙は、旧小説よりもボリュームが増していますが、逆に、旧小説ではあれほど饒舌だったキャンディの
代々伝わる宝石箱あのひとの家に代々伝わる象嵌細工の宝石箱。「代々」という表現は、他に一箇所テリィの実家に対して使われています。「グランチェスター家先祖代々の厳めしい肖像画」下巻83スコットランド移民のアードレー家より、グランチェスター公爵家の方が歴史があるものと思われますが、だからアードレー家ではない、とは言えません。装飾に使われている希少価値の高いマザーオブパールは当時の富の象徴・貴族のステータスでしたが、それをアードレー家が所持していても不自然ではありません。マ