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キャンディはしばらくその背中を見送っていた。そして何事もなかったように歩き出す。テリィも隣を歩いた。数歩進んだところで、彼が言った。「キャンディ」「なあに?」「どうして手を離した?」キャンディの足が一瞬止まりそうになる。「……え?」「さっき、俺の手を解いただろ」「……ああ」明らかに分かっている顔だった。「別に、なんでもないわ」「別に?」「ほら、挨拶するから、ね」「手を繋いだままでも挨拶はできる」「それは……そうだけど」テリィは横から彼女の顔を覗き込んだ。「俺と手
あの夜、雨に濡れた封筒を胸に抱きしめながら、テリィはようやく気づいた。自分はまだ、こんなにも彼女を求めていたのだと。何年ものあいだ、遠くから無事を願い、舞台へ立ち続けることで、自分の人生を繋いできた。けれど――キャンディから届いた返事は、その静かな諦めを、やさしく壊してしまった。『あなたに会いたいって、心からそう思ってる自分に気づいたの……』その一文を、テリィは何度読み返したかわからない。読み返すたび、胸の奥で何かが脈打つ。まるで止まっていた時間が、再び動き出していくように。そして
マーチン医師への挨拶を終え、診療所を出た頃には、陽はずいぶん高くなっていた。「次はカートライトさんのところ?」テリィが尋ねると、キャンディは少し考えてから首を振った。「まだ時間があるわ。少し遠回りしていい?」「いいよ」「せっかく来たんだもの。村を案内してあげる」そう言って歩き出したキャンディの足取りは、どこか弾んでいた。少し歩いたところで、テリィは自然にキャンディの手を取った。キャンディは一瞬だけ彼を見上げたものの、何も言わず、その手を握り返した。二人はそのまま、のんびりと村の
「キャンディがまだ小さかった頃な。畑の向こうに大きなリンゴの木があって――」「その話は駄目!」キャンディが慌てて遮る。テリィはイタズラっぽい瞳を向ける。「どうして?」「え?な、なんとなく」「そりゃ、ますます聞きたいな」「テリィ!」男性はニヤリと笑うと構わず続けた。「一番上の枝になってるリンゴが一番甘いって言い張って、するする木に登っていったんだ」テリィがキャンディを見る。「……きみならやりそうだ」「昔の話よ!」「ところが、登ったはいいが降りられなくなってな」「まだ、その
ポニーの家へ来てから、三日目の朝を迎えていた。6月末に公演を終え、次の仕事が始まるまでの短い休暇。その限られた時間の中でポニー先生とレイン先生へ婚約を報告し、キャンディとともに過ごし、その後はシカゴへ向かってアルバートにも正式に挨拶をする予定になっている。だから、のんびりしているようで、時間はいくらあっても足りなかった。朝食を終えたキャンディが、テリィへ声をかけた。「今日。マーチン先生と、カートライトさんの都合は良いそうよ」「そっか。じゃあ行こう」どちらもテリィには馴染みのある名前
駅へ向かう車の中は、不思議なくらい静かだった。気まずいわけではない。話したいことがなくなったわけでもない。むしろ逆だった。話したいことなら山ほどある。伝えたいこともある。けれど、それを口にしてしまえば、本当に別れの時間が来てしまう気がした。だから二人とも、どこか言葉を選んでいた。窓の外を流れるニューヨークの街並み。昨日は二人で歩いた場所も見える。ほんの数日前までは存在しなかった思い出だった。やがて車は駅へ到着する。巨大な駅舎は今日も人で溢れていた。ホームへ降りると、すでにシカゴ行きの寝
こんにちは、またまたロキソです昨日から匂わせていた(本人はそんなつもりなかったのですが😅)『StoriesAtoZ』の【P】のお話を、本日投稿いたしました!予告をしてしまったら、もう自分の中で止められなくなってしまって(笑)食い気味の投稿となりました😅投稿順でいくと【O】の次になるため、慌てて【O】を投稿した次第です😓ちなみに、昨日別記事で今を折り返しと表現しましたが、折り返しというのは、アルファベットの歌を歌っていくと、ちょうど「〜LMN」で一呼吸しますよね?!ここを折り返し
夜更け。ポニーの家は静かな眠りに包まれていた。子どもたちの寝息だけが、廊下の向こうからかすかに聞こえてくる。ジョシュアは眠れなかった。キャンディから聞いた言葉が、何度も胸の中で繰り返される。――私は、ジョシュアを信じてる。――みんな、あなたに幸せになってほしいって願ってる。うれしかった。それなのに、胸は苦しかった。喉の渇きを覚え、静かに部屋を出る。キッチンの扉を開けると、窓辺に一人の男が立っていた。月明かりに照らされた横顔。テリィだった。テリィが人の気配に気づき振り返る。「君も…
五月の柔らかな陽射しが、ニューヨークの街を照らしていた。キッチンには、じっくり煮込まれたビーフシチューの香りが広がっている。鍋の中では、牛肉と野菜が静かに湯気を立て、ことことと心地よい音を響かせていた。木べらをゆっくりと動かしながら、テリィは小さく息をつく。「……難しいな」その独り言は、ビーフシチューのことではなかった。二か月ほど前。二月の終わり、シカゴでキャンディと過ごした帰り道。駅で別れ、一人ニューヨークへ戻る列車の中で、テリィは決めていた。――次に会えたら、結婚を申し込もう
ブログ主が小学生だった時に迎えたなかよし最終回それ以降どんな時でも心の片隅にはキャンディとテリィのことがありずっとふたりの幸せだけを願ってきましたファイナルでふたりは結ばれましたがあの時の心の傷が完全に癒えることは今後もないのでしょうそこでどんなセリフだったらここまで引きずらずに済んだのか…を考えてみました『けっしてきみのことは、きらいじゃない』ブログ主はテリィの全てが大好きなのですがこれだけは本当に無理でしたこの一文だけに注目すると中間〜やや好意寄りの表現に
木立の向こうから聞こえてきた会話は、最初は偶然だった。立ち去ろうと思えば、いつでも立ち去れた。だが、一歩を踏み出そうとしたその瞬間――テリィは、その場を動けなかった。「テリィに私は傷つけられていない。寧ろ、その逆……私が彼を傷つけたの」その言葉が、足を止めた。胸の奥で、何かが音を立てて崩れていく。――違う。思わずそう叫びたくなった。傷つけたのは俺だ。ずっと、そう思ってきた。スザナの事故、責任。あの日、キャンディは「私帰るね」と静かに言った。別れる、とは言わなかった。それでも分
ジョシュアは何も言えなかった。彼女が信じていたのは、都合のいい未来ではない。傷つくことも、苦しむことも知った上で、それでも前へ進むという自分自身の覚悟だった。その強さだけは、痛いほど伝わってきた。キャンディはそんなジョシュアを、優しく見つめる。「でもね、ジョシュア」その声は、今度は彼へ向けられていた。「あなたも今は、信じられる人たちに囲まれているでしょう?」ジョシュアが顔を上げる。「メイがいるし、ポニー先生も、レイン先生もいるわ」キャンディは穏やかに微笑んだ。「マーチン先生
カフェを出た頃には、時計の針は午後四時を回っていた。シカゴの冬の日は短い。空はすでに夕暮れの色を帯び始めている。二人は肩を並べて街を歩いていた。言葉がなくても平気だった。隣にいるだけで満たされるような時間だった。通りにはホリデーシーズンの名残を残した飾り付けがまだ見える。劇場や映画館の看板には大きなポスターが掲げられ、人々が足を止めては見上げていた。その時だった。ふいにテリィの足が止まる。キャンディも立ち止まった。何かあったのだろうかと思いながら視線を追う。そこには映画館があった
ポニーの家の大きく開け放たれた窓からは、焼きたてのクッキーの甘い匂いが午後の風に乗って流れ、丸いテーブルには、湯気の立つ紅茶が静かに並べられている。そのテーブルを囲むように座っているのは、キャンディ、アニー、そしてパティの三人。それぞれが別々の場所で新しい時間を生き始めてから、以前のようにただ他愛もない話をしながら笑い合う時間は、いつの間にか少なくなっていた。だからこそ、こうして三人だけでゆっくり顔を合わせる午後が、たまらなく懐かしく感じられるのだ。ポニーの家の窓を揺らす風も、遠くから聞
夜はすっかり更けていた。窓の外では、ニューヨークの街の灯りが静かに瞬いている。部屋にはもう言葉はなく、穏やかな静けさだけが流れていた。キャンディはテリィの腕の中にいた。彼の胸へ頬を寄せると、規則正しい鼓動が耳に伝わってくる。その音を聞いているだけで、不思議と心が落ち着いた。テリィは彼女の肩を優しく抱き寄せ、そっと金色の髪を撫でる。しばらくして、キャンディが小さく口を開く。「……ねえ、テリィ」「ん」「プロポーズ……とてもうれしかった」その声に、テリィは思わず苦笑した。「……あん
翌日。夕暮れの光が、ポニーの家の庭をやさしく染めていた。子どもたちは食堂の窓から聞こえてくる夕食の支度の音に誘われるように、元気よく駆け回っている。キャンディは洗濯物を取り込み終え、籠を抱えながら玄関へ向かっていた。「キャンディ」後ろから声がした。振り返ると、ジョシュアが立っていた。「ジョシュア、どうしたの?」「少しだけ、話せる?」いつもの穏やかな笑顔ではなかった。どこか思いつめたような表情に、キャンディは静かに頷く。「いいわよ」二人は庭の端にある古いベンチへ腰を下ろした。少し離
本日より3日間に渡りまして、以前書いた『俳優テリュースに会いたい』から派生したお話を全3話でお届けいたします。これらのお話は、コメントをくださった皆さまに、物語へ登場していただくという内容になっておりまして、✨コメントをくださった皆さまの「テリィにこんなファンサをしてもらいたい!」というコメントを参考にしまして、それを実際に物語にしました☺️もし、本当にこんなファンイベントがあったら、きっと会場は大騒ぎだったんだろうなぁと思いながら、楽しく書かせていただきました☆テリィ、マイケル、ケビン
「ポニー先生……」キャンディは縋るように尋ねた。「先生……運命って……あるのですか?」ポニー先生はしばらく黙っていた。揺れる蝋燭の火を見つめながら、静かに言う。「そうですね……」小さく微笑む。「神様が最初から結末を決めておられたのかどうか、それは私にはわかりません」キャンディは目を見開いた。運命を信じる人なら、もっとはっきり答えると思っていたからだ。「ですが――」ポニー先生は続ける。「あなたとテリュースさんのお話を聞いていて、私は思うのです」礼拝堂の静寂の中、声だけが穏や
翌朝、テリュースは誰よりも早く稽古場に入った。木の床には、誰かの落としたペンが転がっていた。テリュースはそれを拾い、机の上に置く。そして窓際の椅子に腰掛け、『ロミオとジュリエット』の脚本を開いた。ロミオとジュリエット。その名前を見るたび、テリュースの胸の奥に痛みが走る。あの役は、美しい。若さがあるし、熱がある。言葉が光っている。だが、その光の奥には、死がある。テリュースは、ページをめくる指を止めた。ずっと以前なら、ロミオを演じることは怖くなかった。恋を語ることも、愛を誓うことも、相手の
朝は、よく晴れていた。劇場の壁は陽射しに温められ、窓硝子には青空と流れる雲が映っていた。開いた窓からは風が入り、川の匂いを運んでくる。テリュースがRSCの稽古場へ入ると、すでに俳優たちが発声を始めていた。低い声が、木の床を伝って響く。感情を乗せるためではなく、呼吸を整えるためだった。吸う場所。吐く場所。音を強く落とす場所。言葉を流す場所。怒りより先に呼吸を。涙より先にリズムを。そうして、言葉を身体へ沈めていくのだ。テリュース・グレアムは、その光景にまだ馴染めずにいた。RSCでは、俳優の熱
翌朝は、穏やかな時間が流れていた。朝食を終えたあとも、二人とも慌ただしく支度をする気にはなれなかった。キャンディが帰る列車は午後三時発。まだ時間はある。だからこそ、その限られた時間が愛おしかった。暖炉の火は小さく燃えている。冬の朝の陽射しが窓から差し込み、リビングを柔らかく照らしていた。二人はソファに並んで腰を下ろしていた。静かな時間だった。ふと、キャンディの視線が本棚へ向く。何かを思い出したように立ち上がった。「ねぇ、テリィ」「ん?」「どうしてピーター・ラビットがあるの?」テリィは一
礼拝堂の中で、キャンディは両手を固く組んだ。蝋燭の火が、小さく揺れる。その揺らぎが、まるで自分の心のようだと思った。祈りながら、キャンディの頬に静かに涙が伝った。誰にも言えない罪悪感。誰にも見せられない弱さ。そして、誰よりも深く愛してしまった人への想い。そのすべてを抱えたまま、キャンディは闇の中で赦しを求めていた。「キャンディ。そんな薄着で……風邪を引きますよ」静かな声が、礼拝堂の闇に溶けるように響いた。キャンディははっとして振り返った。入口には、ランプを手にしたポニー先生が立っていた。