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ストラトフォードの朝は、ロンドンよりも静かだった。霧が低く庭を覆い、別荘の石壁はしっとりと冷たい。稽古へ向かう支度をしていたテリィのもとへ、通いの使用人が声をかけた。「旦那様、お荷物が届いておりますが……」「荷物?」心当たりはない。テリィは首を傾げながら玄関へ向かった。そこには、見覚えのあるトランクが二つ。淡い色の布製で、角に小さな補修跡がある。「これ……」手を伸ばした瞬間、胸の奥が妙にざわついた。(まさか)中を開けると、見慣れたスカーフ。丁寧に畳まれたブラウス。子どもたち
ロンドンに戻って、数週間が過ぎたころだった。子どもたちも眠り、静かな夜更け。キャンディはテリィに寄りかかり、その腕に包まれていた。胸に当たる彼の鼓動は、落ち着いていて、一定で。それを感じているだけで、心が少しずつ現実へ戻ってくる。今日届いた封筒は二通。見慣れた文字に、キャンディの表情がふっと和らぐ。「……アーチーと、アニーと……アルバートさん」声に出すと、その名前たちが胸の奥で温度を持った。テリィが、彼女の肩口から覗き込む。「向こうも、気が気じゃなかっただろうな」「ええ……
六月に入って間もないロンドンは、まだ夏を名乗るには早く、午後になると、空気のどこかに春の名残を残していた。ケンジントンのタウンハウスの前に、一台の馬車が止まる。「……ここね」小さく呟いた声は、パティだ。緊張と期待が入り混じっていた。パティはキャンディにとって、セントポール学院時代からの、数少ない本当の友だち。ロンドンに移住することは、知らせてあったが、直接会うのはテリィの実家へ婚約の報告をしたとき以来だ。彼女は手袋を外し、玄関の呼び鈴を押す。ほどなくして扉が開いた。「パトリシア様
ニューヨークの夏の夜、ブロードウェイの街路を渡る風でさえ、どこか張り詰めた気配を帯びている。ネオンの光が劇場街を金と青の帯で染めるなか、その中心、ストラスフォード劇場は、異質な静けさを湛えていた。掲げられている看板に刻まれた名が、ひときわ光っている。『ハムレット』主演テリュース・グレアム数年の沈黙を破り、彼が再び主役の座に立つ。「奇跡の復帰」「再生のハムレット」「沈黙を破る男」など、舞台評もテリィ一色。人々はこの舞台を一目見ようと、数時間並び、あっという間に初週分のチケットは完売し
Keyag作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「CrónicasdeAmor(ChroniclesofLove)」を読み終えて。"Teamé,teamoyteamaré."(AlbertaCandy)「私はあなたを愛していた、私はあなたを愛している、そしてこれからもあなたを愛する」(アルバートからキャンディへ)ラブクロニクル第1章、キャンディーキャンディーの二次創作|ファンフィクション58章からなる長編で完結する、アルバートさん側のお話です。と
ショパン本番前の9月の定例劇団会議。重厚な木のテーブルを囲んで、劇団の理事や宣伝担当、演出家、そして団長のロバートが集まっていた。窓の外には秋の光が差し込んでいるが、室内の空気はどこか張り詰めていた。「――古典公演の客入りが、昨年から落ちている」団長が低い声で切り出すと、皆がうなずく。「現代劇では《BeforeDawn》や《ショパン》などはチケット販売は好調だが、シェイクスピアになると途端に伸びがいまいちだ。ストラスフォードは“シェイクスピアの牙城”であるはずなのに、このままでは看
静かな夜だった。ロンドンの空は低く、霧が街灯の光をやわらかく滲ませている。タウンハウスの居間では、暖炉の火が小さく揺れていた。子どもたちはすでに眠り、家の中には二人の気配だけが残っている。テリィは、ソファの端に座ったまま、しばらく黙っていた。キャンディはその沈黙に気づき、隣に腰を下ろす。「どうしたの?」その声は、探るでもなく、ただ寄り添う音だった。テリィはすぐには答えなかった。炎を見つめ、ゆっくりと息を整えてから、低く口を開く。「最近よく……考えるんだ」キャンディは何も言わ
秋のニューヨークの夜。ブロードウェイの灯が窓越しに揺れ、ペントハウスのリビングには暖かなランプの光が満ちていた。テリィは深く息を吐き、子どもたちの前に腰を下ろした。キャンディも隣に座り、二人の金髪の頭をそっと撫でる。「オリヴァー、オスカー。今日はちょっと大事なお話をしよう」真剣な父の声に、兄弟はきょとんとした顔を見合わせた。「このあいだイギリスに行っただろう?大きなおじいさまのおうちに」「うん!お馬さんに乗った!」とオリヴァー。「お庭でかくれんぼした!」とオスカー。ふたりの
折衷案が決まった翌週から、稽古場の空気は明らかに変わった。最初の頃は音楽と芝居の「どちらを優先するか」という綱引きだったが、今はその縄を同じ方向へ引き始めた感覚がある。テリィは譜面と台本を交互に見ながら、役の感情を鍵盤へ落とし込む作業を繰り返していた。時には弾きながら小さく台詞を呟き、時には台詞の余韻の中で指先を止める。クラークもまた、彼の演技プランに合わせてフレーズやタッチを微妙に調整していく。「今の入り方、良かったな。台詞と旋律が同じ呼吸をしてる」クラークがそう言うと、テリィは「
ペントハウスの書斎の隅。そこには、花柄の古い缶に、ぎっしりと紙片が詰められていた。「これ、全部、覚えてるのか?」床にしゃがみ込んでいたキャンディの背中に、テリィの低い声が落ちた。缶の中には、古い手紙、押し花、ちぎれた包装紙、割れたボタンーとても「いる」とは言えないガラクタの山。「え?……だいたいは。これ、ポニーの子がくれたメモで、これは…アニーが昔、手紙に描いたイラスト」「この包み紙は?」「…マーチン先生にお菓子もらったときの…」「捨てようか」「やだ!!」食い気味にキャンデ
TheTomboyandtheRebelAristocrat妄想日記おてんばちゃんとヤンチャ貴族㉗帰郷(3)永(とこしえ)の絆翌朝、春の光に包まれてはいたが、ニューヨークの朝とは違っていた。同じ4月でも、ミシガン湖からの風はまだ冬の名残を運んでいたからだ。キャンディは深い事情を詮索せずに、キャンディの結婚を心から喜んでいるポニー先生とレイン先生に、感謝していた。そこには、言葉がなくても成立する信頼関係があった。キャンディ
先日、実家からキャンディキャンディ関連のものこのまま放置するなら処分するよ~と言われてそんなに残していなかったはず…と思いながら慌てて引き取ってきましたなんと、なんと…処分したと思っていた「なかよし」が数冊見つかったのですパラパラと見ていたらあれ?何か違う…と思ったシーンそう先日上げたつかの間の再会ですシカゴ駅からなかよしは5ページマンガは9ページなので4ページも増えたんですねマンガなかよし画像は全てお借りしましたなかよし購読時はこれでも本当に感
TheTomboyandtheRebelAristocratおてんばちゃんとヤンチャ貴族④時を越えて届いた手紙テリィからの手紙を受け取り、呆然としているキャンディにジョルジュが声をかけた。『キャンディス様、乗船する前に手紙をよみますか?それとも・・・』ジョルジュは言葉を濁した。キャンディは、一呼吸おいて答えた。『今、ここで読むわ。』テリィからの手紙が、新しい運命を切り開くような予感がしてならなかった。
深秋の澄んだ空に、高く渡る雁の声が響き、木枯らしが街角を吹き抜けるたび、季節の深まりを感じるこの頃、静まりかえったフロアの一室だけに、人の気配があった。カーテン越しに落ちる淡い照明のなか、ベッドに横たわるスザナを囲むように、数人が立っていた。母親のマーロウ夫人が、スザナの手を両手で包み込むように握っていた。その指先は冷たく、それでも母は必死にその温もりを取り戻そうとするかのように手を離さなかった。テリィは一歩離れた位置に立っていた。スザナの呼吸が小さくなっていくたびに、その肩が
数日前、父のタウンハウス。晩餐の間に入る直前、テリィは一度足を止め、父へ向き直った。煤の匂いがわずかに染みついた廊下に、二人の声が静かに響く。「父上……ひとつ聞きたいことがあります。」公爵は歩みを止め、細い眉をわずかに上げた。「なんだ、テリュース。」テリィは一瞬ためらい、しかしまっすぐに言った。「僕たちのタウンハウスのことです。……本来なら、私自身の稼ぎで用意すべきものでした」キャンディが少し驚いたように彼を見る。テリィは続けた。「子どもたちのためにイギリスへ戻ると決めたのは私で
夜もすっかり更けていた。帰宅してからシャワーを済ませ、テリィとキャンディはリビングのソファーに並んで腰を下ろしていた。照明は落とされ、ランプの柔らかな光だけが部屋を包んでいる。長い一日だったはずなのに、不思議と疲れは感じなかった。胸の奥に残っているのは、祝福の余韻と、ほんのり温かな幸福感。キャンディが、ソファーの背にもたれながら言った。「……本当に、素敵な結婚式だったわね」「そうだな」テリィはグラスをテーブルに置き、背もたれに体を預ける。「二人とも、すごくいい顔してた」「うん
グロスターの朝は、春であってもまだひんやりとしており、広い庭には露をまとった草花がやわらかく光を返していた。大きな窓から射し込む陽はすでに高く、食堂には温かなパンの香りと紅茶の香りが満ちている。銀のポットから注がれる紅茶がカップにあたる軽い音と、バターを塗るナイフのかすかな音だけが響いていた。テリィとキャンディは、招かれた客として家族と同じ卓に着き、落ち着いた朝のひとときを過ごした。焼きたてのトースト、半熟の卵、こんがりと焼かれたキッパーに、明るい琥珀色の紅茶…公爵家らしい、品のある朝食であ
キャンディがその話を聞いたのは、すべてがひと段落したあとのことだった。子どもたちはすでに眠り、屋敷の廊下には深い夜の静けさが戻っている。暖炉の火が小さくはぜる音だけが、部屋に残っていた。向かいに座るジョージとエリザベスを見て、キャンディはふっと息を吐いた。張りつめていたものが、ようやく緩む。「……そんなふうに過ごしてたのね、あの子たち」声は低く、静かだった。「聞いて……正直、胸がいっぱいになったわ」エリザベスが、そっと微笑む。あの頃の、不安定だった影はもうない。今は穏やかで、強い
テリィのペントハウスのダイニングテーブルに、コーヒーと菓子皿、それから便箋と封筒が並んでいた。キャンディは椅子に浅く腰をかけ、スケジュールを書き留めるための白紙の紙と鉛筆を手に、テーブルの上をじっと見つめていた。「ねえ、やっぱり順番をちゃんと考えたほうがいいわよね。移動だけで疲れちゃうし…」「そうだな。距離もあるし、相手の都合もある」テリィはグラスを手に、ゆったりと椅子にもたれている。その視線は、鉛筆をくるくる回しながら予定を練っているキャンディに注がれていた。「まず、お互いの“親”
舗装された並木道を進む馬車が、やがてゆるやかに速度を落とすと、ふたりの前方に重厚な鋳鉄の門が姿を現した。蔦の這う石垣の間に堂々と構えられたその門は、まさにグランチェスター家という名にふさわしい威厳を漂わせている。門の前で馬車が止まると、御者が静かに手綱を引いた。待ち構えていた年配の門番が一礼しながら近づき、馬車の窓辺に声をかける。「テリュース様、お戻りですね。邸内にご案内いたします」門番が馬車の傍らで短く手信号を送ると、門は音もなく静かに開かれていく。鉄が擦れる軋みひとつ響かぬその様子は、
こんにちは🩷とってもとっても遅くなってしまいましたが、永遠のジュリエットvol.39をお届けします。↓永遠のジュリエットvol.39〈キャンディキャンディ二次小説〉|キャンディキャンディ二次小説『永遠のジュリエット』「遅かったのね、テリィ」真夜中をかなり過ぎた頃。チャリティーパーティーから戻ったテリュースがマーロウ邸のガレージに車www.candycandy.site前回から長いことあいてしまったので、前のお話も貼り付けておきます🩷↓永遠のジュリエットvol.38〈キャンデ
10月1日。式場は、シカゴでも名高い由緒正しいゴシック様式の大聖堂だった。高くそびえる尖塔は澄んだ秋空を背景に凛として立ち、朝の光を受けて石造りの壁が白く輝いている。薔薇窓からこぼれるステンドグラスの光が、堂内の石畳をやわらかく染めていた。外では、黒塗りの自動車や馬車が次々と到着し、秋風を避けるようにコートやショールを羽織った招待客が降り立っては、荘厳な扉の奥へと消えていく。新聞記者やカメラマンが並び、時折閃光のようなシャッター音が響いた。アードレー家総長の晴れ舞台は、それだけで街の話
千穐楽の夜。割れんばかりの拍手の中、舞台袖に立つロレンス神父役のベテラン俳優サイモン・アシュフォードは、深く息を吸った。四十年の舞台人生の中で、こうした熱狂に幾度立ち会ったことがあるだろう。だが今、胸を震わせているのは観客の歓声ではなかった。視線の先――スポットライトを浴びて立つ若き俳優。二十八歳のテリュース・グレアム。その姿が、十年ほど前の記憶を鮮やかに呼び覚ましていた。あの時も彼はロミオだった。十九歳、誰よりも瑞々しく、舞台を支配する力を持っていた。だが――事故と降板、そし
昨夜の薬屋のひとりごと次回予告「第46話禁軍」に再登場した陸孫この陸孫・・・誰かに似てる停止してまじまじ見れば、そう、テリィっぽい。アジア版テリィか・・・えー似てないよと思われた方、すみません。2次元の鉄板イケメンスタイルw今テリィをリメイクするとこんな感じか?と勝手に妄想この陸孫、想像以上に作画が美しい。記憶が正しければアニメでは1度だけ登場していたけれど、その時はあまり深く気にも留めなかった。こんなにイケメンに描くなんて、アニメ3期あるのでは
ニューヨーク郊外の高級住宅街。レンガ造りの瀟洒な建物の最上階にあるペントハウスが、テリィとキャンディの新しい住まいだった。1924年7月の朝。窓を開けると、夏の陽射しが白く輝き、街路樹の葉がざわめく音が涼しげに届いていた。ポニーの家では朝から子どもたちの声で賑やかだったが、ここは驚くほど静かだ。その静けさを破るように、ドアのベルが鳴る。「おはようございます、キャンディスさん」やって来たのは、テリィが以前より雇っていた通いの家政婦マーサ・グリーン。ふくよかで柔らかな笑顔の女性だ。毎日
ニューヨークの午後は、白いカーテン越しにやわらかな光が差し込み、家の中にほのかにパンの匂いが漂っていた。キッチンでは、キャンディとマーサが夕食前の下ごしらえをしている。といっても、まな板の上にはまだ野菜が数個。包丁を持ったまま、彼女はそっと手を止めた。なぜなら、リビングのほうから、「好きな料理」についての、ほっこりした声が聞こえてきたからだ。オリヴァーが、椅子に座って足を揺らしながら言う。「ぼくはね、ママの“ミートボールスープ”がだーいすき!」“ミートボールスープ”。キャンディが忙
その夜の舞台も、観客の熱気は凄まじかった。二幕、バルコニーの場面。ロミオがジュリエットを抱き寄せ、舞台の照明が二人を包む。――本来なら、唇は触れることなく、角度と影で「しているように見せる」だけの演出だ。ところがその瞬間、ジュリエット役の若手女優はほんの一瞬、迷いなく首を伸ばし、テリィの唇に自分の唇をかすめさせた。一秒にも満たぬ出来事。客席からは違いがわからない。だが触れた瞬間、テリィの瞳に一瞬だけ驚きが走った。次の台詞を逃すことなく、彼は即座にロミオに戻り、舞台を続けた。その
ポニーの家のキャンディの部屋をイメージSONNETの目次∻☆…∻☆・アナウンス&ひとりごつですドライブで向かったのは下の記事⤵病院へ行ったのは長距離運転をする予定があったから。運転中に気分悪くなったら嫌だもんね体調も回復したので、ドライブ気分で目的地に向かいました。富士山もきれい高速道路を使って着いたのは東京の奥の奥の奥なんと風光明媚な場所でしょう~施設に入居している父を連れ出し日曜礼拝へ※父がなんちゃってクリ
4月のロンドンの朝は灰色の雲が垂れ込めていた。駅のホームに立つキャンディは、うっすらと曇った息を吐きながら、遠くに停まる列車を見つめていた。ニューヨークから大型船で1週間、テリィの実家に挨拶するために渡英してきた。「ほんとに、ここまで来ちゃった…」となりに立つテリィは、黙って荷物の取っ手を握っていた。グロスターまでは、ロンドンからおよそ二時間半の列車の旅。コンパートメントに落ち着くと、ふたりは並んで座った。「ねえ、テリィ」「ん?」「あなたの子ども時代って…グランチェスター家にいたこ
グランチェスター家の子どもたちが通う聖スティーブンズプレップスクールでは、新入生の母親たちを招いての「親睦ティー」が催される。名目は“教育環境の向上のため”だが、実際には、社交界の婦人たちが、互いの家柄と力量を見極めるための静かな戦場だった。キャンディは招待状を見たとき、ほんの少しだけ迷った。上流階級の習慣にも会話にも、まだ十分慣れてはいない。けれど、息子たちがこの国で育つ以上、母として避けられない場だと思い、参加の返事を出した。◇そして当日。10月のロンドンは薄雲に覆われ、街灯でさえ