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テリィは……、テリィは、優しかった。前にも後ろにも進めない、精神的にも肉体的にも追い詰められた状況で、キャンディの言葉は、テリィの箍たがを敢えなく外した。自分の口から零れた言葉にキャンディ自身が戦慄する前に、荒々しい吐息が彼女の唇を覆い、たちまち息ができなくなった。テリィはコートを着たままのキャンディを抱き上げて、倒れ込むようにシーツに沈んだ。分厚いコートが折り重なって床に落ちる。それから──世界は二人きりになった。音が消え、景色が消滅した。
ブロードウェイ。ストラスフォード劇団。稽古場の噂は、音もなく広がっていた。最初は、照明係のひとりが言い出した。「……昨日の稽古、観たか?」それだけだった。だが、翌日には、音響室で、舞台袖で、スタッフルームの片隅で、同じ言葉が何度も繰り返されるようになった。「芝居が始まってないのに、テリュースが入ってきた途端、空気が変わるんだ」「台詞を言う前からもうハムレットだ」「あの間が怖い。あんなのはじめてみたよ」照明チーフが、プラン表を指で叩きながら言った。「フォロースポット、正直追いづ
ポニーの家では、7月の挙式に向けて村ぐるみの準備が本格化していた。礼拝堂の修繕、食堂の整備、椅子やベンチの塗り直し。一つひとつの作業を、村の大人たちも子どもたちも手伝っている。「すごいわねぇ、若いのに手際がいいわ」「ほら、見て、あの動き!村の男衆でもなかなかあそこまでやらないわよ」「しかも無駄口ひとつ叩かずに、丁寧にやってくれて…」昼食の片付けをしながら、村の奥さまたちは感心しきりだった。「それにしても、キャンディの婚約者は、ニューヨークから来るって聞いたけど…」「そうそう、レイ
翌日。朝のラッシュは過ぎても、昼になれば赤ん坊が熱を出し、午後には兄弟げんかで泣き出す子が出た。外では洗濯物が強風で飛ばされ、夕方には食材の買い出しが間に合わない。それから数時間。子どもたちが床についたころ、家の中にはやっと静けさが戻ってきた。キャンディとテリィは縁側に腰を下ろしていた。「…こんな状態はいつまで続く?」「昼は村の女の人たちが交代で来てくれてるけど、夜はみんな家に帰らないといけないし…レイン先生と2人でも手は足りなくて。赤ちゃんが3人もいて、夜泣きもあるし、ポニー先生
—ロミオとジュリエットの千穐楽、ケビン&マイケル視点のお話です。──ケビン暗転直前、静まり返った客席に息を潜める。舞台の中央、ロミオがジュリエットの肩を抱く姿が、まるで何かを手放すことへの抗いのように見えた。その指先にこめられた力が、セリフよりも雄弁に物語っている。(…あいつ、本当に何を背負ってんだ?)俺はテリィとチームが違う。だから、この『ロミオとジュリエット』の稽古は横目で見るだけだった。でも、あの稽古場で時折見た、誰にも触れられたくないような険しい横顔……あれは、ただ
その記事に、テリィは何気なく目を落としただけだった。ロンドンの地方紙。文化欄の下のほうに、短い記事。《老舗劇場、売却へ。ニューヨーク資本の整理に伴い――》アレックスの父の会社の名前。そして、劇場の名。金額も、淡々と記されていた。「……アレックス、大変そうだな」テリィはそう言って、新聞を畳んだ。少し間を置いて、ぽつりと呟いた。「自分たちの劇場があるってのは……やっぱり、いいもんだろうな」独り言のようだった。誰に向けた言葉でもない。けれど、キャンディは聞いていた。その日の午
数日後の午後、診療所に一束の新聞が届いた。町の雑貨屋が、まとめて仕入れている地方紙だ。マーチン医師が無造作に机の端へ置いたそれを、キャンディは何気なく受け取り、待合室のラックにしまおうとした。――そのときだった。視界の端に、写真が入り込んだ。一瞬。本当に、ほんの一瞬。黒い見出し。舞台照明の下に立つ、よく知った横顔。《テリュース・グレアム、『ハムレット』、今季最高の評価》《劇団を背負う主演俳優は、今年もブロードウェイの顔に》キャンディの指が、止まった。(……だめ)そう思ったの
朝のニューヨークは、静かだった。春風が、カーテンをわずかに揺らす。キャンディはキッチンに立ち、オーブンから天板取り出した。甘い香りが部屋に広がる。「うん……いい感じ」昨日の夜、子どもたちが寝たあとに焼いたクッキーだ。オリヴァーとオスカーが朝起きたら喜ぶだろうし、何より——(テリィも、きっと)そのときだった。ふと、違和感。カウンターの上に置いたはずのクッキー缶が、少しだけ……軽い。「……?」蓋を開けた瞬間、キャンディは固まった。「……あれ?」半分以上、ない。一瞬、頭が
ポニーの家のある村は、相変わらず静かだった。静かすぎて、新しい顔など年に一度現れればいい方だ。キャンディはそれを、よく分かっている。分かっているからこそ、アニーの様子に気づいてしまった。「……ねえ、キャンディ」その日は午後の紅茶の時間だった。アニーはやけに背筋を伸ばし、妙に張り切った声を出している。「今度の日曜日、ちょっとした集まりをしようと思うの」「集まり?」「ええ、ほら……村の人たちとか。知り合いとか。ほら、いい人がいるかもしれないでしょう?」キャンディは、カップを
『BeforeDawn』ロンドン公演から帰国してまもなく。春の再演として第三劇場で再び『BeforeDawn』が上演されている最中のこと。すでに来春の演目を決める会議が始まっていた。演目の発表が迫る中、テリィは会議室の戸を叩いた。会議室の空気は、少し張り詰めていた。団長ロバートをはじめ、数名の首脳陣が長机を囲む中、テリィは静かに口を開いた。「春公演ですが、出演を辞退させていただきたく、お願いにあがりました」室内に微かなざわめきが走る。ロバートが眉を上げた。「理由を聞こうか」
昼下がりのニューヨーク。窓から入る夏の陽射しに、キャンディは汗を拭いながら新しい家事に挑んでいた。ペントハウスの洗濯室にある電動洗濯機は、ポニーの家にはなかった代物。回転式の槽に衣類を入れて、水や石鹸を足し、レバーを引く――と家政婦のマーサに教わったばかりだ。「じゃあ、あとはやってみましょうね」と言われたとき、胸がちょっと弾んだ。(よし、テリィのシャツもこれで真っ白にしてあげるんだ)ところが、洗濯籠の底に落ちていた小さな赤いハンカチをうっかり気づかず一緒に放り込んでしまった。数十分
昨日まで……いや十年の間、独りで眠りについていたのが嘘のような夜が明けた。がっしりとした大胸筋は隙間なく背中に重なり、同様に、発達した二本の上腕二頭筋に雁字搦めにされている。(わ、私ったら、ここは病院じゃないのよ……)キャンディは、今の状況にまるで相応しくない、色気も何もない専門用語を思い浮かべた自分に呆れ果てた。それにしても──(テリィは、こんなに逞しかったかしら?十年前は……)十年も経っていれば変わっているのは当然だ。十代から二十代──青年期における身体的成長は女
10月中旬、『ヴェニスの商人』本公演の稽古が本格化するなか、主役たちはひと足早く本読みと立ち稽古に入っていた。時同じくして劇場の稽古場2号室。ストラスフォード劇団の稽古拠点としては比較的手狭な場所に、十数名の役者たちが座れるように円く椅子が並べてあった。部屋の後方では、演出部の一人が顔をしかめながら稽古スケジュールを手帳に書き込み、舞台監督が台本の改訂箇所について誰かと揉めている。稽古場の隅にケビンとマイケルといたテリィが、演出家から呼ばれて席につくと、視線はテリィに集まった。既に座っ
このお話は、『俳優テリュースに会いたい』で描かれたキャンディのように、「ファンサをもらってみたい」というコメントから生まれました。そしてついでに、私ロキソも、ちゃっかりテリィにファンサをもらうように描きました(笑)もし「こんなことしてほしいな」というご希望がありましたら、ぜひコメントで教えていただけたらうれしいです。また物語にしていけたらと思っています。……とはいえ。もし、ひとつもコメントがなかったらどうしようと、不安になりつつ😅どなたか、コメントいただけたら、とても喜びます🙏追記
8月に久しぶりに子供時代の友人に会った際、キャンディキャンディの漫画だけは持っていると聞いて、子供時代に仲間が少なくあまり聞くことができなかったあの質問を今更に投げてみた、そう、やってみたかったのです「誰が好きだった?テリィ?」「そうねえ、テリィはないねだれだっけ、名前忘れたけどあの兄弟の性格のいいほうの・・・」「ああ、ステアね」テリィ推しの自分ですが、好きな男性に順番につけるとすると1テリィ2アンソニー3ステアなぜアルバートさんがいないのか理由
『キャンディ♡キャンディ』と同時期の作品『ベルサイユのばら』ベルばらとの初コンタクトは、何度目かのアニメ再放送の時でした。あまりに面白くて録画し、キャンディよりリピートしたと断言できますなごや〇様、教えてくださりありがとうございます♡劇場版が公開されたのはちょうど1年前になりますね。あの大作を、どうやって2時間以内にまとめるのか、とにかく気になり観に行きました※気になるの、そこです結局のところミュージカル調でスッ飛ばし強引に収めた感は否めませんが
扉の前には、すでに数人の使用人が集まっていた。扉が少し開いている。「ウィリアム様……」使用人のひとりが顔を上げたが、その表情は今にも泣き出しそうに見えた。厳格なアードレー家の使用人がそんな顔をするのは珍しいことだった。キャンディがその隙間をすり抜けるようにして部屋へ入ると、そこには、大おばさまがいた。ベッドに横たえられた顔は、青白いというより、夕刻の光の中で蝋のように生気がなく見えた。唇の色も薄い。キャンディの心臓はぎゅっと縮む。だが、次の瞬間に身体が勝手に動き出した。
MalloryQuinn作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「ForbiddenLove(禁じられた愛)」を読み終えました。CandyandhermotherGeorgieareonacruiseandtheymeetthedukeofGrandchesterandhislittleboyTerry...Setinmoderntimes.キャンディと母親のジョージーはクルーズ船に乗っていて、グランチェスター公爵とその息子テリーに出会い
ストラスフォード劇場の裏口近くにある小さな控室。壁際の椅子に腰を下ろし、ケビンは封筒を何度も裏返していた。「……なあ」向かいの机に腰を預けていたマイケルが、苦笑いを浮かべる。「まだ見てるのか、それ」「いやだってさ……」ケビンは封筒を指で叩いた。「これ、どう考えても説明不足だろ」封筒の中から、さっきテリィが無造作に差し出した招待状をもう一度取り出す。そこには簡潔に、『結婚式インディアナ州ポニーの家教会』、日付と時間。そして、妙に大ざっぱな手描きの地図。マイケルが肩をすくめる
朝の光が、ペントハウスのキッチンにゆっくりと差し込んでいた。窓の外ではニューヨークの街が目を覚まし始めている。キャンディはコンロの前に立ち、フライパンに卵を流し入れている。じゅ、と小さな音がして、柔らかな香りが広がる。鼻歌が、自然にこぼれていた。気分のままの旋律。誰に聞かせるわけでもない、朝の習慣のようなもの。その背後に、気配がした。「もうすぐできるわ」振り向かずに言う。「ん?テリィ?」そう言った瞬間、背中に腕が回った。ふわりと抱き寄せられる。「テリィ、危ないわよ」少しだけ困
一か月も前に読み終えたお話は、まだ、ここに記録として載せていない「テリィとアニー」の組み合わせの2次小説でした。意外な組み合わせのお話。今、記録しているものの後で、書こうと思っているのですが.....そう言えば、登場人物達の変わった組み合わせの2次の世界が、色々あったなぁと思い出し、探してみました。テリィ&イライザ、テリィ&スザナ、テリィ&カレンはありますが、テリィ&アニーもあってもおかしくないなと目から鱗でした。しかし、この組み合わせのイラストとか、画像が見つか
ニューヨーク郊外の高級住宅街。レンガ造りの瀟洒な建物の最上階にあるペントハウスが、テリィとキャンディの新しい住まいだった。1924年7月の朝。窓を開けると、夏の陽射しが白く輝き、街路樹の葉がざわめく音が涼しげに届いていた。ポニーの家では朝から子どもたちの声で賑やかだったが、ここは驚くほど静かだ。その静けさを破るように、ドアのベルが鳴る。「おはようございます、キャンディスさん」やって来たのは、テリィが以前より雇っていた通いの家政婦マーサ・グリーン。ふくよかで柔らかな笑顔の女性だ。毎日
ペントハウスの書斎の隅。そこには、花柄の古い缶に、ぎっしりと紙片が詰められていた。「これ、全部、覚えてるのか?」床にしゃがみ込んでいたキャンディの背中に、テリィの低い声が落ちた。缶の中には、古い手紙、押し花、ちぎれた包装紙、割れたボタンーとても「いる」とは言えないガラクタの山。「え?……だいたいは。これ、ポニーの子がくれたメモで、これは…アニーが昔、手紙に描いたイラスト」「この包み紙は?」「…マーチン先生にお菓子もらったときの…」「捨てようか」「やだ!!」食い気味にキャンデ
テリィがポニー先生たちに、結婚の挨拶のために訪れてから1週間ほど過ぎた二月のある日。食堂には、いつものあたたかな灯りがともり、テーブルには湯気の立つお茶が用意されている。ポニー先生とレイン先生が向かい合って座り、その前にキャンディが少し背筋を伸ばして腰を下ろしていた。「どうしたの、キャンディ。改まって」ポニー先生がやわらかく微笑む。その声に、キャンディは一瞬だけ言葉を選ぶように視線を落とし、それから顔を上げた。「……あの、今日はお願いがあって」「どうしたのです?」レイン先生が穏や
皆さん、いつもいいね!など、励ましありがとうございます♪テリィとキャンディの物語は、先日の結婚をもって一つの区切りを迎えました。この瞬間を皆さんと共有できたことを、とても嬉しく思っています。けれど――結ばれたことがゴールではなく、むしろここからが、二人の本当の物語の始まりだということも同時に感じています。私にとって「あのひと」はテリィです。結婚という大きな出来事を経てもなお、二人の歩む人生には無数の物語が広がっていると想像しています。すでに新婚生活のお話も(予約)投稿しましたが、こ
ポニーの家のキャンディの部屋をイメージSONNETの目次∻☆…∻☆・アナウンス&ひとりごつです二次小説の進捗状況2026年4月27日このページをご覧になっている人って実は多くないんです。十数人・・かなたぶん私個人の事を案じてくださっているブログ主さん・・だと思っています「アニメ漫画ランキング」に参加していますがアクセス数はちゃんとジリジリ下がってます私の順位を「何かしら(操作)しているんでしょ」とか言っ