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3時半、短い休憩が入り、俳優たちは舞台袖へ散っていく。記者たちも一度客席を離れ、取材用に用意された場所へ移動し始めた。フランクがキャンディへ声をかける。「ここで少し待っていてください。すぐに戻ります」「はい」そう言って離れていく。キャンディは客席の端に座り、舞台を見上げる。誰もいなくなった舞台。つい数分前まで、そこに何人もの人生があった。不思議な場所だと思った。そのとき。「記者さん」後ろから声がして、キャンディは振り返ると稽古着のままのテリィが立っていた。額にはうっすら汗が
二月になっても、マンハッタンの風は容赦なく頬を刺した。ガラスの回転ドアが開くたび、乾いた冷たさが廊下へ入り込んでくる。鼻先をかすめるのは、いつもの消毒液の匂い。磨かれた床。洗いたてのタオル。診察室の奥で交わされる低い声。何年も通っているうちに、そのどれもが特別ではない日常の欠片になっていた。スザナにとって、リハビリはもう「歩くため」だけではなくなっていた。最近になって、小さなラジオ局で物語の朗読や番組のナレーションを任されるようになった。長時間立ち続けることはまだ難しい。それでも、義足
向こうから、舞台上の声が響いてくる。その瞬間、キャンディの足が止まった。聞き間違えるはずがない、テリィの声だった。いつもの声とはまるで違う。低く、よく通り、空間全体を支配するような声。フランクが扉へ手を掛ける。「ここから先は、彼を“テリィ”とは呼ばない方がいいです」キャンディははっとする。「……はい、分かりました」扉が開いたその瞬間、まったく別の世界が広がった。舞台の上には簡素な装置しかなく、本番用の大道具はまだすべて整っていないらしく、床には位置を示す印が貼られている。照明も完成
キャンディスは波の音で目が覚めた。この町では、朝を告げるのは鐘の音でも鳥の声でもない。崖の下から絶え間なく届く波の音が、一日を静かに始めてくれるのだ。モンヒーガン島の海は、見るたびに色を変えた。朝には淡い霞をまとい、昼には光を跳ね返す。夕暮れには群青へと深く沈み、夜にはすべてを抱きすくめるような青になる。十一月も終わりになると灰色の空を映し、鉛色に沈む日が多くなった。それでもときおり、雲の切れ間から差す光が、海を息をのむほど澄んだ色へと変える。キャンディスは窓を開け、目を凝らした。眠り
「劇団には、いずれ話さなきゃならない。結婚するなら当然だろ」テリィは静かに続ける。「その前に、少なくとも一人。俺のすぐ近くで動く人間には知っておいてもらった方がいいと思った」「それがフランクさん?」「ああ。俺一人のことなら、どうにでもなる。でもこれからは、きみのこともある」キャンディは何も言えなかった。「記者に追われるかもしれない。勝手な記事を書かれることもある。劇団へ話を通す必要が出てくることもある」テリィは名刺を彼女の手へ乗せた。「そういうとき、俺が舞台に立っていたら動けない
「そろそろお別れの時間ですね。今夜最後にお届けするのは、いま静かに話題を集めている曲――『十二月が来るたびに』。作曲はJ・クウィル、ピアノ演奏はエリック・A・ローランです。どうぞ、あたたかくしてお休みください。お相手は、ショーン・ブリンクリーでした。おやすみなさい。よい夢を」――また、この曲か。テリュースは、胸のずっと奥のほうが軋むような感覚を覚えた。最近、ラジオから幾度となく流れてくる、ピアノの独奏曲。『十二月が来るたびに』ひとつ、またひとつ。鍵盤からこぼれ落ちる音は、
先ほどまで笑い声のあった部屋には、今は穏やかな静けさが戻っている。キャンディは白いシーツを胸元まで引き上げたまま、ベッドの上からテリィを見つめていた。ローブを羽織ったテリィは、鏡の前で髪を整えている。ほんの少し前まで、あんなに無防備な姿で笑っていた人とは思えないほど、すでに表情が変わり始めていた。今日は稽古の日、本番を目前に控え、ゲネプロまであと数日、劇団全体が最も張り詰める時期に入っていた。一つの場面、一つの立ち位置、一つの台詞の間、すべてを最後まで磨き上げる時期だった。主演であるテ
朝の淡い光が、カーテンの隙間から静かに差し込んでいた。夜の名残を残す部屋には、まだ深い静けさが満ちている。キャンディはゆっくりと目を覚まし、身体を動かそうとして、ふと止まる。昨夜、何度も抱きしめられた感覚が、まだ身体のあちこちに残っていた。腕に触れたぬくもりも、指を絡めた感触も、耳元で何度も囁かれた声も。思い出した途端、頬が熱くなる。キャンディは小さく息を吐き、そっと顔を上げると、思わず息を呑んだ。目の前に、テリィの顔があったからだ。テリィは静かに眠っている。長い栗色の髪が額へかかり、
ネタバレあります昨日こちらを観てきました前作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の続編ですねこの前作が本当に大好きで続編が公開されると知ってから楽しみにしてはいたのですが…でも百合(福原遥さん)と想いが通じあった彰(水上恒司さん)は戦死しているし、続編って?ブログ主は映画を見る前は予備知識を入れたくなく原作小説は読まないので詳しくは分からなかったのですが現代に戻った百合が彰の生まれ変わりである涼(細田佳央太さん)と出会い、向き合うお話だと分かり福原さ
夜はすっかり更けていた。窓の外では、ニューヨークの街の灯りが静かに瞬いている。部屋にはもう言葉はなく、穏やかな静けさだけが流れていた。キャンディはテリィの腕の中にいた。彼の胸へ頬を寄せると、規則正しい鼓動が耳に伝わってくる。その音を聞いているだけで、不思議と心が落ち着いた。テリィは彼女の肩を優しく抱き寄せ、そっと金色の髪を撫でる。しばらくして、キャンディが小さく口を開く。「……ねえ、テリィ」「ん」「プロポーズ……とてもうれしかった」その声に、テリィは思わず苦笑した。「……あん
MalloryQuinn作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「TheHillofHappiness(幸福の丘)」を読み終えました。CandyandTerrymeet,buthisbrothercomesandruinseverything...ThisismyChristmasfic2011.Enjoy!キャンディとテリーは出会いますが、彼の兄が現れてすべてを台無しにします...これは私の2011年のクリスマスフィクションです。お楽しみくださ
部屋には、穏やかな静けさだけが満ちていた。窓の外では、夜風がカーテンをわずかに揺らしている。互いの鼓動だけが、こんなにも近くに聞こえる。テリィはそっとキャンディの頬へ手を添えた。彼女を見つめる青灰色の瞳が、ゆっくりと細められる。「……愛してる、キャンディ」囁くたび、その想いが伝わるように。唇が静かに重なる。何度も、ゆっくりと。急ぐことなく、互いのぬくもりを確かめるような口づけだった。キャンディは目を閉じ、その優しさを受け止める。何度も唇が重なり、離れては耳元へ愛の言葉が囁かれる
「冷めないうちに食べよう」テリィが照れ隠しのように笑うと、キャンディも目元をぬぐって笑顔になった。二人は向かい合ってテーブルにつく。大きな皿によそわれたビーフシチューから、湯気がふわりと立ちのぼる。キャンディはスプーンですくい、一口運んだ。途端に目を丸くする。「うん、おいしい!」もう一口。今度はゆっくり味わうように口へ運ぶ。牛肉はほろりと崩れ、野菜の甘みがじんわりと広がる。長い時間をかけて煮込まれた優しい味だった。「本当においしい……」そう呟くと、嬉しそうにテリィを見つめる。「
五月の柔らかな陽射しが、ニューヨークの街を照らしていた。キッチンには、じっくり煮込まれたビーフシチューの香りが広がっている。鍋の中では、牛肉と野菜が静かに湯気を立て、ことことと心地よい音を響かせていた。木べらをゆっくりと動かしながら、テリィは小さく息をつく。「……難しいな」その独り言は、ビーフシチューのことではなかった。二か月ほど前。二月の終わり、シカゴでキャンディと過ごした帰り道。駅で別れ、一人ニューヨークへ戻る列車の中で、テリィは決めていた。――次に会えたら、結婚を申し込もう
レストランを出ると、五月の夜風が心地よく頬をなでた。店の前でキャサリンとマイケルを見送る。「今日はありがとうございました」「こちらこそ、ごちそうさま」キャサリンは笑顔で手を振った。「キャンディ、ゆっくり休んでね」「はい。キャサリンさん、またお会いしましょう」マイケルも軽く手を挙げる。「テリィ、明後日は遅れるなよ」「それはお前の方がだろ」「そうよ。いつも起きないじゃない」四人で笑い合い、それぞれ車へ向かった。帰り道。マンハッタンの夜景が窓の外を流れていく。昼間の賑わいとは違い
ペントハウスに着き、キャンディは荷物を片付け、一息ついていた。窓から差し込む5月の陽射しがリビングをやわらかく照らしている。預かっていた鍵で部屋へ入り、久しぶりに訪れた室内をゆっくり見渡す。去年と変わらない景色。本棚も、ソファも、窓辺の観葉植物も、そのままだった。「ただいま……なのかな」小さくつぶやいて、自分でも少し照れくさくなる。夕方、玄関の扉が勢いよく開く音がした。「キャンディ、いるかい?」聞き慣れた声に、キャンディはぱっと立ち上がる。「テリィ!」返事をした時には、もうテ
柔らかな陽射しが降り注ぐニューヨークは、若葉が街路樹を彩り、行き交う人々の表情にも春らしい穏やかさがあった。昼前、長い汽笛を響かせながら列車がゆっくりと駅へ滑り込む。乗客たちが次々とホームへ降り立つ中、金色の髪の少女は窓の外を見つめ、小さく息をついた。「着いた……」キャンディは帽子を整え、テリィが買ってくれた旅行鞄を手にホームへ降り立つ。人の波を見回しテリィの姿を探していたその時だった。「キャンディさん!」聞き覚えのある声に振り向く。「あっ、キャサリンさん!」笑顔で手を振りながら
――特集女性が一生忘れないプロポーズテリィは思わず姿勢を正した。まるで演出家から新しい台本でも渡されたかのような気持ちでページをめくる。最初に紹介されていたのは、大きな写真だった。夕暮れの自由の女神。展望デッキに立つ男女。男性が片膝をつき、小さな箱を差し出している。周囲からは拍手が起こり、女性は涙ぐみながら頷いていた。「……自由の女神か」悪くはない。いや、むしろ絵になる。テリィは腕を組んだ。(そういえば、前にキャンディと行ったな)あの日は風が強く、フェリーの上で髪を押さえながら笑
MalloryQuinn作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「TheCryingPhone」を読み終えました。InspiredbythepopularFrenchsongbyClaudeFrançois,"Letéléphonepleure..."ThephoneisringingandCandyisrefusingtopickup...herlittlegirldoesandshespeakstothemanon
1927年春。二月にキャンディと会い、次はキャンディの誕生日にポニーの家へ行くと話していたが、テリィが数日間もの休暇を取ることが難しくなってきた。何度も予定表を見返した末、諦めるしかないと結論づける。そこで、手紙に、「もし診療所の都合がつくなら、きみがニューヨークへ来ないか」と。休みが取れなければ無理をしなくていい。それも忘れずに書き添える。返事には、まとまった休暇を取れることになったという。到着は奇しくも5月6日、キャンディの誕生日前日だ。午前11時、ニューヨーク・セントラル駅に到着
【【再掲】】2025.12.11【再々掲】2026.2.20【再掲】2026.6.2【再掲】2026.7.26【再掲】2026.8.9ブログ内に《アメンバー限定記事》を設けております。一部の物語や少し深いお話など、ここでしか読めない内容や、ここで発表したい内容などを、不定期になってしまいますが、少しずつ綴っています。☝️そこで、アメンバー申請をしてくださる方にお願いがございます。ぜひぜひ『ひとことコメントを添えて』アメンバー申請をしてくださいませんか。
劇場では、新人公演に向けた通し稽古も大詰めを迎えていた。薄曇りの空に春風が吹く。テリィはすでに観客席の片隅に腰を下ろし、スクリプトを膝に置いて、稽古を見つめていた。通し稽古の指揮をとるのは、演出家ハーヴィー。「動きがバラけてる!ダンスに入る前のきっかけ台詞をもっと意識して!」ハーヴィーの声が劇場に響く中、舞台上ではエリスを中心とした若手たちが懸命に演じていた。テリィはふと、スクリプトの端に書き込んだ自分のメモを見つめる。「“心を届ける芝居”は、技術を超えたところに宿る」そのメモ
稽古場に響く声。その一つひとつが、まだ未熟で、時にぎこちない。けれど…「もう一度、最初から通してみて。今度は“誰に”言っているのかを意識して」そう言ってテリィが促すと、若手たちはふたたび位置についた。今週で3度目となる稽古。新人公演の本番まで、あとひと月。舞台は『オズの魔法使い』。どの台詞も、何度も聞いた。だが聞くたびに、その中に微細な違いが生まれる。目の前で演じる若手たちの姿を見ながら、テリィは内心ふと立ち止まる。自分は、いつから“見せるための演技”に偏りすぎていなかったか
遡ること1月、雪の積もるブロードウェイ。ストラスフォード劇団本部棟の応接室で、テリュース・グレアムは久しぶりに劇団代表ロバートと向かい合っていた。ロンドンのSMTから帰国して、半年以上が経ち、サンクス公演『アントニーとクレオパトラ』の主演俳優として再び舞台に立ちながらも、テリィの胸には、ストラトフォードから温めていた一つの思いがあった。それはらSMTでの自分が経験してきたものを、次の世代へ伝えたいというもの。苦しかった下積みの日々。役を失い、それでも諦めず舞台へ戻ったこと。ブロードウェイ
「でもテリィ!」「な……なんだ」ケビンはずんずん近づいてきて、腕を組んだ。「隠し事してるだろ?俺に」テリィは振り返る。「隠し事?」「そうだ!」ケビンは勢いよく指を突きつけた。「マイケル!お前もだ!」「俺も?なんで?」「お前たち最近、絶対おかしい!」「どこが」「まず、二人でこそこそ話してる!」「それは仕事の話だろ。同じチームなんだし」「違う!俺が近づくと終わる!」「そんなのたまたまだろ?」「それから!」まだあるのか、とテリィは苦笑する。「テリィが最近ずっと機嫌い
MalloryQuinn作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「OnceUponATime(むかしむかし)」を読み終えました。OnceuponatimetherewasayounggirlnamedCandy,whowasworkinginthevillage'sdiner.Oneday,shemetaboynamedTerrenceGrandchesterwhocametoLakewoodforthesummer
結論最初に結婚するのは誰だ?編集部で議論した結果は以下の通り。第1位ケビン・マクグラス→突然恋に落ちて電撃結婚しそう。第2位マイケル・アンダーソン→気付いたら周囲に結婚を勧められていそう。第3位テリュース・グレアム→恋愛より舞台を優先しそう。だが、一度決めたら誰よりも早いかもしれない。果たして本誌の予想は当たるのだろうか。それとも三人とも独身街道を突き進むのだろうか。今後も目が離せない。――もっとも、当の本人たちは「大きなお世話だ」と笑うかもしれないが。特別アンケ
昼休憩。午前中の稽古を終えたテリィは、自分の楽屋へ戻っていた。ほどなくしてマイケルも顔を出す。「今日は疲れるな」「そうだな、通しはやっぱり体力使う」そんな他愛もない話をしていると、廊下から勢いよく足音が近づいてきた。「おーい!」ドアが勢いよく開く。「いたいた!」現れたのはケビン、片手には、一冊の雑誌。「お前ら、見たか?」「何をだ?」ケビンは得意げな笑みを浮かべると、雑誌をひらひらと振った。「今月の『BroadwayMonthly』だよ!」マイケルが苦笑する。「劇評か?
その夜、二人はホテルのテリィの部屋で静かな時間を過ごしていた。夕食は近くのレストランで簡単に済ませ、部屋へ戻る頃には窓の外はすっかり夜の色に染まっている。暖房の効いた室内には柔らかな明かりだけが灯り、街の喧騒も遠くに感じられた。キャンディはソファに腰を下ろすと、鞄から分厚い資料を取り出した。「また勉強してもいい?」テリィは穏やかに頷く。「俺はこっちを読んでる」荷物の中から取り出したのは、ロンドンで買った戯曲集だった。ページをめくる音だけが、ときおり静かな部屋に響く。キャンディは