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10月中旬、『ヴェニスの商人』本公演の稽古が本格化するなか、主役たちはひと足早く本読みと立ち稽古に入っていた。時同じくして劇場の稽古場2号室。ストラスフォード劇団の稽古拠点としては比較的手狭な場所に、十数名の役者たちが座れるように円く椅子が並べてあった。部屋の後方では、演出部の一人が顔をしかめながら稽古スケジュールを手帳に書き込み、舞台監督が台本の改訂箇所について誰かと揉めている。稽古場の隅にケビンとマイケルといたテリィが、演出家から呼ばれて席につくと、視線はテリィに集まった。既に座っ
スザナが亡くなった3ヶ月後の2月。「それでは今日はお先に失礼いたします。お疲れ様でした」「お疲れ様でした。また月曜、お願いします」夕刻のニューヨーク・プラザホテルの一角。新しい支配人との打ち合わせを終えたアーチーボルト・コーンウェルは、書類の束を革製の鞄に収めながら一礼し、静かにその場をあとにした。時計を見ると、18時を少し回った頃。今夜は観劇の予定、仕事の合間を縫ってチケットを手配しておいたのだ。チケットに記されていた演目は「Still」――朗読劇だという。内容について詳しいこと
朝のニューヨークは、静かだった。春風が、カーテンをわずかに揺らす。キャンディはキッチンに立ち、オーブンから天板取り出した。甘い香りが部屋に広がる。「うん……いい感じ」昨日の夜、子どもたちが寝たあとに焼いたクッキーだ。オリヴァーとオスカーが朝起きたら喜ぶだろうし、何より——(テリィも、きっと)そのときだった。ふと、違和感。カウンターの上に置いたはずのクッキー缶が、少しだけ……軽い。「……?」蓋を開けた瞬間、キャンディは固まった。「……あれ?」半分以上、ない。一瞬、頭が
3月。ポニーの家では、まだ朝夕の冷え込みは残るものの、どこか春の気配が漂い始めていた。庭ではフキノトウが顔を出し、子どもたちは草むらで宝探しに夢中だ。そんな中、玄関のほうから、低く響く声がした。「こんにちは。…先生たちはおられますかの?」「こんにちは!カートライトのおじさんに、マーチン先生だ!」玄関の扉を開けた子どもが明るい声で呼びかけると、キッチンの奥からレイン先生が顔を覗かせた。エプロンの端で手をぬぐいながら、その顔がぱっと明るくなる。「まあまあ、お揃いでいらしたなんて。今日はど
EleannaS作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「Terry'sJournal(テリーの日記)」を読み終えました。Terry'sJournal-EleannaS-Wattpadちょっと脱線して、昨年12月の読んだ「ScarletRose」の続きが出ている事を、作者ご本人様から教えて頂きましたので、77章、78章から2つに結末が分かれる両サイドのお話共に読みました。79章パート1まで更新されていました。続きが待ち遠しいです。ぜひ、読んでみて下さい。長いお話
稽古が始まってまだ10日。劇団の空気はすでに異様な熱気と緊張に満ちていた。稽古場の壁に貼られた新聞の切り抜きには、大きな文字でこう踊っていた。《春、ロンドンで二つのハムレットが激突!SMT本公演vsロンドン『アレックス劇団』挑戦者はテリュース・グレアム》アレックスが仕掛けた宣伝戦争だった。記事は煽るように書かれている。《英国の誇るSMTの真価が問われる。対するはアメリカの舞台を席巻してきた若きハムレット。ロンドンで歴史は塗り替えられるのか?》この見出しが出た日から、稽
ロンドンのタウンハウスに、いつもより静かな朝が訪れていた。重たいカーテン越しの光が寝室に差し込むなか、キャンディは浅い呼吸で身じろぎしていた。熱と喉を焼くような痛みと、抑えきれない咳がキャンディを襲っていた。その部屋の前で、足音が止まった。「……おかあさん、だいじょうぶかな」オリヴァーは七歳。オスカーは四歳。二人にとって、母が寝込む姿を見るのは初めてだった。そっと扉を開け、ベッドに横たわるキャンディの姿を見た瞬間、胸がきゅっと縮む。「おかあさん……」「くるしい?」キャンディは
レイクウッドからの帰りの汽車は、夕暮れの中を走っていた。窓の外には、柔らかな茜色の光に包まれた草原が流れていく。けれど、その美しさは今のキャンディの心には何ひとつ届かなかった。膝の上でぎゅっと握りしめた両手が冷たい。さっきから、胸の奥がざわざわと落ち着かず、息をするたびに、何かがひっかかるような感覚が続いていた。……聞いてしまった。ただ、それだけのことなのに、それだけで世界の見え方か変わってしまった。アンソニーの薔薇園。スイートキャンディ。そこで偶然耳にしたあの少年と母親の会話。「ウィ
ストラスフォード本劇場。キャンディにとっては2度目になるだろうか。でも1度目はすぐに出てきてしまったので、今回が初めて足を踏み入れたといっていいだろう。テリィに案内され、裏手の通用口から劇場へと入ると、そこには観客席からは想像もできない世界が広がっていた。高く積まれた舞台装置の資材、仮設の道具棚、かすかに残るペンキや木材の匂い。天井のパイプには配線や照明が這い、薄暗い通路を進むたびに、劇場がまるで生き物のように感じられた。「ここが大道具の倉庫。その奥にセットを組む工房がある。棚や簡単な
千穐楽の翌日、ニューヨークのクリスマスイブ。朝10時、キャンディが泊まるホテルのロビーに、テリィが姿を現した。「おはよう、キャンディ」「おはよう、テリィ」キャンディが頬をほころばせると、テリィも口元をゆるめた。「じゃあ、まずはブランチに行こうか。静かなカフェがある」ふたりは街に出た。冷たい風がビルの谷間を抜けていく。ニューヨークのクリスマスは観光客と地元の人で賑わい、街路樹もショーウィンドウも華やかに彩られている。テリィが案内したカフェは、ホテルから少し歩く路地の奥。ホテルと劇団
Keyag作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「CrónicasdeAmor(ChroniclesofLove)」を読み終えて。"Teamé,teamoyteamaré."(AlbertaCandy)「私はあなたを愛していた、私はあなたを愛している、そしてこれからもあなたを愛する」(アルバートからキャンディへ)ラブクロニクル第1章、キャンディーキャンディーの二次創作|ファンフィクション58章からなる長編で完結する、アルバートさん側のお話です。と
余興の笑い声がひと段落し、ふと、空気がやわらかく静まった。そのとき、レイン先生が立ち上がる。ごく自然に、そこにいる全員の視線が、彼女に集まった。「……皆さん、本日は本当にありがとうございました。キャンディが小さかった頃から見守ってきた者として、今日この日を迎えられたことを、心から嬉しく思っています」優しい笑みを浮かべながら、続けた。「この披露宴の締めくくりに、ポニーの家の子どもたちが、心を込めて歌を贈ります。選んだ歌は、“GodBewithYouTillWeMeet
スージーは、帽子屋でもらった薄い給料袋をコートの内ポケットにしまい、キャンディの講義を手伝った帰り道、どこか沈んだ顔をしていた。歩調が自然と落ちていくのを感じたキャンディは、立ち止まってスージーを見つめる。「何かあったの?」スージーは手に持っていた封筒をぎゅっと握りしめた。赤十字社から届いた“奨学生試験・過去問題”一式だ。「キャンディ……これ……」封筒を差し出す手は震えていた。キャンディがその封筒を開くと、びっしりと書き込まれた問題文が目に飛び込んできた。英語の長文読解。算術ではな
テリィのペントハウスのダイニングテーブルに、コーヒーと菓子皿、それから便箋と封筒が並んでいた。キャンディは椅子に浅く腰をかけ、スケジュールを書き留めるための白紙の紙と鉛筆を手に、テーブルの上をじっと見つめていた。「ねえ、やっぱり順番をちゃんと考えたほうがいいわよね。移動だけで疲れちゃうし…」「そうだな。距離もあるし、相手の都合もある」テリィはグラスを手に、ゆったりと椅子にもたれている。その視線は、鉛筆をくるくる回しながら予定を練っているキャンディに注がれていた。「まず、お互いの“親”
ある日の稽古後、食堂の隅にて。ケビンとノアが真剣な顔で向かい合っていた。「テリュースの好きなタイプ、結局まだ聞き出せてねぇよな」「そう。だから今日こそ。作戦名は『恋バナで心を開かせろ作戦』だ」「いやそのまんまだな!」「俺が正面から、ケビンは横から挟み撃ちにして、一気に攻める。イメージは…そう、クロスファイア」「お前、その言い方すると俺ら恋のゲリラ部隊みたいになるからやめろ」その直後、まるで呼び出されたように、テリィがトレイを持って2人の席にやってきた。「ここしか空いてなかった。悪
ストラトフォード・アポン・エイボン。白壁の劇場の裏手、俳優たちが集まる休憩室に一枚の新聞が置かれていた。《ロンドンで“もうひとつのハムレット”。主演はテリュース・グレアム》若い俳優が眉をひそめる。「……誰だ、これ書いたの。SMTと競わせる気か?」ベテラン俳優が深くため息をつく。「競わせるも何も……ロンドンの連中が勝手に仕掛けてきたんだろう」そこへ広報係が静かに言う。「上層部は、この件を無視する方針ですよ。反応すれば向こうを格上げすることになる、と」だが、その言葉とは裏腹に、俳優
長い救護活動を終え、ようやく自宅の扉を開けた。玄関を閉めた瞬間、耳にこびりついていたサイレンや人々の叫び声が、まだ頭の奥でこだまする。静けさが返ってきたはずの家が、むしろ不気味に思えた。マーサが振り返り、小声で「おかえりなさいませ」と言ってくれる。その目に浮かんでいたのは安堵と心配。彼女は眠る子を見守ったまま、気遣うように静かに立ち去った。ここは安全な場所だ。そうわかっているのに、胸の鼓動は荒く、肩は強張ったままだった。寝室へ入ると、ベビーベッドの中で長男が小さな寝息を立てていた。
ブロードウェイでも最大規模を誇る「エンパイア・グローブ劇場」の稽古場には、すでに多くの若手俳優たちが集まっていた。ブロードウェイの劇団から選抜された、総勢60名余り。広い講堂が、様々な空気を帯びた視線と、ざわめきに包まれていた。「……来たぞ、ストラスフォードだ」誰かの小さな声とともに、ざわざわと空気が波立つ。重厚で格式高いとされるストラスフォード劇団。その名を冠する若手10名、その数からストラスフォードに対する評価は高い。選ばれし彼らが、最後にスタジオへと入ってきた。先頭を歩くのは、
同窓会も半ばを過ぎ、会場の熱気はほどよく和らいでいた。談笑の輪がいくつもでき、グラスの音と低い笑い声が重なり合う。その中で、テリィは壁際に寄り、少しだけ距離を取っていた。ドミニクと数人が近くにいるが、彼自身はあまり多くを語らない。その背に、低く刺すような声が向けられた。「……ずいぶんと持ち上げられてるじゃないか」振り返ると、二人組の男が立っていた。学院時代から、何かにつけてテリィに敵意を向けてきた顔だ。「舞台俳優様、ってところか?」「二十年前は、問題児だったくせに」周囲の空気が、
こんにちは🩷とってもとっても遅くなってしまいましたが、永遠のジュリエットvol.39をお届けします。↓永遠のジュリエットvol.39〈キャンディキャンディ二次小説〉|キャンディキャンディ二次小説『永遠のジュリエット』「遅かったのね、テリィ」真夜中をかなり過ぎた頃。チャリティーパーティーから戻ったテリュースがマーロウ邸のガレージに車www.candycandy.site前回から長いことあいてしまったので、前のお話も貼り付けておきます🩷↓永遠のジュリエットvol.38〈キャンデ
昼食後に再開された立ち稽古は、より感情をぶつけ合う場面に進み、俳優たちの表情もどこか鋭さを増している。中心ではマルグリートとパーシーの夫婦のすれ違いのシーンが始まっていた。ルビーが台本なしで台詞を口にし、舞台中央でテリィと向き合う。「あなたは、私を信じていない……!」ルビーの声が張り詰める。涙は流れていないが、目の奥に滲む怒りと哀しみ。その感情の渦を真正面から受け止めたテリィが、一拍おいて口を開く。「信じていないのではない。信じたくても、信じられない。心が裂けるのは……私もだ」二人
真夏の風がニューヨークの街路樹を揺らす午後。プラザホテルのラウンジは、磨き込まれた大理石の床とシャンデリアの灯に包まれて、優雅なざわめきが漂っていた。高層階にある広々としたスィートの応接間では、キャンディとテリィがすでに到着していてソファに座り待っていた。「どんな方なのかしら……」キャンディは胸の奥が少し高鳴っていた。アルバートさんの人生を共にする相手。手紙で名前を知っただけの「アリス・ハミルトン」という人物に、自然と期待がふくらんでいた。やがて、背の高いアルバートが姿を現した。その隣に
良くなってきたと思われた容体は再び発熱してぶり返した。だが治療によって今は熱は少し下がっていたが、咳はまだ続いていた。そんな午後、テリィが見舞いに現れた。ハムレットのファイナルシーズンがもうじき終わりを迎える彼は、稽古や公演の合間を縫って病院に通っていた。今日はマチネ、舞台を終えた足で病院へ来ている。「少し顔色が戻ったな」ベッド脇の椅子に腰をかけると、彼はいつものように無造作に髪をかきあげた。「熱は下がったけど、咳は相変わらずよ。でも…来てくれて嬉しいわ」スザナは穏やかに笑った。そ
『Stillーいつか届くと信じて』を一気に全話を投稿しました。数話ずつの投稿では、テリィの苦悩が伝わらないと思い、物語すべてを投稿いたしました。短い物語ではありますが、私の思い入れが強いお話です。朗読劇は、名前の通り、声だけの劇です。声だけで伝えるからこそ、感情の奥行きや“にじむ本音”が、すごく鮮やかに伝わると思うんです。そして今回は、台詞が自分自身に近い、ほぼ自分という、台詞に直面したとき、テリィはどのように乗り越えるのか、テリィが自分の言葉を見つける舞台として、このジャン
ある日の午後、主演俳優が急病で倒れた。その日は、シェイクスピアの『お気に召すまま』の立ち稽古が予定されていた。「台詞は抜きで、動きだけでも確認しよう。演出プランの変更がある」演出家の声に、稽古場の空気はどこか重たく沈んだ。主役がいない舞台は、ただの空っぽの箱に見える、誰もがそう思っていた。そんな中、演出家がふと声をかけた。「テリュース、おまえ、代わりに立ってみろ。セリフはいらない。ただ、“いる”だけでいい」テリィは静かにうなずき、袖から舞台へと出た。彼は一言も発さなかった。
大聖堂での式が終わると、招待客たちはそのまま隣接する広間へと導かれていった。重厚な扉が開かれると、そこには見事なシャンデリアが煌めき、薔薇や百合の花で彩られた円卓が幾重にも並んでいる。白いクロスと銀器が整えられた席は、まるで宮廷の饗宴のようだった。私はテリィと並んで親族席に案内され、ふと周囲を見渡す。政財界の名士たち、遠方から駆けつけた紳士淑女の姿。そのどれもが、アードレー家の名を慕い、アルバートさんの晴れ姿を祝福するために集まっていた。私はテリィと並んで席に着いたが、ほどなくして背後か
午後はいよいよテリィやアシュトンの演技が行われる。そろそろ午後の眠気に支配されるころ、目が覚める演技が披露された。「アシュトン・クレイヴン、舞台へ」名が呼ばれた瞬間、静まり返る場内。黒髪をオールバックにした長身の青年が、躊躇なく舞台に進んでいく。先に何人かが演じた“サロンの道化”とは、まるで違った。「…おやおや、我が貴族様たちは、革命の波をワインで乗り越えるおつもりか。それとも、ギロチンで首を冷やした方が早いとでも?」優雅に歩きながら、アシュトンは架空の貴族たちに目線を配る。空間
セントラル・ミラージュ劇場。開演までまだ数時間ある朝の劇場ロビー。スタッフたちはプログラムや受付台を整え、観客を迎える準備に追われていた。そんな中、ロビー中央に異様な存在感を放つ巨大な花のスタンドが置かれていた。赤と白のバラをふんだんに使い、背丈ほどの高さにまで盛り上げられた豪華なアレンジメント。花の陰からちらりとのぞく木札には、太い文字でこう書かれていた。『祝・主演ノア・チャップマン殿ストラスフォード劇団テリュース・グレアムより』「……は?」ロビーに呼び出されたノアは、一瞬言
Keyag作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「AnatomíadeunaInfidelidad(不倫の解剖学)」を読み終えて。¿QuepasaríasiAlbertlefuerainfiel?¿Podríasuamorsoportarlo?¿CorreríaalosbrazosabiertosdeTerry?NOTA;Apartirdelcapítulo17haytreslíneasdelahistoria,paraq
これをやってると男の愛は逃げていく/こんにちは人類魅力研究家のいちあきです\➡️いちあきプロフィール←初めての方はこちらこちらのシリーズではXジェンダーでスーパー男脳の持ち主、いちあきが男性視点と女性の感性を駆使して悪魔のコミュニケーション術を恋愛に特化してお伝え中です!💋悪魔のコミュニケーション術とは何か?💋【永久保存版】出会いをガッチリ自分のものにして恋を生みだすシンプルな法則基本的にいちあきは女性ってその場にいるだけでパッと華やかになって、周りを幸せにする