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宴会場からテラスへ出ると、三月の午後の空気は少し冷たく、火照った頬に心地よかった。室内では楽団が再び演奏を始めている。扉一枚を隔てただけなのに、笑い声も音楽もここでは少し遠く、ガラス越しの灯りだけが華やかな披露宴の続きを伝えていた。「少し寒いわね」パティが肩をすくめた。三人がテラスへ出てきたのは、ほんの少し風に当たりたかっただけだった。アーチーも二人についてきて、手すりのそばに立っている。しばらくすると、パティが我慢できなくなったように笑った。「ねえ。さっきのあれ、そうよね?」「テ
アニーが静かに言った。「一時は、二人がどうなるのかと思ったけど……」その声には、先ほどまでの懐かしさとは違うものが混じっていた。「スザナさん……だったわよね。テリィと同じ劇団の女優さん」パティが頷く。「事故でテリィを庇って、大怪我をして……」「それは誰のせいでもなかった。でもスザナさんはテリィを好きだった」アニーは遠くを見るような目をした。「だからキャンディは、自分が身を引いたのよね」アーチーは黙っていた。あの頃のキャンディを思い出している。アニーの声が少し揺れた。「キャンデ
夜は、静かに更けていった。ポニーの家のキャンディの部屋。窓の外には、夏の気配を含んだやわらかな風が流れている。遠くで虫の声がかすかに響き、昼間の賑わいが嘘のように、すべてが落ち着いていた。同じベッドに並んで、キャンディとアニーは横になっていた。幼い頃、肩を寄せ合って眠った夜の記憶が、どこか遠くで揺れている。けれど、あの頃とは違う。明日を越えれば、それぞれが「誰かの隣」に立つ存在になる。その境目にいる夜だった。「……そうよ、たまにはケンカもするけど……でも、好きな人と結婚するのが、一番の幸
会場から小さな笑いが起こった。後援者の一人が言う。「あれ、学生じゃないか?」「確かに、そう見えるね」キャンディは笑えなかった。テリィが時計を見てすぐにしまう。まだ時間はあるようで、木にもたれたまま待つ。やがて退屈したらしく、上着のポケットへ手を入れ、煙草を一本を口にくわえ、今度はマッチを取り出すと、慣れた仕草で火をつけようとして――ふと、手が止まった。ほんの一瞬、口元にくわえた煙草を見る。それから、誰かに何かを言われたように、わずかに眉を寄せた。キャンディの胸の奥が、小さく跳ねた。覚え
スザナ・マーロウの訃報が新聞各紙に載ったのは、その週の金曜日だった。年が明けたニューヨークの朝は冷たく、劇場街の歩道にはまだ昨夜の雪が薄く残っていた。新聞売り場には特別版が並び、人々はコートの襟を立てながら足を止める。ハムレットの成功以降、テリュース・グレアムは世間の注目を集める存在になっていた。だから彼に関わる出来事もまたニュースになる。スザナの死も例外ではなかった。劇場へ向かう途中、何人もの人が新聞を広げていた。誰も悪意など持っていない。ただ悲劇を惜しみ、若くして亡くなった元
シカゴ行きの列車へ乗り込むと、マーチン先生はすでに窓側の席へ腰を下ろしていた。キャンディの姿を見つけると、穏やかに笑う。「友だちとは会えたかね」その問いに、キャンディも自然と微笑んだ。「はい。会えました」短い返事だったが、それだけで十分だった。列車がゆっくりと動き出す。ホームが流れ、駅舎が遠ざかり、やがてニューヨークの街並みも窓の向こうへ消えていった。しばらくすると、二人の話題は自然と看護大会へ移っていた。発表の内容や質疑応答のこと。他州から来た看護師たちの研究報告のこと。
ポニーの家の大きく開け放たれた窓からは、焼きたてのクッキーの甘い匂いが午後の風に乗って流れ、丸いテーブルには、湯気の立つ紅茶が静かに並べられている。そのテーブルを囲むように座っているのは、キャンディ、アニー、そしてパティの三人。それぞれが別々の場所で新しい時間を生き始めてから、以前のようにただ他愛もない話をしながら笑い合う時間は、いつの間にか少なくなっていた。だからこそ、こうして三人だけでゆっくり顔を合わせる午後が、たまらなく懐かしく感じられるのだ。ポニーの家の窓を揺らす風も、遠くから聞
MalloryQuinn作、キャンディ・キャンディ海外2次小説「CANDICEANDTHEBEAST(キャンディスと野獣)」を読み終えました。Agroupfictocelebratethiswonderfulstory...Enjoy!この素晴らしい物語を祝うためのグループフィクション...お楽しみください!(google日本語訳)CANDICEANDTHEBEASTChapter1,aCandyCandy+Beautyandthe
「最後の舞台が終わったら、しばらくニューヨークを離れるよ」向かいの席で、エレノア・ベーカーが顔を上げた。セントラル・パークからほど近いその店は、彼女がこの街で暮らしていた頃に足を運んでいた、馴染みのレストランだった。昼どきの店内には、銀器の触れ合う音と、低く交わされる話し声が心地よく満ちている。「どこへ行くの?」「メイン州」「メイン州?」「ああ」エレノアは少しだけ意外そうに眉を寄せた。「どのあたり?」テリュースは、手にしていたグラスをテーブルに戻した。氷がかすかな音を立てる。
七月に入ってすぐ、パトリシア・オブライエンがモンヒーガン島へやって来た。パティは、九月からロンドンで、教師になるための勉強を始めるのだという。その前にいったんダブリンの両親のもとへ帰ることになっていた。海を渡ってしまえば、そう簡単には会えなくなる。その前にどうしても会っておきたいと、三週間ほどキャンディスの家に滞在することになった。*「やっぱり、こっちじゃないかしら」パトリシアが言った。「さっきは反対がいいって言ったじゃない、パティ」「置いてみたら、なんだか違ったのよ」「もしか
六月のモンヒーガン島は、夜のあいだ海に抱かれていた霧が、まだ岬や入り江に残っている。白くほどけた布のようなそれは、風が渡るたび静かにかたちを変え、黒い岩肌を隠したり、灯台の白い姿を半分だけ浮かび上がらせたりした。やがて陽が高くなるにつれ、霧は少しずつ海へと帰っていく。急ぐふうでもなく、惜しむふうでもなく。ただ、自分の帰る場所をあらかじめ知っているもののように。昼食の後片付けをすませると、キャンディスはピアノの蓋を開けた。それは、この家へ来たときからそこに置かれていたアップライトピアノ
いつも『小説キャンディ♡キャンディファイナルストーリー二次小説時の彼方で』をお読みいただき、本当にありがとうございます。【新しいシリーズ】についてのご案内をさせてもらいます😊このたび、《別解釈》による【新シリーズ】をスタートすることにしました!タイトルは――『Crossroads』“人生の岐路”、“分かれ道”という意味を持つ言葉です。これまでの『時の彼方で』では、テリィが俳優として歩んできた道や、その成長も大きな軸として描いてきました。一方、新シリーズ『Crossroads』では
ケビンによるトーストが終わり、楽団の演奏も、先ほどまでの穏やかな曲から軽快なものへ変わっている。披露宴の初めにあった格式ばった空気は、もうほとんど残っていない。劇団の後援者やスポンサーたちも、俳優たちを捕まえては次の公演の話をしたり、昔の舞台について語ったりしている。そんな中、ひときわ大きな笑い声が上がった。「それは面白い」声を上げたのは、長くストラトフォード劇団を支援している後援者の一人だった。そのそばで、マイケルが困ったように笑っている。「いや、稽古ではやりますけどね。ここでやるよう
応接間には、穏やかな静けさが流れていた。窓から吹き込む初夏の風が、白いレースのカーテンをゆっくりと揺らしている。庭では幼い子どもたちの笑い声が遠くに聞こえた。その穏やかな空気の中で、テリィは静かに姿勢を正した。舞台の上なら、何千という観客の前でも臆することはない。けれど、この日だけは違った。胸の鼓動が、自分でもはっきりわかるほど早い。隣を見る。キャンディも少し緊張した面持ちで膝の上へ両手を重ねていた。ふと目が合い、小さく微笑み合う。その笑顔だけで、不思議と肩の力が抜けた。テリィは
五月のシカゴ。教会の控室へ初夏を思わせるやわらかな陽光が差し込み、窓の向こうでは色とりどりの花々が陽射しを浴びて美しく輝いていた。開け放たれた窓からは、咲き誇るバラの甘い香りと若葉を渡る爽やかな風が流れ込み、小鳥たちの澄んださえずりが静かに響いている。柔らかな陽光に包まれた庭は生命の輝きに満ち、まるでこの特別な一日を祝福しているかのようだった。純白のウェディングドレスに身を包んだキャンディは、鏡の前に静かに立っていた。幾重にも重なる繊細なレースは、窓から差し込む陽光に淡く輝き、長く流れるト
昼休みになっても、フランス語の授業で言われたことが、キャンディの耳から離れなかった。その日の課題は、詩の暗唱だった。キャンディはフランス語は得意なほうではないため、人の何倍も練習していた。意味の分からない言葉を調べ、読み方に迷ったところはアニーとパティに聞き、声に出して何度も繰り返した。昨夜は教科書を閉じても最後まで言えるようになっていて、今朝も、身支度をしながら確かめた。今度は、ちゃんとできる、と。そう思っていたのに、指されて立った途端、覚えたはずの言葉が出てこなくなった。最初の一節は言
ニューヨークの朝は、思ったより静かだった。昨日のパーティーの喧騒が嘘のように、ホテルの窓から見える街は淡い陽光に包まれている。キャンディは鏡の前で髪を整えながら、小さく息を吐いた。昨日のことが、まだ夢のようだった。7年という長いようで短く、短いようで長い年月。もう会うことはないと思っていた人が、目の前に現れた。それだけでも十分だったはずなのに。別れ際に言われた言葉が、何度も頭の中で繰り返される。時計を見る。待ち合わせまでは、まだ時間があった。それなのに落ち着かない。まるで学生
キャンディ♡キャンディファンサイトこのページは、キャンディキャンディ二次小説「11年目のSONNET」の続編を投稿中です。初見の方は「サイトmap」又は「第1話」からご覧ください♪続編の第1話はこちらから。コメントは承認制の為、反映されるまでにタイムラグがあります。★★★2-145月11日。その朝テリィは、爆撃の一報が入ったブルーリバー動物園に向かっていた。(くそっ、ドイツ軍の奴ら、ロンドンを焼き尽くす気だろうが、そうはさせないっ)怒りにたぎるテリィの
ニューヨーク港を離れた客船・アスタリア号は、春の北大西洋へ静かに滑り出していった。汽笛が長く響き、暗い海原を割って進む船体は、巨大な影となって夜の帳に溶け込んでいく。アスタリア号の航海は、順調だった。そう、三日目の夜までは。深夜一転。船内の非常ベルが突如、鋭く鳴り響いた。「機関室から火災!」怒号が走り、乗客たちの眠りは強引に引き裂かれた。廊下には蒸気と焦げ臭い匂いが満ち始める。キャンディは跳ね起き、上着をつかんで部屋を飛び出した。「火事……?本当に……?」乗客たちが叫び声を上
駅へ向かう道すがら、しだいに二人の歩調は自然とゆっくりになっていた。大通りの喧騒が少しずつ遠ざかっていく。代わりに聞こえてくるのは、駅へ向かう人々の足音と街のざわめきだった。セントラル駅の大きな時計が見え始める。もうすぐ別れだ。そう思うと、キャンディの胸の奥が少しだけ痛んだ。テリィも何か考えているようだった。何度か口を開きかけては閉じる。言いたいことがあるような。ないような。そんな曖昧な表情。けれど結局、何も言わなかった。その横顔を見ていたキャンディは、ふと笑った。そし
꧁はじめに꧂以下は、『星々の引力』を書くにあたって、私なりに考えたスザナ・マーロウの人物像についてまとめたものです。原作漫画、『小説版キャンディ・キャンディ』および『キャンディ・キャンディFINALSTORY』の幾つかの設定や描写を踏まえながらも、一部については『星々の引力』の物語に合わせて、独自の解釈や設定を加えています。そのため、原作そのものについての考察というより、「私は『星々の引力』の中で、なぜスザナをこのように描いたのか」という創作上の人物考察としてお読みいただければ幸いです
秋のニューヨークの夜。ブロードウェイの灯が窓越しに揺れ、ペントハウスのリビングには暖かなランプの光が満ちていた。テリィは深く息を吐き、子どもたちの前に腰を下ろした。キャンディも隣に座り、二人の金髪の頭をそっと撫でる。「オリヴァー、オスカー。今日はちょっと大事なお話をしよう」真剣な父の声に、兄弟はきょとんとした顔を見合わせた。「このあいだイギリスに行っただろう?大きなおじいさまのおうちに」「うん!お馬さんに乗った!」とオリヴァー。「お庭でかくれんぼした!」とオスカー。ふたりの
仕事終わりにテレビ見て、また地震のニュースに驚きました。被害がひどくなりませんように。訪問ありがとうございます😊子育て終わりのアラカンです。春夏秋はガーデニングメイン、冬は弘前の暮らしの四方山話を書いてます。弘前公園の桜に魅せられて、転勤族⇒Iターン移住しました。行ってきました動き出す浮世絵展https://share.google/GV1bRYOkMQ1269l8W青森丨動き出す浮世絵展|UkiyoeImmersiveArtExhibition立体映像空間で浮
「テリィ、元気だったの?」キャンディスはそう言って、肩にかけていたショールを外した。その声は、耳から入って胸のいちばん奥にまっすぐ届いた。すこしも変わっていなかった。テリュースは返事をするのも忘れて、しばらく彼女を見ていた。スポットライトの渦の中に立つときでさえ揺れなかった自分の心が、たったひとりの眼差しを前にして、足元からほどけていく。「ああ」胸の奥から、ようやく息を吐き出した。「見ての通り、ピンピンしてるよ」「そう。よかった」ふっと目元が緩む。ただそれだけで、この数年間に
『家族のかたち第一章第38話』に登場する、ヴィクター・ラングフォードの視点から描いたお話、テリィがロンドンを離れ、ブロードウェイ・ストラスフォード劇団に入団して一年目、新人時代のお話。ヴィクターには、こう見えていたというお話です。ざわめきは、すぐには収まらなかった。オーディションが終わったあとも、劇団の空気はどこか落ち着かず、廊下のあちこちで同じ名前が繰り返されていた。ロミオ役:テリュース・グレアム。誰もが、認めざるを得なかった。だが同時に、それをそのまま飲み込めるほど、ここは甘い場
テリュース・グレアムのプリンシパル任命の知らせは、RSCの壁の内側に留まらなかった。ロンドンの劇場街でその名が囁かれた翌朝には、新聞社の編集室で見出しとなり、午後には社交界の茶会で扇の陰で語られ、夜には貴族たちの晩餐の席で口にされていた。テリュース・グレアム。RSC新プリンシパル。その名は、乾いた絹へ火が移るように、静かに、けれど止めようもなく、ロンドンの上流社会へ広がっていった。かつてブロードウェイの舞台で名を馳せ、RSCの舞台に立ち、ついにはプリンシパルの座へ上りつめたという噂
これをやってると男の愛は逃げていく/こんにちは人類魅力研究家のいちあきです\➡️いちあきプロフィール←初めての方はこちらこちらのシリーズではXジェンダーでスーパー男脳の持ち主、いちあきが男性視点と女性の感性を駆使して悪魔のコミュニケーション術を恋愛に特化してお伝え中です!💋悪魔のコミュニケーション術とは何か?💋【永久保存版】出会いをガッチリ自分のものにして恋を生みだすシンプルな法則基本的にいちあきは女性ってその場にいるだけでパッと華やかになって、周りを幸せにする
静寂の海。波の音が遠くでゆるやかに寄せ、夕映えのような橙の光が舞台を包んでいた。プロスペローは杖を手に立っていた。その瞳には、長い旅の果てに辿り着いた者だけが宿す静けさがあった。「長き孤独と怒りの果てに、我はこの島で学んだ。人は誰もが嵐を抱え、それでも、航路を見失わぬ心を持つ。」その声が響くたびに、劇場の空気が震える。誰もが息を詰め、ただ彼の言葉を受け止めていた。隣に座るアーチーが、無意識に拳を握っている。アルバートさんは目を細め、真剣な面持ちで舞台を見つめていた。私は……た
第2部を終えてテリィが心身ともにズタボロになったところで終わった2部🙇♀️「Sザナ」の名前は見るのもイヤだ、という方もいると思いますが、ご容赦くださいアップするまで何話になるか分からなかったのですが、2部は14話でしたね。今回の連載は3部編成なので、全40話前後に収まりそうです第2部…こんな心境でした。©ナガノ「行動がカメラに縛られる」ならぬ行動が史実に縛られる〜この「史実縛り」が地味にきつい…キャラの行動と史実のタイミングを合わせるのが大
午後の鐘が鳴っても、俺は講堂へ戻らなかった。予定ではクリケットの授業だったはずだが、冷たい風の中で白球を追いかける気分にはなれない。どうせ減点は慣れっこだ。芝生を横切り、人気のない中庭へと出た。石垣に腰をかけると、白い息がふわりと空に昇った。ポケットから煙草を取り出す。だが火を点ける前にやめた。監督生やシスターに見つかれば、面倒な説教を食らう。いや、それより、今日は胸の奥がざわついて、吸う気になれなかった。目の端に、小さな人影が映った。女子棟の裏手。食堂を出たあとの休み時間ら