ブログ記事283件
翌朝、テリュースは誰よりも早く稽古場に入った。木の床には、誰かの落としたペンが転がっていた。テリュースはそれを拾い、机の上に置く。そして窓際の椅子に腰掛け、『ロミオとジュリエット』の脚本を開いた。ロミオ、ジュリエット。その名前を見るたび、テリュースの胸の奥に痛みが走る。あの役は、美しい。若さがある。熱がある。言葉が光っている。だが、その光の奥には、死がある。テリュースは、ページをめくる指を止めた。ずっと以前なら、ロミオを演じることは怖くなかった。恋を語ることも。愛を誓うことも。相手
スザナの葬儀が終わった翌日。マーロウ邸は、音を吸い込んだように静まり返っていた。両親は、娘の面影が残るこの屋敷に留まることに耐えられなかったのだろう。葬儀が終わると同時に、使用人を伴ってフロリダの別荘へと発っていった。結果として、この広すぎる屋敷に残されたのは、テリュースひとりだった。与えられていた2階の客間で、彼は自分の私物を小さなトランクに詰めていた。ずっと、この屋敷へのテリュースの滞在の名目は「婚約者」だったが、その扱いは最後まで曖昧なままだった。今後についての話もなければ、引き止
ポニーの家の大きく開け放たれた窓からは、焼きたてのクッキーの甘い匂いが午後の風に乗って流れ、丸いテーブルには、湯気の立つ紅茶が静かに並べられている。そのテーブルを囲むように座っているのは、キャンディ、アニー、そしてパティの三人。それぞれが別々の場所で新しい時間を生き始めてから、以前のようにただ他愛もない話をしながら笑い合う時間は、いつの間にか少なくなっていた。だからこそ、こうして三人だけでゆっくり顔を合わせる午後が、たまらなく懐かしく感じられるのだ。ポニーの家の窓を揺らす風も、遠くから聞
コーンウェル邸の応接間は、昼下がりの光の中にあった。磨かれた床、重厚なカーテン、壁に並ぶ肖像画。その中に、アリステア・コーンウェルの肖像画もあった。まだ少年の面影を残した、柔らかい笑顔。成長してからはいくつか写真もあった。けれど、その笑顔の主は、もうこの屋敷には戻らない。ヨーロッパの空へ行ったまま、帰ってこなかった。アーチーは、その写真を見るたびに胸の奥が痛んだ。兄さんなら、何と言っただろう。アニーとの婚約を、父と母が認めようとしない。理由は分かっている。ブライトン家の借金問題だ