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高麗では、二人が居なくなって、二年半経っていた。その間、特興君とソン・ユは、飛虫の毒と敗血症で、もがき苦しみ死んで行った。しかし、国境付近の小競り合いはまだ続いていたが、禁軍やウダルチが護った。王は、まだ諦めてはいない。天門付近には、交代で見張りを置いていた。テマンは三日前から其処に居た。野生の感だろうか?何か来る!と思った瞬間、天門が青白く渦を巻いていた。中から馬に乗った大きな男が出て来た!て、テジャン?い、医仙様?テマナか?わぁ~~ん!テジャン!ぐしゃぐ
「王様。小臣本日はお願いしたき儀が御座いまして、お目通り願いました」いつになく形式張った申し出に、王様は少し目を見開いた後、広げていた上奏文を脇に置いた。「何だ、随分と畏まった物言いだな大護軍チェ・ヨン。構わぬ、申してみよ」「医仙の居所を典医寺にお戻し頂きたいのです」今朝のこと、俺はイムジャと共に朝食を取りながら、今後についての話を持ち掛けた。「相談と言うのは他でも無い、貴女の先行きについてです。何かご希望がおありですか」「私の、先行き…?」「王宮内での生活の事です。これを機に、所
もはや私は、どうやって自分の部屋まで帰り着いたかも覚えていないような酷い有様だった。護衛に付いてくれた武女子の人達に、ちゃんとお礼が言えたかどうかすら怪しい。着替える事もしないまま寝台の上に倒れ込めば、先程のお屋敷でのキム・ウォンス様との会話が、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。『そうですか。四年振りに高麗にお戻りになられたとか。王様も治世安泰だと御喜びでしょう』私がその言葉に驚いた顔を見せれば、キム・ウォンス様は表情を曇らせた。『医仙が記憶を失われたという事を失念して、余計な事を言ってしま
ウンスは医師として旦那様と奥様と若君のいる屋敷に通うことにした。見るたびに大きくなっている。しかし奥様は体をおこせる日は少ない。体調のいい日にはヨンの世話をしていた。「だっこしてあげてください」わたくしはもうできそうにありません。先生にあとでお話があります。かわいいかわいい小さなヨン。「きゃいきゃい」ころころとウンスの腕の中で動き回る。いつまでもここにはいられないが心配がつきない。ウンスは一度外の空気をヨンに吸わせてあげようと席を立った。「ねぇ‥ヨン・・」「きゃい」よく覚えて
チェ・ヨンは近くの村の客棧へとウンスを連れて行った。ヨンは店に入るなり店主に一言二言告げると、勝手知ったるというようにウンスの手を引き、店の奥へと誘った。聞けばこの宿はスリバンが営んでいる宿屋のようだ。母屋から中庭に出てると、回廊があり、その先は別の建物へ繋がっている。中庭には色とりどりの花が咲き誇っており、その中には黄色い小菊の群もあった。ウンスはふと足を止めて、しばしその光景に見入った。そんなウンスの気配を感じてヨンも足を止め、ウンスの視線の先を見る。「綺麗ね」「気に
チェ・ヨンの部屋を出てすぐ真向かいにも部屋があり、その扉の前で突如手を引かれ、私は立ち止まった。(ここは、最初に居た客間のひとつ奥の部屋になるのよね…)横に立つチェ・ヨンを見上げると、形良く浮き出た喉仏が上下に動いた。まるで緊張しているかのように。「どうしたの?」「先に言っておきます」低く硬い声で口を開きながら、何故かこの人は私の方を見ようとしない。「ここは生前母が使っていた部屋ですが、中にあった物は全て、蔵に仕舞われています」「じゃあこの部屋も、何も無い殺風景な…」「いいえ」
「王室から賜った珍しい樹木だそうです。何でも、この地には根付き難いのだとか」すると突然、イムジャが駆け寄って来るなり、俺の袖口を握り込んだ。「何です」「うん…」「何か気になる事がありましたか」イムジャは俯いたまま、何か言いにくそうに逡巡している。屋敷に着いてから、この方が何度か物寂しげな表情を浮かべていたのが気になっていた。そして、今もまた同じ様子を見せている。何も伝えず見知らぬ場所へ連れて来た所為で、心細さを感じさせてしまったのかもしれぬ。いずれにせよ、状況の説明が必要に違い
オレ、何でこんな事になってるんだろう……昨日から散々だ。心積りも何も無く、急に王様をお守りする事になり、緊張でどうにかなりそうだった。何とかお帰りを見送ったものの、どっと疲れが押し寄せてきて……家に戻って倒れ込むように寝ていたら、今度は寝過ごして……こんな事に。村で馬を預けて、メヒヌナ達の墓までは徒歩だ。山道をしばらく行かなければならない。ヨンヒョンはともかく、医仙様はお疲れのご様子——「大丈夫ですか?もう少し山道が続きますが」「平気よ。優しいのね、ドンジュくん」「そんな……
「幾つ茹でりゃあいいんだい?」「えーと…3ダース、じゃなかった36個ほどお願いします。あと、生のままでとりあえず10個くらいかしら…ああ、足りなかったら後で追加お願いしちゃうかも!」「よんじゅうろっこぉお?…そ、そりゃあまた随分と豪勢だね」卵は滋養強壮に最適な食材である。しかも貴重だ。ごく一部の、例えばこれから長旅に出るとか、目も当てられない二日酔いの客に出す、卵おかゆなどの特別食を含めても、マンボの店で一日に消費するのはおおよそ20個程度だろう。まあ天女の言うことだ
屋敷は、塀に囲まれ、なかなか立派だった。いいか?俺が先陣をきる!話を合わせろ!イエー、テジャン!ウンスは、テマナの側に居てくれ!うん!わかった!師匠とミル殿は、打ち合わせ通りに!ああ、わかった。表の正門へと行き、ドンドンと門扉を叩いた。ん?こんなに早くに誰だろう?大旦那様!チェ家の当主様だと言うチェ・ヨン様がお見えになりました。おお!婿殿の様子を気にしてお見えになったのか?チェ・ヨン様と言ったら、この国で、知らない者がいない程有名なお方だ!お通ししなさい!そ
「それで様子がおかしかったのね。リュ・シフ侍医の件は、本当にごめんなさい。私が軽はずみな行動を取ったせいだわ」落とした声音で詫びながら、イムジャは俺の腕の中に、神妙な様子で収まっている。まるでその時の俺を宥めようとでもするかのように、背に回した薄い手の平をゆったりと上下させながら。ふとしたはずみで顔を覗かせる、獰猛で御し難い心火は、この方への思いが募るほどに勢いを増し、手が付けられなくなっていく。結果俺はそれを恐れるあまり、イムジャと距離を置かずにはいられなかった。(四年前、あれだけイ
ヨンがウンスの為に漁を休んでも、みんなは、魚を届けてくれたり、貝を届けてくれたり、食べる事には本当に不自由しない村であった。ウンスはお腹の張りも頻繁でイタタ…と言ってはお腹を撫でて、いい子達ねと優しい笑顔を見せる。夜もトイレが近くなると、ヨンが寝ているのを起こすのはかわいそうだと一人で起きて行こうとすると、危ないではないか?転んだら大変だぞ?ちゃんと起こすんだぞ?と抱き上げて厠へ連れて行く。ヨンとウンスは一緒に暮らし出してからウンスが発する天界の言葉を理解しよう
寒い季節も去り、四月になると、ウンスのお腹はみるみる大きくなり、産み月くらいはあるのではないか?と子供達が育っていた。サヤのお腹も目立ってきた。地下室も出来上がり、其処は思った以上の生活空間になっていた。ウンスはやはり食欲が落ち血虚もあった。しかし、漁村だ!先輩オンマ達が、アサリや他の貝で汁物を作ったり、煮出したもの、赤魚を焼いて持って来てくれた。これは、血虚によく効くからちゃんと、食べて飲むんだよ。と置いていく。有り難い話だ。ウンスは子供達の為にちゃんと食べた
こんにちは!昨日の大阪の地震大阪にお住まい方は大丈夫でしたでしょうか?私も地震がなければ今日は大阪出張だったのですが無くなりました。(ちなみに日曜日に群馬で地震が起きた時は群馬にいました←)余震も続くかと思いますので十分お気をつけください。で、そんな折ではございますが、24話の記事も纏まりましたので今夜あたりから更新したいと思いますですが、その前に。ドラマとシナリオの違いを簡単にざっくりと纏めてみましたのでご紹介します。↓↓↓・トルベが死ぬシーン
からりと扉が開く音がしてようやく現れたチェ・ヨンが、俺を一瞥して呆れたような顔をした。「何だ。人を酒に誘っておいて、もう出来上がったような顔をしているな」ようやく訪れた待ち人に、俺は傾けていた盃を目の高さまで持ち上げて仕草と表情で応えた。差し向かいに座ったチェ・ヨンは駆け付け三杯とでも言うように、すいすいと水の如く酒を呷って行く。「お前と酒を飲むのは紅巾軍討伐の時以来か…月日が流れるのは早いもんだな」俺がそう切り出せば、チェ・ヨンは僅かに片頬を上げた笑みを浮かべ「歳月不待、老けたかアン
屋敷に着いた、トクマンの第一声が…テジャン!魔術を使えるように?なにゆえ、直ぐに行ったり来たり?ああ、お前達はあの国境付近の大樹の側で見ておっただろう?俺が天門?天穴?を潜り、戻ってきたのを。はい!誠に不思議でした。しかし、あの天門は、思った以上に危険なものらしい。危険とは?彼処に戻って来れたのが、偶然だったかも知れぬ。ウンス?うん。あの光りの渦は、太陽が関係しているみたいだと計算したら、今度開くのは三ヶ月もかからないわ。でも、その次に開くのは、六十七年後な
「い、一緒に…一緒に入らない?」緊張のせいで掠れて聞き取れないほど小さく、あまりに情けない声で言った言葉に、チェ・ヨンは意味が分からないとでも言うように聞き返した。「…は?」「えっと、だから。一緒に入らない?って…」「そうではなく」信じられないものを見るような目付きを向けられて、恥ずかしさで居た堪れなくなる。けれどこの人を離したくないと思った気持ちに嘘は無く、一度口に出したからには引き下がりたくなかった。「まだ傍にいたい。だめ?」「良識の範囲内で。俺はそう言いました」手を掴まれ
「今は見る影もないけれど、私だって医者でいる時の自分だけは認めていたのよ」自分の情けない現状を口にした途端、それはとんでもない重さで私の心に伸し掛かってきた。西洋医学が専門の私は、機器も薬剤も必要な物が何も無いこの高麗時代で、医師として出来る事が全くと言って良いほど無いに等しい。それは即ち、戦う事も出来ない、生活能力もない…もっと言えば、字も読めなければ、身寄りすらも無い、唯の役立たずという事だ。過去の行いのお陰でもたらされる人々の善意に甘えて暮らす日々は、私をそんな自虐的な気持ちにさせ
中秋の名月…ブレた〜😓クゥ~クゥ~と眠りながら、寝返りを打って、チェ・ヨンの胸に顔を埋める。柔らかすぎるウンス殿。どうしたものか…下を見れば胸がはみ出そうだ…この方は、俺を男ではなく犬だと思っておるのか?しかし…こんなに下腹がうずくのは初めてだ。赤月隊でメヒとも雑魚寝したが、こんな気分にはならなかった…しかもウンス殿は寝相が悪い!短パンなるものを履いて、高麗では考えられない素足を惜しげもなく出し、布団の上にどんと乗せてくる。その度に直してやる。その白くスラリと
【少し直接的な表現があります】【原作の雰囲気を大切にされる方にはお勧めできません】「俺が怖いですか」チェ・ヨンが探るように私に尋ねる。この人は察しの良い人だから、きっともう気付いているのだろう。私が男性の欲望に対して、軽い恐怖と嫌悪感を抱いている事を。いつか話さなくてはならない日が来るだろうか。私が親元を離れ医者を目差す切っ掛けとなった、あのおぞましい記憶を。(この人ならば、自分の手に負えないと拒絶したりはしないと思うけれど…)「何も酷い事はしやしません」低くて耳障りの良
ウンスの欲しいものとは?「一つだけですよ」どんなものをご所望ですかと聞かれた。けちくさいわねと舌打ちをされる。「けち?とは聞き捨てなりません」「いいえ・・なんでもないわ」それでどうやってきりぬけるつもりなのよ。そこは。皆に口裏を合わせて。「ちっち・・それではすぐに嘘とばれる」指先をかみかみしながらウンスがいう。皆が納得するようにみせるの。まずはウダルチからだわ。「なにをされるのですか?」ウンスはさっそくヨンの腕をつかむ。さっとかわされる。「こら・・婚約者の腕を振りほどく
ヨンからの熱烈な口づけにうっとり溶ろけて身を預けるウンスをがっちり抱きしめそのまま寝台に引き込もうとしたヨンだがそんな思惑に気付かぬウンスは口づけの合間にヨンに訊いた「ねえヨンア夕餉は食べたの?」「いいえまだですが…夕餉よりイムジャが欲しい」「もうバカねマンボ姐さんがたくさん届けてくれてるのよ」ウンスの気が夕餉に向いてしまい内心ヨンは舌打ちしながら尋ねた「イムジャは腹が減っておるのですか?」「私はもう
「………は?今何と言いました?妻??」——聞き間違いか?俺とイムジャは椅子に腰掛け、再び向かい合っていた。思い詰めた表情で、この方が何を言い出すのかと思えば——「そうよ、妻よ。私以外の。……居るんじゃないの?」イムジャは訝しむ目で俺をじっ、と見つめ、への字に曲げた唇を固く結んでいる。……この方のお考えは、出会った頃から読めない事ばかりで。今だとて、俺の返答を待ってモゾモゾしている様子。どういう意図で、そのような事をお尋ねなのか……いや、そもそも、問われた意味がわからない。イ
夜も更けて、俺達は寝台を共にしていた。隣り合わせで触れる身体の熱に、我慢の効かなかった昨夜とは違い、手を結び合っているだけで互いの心は満たされ、また、凪いでいた。——ねぇ、ヨンァ。イムジャが俺の方へ顔を向けるのへ、俺も引き合うように目を合わせる。「以前、叔母様にね……ほら、貴方がキ・チョルと差し違えようとしてた時よ。貴方を止めてくれと、私を探しにいらした事があったの」「ああ……はい、コモから後でいろいろ言われました」「そうなの?」「はい」あのしかめっ面で、ぶっきらぼうな……思い
「医仙様、もう少しで着きますから!」先を歩くリュ・ソアさんの良く通る声に頷きを返し、私は真冬の冷たい風を遮るように、厚物の外衣の襟元をぎゅっと掻き合わせた。開京の町を歩くのは、まだ少しだけ恐ろしい。それでも前にソアさん、両脇と後ろを武女子に固められ、私はようやく目的の地まで辿り着こうとしている。ソアさんからあの人への恋心を仄めかされ、今まで敢えて目を背けていた私の今後について、独り思いを馳せて一晩を明かした。もし今目の前に天門が開かれたとしたら、私はどんな選択をするのだろう…そんな想像
おーい!ウンス!今日も大漁だぞー!真っ黒に日焼けした逞しい夫が漁から帰ってくる!おかえりなさーい!ヨン!ここの生活は、みんなで協力しあって、公平に保たれてる。それぞれが釣った魚を集め、家で食べる分を分けると、あとは市場に売りに出し、そのお金はみんなで分けるという、ウンスに言わせると理想的な社会だ!ヨンも船を買った。漁は週に一回は大きな船でみんなが一緒に漁に出る。漁に出ている間、ウンスは薬草の知識を身につけていった。一人で山に入るのは危険だと、必ずヨンがついてきて
イムジャが歩く道すがら、すれ違う老若男女が皆惚けたように振り返って行く。俺自身も油断すれば、未だに目の前の艶やかな姿に見入ってしまいそうになるのだから、さもありなんと言った具合なのだが。しかしこの方は、そんな事など全く眼中に無い様子で、物珍しそうに店先を見回している。恐らく生まれ育った場所でも、こうやって人々の視線を集め続けたであろう結果の無関心かと察すれば、心中穏やかではいられなかった。(自分の女の過去にまで嫉妬し出すなど、戯け具合にも程があるな…)「あっ!ねえねえ、あれ可愛い!」
夕餉での一杯をヨンから許してもらったウンス「じゃあさっさと事情聴取しちゃいましょ」マンソクの元へ向かおうとしヨンとテマンサンユンが慌てて追いかけた「遊びではないのです貴女は食事をして早く休んでください明日からは一日中馬での移動です」「嫌よ私も知りたいの彼がどうして貴方を裏切ったのかすごく苦しそうだったきっと何か理由があるのよさっ話を聞きに行きましょ」女子の身で大護軍に口答えするとは…サンユンが
屋敷に戻って来た二人。行って良かったわ。本当に沢山の枝があるのね。アッパとオンマにも会えた!ああ、俺も。まさか父上と母上に会えるとは、思わなかったぞ。何だかね…物凄く心強くなった感じなの。貴重な事も聞けたし。あの天門の事か?うん。何年も離れ離れなんて、今では、考えられないもの。そうだな。三ヶ月後位と言ったよな?うん。その頃には、子供も産まれているだろうか?天門が開く日は、何処にも行かないでおこう!うん。でも、もしもの時は、門を開けばいいでしょ?そうだよな。俺
「火の始末をするから先に戻らせたんだが、医仙はまだ帰って来てないのかい?」いくら待てども戻って来ないあの方の所在を、独りで帰って来たマンボ姐に尋ねると、声をひっくり返らせ驚いた様子を見せた。倉庫から店の入り口までは、ほんの三十歩有るか無いかの距離だ。その間に行方が分からなくなるなど、いくらこの地に疎いあの方でも普通ならばありえない。ここに来る直前、イムジャは自らの軽率な行動を俺に詫びていらっしゃった。故に俺に黙ってこの店を離れる事は無い筈だ。「おい、ヨンア!裏の通りにこれが…」店に