ブログ記事3,304件
「——お寺へ懐妊祈願に?」回診終わりのいつもの女子会。今日は坤成殿(コンソンデン)の東屋で、王妃様と恵妃様との3人会になっている。王妃様が、柔らかな笑みを湛えながら、「はい。このところ体調が良いので、行ってみたいのです。もちろん、遠くまでは行きませぬ。ほど近く良い寺がありますので……行ってもよろしいですか?医仙」ずっと体質改善に取り組んでこられた王妃様。私が高麗へ戻って来てから一度は懐妊されたけど、残念ながら流れてしまって……そのあとだったわ。王様に側室を、と、いじらしいほど頑なに
康安殿(カンアンデン)——取り次ぎの内官が、王様へ俺の来訪を告げた。少し待たされたが、無事に中へ通される。康安殿の中庭。その中程へ据えられた大岩に、主君がこちらへ背中を向けて静かに座っていた。肩は力なく落ち、背中は緩んで丸みを帯び……俺の目に映るその姿に覇気は無く、常より一回りも二回りも小さく見えた。王様をお慰めする……果たして、俺にそんな気遣いが出来るとは思えないが——王様が気落ちされている理由はもちろん、どんなご気性なのかも、分かっているつもりだ。だから何を言っても…どんな言
無事に南国の衣装も選べた。ウンスはご機嫌でヨンに腕をからませて歩く。一度ホテルに戻ると日焼け止めクリームを塗り水着に着替えてその上にパーカーを身に着けて出発。「船にのって・・クジラを見にいこう」「わかっているとおもうけど」あくまでも運が良ければみられるし運がなければみられない。「わかっているわ」それが自然というものでしょう。いいのよ。クジラが見られないとしてもあなたと船の旅ができるれば。風を感じて海を感じて目閉じる。「ヨンァと旅ができることが嬉しいの」「そうか」ヨンはさ
王様と薬師堂へ入った私は、ひとつしかない燭台の蝋燭へ火を灯した。薬師如来像の有り難いお姿が、ぼぅ…と、ゆら闇に浮かび上がる。主の祈りの邪魔にならぬよう、後ろへ下がって控えようとすると、「——ドチャ。よく聞け」王様は祈りを捧げるでもなく、私を振り返り、低く抑えたお声でお話になる。不思議に思った私はお側に寄り、「何でしょうか?王様」「余はここが正念場だと思う」「は?何のでございますか?」蝋燭の灯が龍顔を揺ら揺らと照らし、恐ろしい程に澄んだ両の眼が、ちらりと光ったように見え……私は
ヒジェさんとソニがめでたくカップルになった翌日。噂が広がるのは早い。ましてや、手裏房の手の中の事だもの。私とヨンが王宮へ出仕している間も、家にはいろんな人が、冷やかしとお祝いにやってきて、大層賑やかだったらしい。王宮では、早々に連絡を受けた様子のドンジュが、門を入った所で待ち構えていて——ドンジュは頬を紅潮させて、私とヨンに駆け寄り、事実確認をすると、「オレっ、今から行って来ていいですか??早退していいですか??ありがとうございます、大護軍!!!」ヨンがいいと言う前に、門を出てその
医仙様が、5日に1度程、私——スンギョンの身体を気にかけてくださっている。今日も私の部屋へお寄りになり、私の手を取って“みゃくしん”というのを、してくださっている。あぁ……今日もお綺麗だわ。見惚れちゃう……「……恵妃(ヘビ)様は、いつも脈が早めですね。でも、他に不調も見当たらないので、元々の体質かもしれません。うん、大丈夫。とてもお健やかですよ」「…ありがとうございます、医仙様」「お食事はちゃんと召し上がってますか?夜はしっかり眠れてます?」「はい。美味しくいただいて、よく寝ておりま
昨夜、イムジャの胸のつかえを聞いた。解決出来ないにしても、何かしらイムジャの心を軽く出来るものなら……と思って聞いてみたが——あれは、おそらく王様と恵妃様の事だろうな。恵妃様を診察をした折に、何か聞いたのか、気づく事でもあったのか。イムジャの語りから察するに……恵妃様はまこと、王様をお慕いなのだな。かたや王様は、王妃様一筋……最近は恵妃様へのお通いが無いという事まで、聞こえてくる。(トッキの戯言と思っていたが、今までも夫婦の営みは無かったのやも…)恵妃様はそれら全てを容認され、それ
陽が西に傾き始めた午後。私、チョン•モンジュは王室の書庫で過ごしていた。——書庫が好きだ。古い紙と墨の醸し出す匂い。埃が日差しの中にゆっくり漂う様は、何とも美しいと思う。余り人が来ないのも良い。落ち着いて考え事が出来る、実に静かで良い場所——「……ああ、これはここじゃない……ん?こっちかな。あれ、いやいや…」静寂を乱す侵入者がひとり、書庫に入って来ては、独りごちながら書物を片付けている様子。見れば、康安殿(カンアンデン)の内官…その余りの無能振りに、呆れて声をかける。「それ
ヨンからの「今夜は帰れない」という伝言を持って、テマンがうち(チェ家)にやって来たのは、お昼を回った頃だった。お昼抜きのテマンにランチを用意すると、その食べているすぐ脇で、ミスとオンが戯れあって遊んでいて……それを微笑ましく見守りながら、私はテマンに遠慮なく聞いた。「何かあったの?急に夜勤なんて。ね、その地獄耳で何か聞いてない?」テマンはゲボッ、とご飯を詰まらせて、水をゴクゴク飲み干すと、私をひと睨み…「人聞きの悪い言いかた、しないでくださいよ。えっと……興王寺(フンワンサ)って、言っ
『1361年再び紅巾が10万の大軍で高麗へ侵入。開京を占領される』『恭愍王、福州へ避難』ノートの続きにはそう書いてある。私の記憶も霞んでないわ。だけど……私は意を決して、口を開いた。「来年…また紅巾が攻めてくるわ。開京が占領される」「開京が??」「うん。兵は10万」「10万?!………」ヨンは言葉なく考え込んで……やがて、静かに首を振った。「いやそれは……いくら何でも難しいと思います」「え?」「此度、4万の軍勢を壊滅的に叩き潰しました。故に、あの状態で来年また10万とは……
朝議を終えられ康安殿(カンアンデン)に戻られた王様に、茶をお出しして、ひと息ついていただいたところ。女官や他の内官達を下がらせて、私、アン・ドチと、迂達赤(ウダルチ)副隊長のみを留め置かれ、王様がおっしゃった事は——「王妃の具合が快くなりまこと有り難い。興王寺(フンワンサ)での祈祷と、民達の祈りが天に届いたに違いない。その礼に尽くす為、そして、無事に出産を終えられるよう願う為にも、余は興王寺へ参ろうと思うのだ」遅かれ早かれそう言われるのでは、と思っていた。良い頃合いかもしれない。王様も
——駄目よ。このまま落ち込んでても、何も変わらないわ……小一時間ほど悶々と悩んだ挙句、当たり前の答えに辿り着いた私は、掻きむしってボサボサの頭のまま、机の前に座った。今、私に出来る事は——紙を広げ筆を取り、がむしゃらに書いていく。下手くそでもいい。忘れないうちに。覚えてる事を全部。年号も時系列もだいぶあやしい……それでも、とにかく書いて書いて——私はもう一度、秘密の天の書ノートを作った。いつのまにか、辺りはすっかり陽が落ちていた。はた、と気づく。あれ、オンは?ミスは?タム
——お前は俺を裏切るか?俺の問いに、目の前の若者は、ほろ酔いの様子から一転、若干震えながら口を開いた。「裏切るも何も……今宵、初めてお会いしたばかり。そのような事、考えてもおりません、大護軍……」いかさまな……自分でも、唐突な問いだとは思っている。が——「お前の言う通りだ。だが、俺の噂は聞いているだろう?どのような人間か、想定して来たはずだ。俺とて同じ。お前が左政丞らに真っ向から刃向かった事。ソンゲの知人だとも聞いて、会ってみたいと思った」「お待ちください。イ将軍とは、先日会ったば