花びらの影と二匹の蟹夏の終わりの潮が引いた砂浜に、桜の花びらが一枚、風に舞って落ちた。季節外れの花びらだった。誰かが遠くの山から持ち込んだのか、それとも海の向こうから漂着したのか、誰も知らない。ただ、その薄桃色の影が、湿った砂の上に細長く伸びていた。その影の下を、二匹の蟹が横ばいに歩いていた。一匹は大きい。甲羅に古い傷があり、片方の鋏が欠けている。もう一匹は小さい。まだ若く、甲羅はつやつやと光り、動きが速い。大きい蟹はいつも少し遅れて、小さい蟹の後を追うように歩いていた。小さい蟹が立ち止まった。