私は、ある日の散歩中にふと一茶の句を思い出したことから彼の生涯を辿ってみる気になったのだが、その過程で最も深く心に残ったのは、15歳で信濃から徒手空拳で江戸に出てきた少年が、食うや食わずの悪戦苦闘の連続とはいえ、何とか俳諧一本で51歳になるまで江戸で渡世をして来られたという事実である。一茶は山東京伝や曲亭馬琴のようにベストセラーを連発したわけでもないし、清元や常磐津の師匠のように、授業料を払って芸を習いに来る弟子を大勢抱えていたわけでもない。ただ門人や俳友の家を巡り歩いて句会に同席したり、句の指