ブログ記事548件
第77回読売文学賞・小説賞受賞作品で、独特な世界観の物語。2014年『春の庭』で芥川賞。24年『続きと始まり』で谷崎潤一郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞された作家さん。【目次】帰れない探偵急な坂の街で知らない街のように急な坂の街で2雨に歌えば傘を差さない町で探す人たちは探しものを見つける夜にならない夏の街で空の上の宇宙太陽と砂の街で夢には入れない雨季の始まりの暑い街で歌い続けようあの街の空港で【あらすじ】主人公の「わたし」は「世界探偵委員会連盟」で探偵の仕事
結局、千鶴絵本人からの連絡はないまま、四日が過ぎた。D組の生徒から話を聞く限りでは病欠、ということだったが、相変わらず本人からはスタンプ一つ、それこそ既読すらつかない。「――そいつァ、ちょっと気がかりねぇ」「やっぱりそう思いますか、先輩」薫の指摘に、ゆかりは肩の力が抜けるような気がした。自分たちだけが空回りをしてはしないか、という感情に、普段鬱陶しいと思っていた上級生の言葉がいくらかの慰めになったのである。「いきなり消えた、っていうのがどうも匂うのよ。ま、もっともあたしらブン屋は、な
「でもひっどいなあ、近頃お誘いもなにもないと思ったら、紗英ってばこんないい友達作ってたんだねー。抜け駆けはずるいぞぉ」「ごめんなさい、同じクラスだとどうしても、一緒になることが多くって」「ま、それもそっか。しょうがないっ、許す!」中学時代からバレーボールをやっていたという千鶴絵は、物腰の柔らかい紗英とは真逆の、さっぱりとして快活な性格の持ち主だった。おそるおそるD組へ向かったことなどすっかり忘れて、ゆかりと摩子は新たな友人との昼食を楽しむこととなった。「それじゃ佐伯さん、バレー部の方は
休み明けの月曜日は天気予報が外れ、昼過ぎから激しい雨足が京都市内の屋根という屋根に襲いかかっていた。「こんなに降るなんて、もう入梅でしょうか」「そんな小粋なもんじゃないでしょお。これはもはやスコールですぜ、お紗英さま……」風雨ですっかり視界を失った窓ガラス越しに、摩子と紗英は灰色の景色をじっと眺めていた。少し前から遠雷も聞こえて、摩子の言うとおり、窓の外は雨期の熱帯のような様相を呈している。自分たちの他には誰もいない図書室は、薄暗い蛍光灯も合わさって一層の陰鬱さを漂わせていた。「こう
待ち合わせにちょうどいい、ほどよく涼しい喫茶店のボックス席で時間をつぶしていると、入り口の戸が静かに開き、見た二人連れがゆかり達の視界へ写った。鴨川浮音とその相棒、佐原有作である。「や、おまっとさん。のんびり遊んでるとこからすると、どうにか中間試験は受かったらしいな、竹井ちゃん」巾着袋を提げた、涼しげな夏物の羽織姿の浮音が摩子の顔を見てつぶやく。千夏たちを待たせた用事で使ったのか、年季の入った革のショルダーバックが右肩から垂れている。「ちぇー、みんなしてからかうんだからぁ。しーらない!
懸念していた中間試験も済み、摩子もどうにか及第点でパスをすると、三人はしばらくぶりに休日の河原町へと繰り出した。ひっきりなしに市バスが出入りし、タクシーの合間を自家用車が抜けてゆく。そして、どこともしれぬ外国の言葉が、喜怒哀楽だけを伝えて飛び交う。河原町は歩道の雑踏と警笛、大きなパチンコ店や量販店のネオンが氾濫する、京都の一大繁華街である。「こんだけやかましいのが今だけは嬉しいねえ。ずーっと勉強漬けだったからさあ」「よく言うわ、おかげで赤点取らずにすんだんだから、もうちょっと感謝してほしい
こんにちは!グランマ・おばばでございます。今日もお越しくださり、本当にありがとうございます最近、本を読む速度がおちておちて💦YouTube見たり、クロスステッチやったり、ごちゃごちゃやってるとあっという間に夜中になり、枕元に置いてあるクリスティを手に取ることなく寝入ってしまいます。かといって、朝までぐっすりかというと、そうでもなく・・・夜中に目が覚めて、どうにも眠れなくなったら読んだりはしてましたが・・・さて、今回の「複数の時計」比較的晩年の作品です。(1963
だが、ゆかり達の平穏な日常はいつまでも続かなかった。その日の放課後、七条通りの坂を下りきったところにある純喫茶「アマゾン」の二階席でお茶を楽しんでいた三人は、南向きの窓ガラスをこつこつと叩く音に気づき、外をにらんだ。「ええっ、嘘でしょ」「天気予報は晴れだったのぃ」それまで陽気な日差しの差していた窓外の景色は降って沸いた雨足ですっかり濡れ、眼下の舗道を傘を持たない学生やサラリーマンが右往左往している。南国のようなスコールが、家の壁という壁を激しく叩いていた。「今年はもしかすると、梅雨に
公園を離れ、最寄りの東山大仏前の交番に移った三人は、二人組の巡査――先輩の田尾巡査長と後輩の大江巡査の淹れてくれたお茶を飲みながら、両親たちの迎えがくるのを待った。バスの間隔もまばらになって、窓の外は一段と静かになっている。「――そっか、あなた達が例の襲撃未遂の被害者だったのね。いちおう、署の方から通知は来ていたけれど……」まさか、またこんなことになるなんて……と表情を曇らせる田尾巡査長に、ゆかりは恐縮して、お巡りさんが気にすることないですよ、とフォローを入れる。「いちおう気をつけてる
翌日、例によって授業どころでないという理由から学園長室へ呼ばれたゆかりと摩子、紗英の三人は、それぞれの証言を元にした女の似顔絵づくりに協力をすることとなった。その似顔絵を引き受けることになったのは、行方不明のタクシー運転手・加藤の似顔絵を描いた、浮音言うところの「画伯」、似顔絵師の呉野千夏だった。その日、浮音に伴われてやってきた千夏のファッション――背に竜虎の刺繍が入った真っ赤なジャージに、ともぎれのキャスケット。鮮紅色のメッシュが入ったウルフカットという人目を引く格好に、ゆかり達はす
「それじゃあ、共犯らしい人間が絞り込めたんですか」「ほんとほんと!いやー、これで心おきなく寄り道が出来ようというものよぉ――アタタッ」調子に乗ってはしゃぐ幼なじみの頬をひっぱると、ゆかりは軽く手を拭き、紗英へ昨日、鴨川浮音から聞いた子細の続きを話し始めた。恒例になった、ひと気の少ない屋上ベンチでの昼休みの一幕である。「さっき摩子が軽くふれたけど、鴨川さんが最初に始めたのは、タクシーの運転手さんがよく行く喫茶店や食堂回りだったってわけ」「ああ、それで竹井さん、お店をハシゴして、って言っ
毎週火曜日更新ということでスタートしました「彷徨える黒い魔女」、どうやら始まったばかりのブログにしては上々の閲覧数のようでほっと一息ついております。かつて近隣の街も含めて九年近く住んでいた関西が恋しいこの頃ですが、なかなか旅に出るにもゼニと暇のほうがないというのが貧乏人の哀しいところであります。ともあれ、快調な漕ぎだしの名探偵・鴨川浮音の活躍に、どうかご期待のほどを……<(__)>
体育館と武道場の間にある、ゴミの回収業者などが出入りする裏門まで来ると、薫が手配したらしい、「個人」と書かれた行灯つきのタクシーが控えていた。乗るか、それともそのまま無視して帰るか――ゆかりたちが考えあぐねていると、背後から軽やかな駆け足が近づいてきた。「あら嬉しい、逃げずに待っててくれたの」「は、はあ……」「素直な子はおねーさん大好きよ。さ、早いとこ乗ってちょうだい、お三方……」蛇のような笑顔に気圧され、半ば押し込まれるように後部座席へ乗ると、薫が助手席に乗ったのを合図に、タクシー
さて、この件がきっかけとなり、ゆかりと摩子、そして紗英の間には不思議な友情が芽を吹くこととなった。授業のグループワークは可能な限り三人一組。昼休みには一緒に弁当を囲めば、放課後には一緒になって紗英の図書当番を手伝ってから甘いものを食べに出たりと、絵に描いたような青春の光景がそこかしこに繰り広げられていた。「――やっと終わったぁ。頼まれてた催促と回収、無事完了したよぉ」その日の放課後、返却期限を過ぎた本の借り主から受け取りや戒告をしに出ていた摩子が戻ると、紗英はお茶にしましょうか、と机に向
ささやかなお茶の会が済むと、ゆかりと摩子は人目をはばかり、学園長と共に浮音たちを見送りに来訪者用の玄関へと出た。「では先生、一週間以内にはなにかしらの報告を差し上げます。お伺いするそのときにはまた、こちらからご連絡いたします」と、そこで大人しく、手配されたタクシーへ乗り込むと思われた浮音は、「そういやおととい、道路の真ん中でペッシャンコになった二匹のガマガエルがおったっけ。人間、あないな風にはなりたないもんやねえ……夜道は気ィつけや、ご両人」「――まあっ」そのまま大人しく帰ると思
小言と外出禁止で過ぎた休日が終わると、二人は同級生たちからスコールのような質問を浴びせられることとなった。七女通信を含む市内の主だった学校新聞が今度の件を一面トップ扱いにしたせいで、事件はすっかり世間の耳目を集めるところとなっていたのである。ことに七女通信などはどこから掴んだのか「該当生徒、目下外出禁止の憂き目に」などと、痛いところを見出しに載せている。「ねえねえ!どんな奴だったの『七条大橋の魔女』って!」「仕込み杖持って、人間離れした足取りでやってきたんだって!?どうだったの!」
大きな怪我もなく、どうにか迎えた土曜日の朝早く、ゆかりと摩子は学校へ呼び出され、休日出勤してきた生活指導の教師と担任からこってりと油を搾られた。小休止ののち、日当たりのいい空き教室を使って警察側の取り調べを受けることになった二人は、最前までのお説教が効いてすっかり放心状態であった。「起き抜けのお小言はどうしてまあ、こう身に染みるんでしょうねゆかりさんや」事情聴取を担当する刑事を呼びに担任が教室を出たのを幸いに、摩子は不貞腐れた表情をゆかりに向ける。「うっさいわね、そもそもあんたが三宅先
アガサ・クリスティー原作『ミス・マープル』字幕版。主演はジョーン・ヒクソン。マープルはドリー・バントリーとともに殺人事件の調査を始める。初回放送日:BS8K3月23日(月)午前5:00ジョーン・ヒクソンのアガサ・クリスティーミス・マープルジョーン・ヒクソン主演の『ミス・マープル』字幕版[全26回]鋭い人間観察でおなじみのアガサ・クリスティーの名探偵ミス・マープル。イギリスBBC制作のドラマシリーズを字幕版で放送。原題:AgathaChristie'
I’veseenthingsyoupeoplewouldn’tbelieve.AttackshipsonfireofftheshoulderofOrion.IwatchedC-beamsglitterinthedarkneartheTannhäuserGate.Allthosemomentswillbelostintime,liketearsinrain.Timetodie.雨のように、涙のように、、雨はとき
このような具合で奇妙な試験に挑むことになった摩子とゆかりだったが、そもそも「七条大橋の魔女」とはなんなのか。その辺りを少し解説する必要がある。ある研究によれば、「みんなも言ってたよ」と誰かが言う時の内訳は実は四、五人くらいだという。ところが例外的に、その内訳が千人規模に広がった「みんなも知って、口々に言って」いる奇妙な存在の目撃談が、半年くらい前から京都市内の女子高校生に広まりつつあった。ある公立高の女子生徒曰く――。「あれはびっくりしたなぁ。だって、遅くにコンビニに寄って帰ろうとし
ところが、用意万全とばかりに迎えた金曜日の夜は、思いがけない通り雨によってすっかりご破算となってしまった。軽いお湿りを通り越し、水浸しになった屋根瓦が合間合間の雷で白く輝く、そんな夜となったわけである。「なーにが『春雨じゃ、濡れて参ろう』だあっ、こちとらずぶ濡れで風邪引いちゃうよっ」「ちょっとやめて、不潔よ……」広い湯船の隅で、顔の半分のみを出してぶくぶくと水面を揺らす摩子に、ゆかりはタオルで巻いた髪が崩れないよう気を使いながら、幼馴染へ釘を刺す。急な雷雨から逃れ、銭湯に駆け込んだ二人
京都の街の東側、ちょうど三十三間堂と豊国廟の中間あたりに地元の人間から「女坂」と呼ばれる、幅広ながらも勾配のきつい坂道がある。ことの起こりはその名の由来となった坂の上の私立校・七条女子学園の教室に端を発する。「――まさか摩子、今日も行く気?三日続けてダメなら、四日目もダメに決まってるでしょうが」食べ終わった弁当箱を巾着袋へしまいながら、鷲尾ゆかりは向かいに座った幼馴染、竹井摩子を呆れた目で見つめる。心地よい晴れ間が三日ほど続き、開け放たれた窓からは心地の良い青葉の香りが漂って来る。絵に
そんな相手とほんの二、三メートルほどしか間を開けていない状況にもかかわらず、震える幼馴染をよそに、ゆかりは不思議なほど冷静に相手のことを観察していた。恐怖の裏返しはなんとか、というやつである。――こんな絵面の死神、占いのカードで見たことがあったっけ。摩子を背後にかばうよう、そっと右手を伸ばすゆかり。そんな彼女を前に、真っ黒いローブで顔から足からすべてを隠した相手は、ゆらり、と身を揺らす。すると、大昔の二重廻しのように分かれた手元と胴の生地の合間から大鎌――ではなく、杖ほどの大きさの代物
看板から逃れて音羽通へ入った二人は、鴨川べりの暖色の街灯と違い、昔ながらに青白い蛍光灯の行列が続く住宅街、鞘町通を歩き出した。広々とした歩道と変わって、細い道の両脇を、迷路の壁のように家々が軒を連ねている。その外壁にこだまする足音を楽しみながら、二人は夜の空気をかみしめるような具合でそっと夜空を見上げた。最前よりは見える数が減ったが、雲の合間合間には星の瞬きがのぞいている。「案外見えるものね、こんな街中でも」寒さも和らぎ、穏やかな笑みをたたえるゆかりに、摩子もほんとだねぇ、と返す。
摩子の後ろについて、ゆかりが新聞部の部室を訪ねたのはその日の放課後のことだった特別教室棟の四階、文化部の部室が並んだ一角まで来ると、摩子は頭上にぶらさがった「七女通信本社・編集部」という名札をにらんでから、軽いノックとともに中へ乗り込んだ。だが、引き戸が開いた途端、摩子とゆかりは体全体に襲い掛かってきた喧騒にたじろぎ、その場で軽いめまいを覚えた。他の学校新聞も同居する記者クラブや遊軍記者からの直通、外線を問わない電話のけたたましいベルの数々に、それに対する応酬――。「アホッ、写真なか
「あったり前でしょっ。これがやらずにおれるかっての!」それだけ叫ぶと、摩子は踵を返して七条通りのほうへ歩き出した。本来二人が乗るはずだった京都市バス、清水寺から北大路の方を走る二〇六系統を見送った直後の出来事である。「いい加減にしなさいよっ、何かあったら怒られるの、摩子だけじゃないんだから……!」指定の鞄を壊れた振り子のようにぶらぶらさせながら、ややガニ股で歩道を闊歩する幼馴染にゆかりはすっかり困り果ててしまった。知った手前、このまま放っておけば摩子は何をしでかすかわからない――。そう
お初の方もそうでない方もこんばんは、こんにちは、おはようございます。新潟県産自称・探偵小説家のウチダ勝晃と申します。かれこれ十数年、ちまちまと同人誌などに作品を掲載してきたモンです。このブログは名前の通り、推理小説を掲載する「常設館」です。が、たぶん更新間隔はマチマチになるんじゃないかな……と思います。ひとまず当座は、古巣の「小説家になろう」のほうとは別に、リメイクや新作なんかをのっけて行こうかと考えています。とりあえず、よろしくお願いいたします……。
12編の短編からなる連作ミステリィミステリィに限らず連作って好きなんだなぁ、最後にどうつながるのかほっこりな青春ミステリィあり、ちょっと不思議なストーリィあり、アキラばりのニヒルなストーリィありぼくのミステリな日常/若竹七海眼で人を黙らせることのできる男はいるが、電話のベルを黙らせることのできる奴はいない。(^艸^)さすがの若竹節だ✨『まぐさ桶の犬/若竹七海』虚無への供物/中井英夫を読み始めたところで、え?タフで不運な女探偵が帰ってきたー✨いやー、待ちに待っ
アガサ・クリスティー原作『ミス・マープル』字幕版。主演はジョーン・ヒクソン。ある屋敷で家主も知らない若い女性の死体が発見される。初回放送日:BS8K3月23日(月)午前5:00ジョーン・ヒクソンのアガサ・クリスティーミス・マープルジョーン・ヒクソン主演の『ミス・マープル』字幕版[全26回]鋭い人間観察でおなじみのアガサ・クリスティーの名探偵ミス・マープル。イギリスBBC制作のドラマシリーズを字幕版で放送。原題:AgathaChristie'sMi
「アシモフの描くラリという奇術師の演技はクロースアップ・マジックはかく演ずべしという演出のお手本です。文句のつけようがありません」ー松田道弘「とりっくものがたり」(筑摩書房)より松田道弘氏の奇術とミステリに関する随筆「とりっくものがたり」に、アイザック・アシモフの連作短篇ミステリ集「黒後家蜘蛛の会」の一編「ロレーヌの十字架」のことが載っていて、そこにラリという奇術師が演じるトリックのことが記されていたのを10代の頃に読んだ。そして「ロレーヌの十字架」が収録されている「黒後家蜘蛛