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++++「ダメだ」「どうして?」「ルイを裏切ることはできない」「あなたとルイは兄弟よ。構わないわ」「ヒョリン…君の狙いはそれだったのか…?」++++「シン、見て」色とりどりの花を腕一杯に抱えて、幸せそうな笑みを浮かべたチェギョンが部屋へ入ってきた。シンは頭を軽く振り物思いを追いやると、妻の姿を目をすがめて見つめた。「…さながら、春の花の精か、あるいは花のプリンセスというところか」小さく呟くと、妻の腕から零れ落ちそうになっている花に手を伸ばそうと、彼女に近づいた。「さっき、
『昼寝』をしようと、確かに彼女はそう言った。しかし、その言葉の通りになるとは思ってもみなかった。シンは二人の大きなベッドでぐっすりと眠り込んでいるチェギョンの愛らしい顔を上から見下ろした。二人でベッドに潜り込み、妻の耳元でいつものように甘く囁きながら、1枚ずつその衣を脱がせる楽しみを味わっていたら、チェギョンの息が上がるどころか、深く胸が上下してることに気づいた。「まさか…?」妻の顔を見ると、小さく口をあけてスヤスヤと眠っているではないか。今日の仕事は彼女にとって、とても緊張を強いられ
最近のシン王太子は、機嫌がいいと誰もが気づいていた。機嫌が良いと言う控えめな表現よりはむしろ、舞い上がっているといった少々大袈裟な表現でも構わないぐらいだろう。実際、シンは浮かれていた。そう、どうしようもなく。自分でもやや調子に乗りすぎだと分かっているものの、ついつい鼻歌が出てしまうのは止められなかった。側近である侍従長ハモンドはそんな自分を嬉しそうに見ているのだから、敢えてしかめ面を作ることもないだろうと、シンは自分に都合のよいように結論付けた。その理由?決まっている。妻であるチェ
―――シンは私のことをどう思っているの?最近のチェギョンはそのことばかり考えている。自分たち二人が世に認められた夫婦であるという事実からすれば、なんとも間の抜けた物思いだけれど。―――妻が夫のことを想って、何がいけないと言うの?そう自分自身を正当化してみる。そうしたところで結局は元の場所に戻ってしまうのだ。つまりは、『夫に好意をもってもらいたい』。いや違う。単なる『好意』ではなく、『愛されたい』。夫がチェギョンを見つめる目はいつも優しく、まるで“本当に心から愛している”よ
シンは走った。良く磨かれ、ツルツルと滑る回廊も長い脚で一気に駆け抜ける。後ろからついてくる侍従長のハモンドに走りながら振り返り、「ハモンド!歩いて付いて来い。お前が怪我したら、宮殿中が困るんだ」一言叫ぶと、前を向いて一直線に走って行った。10分前にチェギョンが階段でつまずき、足首をひねったと報告が入った。幸い骨折ではなく、しばらく足が腫れるだろうがそれが治まれば大丈夫だと医師の判断も添えられていたが、シンは報告を聞くなり部屋を飛び出した。今日に限って広い敷地の端にある王室附属の美術館で
「緊張してるのか?」シンは朝食の席でチェギョンに向かって声を掛けた。朝、自分が起きる前にチェギョンがベッドを抜け出し身支度を整えていた時から、なんとなくそう感じていた。今日は彼女が初めて公式の場でスピーチをするのだ。「もう食べられそうにないの。心臓が口から飛び出してきそう」情けない顔をして―――もともと少したれ目の目じりがさらに下がり、大きな目が潤んでいるように見える―――チェギョンは皿を押しやった。「ほら、そんなことを言ってないで食べるんだ。ほとんど口にしてないだろ?」向かい合わせ
シンが自分たち王太子夫妻のリビングに入ると、チェギョンはラグに座り込んで何やら没頭していた。ソファの前のテーブルにタブレットが置かれ、床にはカタログらしきものが散らばっていた。――――夫が帰宅しても、無視か。シンは苦笑しつつ、夢中になっている妻を眺め口元を緩めた。サックスブルーのノースリーブのワンピースに、オフホワイトのカーディガンを羽織ったチェギョンは、王太子妃と言うよりはどこにでもいる良家の令嬢だ。長い髪は緩くウェーブしたまま、そのまま下ろしている。彼は最近気づいた。妻が髪を結わえる
「チェギョン、こっちに来てごらん」シンに呼ばれたチェギョンは素直に夫の言葉に従い、暖炉の前のラグに座る彼に近づいた。そろそろ朝晩の冷え込みが厳しくなり、温かい暖炉の前に座るのが快適になってきている。ラグに座る夫は、赤いスウェットと濃紺のデニムというくだけた姿だ。シャワーを浴びまだ湿った前髪が、額に落ちていて普段より彼を幼く見せていた。彼のそんな姿を見るたびに二人の物質的な距離が縮まっていることを感じ、その一方で心の距離は相変わらず平行線をたどっていることを思い出させる。マントルピースの上に
「誰もいないかな」パーマー夫人には「ちょっとだけ散歩をしてくる」と告げて、チェギョンは以前迷い込んだ回廊に向かった。サンルームの扉を開け中を確かめると、彼女はほっと息を吐いた。一人になりたかったからだ。「じゃあ、ちょっと息抜きしちゃおう」彼女は大きく伸びをして深呼吸をした。少しずつ慣れてきた宮殿の生活。それでも時々息苦しくなることがある。ほんの少しだけ王太子妃『チェギョン妃』を脱ぎ捨てて、ただの『チェギョン・クライボーン』に戻りたいと思った時、彼女の頭に浮かんできたのはこの中庭だった。
シンは何を言っているのだろう。「チェギョン、聞いてる?」恥ずかしそうに前髪をかき上げ、夫が自分を見つめている。チェギョンは大きく目を瞬いた。「聞いてます」消え入りそうに答えると、シンは満足そうに頷いてた。彼が意図することは何だろうか。チェギョンはそのことについて、今は深く考えたくなかった。ただ夫が自分を見つめるその目がとても優し気で、胸をざわつかせることだけは認めよう。「チェギョンの姿が見当たらないと、大騒ぎしていたよ、パーマー夫人や女官たちが、ね」「悪いことをしました」何も考えず
「ここは…どこ…?」やみくもに走ったチェギョンは、見覚えが無い場所に自分が立っていることに気づいた。この広い宮殿を一人で歩くことなどないに等しい。けして方向音痴だと思わないが、かといって特別方向感覚に優れているわけでもない。「でも、宮殿の中ってことは確実ね」その証拠に、自分は長い回廊に佇んでいるのだから。体の向きからして、自分の後ろから来たのだろう。振り返ってみたものの、やはり見覚えがない。「しかたないわね」夕方になると急に気温が下がってくる。薄手のカーディガンを着ているとはいえ、ブラ
トントントンとドアが叩かれる音で、チェギョンは我に返った。今朝からずっとこんなふうだった。気づくと昨晩、本当の意味で“夫”になったシンの事ばかり考えている。窓際に置かれた椅子に座った彼女の膝の上に、お気に入りの小説が乗っている。けれどもそれは言葉通り“乗っている”だけ。お気に入りの本のはずなのに、一向にページはめくられないままだ。「はい」返事をすれば、パーマー夫人がワゴンを押した女官を連れて部屋に入ってきた。「妃殿下、窓を開けましょうか。外の爽やかな風で部屋の空気を入れ替えましょう」夫
最初の最初から、シーンゆえ、こちらから、飛んでください…。あ、ちなみに、すごく久しぶりに、オリジナルブログのほうも、エリーナ&ブラッドの話を更新していますいつか振り向いて8(シンチェversion)-シン&チェギョンversionシンの体が強くチェギョンを突き上げた後、彼は震えそれから妻の体に倒れ込んできた。チェギョンは夫の汗ばんだ大きな体に押され、マットレスに深く沈み込みながら、ひどく満足している自分に気が付いた。シンが経験豊かな夫だからだ。彼に対してよい感情を自分が持っ
チェギョンは震える体をぎゅっと抱きしめた。ここから逃げ出すことが出来たら、どんなにかいいだろう。結婚式の日の夜もそうだった。でも、あの時のほうが実際は良かったのかもしれない。夫のことを何も知らなかったから。この1か月でチェギョンはシンのことを沢山知った。今まで兄のユルの陰に隠れていたシンが、実はジャックに負けず劣らず賢い王太子であると分かった。本当の彼は、ユルより数段優秀なのではないだろういか。ユルがどこか人を見下したような態度をそこはかとなく漂わせていたのに比べて、シンはどこまでも
突然夫に抱きしめられ、チェギョンは息をのんだ。でもシンの抱擁はとても温かく、そして大きかった。チェギョンの深く閉ざした心の中までシンの優しさが染み込んでくるようだ。どうしてだろうか。憎んでいると言ってもいいほどの相手なのに。「泣かないで」シンの大きな指がチェギョンの下瞼を撫でてきた。その指もとても温かい。「チェギョン…」夫に言われてチェギョンは自分が泣いていることに初めて気づいた。我に返った彼女は、彼の腕の中からするりと抜け出した。「殿下、失礼します」目を伏せたまま足早に部屋を横切
乗馬服を脱ぎシャワーを浴びてからシンはラフな洋服に着替え、妻の待つリビングへ向かった。ピンクのワンピース姿の妻を思い出し、自分は水色のシャツと白いパンツを選んだ。二人で並んだら、春の野原のような爽やかさだろう。どうして、こうもチェギョンに興味を抱くのか、自分でも分からない。ただ、彼女の存在を無いものとして扱うことは不可能だ。彼女が自分の妻だからだと自分自身を納得さて見るものの、ここ最近はそれがどうもうまくいかない。もっと違う理由が存在するような気がして。「そろそろ国民の前に二人そろって姿
結婚して1か月がたち、様々な儀式もやっと落ち着いた。初夏の日差しを浴びる木々を、チェギョンは王太子夫妻専用のリビングの大きな窓から、ぼんやりと見ていた。「お疲れですか?」ふいに声を掛けられて、チェギョンは振り返った。背の低い、お世辞にも『痩せている』とは言えないふくよかな女性が、優しく微笑んでいる。「…そうね。少し、疲れたかもしれないわ」女官長のパーマー夫人は、「それでは、お茶にいたしましょうか。少し予定の時間より早いですけれど」部屋の隅に控えてい女官に目くばせをした。「ありが
深い眠りから覚めたチェギョンは、目を開けた時に広がる風景に戸惑った。―――ここはどこ?見慣れない壁紙と見慣れない家具。それだけではない。目に映る風景だけではなく、嗅覚までも「何かが違う」と訴えてきた。自分の香りとは違う、青草のような爽やかな香りとわずかな男らしい汗の匂いを感じた。―――そう言えば昨日、私…。チェギョンの頭は一気に覚醒した。夫となったばかりのシンの大きなベッドに横たえられ、逞しい腕に抱きよせられた瞬間、一日の疲れが重くのしかかり、あっという間に夢の中へ入ってい
シンの寝室はまるで彼自身を表しているかのように、余分なものを一切省いた、どこまでもシンプルな部屋だった。「ショールームみたいな部屋ね…」クスリと小さくシンが笑った声で、チェギョンは自分が思わず声に出していたことに気づき、頬を染めた。―――私ったら、なにをやっているの?普段は、慎ましやかで思慮深い女性だと言われている自分が、うっかり本音を漏らすなんて。それも当の本人の前で。彼が面白がってくれてよかった。「申し訳ありません、殿下」彼女が礼儀に沿った“正しい返答”をしたというのに、
―――これで良かったの…?閉められた窓の外から聞こえる歓声のざわめきを感じながら、チェギョンはその小さな胸にもう何千回と問いかけた事柄を、再び取り出し、繰り返した。例え、答えが『NO』だとしても、引き戻すことなど不可能だと彼女には分かっていたけれども。「用意はできたかな?」男らしい声が聞こえ、チェギョンは振り返った。チェギョンが考えていたよりずっと近くに、シン王子が花婿らしい黒と白の完璧な装いで立っていた。「ええ、殿下」長く豊かな睫毛が、チェギョンの美しい薄茶色の瞳を覆い隠してしま
「シーンっ」若き王太子は自分の名を呼ぶ声がして、振り返った。白い宮殿の壁しか見ない。「シンったら、ここよ」顔を見なくとも彼にはわかった。王太子である自分を『シン』と呼ぶ女性は、この世でただ一人だけ―――彼の愛しい妻―――なのだから。王太子は手をかざして顔を上げた。彼の目に飛び込んできたのは、3階の窓から身を乗り出して自分へ手を振る妻のチェギョン妃だった。「チェギョン!危ないぞ」「大丈夫よ」―――何が大丈夫なもんか。こちらの気も知らないで。気が付くと彼は走り出していた。「シン?」
ジェームズ国王の言葉に、チェギョンは固まった。シンはなんて答えるつもりなのだろう。兄の顔を見つめることができない。チェギョンは皿に視線を落とし、アスパラガスにかかる黄色のソースを熱心に見つめることにした。「兄として、複雑な想いであることは確かです」沈黙を保っていたシンが口を開いた。―――『兄として』ね。「ふむ。それでは、一人の男としてはどうなんだ?」ワイングラスをテーブルに置き、国王はゆったりと椅子の背に体を預けている。チェギョンは視線を動かして国王の表情を見つめた。普段と同じ平然
久しぶりに、(本当に久しぶりにだし)、FC2のブログにオリジナル版妖精ちゃんの話をアップしました。そのうち、こっちのブログversionでもアップします。「なぜ、そんな『当り前』のことをわざわざ確認する必要があるんだ?」シンは親友の目を見返した。デヴィットの探るような視線を真っ直ぐに受け止める。「『当たり前』だと言ったな?」「ああ」「―――それでいいんだな?シンはそれでいいってことだな?」デヴィットの言葉に、シンは頷いた。「それ“が”いいんだ。僕にとっても、チェギョンに
「オスカーの国へ行く?」チェギョンが兄と父に向かって、オスカーから誘われたことを話した。案の定、父はニコニコとして「行ってきなさい」と許しの言葉を言ってくれたが、シンはだんまりを決め込んでいる。父がいないところで、チェギョンへ文句を言うつもりだろう。―――オスカーの予想した通りね。「とりあえず、夫候補としての僕は振る舞おう。正式に婚約をしてしまうと、あとで煩雑になるし、スキャンダルになるから、そうならない程度ですべてが明らかになるといいね」ニッコリと笑ってくれたオスカーに、チェギョンは
「お兄様…」チェギョンは大きな足音を立て、自分とオスカーが座るベンチへやって来たシンの顔を見て息をのんだ。普段の冷静な兄とは別人。まるで、頭の上から湯気が出ているほど怒りをあらわにしている。「チェギョンに何をした」「何をと言うと?」オスカーの方は余裕な顔で―――何となく楽しんでいるようにも見える―――シンを見上げている。「とぼけるな」震える拳を開くと、シンはオスカーの首根っこを掴んでいた。「お兄様、やめて」チェギョンが兄の手を握ると、彼は鋭い視線を彼女に送った。「チェギョン、
ファン「シンは策士だね。既成事実でまわりから固めようとしてるでしょ。あんまりチェギョン本人には伝わってないみたいだけどさ(笑)」シン「あれは無意識だ。つい手が出てしまった。まあ、あれでまわりに伝わればいい。他の男への牽制にもなっただろう?」ギョン「シンはいいよなー。俺もあのガンヒョンの綺麗な髪に指を絡ませて、顔をうずめたいよ。いい香りがするんだろうな。なんだよ、一人でいい思いしやがって」ギョンがシンを小突くが、シンはチェギョンの髪に触れた手をジッと見ている。柔らかさや滑らかな感触や香りがま
目の前のハンサムな王子を、チェギョンは伏せた睫毛の下からそっと見た。オスカー・ラングストン王子。兄のシン王子より少し背が低いようだけれど、充分に長身で、魅力的な男性だ。王子にしては珍しく長髪のオスカーは、チェギョンが自分を見つめていると気づいたのだろう、ウインクをしてきた。深いブルーの瞳は印象深く、王子はきっととても女の子たちに人気があるだろう。まだ学生の彼は、メディアで規制されているのか、あまり世間には出てこない。彼の親衛隊が存在するとしたら、さぞかし自分は彼女たちに敵対心を持たれてし
毎日毎日、シンの出迎え風景をレッスン室から覗くことをやめられないでいた。見れば、怒りや諦め、後悔などの納得できない思いが綯い交ぜになり、その負の感情に押し潰されそうになるのだが、どうしても見てしまう。こうしてどんどん自分の中に負の感情を溜め込んでいた。舞踏科では、放課後の居残りレッスンは人数も多いのだが、早朝練習までしているものは、ほとんどいない。コンクール前の追い込み時期とかでない限り、ヒョリンは一人でいることが多かった。もちろん早く登校してシンの出迎えをしている女子はいるのだが、レッス
その日の放課後も、何かを吹っ切るように一心不乱にバレエのレッスンをしていた。あの日から、何がいけなかったのか、どこで間違えたのか、ずっと考えていた。“私生児なのは仕方ないじゃない。母のせいだもの。でも、私自身は最高のスペックよ。出自さえ黙っていれば、誰よりも素晴らしいでしょ?シンの隣に立っても見劣りしないわ。なのに…”まだ答えは出ない。今日は朝からいい天気だったから、誰かがレッスン室の窓を開け放してあった。その窓に面している正面玄関から、ザワザワとした雰囲気が感じられる。シンが下校
帰りのHRも終わり、シンが迎えの車へと向かうのにギョン達も付き合う。玄関先に陣取る相変わらずのギャラリーの中に、ヒスンとスニョンの姿が見えた。その後ろにチェギョンとガンヒョンがいる。無理矢理連れて来られたのだろう。その姿を見つけたシンがふと微笑むと、たちまち悲鳴が轟いた。「「「「「キャーー、殿下ーー、素敵ーー」」」」」あまりのシンの人気にチェギョンは少し気後れしたが、せっかくここまで見送りに来たのだからと、胸の前で小さく手を降る。嬉しくなった。スマホを取り出すとチェギョンを見る。うな