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朝は来たけど、これはちゃんと翌日のものだ。目は腫れまくっているし、喉も痛い。体もコチコチになってるし、ビショビショのタオルの上で寝たせいで髪の毛もひどいことになっている。昨日の朝には戻れなかった。「翔、どうしたの??熱あるの?ちょっと計りなさい。」母がボロボロの僕を見てびっくりして駆け寄ってくる。そして体温計を取りに走ると、またパタパタと戻ってくる。「ない。熱ない。風呂入る。」僕は体温計を拒否して脱衣所に入って扉を閉める。「今日休
写真を見ながら智はすごく楽しそうだった。来年行くならまだ2人とも行ったことのないところに行きたいとか、ここには自分がいるべきだったとか。僕もすごく楽しかった。おうちデートみたいで、最高だった。ただ、ずっと潤のことが頭の片隅でズキズキとした痛みのように去らなくて。「智くん。」「ん?」「突然なんだけど。ってか、智くんは突然と思うかもしれないけどこれは実は突然じゃなくて、僕からしたらずっともう長いこと思ってたことで。」「うん。」「今朝まではこん
放課後、智の希望で僕の部屋に集まることになった僕たちは、帰り道のコンビニで飲み物とおやつを調達する。「さっき女子たちが翔くんと潤の話してたよ?」「ん?」「なんか昼休みに2人してはしゃいでて可愛かったって。なにしてたの?」「ああ、あれか。」潤は軽く微笑んで、でも解説する気は無いようだ。「俺も行けばよかったな。」「はは。まあなんかくだらないことだよ。当たり前だけど、見られてたか。」「翔の声がでかいから。」「俺だけ?」「ふはは
「じゃあ俺も言ってもいい?」「ん?」潤が急に僕の視線と自分のそれをしっかりと合わせてくる。「な、なに。どしたの。」「俺は翔が好きだよ。」「そ、ま、まあ知ってるよ、そんなの。俺らは、」イケメンの威力と突然の改まった言葉にひるんでしまう。「違う。翔の智へのと同じやつ。」「え。」これはあまりに突然ではないだろうか。いや、そうじゃないのかもしれない。僕はただ自分のことばかりに精一杯だった時間が長かっただけで。潤の視線は
会えない時間が恋募らせるとはよく言ったもので。妄想ばかりをたくましくしている僕の智への気持ちはただ大きくなって。伝えたい。もう打ち明けてしまいたい。でもせっかく友達になれたのに。この関係を、距離を、諦める覚悟が僕にあるのだろうか。潤と紅葉を観ている間も、僕はほとんどの時間を智を想って過ごした。潤はいつも通りに振舞っていたけれど、ときおり瞳に影を落として、力のない笑顔を景色に向けた。潤も片思いでもしているのだろうか、そう考えたのは一瞬で。「ときおり」とい
「早く!こっち!」「翔ちゃん、俺もう走れない・・・。」「諦めないで!俺がいるから!」「あいつらなんで・・・。」「智っ。」智の手を引いて僕は走る。目をギラつかせて追いかけてくるアイツらが誰だかも分からないまま。智がこんな風に人から追われるなんて考えられない。でも狙いが僕じゃないことは明らかだ。アイツらは僕をまるで見ていない。「翔ちゃん、もういいから・・・翔ちゃんだけ逃げて・・・」「やだよ!智を置いてくなんて俺の人生で有り得ない!」
「はよ。」「はよ。」「え、もしかしてダメだったの?」「んー。ばあちゃんに負けた。」「ああ、ばあちゃんか。智、たまーに家族で予定断ってくるんだよな。そこが智のいいとこなんだけどな。」「同感です。迷わないところがかっこよかった。」潤は僕の横顔を少しの間見つめてから言う。「俺と2人でいいのか?」「残念じゃないと言ったら嘘になるね。」「ふむ。」「けど、2人で行くなら潤としか考えられないし。」「・・・・。あ、そう。」「
「翔ちゃんといるからやっぱり楽しいね。ふふ。」「俺だって智といるから楽しいよ。正直ここじゃなくてもどこでもいい。」「・・・言ったね?俺は我慢してたのに。せっかくこんな所まで来たんだから。」「ごめんっ。いや、もう言わずにいられなかった。」「ふふふ。潤が具合悪いのは可哀想だったけど。」「・・・確かに。俺はちょっと2人きりを楽しみすぎていた。」「潤には内緒ね。」「ははは!」僕はもうにやけてにやけて仕方ない。智は僕にすり寄るようにして歩いてい
夜。20時50分を回った頃から、僕はスマホを目の前にまっすぐと置いてベッドの上で正座していた。いつもの僕の部屋だけど、なんだか空気が張り詰めているようで、少し寒い。「9時過ぎ」と言っていたのだから、実際電話がくるまでは少なくとも10分以上はあるだろうと覚悟はしていた。でも、もう壁の時計は9時26分を指している。「っふーーーっ。なんか肩凝ってきちゃったな。10時だとしても9時過ぎには変わりないしな。これは俺の考えが浅かった。」足を崩して首をクルクル回す。パキパ
僕はまだなんとなく違和感のある額に手を触れながら、結局会えずじまいだった智のことを考えていた。横にはいつも通りにのほほんとして見える潤が歩いていて、僕らの前後には放課して浮かれた学生たち。2,3人のグループが多いけど、中には1人でサッサカ歩いている人もいる。あのスピードには今の僕は追いつけない。あれが智なら別だけど。「あ!」「!なに急に・・・。」「智が夜電話するって言ってた。のを忘れてた。」「嘘だろ!?」「いや。ほんと。」「いや、そ
「翔、目。」「ん。目。ん?目?」「目がいっちゃってる。」潤の声で僕は我に返る。そして、一瞬にして頭が真っ白になった感覚。「大丈夫か?」「あー、潤?」「んー。」「今智くんがここにいたってことは・・・?」「ない。」クラクラする。僕は持っているメロンパンを枕に机に突っ伏すと、目を閉じる。無意識の妄想は初めてかもしれない。こんなふうに妄想であったことが絶望的に悲しいのも。「翔。」潤が優しく僕の頭をポンポンする。慰
「会えない・・・。」智との朝の遭遇は無く、休み時間もことごとく空振りをしていた。「もしかして俺、避けられてんの?」「ふはは。そんな器用じゃないよ。今日、智日直。なんかすげえ用事頼まれまくってる。」「そうなの?ちくしょー。」「智も同じこと思ってるよきっと。翔が話あるって言ったから朝。」「まじで?それはありがと。」潤は笑顔になっただけでお弁当を食べ続けている。僕はふくれっ面のままでメロンパンにかじりつく。心なしか美味しさが足りない。
「うっそでしょ!?」「なんで俺がこんな嘘つくのよ。」「いや、まあ・・・。」「とにかくごめん。ちゃんとなんとかするから。」「んー。ってか、なにが起きたのよ?」「まあ、話すと長くなるから。」潤は僕と目を合わせようとしない。「長くてもいいけどね・・・。」そう言いつつ僕はもう潤が経緯を話してくれないことを分かっていた。彼にも隠したいことはある。ほんのたまにこういう顔をするときは大抵そんなときだ。だんだんと分かるようになった僕は、そ
「翔くん・・・。ごめん。俺やっぱ・・・。」「え。どうしたの?」「いや・・・なんてゆーか。あ、あとで潤から聞いてくれる?俺今急いでて。ほんとごめん。」「さ・・・。」智は逃げるように走っていく。後ろ姿を目で追う僕は、もう溢れそうになっている涙を拭く気にもなれない。やっぱり嫌だったよな。あんな風に男の僕から見つめられるのは気持ち悪かったのかもしれない。嬉しすぎてなんだかどこかが狂ってしまっていたのかもしれない。ずっと大好きだった人が隣にいたこと
「翔くん!」後ろから最近ようやく聞き慣れてきた声がして振り向くと、智が小走りでやってくる。胸がギュンと縮まるように痛む。このトキメキには慣れないんだよな。「良かった。追いついた。」智が軽く息を弾ませて言う。立ち止まって待っていた僕は智に体ごと向き合って聞く。「どうしたの?電話くれたら走ってこなくても待ってたのに。」「あ、そうか。でも背中見えたから。」息をついて僕の隣を並んで歩き始めた智は、僕を少し下から見上げながらニコニコしている。
こんなに満ち足りた気分で登校するのは久しぶりだ。隣にいる潤がいつもよりイケメンにも見えてしまうのはこちらの変化に違いない。「ご機嫌だな。」潤が言う。「ん?んー。まあ。」「ふはは。なんか知らないけど、ニヤケんな。」「無理。俺、人に頼られるのこんなに嬉しいとは思わなかった。昨日からずっと引きずってんの。」「・・・・。」潤が無言で僕を見ている気配に振り向く。ジットリとした目つきが何か訴えてくる。「・・・あ、まあ潤はその「人」にカウント
僕の人生最高レベルの幸せを噛み締めた放課後、僕は今までにないくらい気をつけて家までの道を進んだ。今日死んでも悔いはないかもと思ったのはほんの一瞬で、僕はもう次に智と過ごす時間のことを考えていた。みすみす命を落とすわけにはいかなくなった。全力で生きて、なんなら余力で一日一善。徳を積んで更に良いことを呼び寄せるべし。「恋って生きる糧になるんだなぁ。」僕は歯ブラシを咥えたままモゴモゴ呟く。「なに?」「うをっ!あんあおいっういううあお(なんだよビックリ
妄想がリアルの僕の恋にとって何にもならないことは分かっている。妄想を抜け出して、周りに気を配ることで気づくこともあるに違いない。現に妄想を抜け出して実際に眼の前にいる智は、妄想の智よりも何倍も可愛いし愛おしい。それだけじゃない。僕の立つこの場所さえも、現実に一生懸命になることでどんどん変わっていくのだ。とはいえ、現実の殺傷能力の高い智の可愛さを元に、今夜も僕の妄想ははかどるに違いない。実際の関係が変わった今日の妄想は、きっととびきり楽しいものになる。
「可愛いとか俺に言われても引くよね。ふふ、ごめん。」「ん”、んん”ん。いや、引かないよ。嬉しい。」僕はメロンパンの名残を咳払いで解消してから言う。もう素直な気持ちを言うのが、当たり前だけど一番自然だと思う。「翔は褒められるのに弱いからな。動揺しただけだよ。こう見えて喜んでんの。」潤が言って、智が「そうなのか」と相槌を打つ。「潤が俺をもっと褒めれば免疫つくんだよ。」「は。機会を与えられればそうしますけど。」「毎日100はいけるはずだろ。」
「こんにちは、翔くん。」こんなに可愛い「こんにちは」を僕はかつて聞いたことがあるだろうか。「待たせたな。」智に返事ができる前に、潤が言う。「別に。授業長引いたの?」「化学室だったの。」応えたのは智だ。「そうなのか。こんにちは、大野くん。」「ふふ。お腹空いちった。」「座って。まずは食べよ。」なんだか恥ずかしそうに智は僕の正面を選んで座る。いつもなら潤がその位置に座るけど、今日は斜め右に座って弁当を広げ始める。「
「そんなわけで昼、智と行くわ。」「ははは!『そんなわけで』はそんなに唐突に使うフレーズじゃねえよ。」と、潤が変だみたいに言う僕のテンションもかなり高いことは自覚している。「ふは。いや、なんか昨日から続いてる気がすんの。なんでだろ。翔、俺の夢にでも出てた?」「はは!なんでたよ。俺が知るかよ。」「まあそうだけど。」潤が笑い声を立てずに笑っている横顔を見る。平和な朝にこのイケメンだ。モテそうなのになー。なんで僕とばっかいるんだろ。僕が女なら放っ
潤との通話を終えて30分ほど経った頃だろうか。智から連絡が来ないまま、僕は眠気に襲われていた。「ねみい・・・。今日はいろいろと緊張したからな。」フラフラと歯を磨くために階下の洗面所に向かう。階段を下りているときに、ポケットのスマホが3回震える。LINEだ。慌ててその場でスマホを開く。智からのメッセージだった。『翔くんこんばんは。明日の昼に良かったら数学の宿題を教えてほしいのだけど。翔くんが良ければ潤と一緒に翔くんのところに行きます。返事
夜。僕は机に向かったのはいいけど、智とのチャット画面を睨んだまま、もうかれこれ20分は迷っている。いや、時計を見ればもう21時45分。と言うことは、もう35分くらい経っている。って、おい!宿題もまだなのに僕は何をしているのだ。さっさと終わらせてゆっくり妄想でもしよう。リアルは難し過ぎる。僕はスマホをベッドに放り投げて、数学のノートを開く。智の甘えたような声が耳に蘇る。『今度教えてもらおうかな』『すぐ頼っちゃうよ?』本当に数学を一緒に勉強でき
「あ、時間ないから思い出してる間にLINEいい?」「あ、そうだ。はい。」僕は用意してあったQRコードの画面を智に差し出す。智が後ろの机からスマホを取って操作し始める。「なんの授業だったの?」智が聞く。「今?えっと、数学。」「翔数学得意だよな。」「すごい。俺は一番苦手。」「そうなの?」「うん。今度教えてもらおうかな。はい、ありがと。」嬉しすぎて戸惑っていると、すぐに智からのメッセージが入る。ハムスターが「よろしく」と言
「えー、翔ちゃんこれ出るの?見に行きたい!」智が目ざとくスピーチコンテストのエントリーシートを見つけて騒ぎ出す。「あ、いや迷ってんの。先生にどうかって言われたんだけど、それ皆すごいレベル高いのよ。」「翔ちゃんだって英語上手じゃん。」「ん?」「歌詞の英語とかめっちゃキレーじゃん。」「あ、カラオケ?んー。」カラオケでブルーノ・マーズを歌ったりしたことを言っているのだろう。「また翔ちゃんとカラオケ行きたいなー。あ、練習付き合うからね。まあ俺じ
高3になったばかりの頃、僕は智に一目惚れをした。あの日あのときの風景や智の様子なんかを僕は今でもはっきりと覚えている。更に言うなら、偶然の遭遇や、奇跡的に持てた会話の機会たちもちゃんと覚えている。だけど、自分の気持ちが育ってきた過程を、僕はどちらかと言うとちゃんと追えていない。妄想力ばかりがたくましくなって、でも現実の僕は目を見て挨拶をすることすら下手くそなままだ。一昨日、明治神宮を智と潤よりも先に去らなければいけなかった僕は、「またね」と微笑む智に小さく手を振
「潤ちょっとそっち寄って。」智が潤を手の甲で押しのける。「な。」潤は大した力で押されたわけでもないのに大げさにふらついて見せる。「ふふふ。翔ちゃんの隣は俺で。」「は?」「その方が落ち着くから。」「な。」さっきから潤は一文字しか言わない。戸惑っているのか怒っているのか。「翔ちゃんだっていつも潤といるより俺がいいに決まってるでしょ。」「は?」「まあまあ。俺は真ん中歩くんでもいいから。」「む。さすが翔ちゃん。じゃあ、
「ふははは。予想以上に喜んでんな。」「んがっ。」僕は脇に置いていたペットボトルからお茶を飲み下す。「ふは。大丈夫か?」「ふーーー。そ、それは嬉しいな。・・・こうなるといつも潤がサラッと聞き流してるのが嫌味だな。」「翔だってよく言われてんだよ。なぜか本人に伝わってないんだろうな。」「ウソだろ。」潤は口元に微笑みをたたえることでそれが冗談ではないと僕に伝える。そうか。僕に伝わらない僕を褒める言葉。そんなものがあったとは。頂戴よ
今日、さっきをもって僕の進路が決まった。潤がクラスメイトと喋っているのを偶然聞いたのだ。「あ、松本〜、お前芸術行くの?」「ん?うん。なんで?」「いや、俺もちょっと考えててさ。大野もお前もいるならいいかなーって。」「いいじゃん。安田もデザイン?」あとの会話はもう耳に入らなかった。智が芸術学部のデザイン学科。つまり付属の大学にそのまま進学と言うことだ。なので僕も付属の大学。当初考えていた通り、経済学部に進むことにした。
「あれ、潤なんか弁当いつもと違くない?」「お、すげえ。」「違う?」「今朝、母親が具合悪くてさ。自分で作った、というか詰めた。」あるのは少しの違和感。「え、それにしてはキレイだけど。ってか、おばさん大丈夫?」「んー、たまになるのよ。偏頭痛ってやつ?」「あー、きついやつだ。」「今日は仕事休んで寝込んでるよ。」「あらら。」僕は潤の弁当を見つめる。詰めただけって言ってたけど、よく見ると卵焼きとか形が悪い。「なに?」