印象的だったのは、南洋の島の描写である。暑さ、湿気、濃い緑、海の気配、人々のざわめき。そうしたものがページの奥から立ち上がってくるようで、どこかゴーギャンの絵の世界に迷い込んだような気持ちになった。明るく鮮やかな色彩の裏に、少し不穏なもの、神話的なもの、人間の欲望や孤独が潜んでいる。その感じが、この小説全体の空気とよく重なっていた。一方で、この作品は単なる異国趣味の小説ではない。南洋の架空の国を舞台にしながら、そこには日本の政治や戦争の記憶、権力者の孤独、近代化によって失われていくものへのまなざ