坂口安吾が東京大学病院精神神経科に入院していたころの部長は内村祐之(ゆうし)という。明治期のキリスト教徒内村鑑三の息子である。内村祐之は旧制一高時代は野球部の名左腕、21世紀初頭のハンカチ王子並みの人気を誇り東大医学部に進学、未開拓の精神科を選んだ。野球への情熱は衰えず、特に職業野球と蔑まれていたプロ野球の普及に情熱を燃やし、V9時代の巨人のバイブル「ドジャース戦法」を翻訳、さらにはコミッショナーまで務めている。安吾が恢復期に入ったころ、内村は安吾に近くの後楽園球場でプロ野球観戦してくることを勧