2011年3月、福島第一原子力発電所は、絶望的な闇に包まれていた。制御不能に陥った原子炉は、刻一刻と破滅へのカウントダウンを進め、東日本、いや、世界の運命が風前の灯火となっていた。その絶望の最前線で、たった一人、巨大な重圧と戦っていた男がいた。現場の指揮を執る所長、吉田昌郎である。暴走する原子炉を止める最後の、そして唯一の望みは、海水を直接注入し、強制的に冷却すること。しかし、それは数千億円ともいわれる原子炉を二度と使えなくする「死」を意味する、苦渋の決断だった。「海水注入はまだ早い!」しかし、