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タルトと茶を楽しんだ後、サーミフは会議へ向かうために回廊を歩いていた。会議が終わった後にでも兄には一言礼を言わなければと考えていれば、殿下、と後ろから声をかけられる。振り返れば小走りに近づいてくる使用人の姿があった。「どうした」サーミフに仕える者たちは、あまり慌てた様子を見せることはない。何か緊急のことかとサーミフに緊張が走る。主人の前で立ち止まった使用人の男は頭を垂れると電話の子機を差し出した。「お電話です。あの方から」その言葉に目を見開いて、サーミフは子機を受け取る。ひとつ深呼
Pixivにて新作「天使に口づけされた果実」を公開しました。#ファンタジー#オリジナル天使に口づけされた果実-葵冬弥(あおいとうや)の小説-pixiv時折空から甘い香りが漂う。どこかのお店がお菓子を焼いてるのか、果物を切っているのか。それとも、空には甘い何かがあるのかもしれない。そんな訳無いだろうけど。「でも、いい匂い〜」甘い果物とお菓子が大好きな女子大生、甘城風羽里は鼻をひくつかせ、ヨダレが垂れそうになりながらトレwww.pixiv.netこちらの作品は下記の
「……良いと、他ならぬ殿下が仰ってくださるのですか?」きっと、その言葉に込めた意味をサーミフが正しく知ることはない。だが、それでも凪は問いかけずにはいられなかった。逸らしたくて、けれども逸らしたくないと凪はサーミフを見つめる。視線の先で、黒曜石のような瞳が柔らかに揺れた。「ああ」そっと、サーミフの手が伸びて銀のカトラリーを取る。そしてタルトのイチゴを刺すと、凪の口元に運んだ。「私がそう言おう」ちょん、と唇にイチゴが触れる。そっと瞼を閉じて、凪は口を開きイチゴを食んだ。
「理想と思う兄の姿。理想と思う弟の姿。そうであれない自分の姿。だが弟の立場からすれば理想であれなかった兄上を責める気持ちなど湧かぬし、きっと兄上も理想であれなかった弟を、それゆえに厭うこともなさらないだろう。兄には兄の弟を想う感情が、弟には弟の兄を想う感情があるのだから。それを他者がどうこうすることはできないし、してはならない。ゆえに私は、兄上のような兄にはなれないお前を、だから駄目だとは思わないし、他者であればすべては上手くいったとも思わない」それに、とサーミフはほんの少し瞼を伏せる。〝
こんばんは!いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます!少し涼しくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?いつもであればお休みに入ってから「あ、世間は連休か」と気づくのですが、今回は珍しく事前にわかっていたので、シルバーウィークに楽しんでいただけたらと、無料キャンペーンを行います!まだ読んだことないよ〜という方は、この機会にぜひぜひお手に取っていただけましたら嬉しいです!詳細はこちら↓(すべて2026年の日付です)「望むことは、許されない〜偽りと誠言〜前編」
「殿下?」どうしたのだろうかと凪は首を傾げる。そんなにも不快なことを言ってしまったのかと瞼を伏せた時、サーミフはもう一度「ありえない」と告げた。「誰がその場に立っていようと悩むものだ。簡単に正解など見えはしない。他の誰かがそこに立っていたのだとしても、間違える時は間違える。あるいは、ナギの結末よりも、もっと悲惨な結果を出す者もいただろう。そこに生きるのは、心を持った人間なのだから」それに何が間違いかなど、それですら見る者が違えば結論も変わってしまう。「ナギ。お前が羨ましいと言った兄上
きゅうと暮らし始めて、三週間が経った。毎朝、きゅうがサンドイッチを作ってくれるようになった。中身は相変わらずレタスとハムだけだったけれど、パンのちぎれ方が少しずつマシになっていた。手紙も毎日ついていた。ひらがなだけの、短い手紙。その日の手紙には、こう書いてあった。「ゆづきへ。きょうはいいことがありますように。きゅうより」結月はサンドイッチと手紙をリュックに入れて、大学に向かった。「いってらっしゃい!」「行ってきます」きゅうが窓から手を振っているのが見えた。結月は小さく手を上げた。
朝、目が覚めると、隣にきゅうがいなかった。結月は布団の中で手を伸ばした。いつもならきゅうの温かい背中に触れるのに、今朝はシーツだけが冷たかった。「きゅう?」台所から、かたん、と音がした。結月は起き上がった。台所を覗くと、きゅうが背伸びをして棚に手を伸ばしていた。足元にはラップの箱が落ちていた。「何してる」「あっ、ゆづき!起きちゃだめ!まだ寝てて!」「もう起きた」きゅうは慌てて体でシンクの上を隠した。でも小さな体では隠しきれなくて、シンクの上に食パンとレタスとハムが並んでいるのが見
「羨ましいかぎりです」どうしても、凪はそうあれなかった。ナイーマに対しても、兎都に残してきた異母兄に対しても。「ほぉ。こうでありたかったのか?」頬杖をついて、サーミフが凪を見つめる。その問いかけにカチャリと用意していたカトラリーが音を立てた。王太子とサーミフのようにありたかったのか。今度は自分で胸の内に問いかける。どうだろう。羨ましいと言った先程の言葉は偽りでもおべっかでも無い。だが、そうでありたかったのかと言われれば、頷くことが正しいとも思えなかった。異母兄はやんわり凪と
きゅうと暮らし始めて、二週間が経った。結月の毎日は、もうすっかり「二人の毎日」になっていた。朝起きて、きゅうに「おはよ」と言われて、朝ご飯を作って、「いってらっしゃい」を聞いて大学に行く。帰ってくると「おかえり」が待っている。夜は並んで布団に入って、「おやすみ」を交わす。その日も、いつもと同じ朝だった。「ゆづき、今日も大学?」「うん。今日は三コマある」「さんこま……」「まあまあ、長い。夕方には帰る」きゅうはトーストを齧りながら、こくんとう頷いた。もう泣かない。結月が帰ってくることを
15:小休止早とのどかの乾杯がちょうど一息つくきっかけになって、またみんなでワイワイ飲んで食べる時間になったり。早のサンドイッチも、まことのおにぎりも、あゆむ苦心の唐揚げとポテサラも、ナーニィのミートパイも大人気で、もちろんひなたの柿の種もシートのあちこちで笑顔と共にぽりぽりぽりと音を立てたりして。――そっかあ。早さんものどかさんも同じ気持ちだったんだなぁ…♪由自の隣、とはいっても気恥ずかしくって、少し下
「ありがとう、ございます」ベッドの上でジッとしているだけではない。そう分かった瞬間、凪は綻びそうになる口元をキュッとつぐんだ。礼を言う声も、車椅子の肘掛けを撫でる指先も、ほんの少し震えている。気を抜けば涙が溢れてしまいそうだ。「ではご厚意に甘えて、さっそくタルトをお切りいたしましょう」ふわりと微笑んで、凪はティーカートに手を伸ばす。当たり前だが、立っている時よりは高い位置にあるとはいえ、この程度で落ちるような腕はしていない。サーミフの使用人になってからずっと、侍従長に鍛え上げられてきた
きゅうと暮らし始めて、十日が経った。結月が大学に行ってる間、きゅうは留守番をしている。最初の頃は窓際で泣いていたきゅうも、今では洗濯物を畳んだり、麦茶を注いだり、自分なりに「やること」を見つけて過ごしているらしかった。その日の朝も、いつもと同じだった。「ゆづき、いってらっしゃい」「行ってきます。戸締り、ちゃんとしろよ」「わかってる。鍵はがちゃんってするやつでしょ?」「そう。あと、火は使うな」「使わないよ。ぼく、火、こわいもん」きゅうは玄関で手を振った。結月はドアを閉めて、鍵を掛け
きゅうと暮らし始めて、一週間が経った。結月の生活には、いつの間にかリズムができていた。朝、きゅうより先に起きる。台所に立つと、二分くらいしてぺたぺたと足音がついてくる。「ゆづき、おはよ」と眠そうな声がして、足元にちょこんと座り込む。朝ご飯を食べて、きゅうに「行ってきます」を言って、大学に行く。講義を受けて、帰ってくる。ドアを開けると、きゅうが走ってくる。「おかえり!」毎日、同じ声。毎日、同じ笑顔。それなのに、毎日少しだけ嬉しい。慣れない。慣れたくない、とも思う。でも、一週間が経って、結
約束通り、天気は良かった。朝ご飯を食べ終わったきゅうが、窓のカーテンを勢いよく開けた。光が部屋に流れ込んで、きゅうの茶色い髪が透けた。「ゆづき、晴れてる!」「……見れば分かる」「公園!公園行ける!」きゅうは両手を上げて、その場でぴょんぴょん跳ねた。着地の度に少しよろけるのが、まだ二本足に慣れきっていない証拠だった。「靴、履けるようになった?」「練習した。昨日ゆづきがいない間に」「……留守中にそんなことしてたのか」「うん。あと、箸も練習した。見て」きゅうは机の上の箸を取って、得
きゅうと暮らし始めて、三日が経った。たった三日なのに、結月の生活はすっかり変わっていた。朝、目覚ましが鳴る前に目が覚める。隣で丸くなって眠っているきゅうの寝息が聞こえて、それだけで「ああ、今日も隣にいるんだ」と思う。布団を抜け出して台所に立つと、後ろからぺたぺたと足音がついてくる。「ゆづき、おはよ」「……おはよう。まだ眠そうだな」「ぼく、ゆづきが起きたら起きるの」きゅうは目を擦りながら、結月の腕にくっついた。まだ温かい。寝起きのきゅうは特に甘えん坊で、結月がフライパンを持っても、冷蔵
「兄上からなら、ありがたくいただくとしよう。そこのテーブルに運んでくれ。あとはこちらでやるから下がってよい」その命令に使用人の男は頷いてティーカートを部屋にある小ぶりなテーブルの側に動かした。そして室内に用意してあった車椅子をベッドの近くに移動させ、もう一度深くサーミフに頭を下げて退室する。パタンと扉が閉じられた時、サーミフは凪を抱き上げて車椅子に乗せた。「動き回るだけが仕事ではない、とは言ったが、流石に自分の意思で動けないというのも苦痛だろう。簡易的ではあるが車椅子を用意したから、これを
「宮殿にいたときならばともかく、この離宮に来たからには侍従長をずっと私の側に縛り付けておくわけにはいかないからな。あやつがいない時は、ナギが采配してくれ。私のことはよくわかっているだろう?」それは何の特別もない、普通の言葉だった。贋金が発覚する前であればよく耳にしていた言葉。それが何だか懐かしくて、凪はクシャリと不器用に笑った。その姿を見て、サーミフは胸の内でホッと息をつく。本当は、何もしなくて良いと言いたい。怪我をして、心も傷ついているだろう凪を休ませてやりたいと思う。何も心配しなくて
がんの闘病記は「がん備忘録」で、がんについての情報などは「がん治療」のタグでご覧ください。『月下のネコたち』がんの闘病記は「がん備忘録」で、がんについての情報などは「がん治療」のタグでご覧ください。今回はかなり腐向けな内容になっています。腐向けな内容が苦手な方は…ameblo.jp5年半前に書いたブログを、AI画像で作成してもらいました。布団までかぶってないとAI的にNGらしいので、布団をかぶっています。こんなことまでしてもらえるような時代になったんで
森の離宮は安らぎのために作られたものだ。この部屋に限らず、華美なものは存在しない。その代わりたっぷりと日の光が取り入れられるよう窓はどれも大きく、壁紙やカーテンも淡い色で揃えられている。飾られるのは価値のある骨董品や肖像画などではなく、美しく咲き誇る生花だ。柔らかな日の光。シンプルで優しい調度品。鼻腔をくすぐるのは甘い花の香り。なるほど、確かに森の離宮と呼ばれるだけあって空気が澄んでおり、とても心地よい。知らず、凪はホッと息をついていた。「しかし、今更ですが私も連れてきていただいてよかっ
あなたは良いのか、と書類を渡してきた兄に問いかければ、彼は小さく笑って頷いた。〝私だと、離宮を無人のまま放置して駄目にしてしまうから、サーミフが持っていてくれた方が母も離宮も喜ぶだろう。それに私は長男だからね。母上の形見はたくさんいただいている。ゆえに、離宮を渡してやっとお前と同等だ〟だから遠慮はしなくて良いと言った兄に、サーミフはそれ以上を言うことなく素直に受け取ることにした。それに、この離宮は夫人であった母が使用していたのだ。新たに手を加えずとも十分なほど警備が完璧に行える設計となっ
森の離宮と呼ばれるものが宮殿からほんの少しだけ離れた場所に存在する。本来の名前はもっと長いものであったが、長すぎるため森の中にいるような空気の美しい建物から森の離宮と皆が呼ぶようになった。決して森の中にあるからではない。ここはサーミフの母が宮殿の生活に疲れた際に使用していた離宮で、建物も庭も調度品のひとつひとつですら、ゆったりと過ごせるよう吟味に吟味を重ねられている。落ち着いて過ごす、それを目的とした離宮は母が自分の金で建てたので、王室が持つ離宮には珍しく、所有権は母にあった。本来であれば
たった一瞬の、美しき光景。だがそれを受け止め切ることが今はできない。だが止めろと言って止めるようであれば扉の前に兵を配置する必要もなかったし、知れば凪はもっと自分を責めるだろう。(やはり無理だな)ここは母がサーミフのために作った居場所。だが、凪にとって安らげる場所ではない。だから――。「ナギ、私は少し宮殿を離れる。ナギも来なさい」お前は私の側仕えなのだから。目を塞いだまま、言い聞かせるように耳元で告げる。ピクリと反応した凪は命令だと思ったのだろう。呼吸を荒げたまま、しかし、はい
(幾度――)――幾度、言葉を呑み込んだのだろう。こんな状態でさえ、表に己を出し切ることのできないその慣れてしまった姿が痛々しい。そんなことを思っているうちに、気づけば手が動いていた。「見なくていい」そっと、後ろから凪の瞳を手で覆い隠す。ピクリと凪の肩が跳ねたが、サーミフは止まることをあえてせず、抱え込むようにして目隠しした手をそのままに抱き寄せた。「見たくないものは、見なくていい」窓の向こうには、小さくなったものの未だに親子の姿が見える。どうみても美しい、穏やかな光景だ。それがい
どうも皆さん、おこんにち羽〜( ̄▽ ̄)唐揚げの衣がべちゃっとなりがちな一羽です🪶なんでやろ??さて、毎週土曜日の夜に載せているオリジナル小説『ヒカリノハコ』前回の『そらくじら』『あつまり?』『ゆーびん』『きこー』『くさ』『ぎゃくにね!』『ぱーりれいん』『ちょっとがあつまって』『なんでなんでらっこ』『うーんとうえむきに』『ふわふわ』『…ameblo.jp下絵です(^^)/下書きがだいぶ減っている(笑)その分早く作業が進んでいる…と、思います( ̄▽ ̄;)もう何年もやっているのに、
13:さてさて。なんとかかんとか騒動も収まったひなたたちの花見の席。まあいじられキレた当事者のひなたと唯よりも、由自とひかるが終始ゲラゲラ笑っていてくれたのが何よりだったのと、ソフトボール部キャプテン忍と縁の下の力持ちの遊歩の尽力もあったのだけれど、「ほらほら。腹減ったから、みんなご飯食べようか」クーラーボックスを掲げた名奉行(?)の早のこの一言で無事一件落着したのだったり。故郷の名物を持参したひなた。ひなたの分
「ナギ?」急に黙り込んでしまった凪にサーミフは視線を向ける。何かを言わなければと思い、凪は探すように視線を彷徨わせた。そしてたまたま窓の外を見て、無言のままに目を見開く。「…………」どうしてか、唇が震えた。吐息さえ音にならない。「ナギ?」どうしたのかとサーミフは同じように凪が視線を向ける先を見た。そしてハッとする。窓の外には、少女の後ろ姿があった。先程まで扉の前で駄々をこねていた彼女の、柔らかで小さい手はどちらもしっかりと繋がれている。片方は優しい笑みを浮かべた母に。もう
桃太郎でも金太郎でもない。梅から生まれたのは、陰陽師の梅太郎だった。新車の交通安全祈願で神社に行き、ひとつの梅の実を拾った後藤銀次。その日の夜、自宅にいたのは「梅太郎」と名乗る、狩衣姿のイケメン陰陽師だった。「あなたは命の恩人です。恩返しがしたい」帰る場所もない梅太郎は銀次の家に居候することに。現代の元ヤンの銀次と200年前の陰陽師・梅太郎のでこぼこコンビが繰り広げる笑いあり、ときどきシリアスありの現代陰陽コメディ。【梅太郎の恩返し】カクヨムにて公開しました♪※コンテ
「あぁ、解けていたのか。ありがとう」生まれた時から王族であるサーミフは慣れてはいるものの、やはり本人の性格としては面倒なのだろう。美しく結ばれた紐をチラと見やって面倒そうに目を細める。ほんの微かな変化で、ともすれば怒っているようにも見えるそれがどんな心境を表すのか、凪は考えずとも理解できる。この方は有能で、けれど私生活では少し子供っぽいのだ。クスリと、気づけば凪は小さく笑っていた。「……そう笑うこともないだろう」言って、サーミフはフイと顔を背ける。凪がサーミフの表情を読み取れるように、
「歩いては駄目だと言われているだけで、身体はもうずいぶんと良いんです。熱も出ていません」歩いては駄目だと言われている時点で身体は良いとは言わないと思いつつ、サーミフはふとヒバリを前にしたウォルメン閣下を思い出して、否定も何もせず、ただ「そうか」とだけ呟いた。「殿下はもう食事は終えられましたか?」主人の前で食事はできない。そう思って凪がスプーンを置き、サーミフに向き直る。その姿に苦笑しながらサーミフはひとつ頷いた。「ああ、軽く済ませてきた。この後会議があるが、それまで時間があるからな。