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◆D51、峠へ森下がパワーパックのツマミを回すと、D51の牽く混合列車は汽笛を鳴らし、ドラフト音を響かせて動き出した。ゆっくりとホームから離れ、出発信号機を赤く変えて進んで行く。重量感があるのだろう、列車からは「カタン、カタン」とポイントを渡る音が響き、カンタムサウンドと良く溶け合う。列車は、右にカーブしながら勾配をゆっくりと登り、トンネルの中へ吸い込まれるように消えていく。トンネルの中からは、D51のブラスト音がこもって聞こえ、より実感的になる。レイアウトの中
◆地面派の真打ち登場「――そうだ、いい機会だな」レイアウトの端に腰を下ろしていた森下が、ふと顔を上げた。何かを思いついたとき特有の、あの穏やかな笑みだった。「ここに一本、留置線があるだろう」そういって指さしたのは、まだ地面処理の施されていない一角だった。コルク道床の上に敷かれたフレキシブルレールは、バラストも撒かれておらず、いかにも“これから”という表情をしている。「佐橋くん。ここに、バラストを撒いてごらん」あまりに唐突な指名に、奈葉は一瞬、言葉を失
◆工作机に灯る白い光森下はゆっくりと椅子に腰を下ろし、工作机の脇にあるLEDスタンドに手を伸ばした。スイッチを入れると、白い光が机の上を一気に照らし出す。刃先の異なるヤスリ、使い込まれた大小のドライバー、並べられた工具たちが、きらりと輝くように見えた。奈葉は思わず息を呑む。(……きれいだ)それは「整っている」という意味ではなかった。机の上に並ぶ工具は、どれも新品ではない。角は丸く、柄には微かな傷があり、触れられてきた時間だけが、確かにそこに残っていた。◆
◆模型店から始まる、小さな出会いの物語佐橋奈葉、27歳。商品開発部門で働く彼女には、仕事の疲れをそっと癒してくれる趣味があった。それが鉄道模型──精密な車両が静かに走る、小さな世界だ。土曜日の午後。奈葉は住宅街の一角にある古い模型店の前で足を止める。ガラス越しに見えるショーケースには、Nゲージの車両や細かなパーツがぎっしり。ここは奈葉が“模型の駆け込み寺”と頼りにしている店だった。手にした小さなメモには、どうしてもうまくいかないレイアウトの悩みが並んでいる。曲線の
◆拍手のあとで奈葉が、モジュールレイアウトの説明を終えると、会議室からは思いもしなかった大きな拍手が広がる。彼女が軽く一礼して座ると、相原はそれを確認してから、卓上のマイクを手にする。「佐橋さん、ご説明ありがとうございました。完成したモジュールを拝見できるのを、皆さんと同じく楽しみにしています」◆次の例会と、ひとつ先の未来一拍置き、事務的な口調に戻る。「では最後に、来年の公開運転会の予定についてお知らせします。毎年1月に行ってきた新春公開運転会
佐橋奈葉は27歳。このブログの主人公だ。大学を卒業後、大手町にある企業の商品開発部門に就職。入社から5年が経ち、仕事には少しずつやりがいを感じるようになっていた。細かい作業や企画の試行錯誤も苦にならず、むしろ「自分らしいアイデアが形になる瞬間」が好きだった。そんな奈葉には、ひとつの大切な趣味がある。それが鉄道模型だ。鉄道模型は一般的には男性の趣味と思われがちだが、女性の場合は「テツモ女子」と呼ばれることもある。奈葉自身はそんな呼び名にはこだわらず、純粋に鉄道模型の世界に
◆クラブ代表との初対面鉄道模型クラブ「レイルフレンズ」の代表を務める森下鉄平が、ゆったりとした足取りで奈葉の前に現れた。「こんにちは、佐橋奈葉さん。我が『レイルフレンズ』の入会を歓迎するよ」白髪がちらほらと混じる髪はきちんと整えられ、深い笑いジワと、落ち着いた低めの声にはどこか柔らかさがあり、初めて会う奈葉に自然な安心感を与えた。「こんにちは、佐橋奈葉です。こちらこそよろしくお願いします」「君のことは、山城模型の店長から聞いていたよ。ウチでは自己申請だけじゃ入会
先日紹介しました山梨県立科学館で開催された企画展「小さな世界で大発見!ミニチュアサイエンス」でのクラブの運転会。今回はそこの参加車両たちを紹介します。マニア向けのイベントと異なり「一般ギャラリーからのリクエストに応えた編成の選択」が多く、イベントの性格に合わせた車両や編成を使うなどの加減が多かったのが今回の運転会の特徴だったと思います。もちろん、各メンバー拘りの編成も疾走する訳ですが。新幹線関連のリクエストが多くなるのはイベントの性格上予測されており、E5系、E6系、N700な
ずーっと記事にしてなかったんですが、ブログのトップが怪文書なのも嫌だなーと思って記事書きます、ちーずです。さて、実はわたくしちーず、先月9月28日に、8年ぶりとなるプラレール運転会を主催しました。…と、いいましても、自分は数年ほどプラレールの世界から遠ざかっていた身。なのになぜ、いろいろすっ飛ばして復帰後いきなり運転会を主催するなどという暴挙、もとい茨の道を歩み始めたかといいますと、今年の7月に、プラレールから東武8000系が製品化されたことがきっかけでした。
◆時を告げる柱時計森下は、壁に掛かった柱時計にちらりと目をやった。秒針が一周し、静かな音を立てて次の時間を刻む。「もう、こんな時間か」そういってから、卓を囲む4人の顔を見渡した。「みんな、寿司もひととおり食べ終えたようだな。――では、お待ちかねだ。レイアウトの紹介をしよう」その言葉に、空気が少し引き締まる。「はい」奈葉は背筋を伸ばし、座り直した。「お寿司も本当に美味しかったですが……代表のHOゲージレイアウトのお話、ずっと楽しみにしていまし