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汽車は、夜の大地を切り裂くように走っていた。ピッツバーグを離れ、ニューヨークに戻る特別列車。客車の窓には、街の灯が流星のように流れていく。テリィは、座席に深く腰を沈めたまま、ほとんど外の景色を見ていなかった。頭の中にあるのは、二週間前のあの夜の庭園。ベンチ。夜風。そして、キャンディの、あの一瞬の表情。「……幸せなのか?」自分が投げた問い。そして返ってきた答え。「ええ……私は……幸せよ」その言葉が、どうしても胸の奥で引っかかって離れなかった。嘘だ、と決めつけるつもりはない。
最初に気づいたのは、ほんの些細な変化だった。通院の帰り。いつもなら、テリィが自然に前に出て、タクシーを止めてくれる。けれどその日、スザナは自分で手を挙げた。「……あ、私が呼ぶわ」そう言った瞬間、彼の動きが、ほんの一瞬止まったのをスザナは見逃さなかった。そして、彼は何も言わずに頷いた。胸の奥で、小さく音がした。——何かが、違う気がする?気のせい?スザナは、もう以前の自分ではない。義足の扱いにも慣れ、階段も、買い物も、時間をかければ一人でできる。仕事もある。ラジオ局でのナレ
開演を告げるベルが、静かに三度鳴った。客席のざわめきが、ゆっくりと沈んでいく。赤い幕の奥、薄暗い舞台袖で、テリィは一人、目を閉じていた。(……集中しろ)いつものことだ。ロングラン公演の途中、体も声も、すでに役を覚えている。なのに、その夜だけは、心のどこかが、わずかに噛み合っていなかった。幕が上がる。城の石壁を模した舞台装置。冷たい照明。重く澱んだ空気。ハムレットとして一歩踏み出した瞬間、テリィは、いつもと同じはずの台詞を、ほんの一拍、遅れて口にした。誰も気づかないほどの、
十二月の夜。ブロードウェイの灯が雪に霞んで見えた。街はクリスマスを待ちわびる人々で賑わっている。その喧騒から少し離れた静かな家。テリィは稽古を終えて帰ると、そっと玄関の扉を開けた。「……寝たかな」声を潜めながら、靴を脱ぐ。リビングには、暖炉の火がやわらかく揺れていた。ソファには毛布をかけたキャンディ。膝の上には、銀紙で包まれた小さな箱。彼女は眠っている――と思ったその瞬間、ぱちりと目が合った。「……おかえり」「起きてたのか」「待ってたの。あなたに渡したいものがあって」
この物語は、ある一曲の歌からインスパイアされて生まれたお話。そしてもうひとつ――ファイナルストーリー(FS)に登場する、テリィからキャンディへ宛てた手紙「あれから一年」の中にある【あれから】という言葉を、「もしかしたら、こんな夜が【あれから】なのではないか」と、私なりに解釈して描いたエピソードでもあります。本来は、こちらのお話が“本命”でした。ただ、本編で描いたエピソードは、さまざまな可能性がある中で、どうしても『ToU』という曲を使いたくて書いたお話でもありまして……(てへ
シカゴから戻った翌朝、村はいつもと同じ顔をしていた。朝霧が低くたれ込み、牧草地の向こうで鶏が鳴く。ポニーの家の教会の鐘は、変わらず同じ時刻に鳴った。それなのにキャンディだけが、世界とほんの少しずれていた。ハッピー・マーチン診療所。消毒薬の匂い。白衣の擦れる音。患者を呼びこむ声。すべてが慣れ親しんだはずなのに、彼女の意識は、何度も遠のいた。包帯を巻きながら、手元が止まる。薬瓶を戻そうとして、違う棚に置きかける。カルテの文字を、間違える。「……キャンディ?どうかしたの?」同僚の
こんにちは🩷とってもとっても遅くなってしまいましたが、永遠のジュリエットvol.39をお届けします。↓永遠のジュリエットvol.39〈キャンディキャンディ二次小説〉|キャンディキャンディ二次小説『永遠のジュリエット』「遅かったのね、テリィ」真夜中をかなり過ぎた頃。チャリティーパーティーから戻ったテリュースがマーロウ邸のガレージに車www.candycandy.site前回から長いことあいてしまったので、前のお話も貼り付けておきます🩷↓永遠のジュリエットvol.38〈キャンデ
テリィが来客で呼ばれ、部屋を出て階下へ行った。一人になったキャンディは、あらためて宝石箱を机の上に置いた。象嵌細工の蓋を開ける。中は空だ。内側も見事な装飾が施されている。高価な代物であることがよくわかる。指先で内側の複雑に合わされた模様をなぞったとき、底に、ほんのわずかな引っかかりを感じた。「……?」それは爪でつまめ、そして、そっと持ち上げると、音もなく、底板が外れた。なにかが入っている。なんと、そこにあったのは、一枚の写真だった。「テリィ?」幼いテリィと、公爵、そしてエレ
会場に足を踏み入れた瞬間、空気が少しだけ重く感じられた。遅れて到着した、からではない。音楽は流れ、グラスの音も、笑い声も、予定通りにそこにある。それなのに、どこか違和感がある。名代として立っているはずの場所に、彼女の姿が見当たらない。(……おかしいな)彼女は、緊張はしても、責任を放り出すことはない。気分が悪いなら、必ず誰かに伝える。「ミス・キャンディスは?」近くのスタッフに声をかけると、少し慌てた表情で答えが返ってきた。「はいっ!少し……気分が優れないとのことでして、席を外され
団長ロバートは、早朝の劇場にひとり佇んでいた。舞台上には、まだ昨夜のオーディションの気配が残っている。床に落ちたチョークの粉、動かされなかった椅子、閉じきらない暗幕。それらはすべて、決断が先延ばしにされてきた痕跡のようだった。ロバートは、客席の中央に立ち、舞台を見上げる。(ハムレット)十年ぶりの再演は、それだけでも重い。だが、今回は、それ以上に主演の選択が劇団の行く先を決める。「来ていたのか」背後から足音がした。振り返るとブライアンだっ
ポニーの家のキャンディの部屋をイメージSONNETの目次∻☆…∻☆・アナウンス&ひとりごつですダウン中突然38.5℃の熱が出てダウン中です熱から頭痛が酷くなり「解熱剤が欲しい…」と旦那さんに訴えたらさくッと出てきたバファリン。ホントはウイルスと闘う必要があるんだろうけど💦早くラクになりたくて服用。熱はその日の内に落ちついてきたのですが入れ替わるように強烈な喉の痛み「喉が〜」と訴えるやいなや旦那さんはどこからか出してくるのど飴と喉スプ
《11月28日は、名木田先生のお誕生日です。先生への敬意を込めて、このお話を書きました。》夜更けのペントハウス。結婚して、まだ日も浅い。だけど、この時間の流れは、どれほど味わっても胸の奥がいっぱいになる。キャンディは、隣に眠るテリィの横顔をそっと覗き込んだ。長いまつげ。呼吸の静かなリズム。胸の上下のゆるやかな動き。灯りに照らされたその横顔は、まるで夢の中の人のように見えた。(……本当に、私…)声にならない呟きが、唇の奥でほどける。本当に、このひとと結婚したんだ。このひと