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数日後の午後、診療所に一束の新聞が届いた。町の雑貨屋が、まとめて仕入れている地方紙だ。マーチン医師が無造作に机の端へ置いたそれを、キャンディは何気なく受け取り、待合室のラックにしまおうとした。――そのときだった。視界の端に、写真が入り込んだ。一瞬。本当に、ほんの一瞬。黒い見出し。舞台照明の下に立つ、よく知った横顔。《テリュース・グレアム、『ハムレット』、今季最高の評価》《劇団を背負う主演俳優は、今年もブロードウェイの顔に》キャンディの指が、止まった。(……だめ)そう思ったの
開演を告げるベルが、静かに三度鳴った。客席のざわめきが、ゆっくりと沈んでいく。赤い幕の奥、薄暗い舞台袖で、テリィは一人、目を閉じていた。(……集中しろ)いつものことだ。ロングラン公演の途中、体も声も、すでに役を覚えている。なのに、その夜だけは、心のどこかが、わずかに噛み合っていなかった。幕が上がる。城の石壁を模した舞台装置。冷たい照明。重く澱んだ空気。ハムレットとして一歩踏み出した瞬間、テリィは、いつもと同じはずの台詞を、ほんの一拍、遅れて口にした。誰も気づかないほどの、
シカゴから戻った翌朝、村はいつもと同じ顔をしていた。朝霧が低くたれ込み、牧草地の向こうで鶏が鳴く。ポニーの家の教会の鐘は、変わらず同じ時刻に鳴った。それなのにキャンディだけが、世界とほんの少しずれていた。ハッピー・マーチン診療所。消毒薬の匂い。白衣の擦れる音。患者を呼びこむ声。すべてが慣れ親しんだはずなのに、彼女の意識は、何度も遠のいた。包帯を巻きながら、手元が止まる。薬瓶を戻そうとして、違う棚に置きかける。カルテの文字を、間違える。「……キャンディ?どうかしたの?」同僚の
会場に足を踏み入れた瞬間、空気が少しだけ重く感じられた。遅れて到着した、からではない。音楽は流れ、グラスの音も、笑い声も、予定通りにそこにある。それなのに、どこか違和感がある。名代として立っているはずの場所に、彼女の姿が見当たらない。(……おかしいな)彼女は、緊張はしても、責任を放り出すことはない。気分が悪いなら、必ず誰かに伝える。「ミス・キャンディスは?」近くのスタッフに声をかけると、少し慌てた表情で答えが返ってきた。「はいっ!少し……気分が優れないとのことでして、席を外され
キャンディ・キャンディ海外2次小説を読むにつれて、登場人物の名前に興味が出てくるのだが、Candiceって、そもそもどこの国の名前なんだろう?ゲール語、アイルランド辺りかな?と思って調べてみた。実は…ラテン、ギリシャ語語源だった様です。以下のサイトの内容は面白かったの、ぜひ読んでみて下さい。USの話で、英語ですが、日本語訳で読めます。CandiceNameMeaning,Origin,History,AndPopularityこの記事の中に、Candiceisa
テリィが来客で呼ばれ、部屋を出て階下へ行った。一人になったキャンディは、あらためて宝石箱を机の上に置いた。象嵌細工の蓋を開ける。中は空だ。内側も見事な装飾が施されている。高価な代物であることがよくわかる。指先で内側の複雑に合わされた模様をなぞったとき、底に、ほんのわずかな引っかかりを感じた。「……?」それは爪でつまめ、そして、そっと持ち上げると、音もなく、底板が外れた。なにかが入っている。なんと、そこにあったのは、一枚の写真だった。「テリィ?」幼いテリィと、公爵、そしてエレ
シカゴの夜は深く、重たかった。摩天楼の隙間を縫う風が、湖からの冷たい匂いを運んでくる。アードレー財団主催の記念パーティー。会場となったホテルの大広間では、シカゴ財界の名士たちが集い、音楽とグラスの音が静かに溶け合っていた。キャンディは、緊張した面持ちで立っていた。アードレー家総長のアルバートの名代として、財界人たちと挨拶を交わすためだ。「アードレー総長は……?」「遅れております。代わりに私が──」明るく答えてはいたが、胸の奥ではこんな場に私が立っていいのだろうかという迷いが渦巻いて
こんにちは🩷とってもとっても遅くなってしまいましたが、永遠のジュリエットvol.39をお届けします。↓永遠のジュリエットvol.39〈キャンディキャンディ二次小説〉|キャンディキャンディ二次小説『永遠のジュリエット』「遅かったのね、テリィ」真夜中をかなり過ぎた頃。チャリティーパーティーから戻ったテリュースがマーロウ邸のガレージに車www.candycandy.site前回から長いことあいてしまったので、前のお話も貼り付けておきます🩷↓永遠のジュリエットvol.38〈キャンデ