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都心の夜は、夏の湿気を抱え込んでいた。時刻は午後10時過ぎ。渋谷から電車で20分ほど離れた駅前の再開発エリアに、一棟だけ取り残されたような古びたオフィスビルがあった。その非常階段の陰に、二人の刑事が潜んでいた。「……来ると思う?」櫻井が声を潜めて問う。彼の手には、署支給の小型タブレット。表示されたGPSデータには、ターゲットの足取りが記録されていた。「……来る。あいつは、自分から会いに来る」大野は短く答え、視線を建物の裏手に向けた。この場所は、被害者・熊田広高と容疑者・林邦夫
雨音に溶ける、八角の香り朝から降り続く雨が、窓ガラスを執拗に叩いている。潤は予定していたジムをキャンセルし、リビングで持ち帰っていた仕事を片付けていた。社畜の性は休日も抜けない。一方、智はさらに停滞していた。リビングのラグの上に寝転がり、ぼーっと窓の外の雨空を見上げている。「……潤くん、はらへったぁ」「……昼飯食ってから2時間しか経ってないけど」「雨の日は、はらが減るんだよ。……なんかこってりしたやつ、食べたい」智は寝転んだまま、潤の足を足の甲で軽く小突いた。潤は溜息をつき、ノートパ