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嵐寛寿郎の鞍馬天狗、などといっても、ほとんどの人がピンとこないだろう。もちろん検索すればすぐに出てくるが、あの不世出の剣劇大スターへの強い想いが共有できないのは、本当に残念だ。『鞍馬天狗のおじさんは聞書・嵐寛寿郎一代』(竹中労著・白河書院)をお読みくださってもいいが、実際に共演した私の話しも、是非聞いていただきたい。人呼んで、“アラカン”。後世に、ぜひ残しておきたい人だ。昔、松島トモ子といえば「鞍馬天狗」の杉作役を思い浮かべる人が実に多かった。杉作役は私のトレード・マークになってい
「嵐寛寿郎さんが亡くなられたのをご存知ですか」訃報は新聞社の記者から入った。1980年10月21日夜のことだった。あまりにもあっさりと、この世から消えてしまったアラカンさん。その人への思いが深く、心の整理もつかないままに、お葬式の前日、私はアラカンさんの京都の家を訪ねた。ひとりで行くことにした。阪急電車を大宮から桂で乗り換え、嵐山で降りた。紅葉が澄んだ空に映え、観光客の往来も多かった。タクシーを拾って、番地を頼りに家を探したが見つからない。嵐山駅に戻り、近所のお菓子屋さんのお年
晩年のアラカンさんは、過剰サービスと思えるほど、どんな番組にも気軽に出演していた。テレビのコントの中で、あの栄光の鞍馬天狗の扮装で登場し、栄光の時代を知る私などには見るに忍びない芝居を平気で演じていた。もっとも、ご当人は結構楽しそうではあったのだが……下手な切られ役がバーッと駆け寄り、勝手にワーッと死んで、アラカンはヨロヨロと仁王立ち。あれはお正月の特別番組の時だった。若い売れっ子スターのために、散々待たされ、アラカンさんの出番が深夜になってしまった。老人のアラカンさんは疲労と眠気の