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奥様のご出産が近い。毎日、今日ではないか、今日こそは、と思って過ごしている。私だけではない、旦那様も奥様も、ウォンスク様…チェ尚宮様も。チェ家に仕える者、関わる者、皆がそう思って——その日の夜半、旦那様から奥様が痛みを訴えられている、と、お知らせをいただいた。非礼をことわり、ソニと共にご寝所へ入らせていただくと、陣痛が始まったようだ、と、ご自分で脈を診ながら奥様がおっしゃる。その奥様を後ろからお支えしながらも、落ち着きのない旦那様……いざその時が近づいてきた、と、さすがの旦那様も狼狽え
迂達赤兵舎に居た俺の所へ、飛び込んできたイムジャ急変の知らせ……聞いた瞬間、焼きついたように目の前が真っ白になって——我知らず、隣に居たチュンソクへ目を遣ると、「お早く、大護軍!」その強い言葉に押され、俺は、何の断りも入れず駆け出していた。知らせにきた家の者も置き去り、ひとりチュホンに跨って、ひたすら駆けた。——先程まで共に坤成殿(コンソンデン)で、王様と王妃様にタムを目通りさせて……「タムと先に戻ってるわ。貴方も早く帰って来てね」そう言って、笑顔で手を振り、俺を送り出してくれたイ
あれ程きつかった悪阻が、嘘のように落ち着いて……私は、戻ってきた食欲と闘う日々を送っていた。もともと、スンオクやソニの作ってくれるご飯は美味しい。王妃様や叔母様からいただくお菓子も美味しいし、マンボ姐さんの差し入れもとびっきりで。何より、私が食べられるようになったのを、ヨンが喜んで喜んで……毎日のようにお土産片手に帰ってくるから——「ヤバイわ……」「やばい?」チェ家でのランチタイム。横で給仕をしてくれているソニが、小首を傾げている。ソニはとても好奇心旺盛で、私がつい漏らす天界語にいつ
ヨンヒョンと医仙様にお子が出来たって——嬉しい知らせを言付かって、オレは大急ぎでチェ家を訪ねた。安州(アンジュ)での軍事訓練を終え、トクマンさん達が帰京するのに合わせて、オレも同行させてもらい都へ来て……普段は禁軍の兵舎で寝泊まりしているけど、チェ家にお世話になる事もしばしば。チェ尚宮様やヨンヒョン、医仙様も、「ドンジュは身内同然だから」と言ってくださって……用人の皆さんも親切で、チェ家の方々には、本当によくしてもらっている。今日も、ギチョンさんが、「おぅ、ドンジュャ。どうした?そんなに
迂達赤兵舎に戻ったヨン予想通り若い迂達赤らはヨンを見るや何か言いたそうなニヤついた顔を見せた「なんだ」「はい先ほど奥方様がお越しでした」「ああ」「噂ではなく実際にとてもお美しい方だと事実確認できました」ヨンはふっと薄く笑った「そうか」「とても明るいお方でした」「ああ」「とてもよい香りをされていました」「なに?!なぜそんなことがわかるのだ」「奥方様が通られた後の残り
チェ・ヨンは近くの村の客棧へとウンスを連れて行った。ヨンは店に入るなり店主に一言二言告げると、勝手知ったるというようにウンスの手を引き、店の奥へと誘った。聞けばこの宿はスリバンが営んでいる宿屋のようだ。母屋から中庭に出てると、回廊があり、その先は別の建物へ繋がっている。中庭には色とりどりの花が咲き誇っており、その中には黄色い小菊の群もあった。ウンスはふと足を止めて、しばしその光景に見入った。そんなウンスの気配を感じてヨンも足を止め、ウンスの視線の先を見る。「綺麗ね」「気に
ウンスが迂達赤兵舎に向かっている頃ヨンはテマンを供に久々に市を通り抜けチェ尚宮に呼び出された店へと向かっていた市井の人々はチェ・ヨン将軍を見かけると気の毒そうな視線を向けたというのもマンボを筆頭に手裏房らによる情報操作でキム家との縁談など虚言だと徐々に民たちに浸透してきたからだ家人不在のチェ家の屋敷に度々賛成事の娘が無断で入り込み数年もの間チェ家に執拗に付き纏い今や奥方のように振る舞いだしてとうとう気が違ったようだチェヨン将軍が拒否したに
化粧水や石鹸作りが終わるとウンスはヨンから贈られた硯箱をだして紙問屋で購入した大中小のそれぞれの紙でカレンダーを作り始めた国境で一月分作っていたのをベースにとりあえず年末までの分を自分用には算用数字で周りに渡す分は漢数字でそれぞれ作り大きい一部をマンボ姐に渡して暦の見方を説明した「これは天界の暦よとりあえず天界の年末までを作ったわここが秋夕よ旧暦の…高麗の八月十五日ね秋夕から十六日で今日はここ私がこの高麗に戻ってきて十八日目だわ
村長の屋敷に着き直ぐさま作戦は開始されたジホとシウルが庭に忍び込み混乱しないよう先んじて村人の縄を解きながらもう直ぐ助けが来ると伝えて落ち着かせたヨンや迂達赤らが突入しあちこちで怒号や悲鳴が上がる中一人二人と門から出てきた村人を役人やペクが誘導して保護し怪我人がいないかウンスが確認していく賊から殴られたり拘束痕が残る者はいたが幸い大きな怪我人はいなかった幼子を抱いたジホやシウルも出てきたがまだ迂達赤は誰も外へ出てこない
そう言えば、って、後から気づく事っていろいろあるけど——妊娠もそのひとつだったわ。妊活を始めてから、王妃様の事はもちろん、自分の体調も気にかけていたのに。脈だって、毎日自分でも診てたし。生理は……もともと不規則だったから、ちょっと自信無くて。来ない……あ、来たわ。出来てなかったのね……来ないな。ん?本当に来ないな……アレ?……て、感じだったわ。だから、もしかして…と思ってた時に、滑脈があった気がしたから——でも、自分では確信が持てなくて、ヨンにはすぐ言えなかった。とにかく、
予定通り白州の宿に入った一行元気のないウンスが心配なヨンは旅の疲れを取るためにも風呂好きのウンスに温泉をすすめたウンスはジウォンを誘い温泉に入ることにしたがジウォンはかなり緊張していた「ジウォナ温泉は初めてなの?」「いいえオンニ大人になってから誰かと一緒に湯に入るのが初めてなのだから恥ずかしいわ」「そうなのね私は此処に来る前にいたところで小さい子たちを湯に入れてたけどそういえば大人とゆっくり入るのは
「〝医仙〟無事帰還の知らせ余も安堵した大護軍チェヨンよまことに大儀であったなんなりと褒美を申せ」宣仁殿で王の前に跪き帰還の挨拶をしたヨンの耳に信じられない王の言葉が聞こえ重臣たちにも動揺が広がった「王様〜大護軍と共に参った女人はまことにあの医仙でございますか?」重臣の一人が問うた「そうじゃ天はこの高麗に再び天人を遣わせてくださったのじゃ」チェ・ヨンの開京到着の喜びは一瞬で消え去りウンス
木々の緑も鮮やかな、新芽の芽吹く季節になった。タムがこの世に少しだけ慣れて、私もオンマ業に少〜し慣れた頃。夜中に泣いて起きる事が、ほぼ無くなったタム。おかげで私も、朝までしっかり眠れるようになっていた。(有り難いわ〜)そこで、タムのベッドを子ども部屋から夫婦の寝室へ移し、夜も親子3人で過ごすようになってしばらく。…ふ、と目を覚ますと、じっ…と、タムのベッドを覗き込んでいる人が——「お帰りなさい、ヨンァ。いつ戻ったの?」私は寝ぼけ眼を擦りながら、帰宅した夫の側へ寄った。「少し前
ヨンからの熱烈な口づけにうっとり溶ろけて身を預けるウンスをがっちり抱きしめそのまま寝台に引き込もうとしたヨンだがそんな思惑に気付かぬウンスは口づけの合間にヨンに訊いた「ねえヨンア夕餉は食べたの?」「いいえまだですが…夕餉よりイムジャが欲しい」「もうバカねマンボ姐さんがたくさん届けてくれてるのよ」ウンスの気が夕餉に向いてしまい内心ヨンは舌打ちしながら尋ねた「イムジャは腹が減っておるのですか?」「私はもう
——この暑さに当てられたのだろう。軽くて幸いだったが無理は禁物だ。奥様もお忙しいだろうが、ゆっくり休養も取っていただくように——お医者の先生は、そう言って帰って行った。はぁーー……それを見送り、門前で深く下げていた頭を上げながら、おれは大きく息を吐いた。気を失った奥様が、あの大きな…旦那様の昔馴染みだという…ヒジェさんに抱えられて運ばれてきたのを見た時はもう……こっちの心の臓がどうにかなるかと思ったもんだ。いつもはお日さまみたいな奥様が、真っ白い紙みたいなお顔で……今朝がたは、旦那様と
「オイッ、ウンス!医仙っ、大丈夫か??」目の前の大きな人が、奥様を抱き止めて、大きな声をかけている。「ん……大丈夫、大丈夫……」「何が大丈夫だよ、全っ然大丈夫くねぇだろがっ!」奥様が道に倒れなかった事と、か細くもお声が聞こえた事に安堵して、私は情けなくも、その場にへたり込んでしまった。「おい、テマナ。どうしたってんだよ、これぁ」「そ、それが、買い物に来てて、急にふらふらっ、と……」え?この人、テマンの知り合い??ああ、今はそんなことよりも——「あっ、あのっ、奥様は、」私が
イムジャと婚儀を挙げ、俺達は正式に夫婦となった。婚儀を挙げる前から夫婦同然に暮らし、妻だ妻だと公言してはいたが……やはり、他の誰のものでもない、この方は俺の奥だと、胸を張って言えるのは嬉しい。「——チェ大護軍は、嫁取りをしてから弛んでおるのではないか?注視すべきは、妻の顔色より元国の顔色だろう」……嬉しいが、そこへ何かと難癖つけたい輩もいるもの——「キム上護軍(サホグン)。私に何か手落ちでも?」「手落ちがあってからでは遅い、と言う事よ、チェ大護軍。其方の腑抜け様に当てられて、皆の士気が
宣仁殿(ソニンデン)から出ると、コモが、いつもの無愛想に、やや不安を貼り付けた顔で待っていた。「どうであった?無事遣りおおせたか?」俺とイムジャ、そして、先に出て行った左政丞(チャジョンスン)達を、目で追いながらコモが言う。「ああ。無事済んだ」そして、俺が言うのと、イムジャの親指を立てる謎の仕草を見て、はあぁーーー……と、大きく息を吐いた。「良かった。此処に居ても中の様子はわからぬ故……途中、何やらどよめいていたが、何があった?」「あっ…大した事じゃありません。大丈夫です!」「……
今日も戻りが遅くなってしまった……俺は、既に薄灯りの寝所へ音も無く入ると、ぐっすり寝入っているイムジャの…額にかかる絹のような髪を、そっと撫でつけた。そしてすぐ側の、べびーべっどで静かに寝息を立てている息子の傍に立ち、その微かに聞こえる呼吸の、心地よい反復音に耳を澄ます。……何とも愛らしいことだ。我が子とは、このように愛おしいものか。聞いていた話ではあったが、まさかこれほどとは——己れの子というだけでなく、最愛の女人(ひと)との間に授かった子だ。タムは俺とイムジャの……違う刻を生き
「私に向けても何か言っていただきたかったですが…」カンファレンスがお開きになるとチャン・ジンが少し拗ねたような口調でウンスに話しかけた「やだわジン先生からかわないでください私がカンファレンスで自由に話せるのは何かあればジン先生が助け舟を出したり軌道修正してちゃんと導いてくださるってわかってるからですそれに私が話したことなんて先生はとっくにご存知のことばかりだったでしょう?」「とんでもありませんとても勉強に
「旦那様お待ちしておりました」やっとヨンと二人きりになれてミンソは満面の笑みでヨンに話しかけた「何故此処に?其方が屋敷に入ること許した覚えはない」ヨンは明らかに怒りを含んだ口調で告げたがミンソは上目遣いで甘えるようにヨンに答えた「どうしても旦那様のお顔を見たくて父について参りました」ミンソとは真逆に眉間に皺を寄せ露骨に不快な表情を浮かべたヨンこの女人と同じ部屋にいるのは耐えられん胸くそ悪くて吐き気が
王妃にセレブ化粧水を渡そうと坤成殿を訪れたウンスは王妃が康安殿にいる事を聞き出直そうかと迷っていたでもお二人揃っているところで高麗でできる不妊治療のことお話した方がいいかしらアンドチさんと叔母様にも一緒に聞いてもらった方がいいわね思い立ったらすぐに康安殿にやってきたウンスチョン宦官に取り次いでもらったのだった「王様王妃様ここまで押しかけちゃってごめんなさい…ってあらら?みなさんお揃いでなんの相談かしら?私お邪魔しち
腕の中に居るウンスの身体が大きくしなる。その後、くたりと力が抜けて、俺の首に巻きついていたウンスの腕が、パタリと布団の上に落ちた。それでも動きを止めないでいると、涙目のウンスが俺を見た。その目は、俺を捉えてはいるが焦点が定まっていないように見えた。「もう・・やだ。気持ち良すぎて辛い・・。」そんな事を言われたら、ますます止めたくなってしまう。それでも、ウンスと俺との体力の差をみたらウンスはもう限界な事はわかる。俺の気の済むまで抱いたら、ウンスの身体が持たない事もわかっ
白州の宿を出て半刻礼成江まで来ると対岸に鎧姿の一軍が見えた船で渡し一行はいよいよ開京の隣り開豊(ケプン)まで着いた「大護軍ユ医員私はここまでと致しますまたマンボのところで会いましょう」ウォンジョンは一行から外れて行ったここから満月台(マンウォルデ)まではわずか五里休憩を挟んでもあと二刻足らずで到着するだろうヨンの姿を見つけた武将が片膝をつくと軍の兵らも一斉に跪いた「高麗禁軍鷹揚軍護軍アン・ジェ鴨緑江一
ヨンは……今どんな顔してる?さっきから、抱き締められたままだから……嬉しいけど、顔が見えない。見たい。出会った頃と比べると、随分表情豊かになったヨンだけど……固まって私を見つめていた顔は、嬉しいのか驚いてるのか…多分どっちもよね…まさか、嫌では無いと思うけど——「ヨン……嬉しい?喜んでくれる?」余りにも、ハグ以降の反応が無いものだから、私は心配になって口を開いた。すると、黙って私を抱き締めていたヨンの身体が、ピクリと震え…ほんの少し、一瞬だけ震えた気がして…ヨンが腕を緩めて、私の顔を
俺とイムジャが腰掛ける真向かいに、意思の強い目をしてスンオクが座っている。その脇には、困ったような笑っているような顔で、娘のソニが立っていた。「あの……お風呂を沸かしてくれてたって?ス…スンオク」スンオクの無言の圧に耐えかねたのか、イムジャが笑みを含んで口を開く。「——はい、奥様。今日にでもお戻りになるだろうと、ウォンスク様からお知らせいただきましたので」ウォンスク……?小さく呟くイムジャの耳元に、コモの名です、と、俺は顔を寄せて囁いた。それを見て、コホン、と咳払いを寄越したスン
こんなにも日差しが眩しくなっていたのだな——大護軍とドチ達を伴い、王宮の庭園をゆっくりと歩く。大きく息を吸い込んで、じっくりと吐き出してみる……気分が良い。ゆっくり見る間もなく花の季節は終わり、新緑を覆う雨もようよう落ち着いて……暑さも感じるが、それでも水面を上がってくる風は爽やかだ。日々国事に忙殺されてい……いや、君主としては当たり前の事であるのだが……心穏やかに過ごせる時間は多くない。今日は久々に、チェ・ヨンが護衛に参った。迂達赤隊長であった頃もそうそうは無かったが、護軍、大
朝が来てウンスが目覚めた時にはすでにヨンの姿はなかったしかしこれまでと違いヨンがずっと自分と一緒に夜を過ごしていると知ったウンスは心の余裕ができたのか鼻歌まじりに朝の身支度を整えていた「ケ〜セラ〜セラ〜」気怠い体もヨンに愛された証だと思うと嬉しく感じるウンスヨンとミンソが四阿で抱擁していたことやチェ家の屋敷でミンソに言われた言葉が時折脳裏を過ったが…あの奥方には申し訳ないけどヨンは私のところに帰ってきてくれるって確かに約束し
「でワンへって誰?」ヨンや古参の迂達赤が怒りで顔色を変える中ウンスが暢気に聞いた「王譓とは徳興君のことです」ウンスの動揺を心配したヨンだったが意外にもウンスは軽く言い放った「あああのストーカーね」「すとかー?」「そうストーカー特定の人に異常な程関心を持ってしつこく付き纏う人のこと」「わあ奴にぴったりな名前だな」テマンが思わず呟くとトルベも頷いているどこに隠れていたのか
一旦坤成殿から下がり旅の疲れを落とすようチェ尚宮から勧められウンスは武閣氏宿舎で湯浴みをした用意されていた下着を身につけた時チェ尚宮がウンスに近づき衣を合わせ襟を整えたり乱れを直したり最後に腰帯を綺麗に結んで頷いたあの戯け者ウンスの首筋に仰山痕を残しおってしっかり袷を整えんと吸い付いた痕が見えてしまうわ「よかった着丈もちょうど良いだが少し痩せたか?」「ええ少しだけでもここに帰ってきたらみんな