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2区の展開は大波乱だった。トップを行くのは乃木大。西野七瀬が圧倒的な速さで2位の横浜大を引き離した。そして、人々の目を惹きつけたのが日向大の小坂菜緒だ。鶴見中継所を9番目でタスキリレーした日向大が、3位まで追い上げていた。一方で、3位だった英慶大は5位まで順位を落としていた。鶴見中継所時点で8位だった鳥居坂大の鈴本美愉もまた、4位まで順位を上げ、小坂とデットヒートを繰り広げていた。その頃菅井と森田は、回復した梨加と共に往路のゴール地点、芦ノ湖へ向かっていた。「速すぎる…。」菅井はテレ
夢中で練習していたら、気付けば夜になっていた。コンクールから一夜明け、小林はすでに前へと進み始めていた。「小林さん、お疲れ様でした。小林さんが指摘してくれたところ、調整してみます。」一緒に居残って練習していた藤吉が言った。藤吉は昨日のコンクールの責任を感じているらしい。自分も動揺してしまって、崩れてしまった、と。「夏鈴ちゃんならすぐ取り戻せるよ。」小林がそう声をかけると、藤吉は頬を掻く。「…そうですかね。ありがとうございます。では。」ペコっと頭を下げて、藤吉が教室から出ていく。
数時間後また跳びたいという想いと共に理佐は陸上競技場に設置されたバーの前に立っていた。前とは違う感情だからか、目の前に広がる景色は明るく見える。しかし、吹っ切れたと言ってもハイジャンに対する恐怖心が消えた訳ではなかった。震える足、高鳴る心臓。以前と全く同じ反応を見せる身体に、思わず呆れてしまう。強い気持ちを持っていても、身体は正直らしい。理佐は大きく深呼吸し、目を瞑る。大丈夫。跳べる。自己暗示をかけ、理佐は踏み出した。一歩一歩、助走で勢いをつける。徐々に近づくバーとの距離
-Hono-あれから数日。ひぃちゃんはぱったりと家へ来なくなった。彼も1ヶ月ほど前から仕事が忙しいらしく近くのホテルに泊まっていて家には1回も帰って来おへん。「もうええもん、ひぃちゃんなんて知らんっ…。」そうや、友梨奈ちゃんに来てもらおう。それと夏鈴ちゃんも。プルルル「あ、もしもし友梨奈ちゃーん?」平「んー?」「今日ほのん家でご飯食べへん?」平「食べる!!え、こばも連れてっていい?」「うん、勿論いいで!!じゃぁ夕方位になったら適当に来てや〜!」平「了解。夏鈴も呼ぶんだよ
12月いよいよ箱根駅伝本番まで1ヶ月を切った頃…菅井は悩み抜いて、誰がどの区間を走るのかの決意をようやくかためた。夕食後、一同は集まった。「今日は、区間発表をしたいと思う。」緊張の面持ちで、菅井が切り出す。森田はゴクッと音が鳴るほど、固唾をのんだ。発表は淡々と行われた。箱根往路(1日目)1区渡辺梨加2区小林由依3区小池美波4区土生瑞穂5区渡邉理佐箱根復路(2日目)6区守屋茜7区齋藤冬優花8区田村保乃9区森田ひかる10区菅井友香「1区がぺ
#1の続きです!見てない方はそちらからどうぞ!!!________________________由依side卒コン当日。一応今日の主役は私なのでみんなより先にきて少し歌、ダンスの練習をした後ドレスをマネージャーさんに着させていただく。マネ「由依ちゃんめっちゃ似合ってるよー!」私「あ、ありがとうございます笑」実はこのドレス敢えて少し大好きな人と似たやつにしてもらったんだよね。―約2年前。理佐の卒コンが終わり。みんなで楽屋に戻って理佐との写真撮影待ちをしている人や余韻でま
まただ。また、あんな態度取ってしまった。理佐は1人で校門に向かいながら、後悔の念に苛まれていた。決して皆が嫌いなわけじゃない。ただ弱い自分が許せなくて、それに苛ついて、周りに当たってしまって…そんな自分がまた嫌で自己嫌悪に陥って…。そもそも、跳べなくなってしまったのも弱い自分が原因なわけだし。夢だってほんとは……。「くっそ…。」理佐は自分の前髪をクシャッと掴み、涙をこらえた。空模様は今の心情を表してるかのように暗く、ポツリポツリと雨粒が落ち始める。徐々に勢いを増す雨も気にせず
レースはスタート直後から速いペースで展開した。森田、菅井、守屋の3人は40人程で形成された第一集団のなかにいた。トップを行くのは、留学生ランナー2人だ。その2人は早々に第一集団を引き離した。それにつられるように、第一集団もかなりのハイペースで1kmを通過。ついていけないものが続出し、集団はみるみるうちに縦に長く伸びていった。菅井は後ろを確認する。欅大の他のメンバーは、第三集団のなかで固まって走っていた。菅井は、あらかじめ決めていたサインで、「10kmまではそのペースで」と、「その後は自
首位争いは熾烈を極めた。トップを走る鳥居坂大長濱ねるを、乃木大のエース白石麻衣が追う。鶴見中継所では45秒の差があった両校だが、白石の力走により18キロ地点手前で2人は並んだ。しかし、長濱は慌てなかった。それどころか、長濱は待ってましたと言わんばかりに、追いつかれてからペースを一気に上げた。もしかして、わざと追い付かせた…?白石は動揺した。鳥居坂大を追い越すためにハイペースでここまで来ていた白石と、後半に向けて余力を残した長濱。しまった、と思った。もちろん白石は、それに負けるよ
菅井はウォーミングアップを終え、携帯テレビの画面に見入っていた。テレビの中継映像が、力走を続ける森田から、9区を走り終えようとする平手に切り替わる。「10年間更新されなかった9区の区間新記録が、今まさに更新されようとしています!3年ぶりの総合優勝へ、その想いのこもったタスキは今、アンカーの長濱へ託されました!!そして、平手は区間新記録を更新です!」鶴見中継所は、平手の記録更新に湧き返った。菅井はすぐに矢崎に電話をし、平手のタイムを森田に伝えるように言う。そして菅井が顔を上げると、中継
気持ちのいい春風が木々を揺らす。欅学園大学の校舎からまっすぐ伸びる通りを歩く菅井友香は、風になびく髪を耳にかけ、花の無い桜の木々を見上げた。3月も終わりを迎える。桜が満開になる頃には、最後の年の大学生活が始まる。おもむろに菅井は左膝に触れた。だいぶ調子が戻ってきている。今年が最後のチャンスだ。あと1人。「欅ハウス」の住人が揃えば、ようやく走り出せる。菅井は高鳴る気持ちを抑えきれず、期待に胸を膨らませた。…その時どこからか、入り乱れた足音と怒声が聞こえてきた。音のする方を向くと、1
10人しかいない弱小チームが箱根駅伝へ出場する。その事実が世間の注目を浴びるのは容易に想像出来たが、それでも想像以上だった。連日、新聞社や雑誌からの取材依頼が舞い込んだ。その影響もあってか、友人からの連絡が絶えない者もいた。そして、懐かしい友人と久しぶりに顔を合わせる者も…小林は待ち合わせ場所のカフェのドアを開ける。カランカラン、と音が鳴ると、待ち合わせをしていた人物が顔を上げた。「ゆいぽん、久しぶり。」「うん、久しぶり…」小林は目の前の席で座る旧友に対して、気まずそうに挨拶し
翌日過ちの取り戻し方が分からなくて。前にどうやって進めばいいかも分からなくて。理佐はずっと、屋上で空を眺めていた。やがて何度目かのチャイムが鳴り、いつものように土生と小林、小池が屋上へと上がってきた。昨日のことがあって、とにかく気まずかった。どんな態度で接すればいいのかも分からず、理佐は寝転んだまま3人に背を向けるように体勢を変えた。「てかさ、この間来たお客さんがめちゃ面白くてさ__」いつものように内容の無い話をしながら弁当を食べ始める3人。「ねぇ理佐、起きてんなら一緒に食べ
………え。なにこの気まづい雰囲気。友梨奈ちゃんから家へ遊びに来ないかとお誘いを受けのこのことやってきたほの、せやけどいざお家にお邪魔させてもらうとぜーんぜん話させん友梨奈ちゃん。え、すごく気まづいんやけど。「ゆ、友梨奈ちゃん?」平「…。」「んー、どしたん?」平「…。」ずっとこんな調子。最初は何かのいたずらかと思ってほのも気にしてへんかったんやけど、流石に長すぎて心配になってきた。「な、なぁ、どうしたん〜?なんかあったん?」平「っ…ひかる。」「え、?ひぃちゃん?」平「
雨の降り頻る外を、土生は窓際の席から頬杖をついて眺めていた。授業はお経のように、耳をすり抜けていく。「はぁ…。」大きなため息をつき、空席になった理佐の席を見た。そして、出会ったばかりの頃を思い出す。理佐と出会ったのは2人が小4の時だった。当時、土生は母親と2人暮らしだったが、ある日突然母親は家を出て行った。その後すぐ、カフェを経営していた叔父さんの家に引き取られることになり、土生は理佐のいる小学校へと転校することになったのだが…心に傷を負ってしまった土生は、クラスに馴染めないでい
ぬくもりを帯びた風が頬を撫で、どこかで咲く花の甘い香りが鼻を刺激する。練習を終えた森田ひかるは、暖かな春の陽射しに目を細めながら大きく背伸びをした。「ひかるさん、今日って菅井さん達も来るんですよね?理佐さんにも、久しぶりに会えるかなぁ。」後輩の山﨑天が、期待に満ちた眼差しで訊ねる。「え!あの菅井さんですか?私、菅井さん達が走った箱根駅伝を見て、この大学に入学したいと思ったんです!え、菅井さんに私も会えますか?え、握手してもらえるんですか?」この春に欅大に入学した増本綺良が、興奮気味に捲
「茜さん速すぎない?」テレビ中継を見ながら、7区を走る予定の斎藤が呟く。守屋は随分と楽しそうに、猛スピードで6区を走っていた。現在欅大は12位。この様子なら、きっと順位も上げてくるだろう。シード権に入る可能性も出てきた。ああ、私は凄い舞台に自分は立とうとしているんだな。齋藤は思わず身震いした。1年間死に物狂いで練習してきたけど、この舞台はそんな生易しいものではない。何年もの間努力した人だって、立てないこともある。そんな舞台に、走り始めて1年にも満たない自分が立つなんて。一体ど
皆さんお久しぶりになってすみません!すっごく久しぶりにりさぽんで学パロです!____________________________「はーい!授業始めまーす!」いつもの教室に響く貴方の声。この時間が1番好き。高校2年生になった春、貴方が新しくこの学校に転勤してきたんだ。「渡邉理佐です。教科は国語。よろしくお願いします。」声は少し低めで髪は長くてスタイルが良くてなによりすごく顔が整っていて。そんな貴方に私は一目惚れをしていたんだ。理「小林さ
蝉が鳴き続ける。太陽は容赦なく照りつける。遠くの地面は暑さでゆらゆら揺れていた。「避暑地なのに、この暑さは何!?」暑さで半ギレ状態の小林が誰に言うでもなく訴えかけた。「温暖化だね〜」土生が穏やかに返事をした。8月下旬大学の前期試験を終えた欅ハウスの一行は、様々な大学が夏の合宿を行う白樺湖に来ていた。夏の時期はどの大学も徹底的に走り込み、箱根に向けて基礎体力をつける。欅学園大学も例外ではない。「荷物まとめたら、練習着に着替えて集合ね!シャキッとねー!」暑さなんてこれっぽっちも感
土生の家は1階がカフェ、2階が生活スペースになっている。裏の玄関から階段を上ると一般的なキッチンとダイニングがあって、土生と小池が準備してくれているカレーが鍋の中に入っていた。美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、お腹を空かせた小林の食欲を掻き立てる。「凄い!2人で作ったの?」「うん!って、私はほとんど何もしてへんけど…。」小池は申し訳なさそうに土生を見た。土生はハハハッて笑いながら言う。「みいちゃん、包丁の扱い方が危なっかしくてソワソワしちゃったよ。」「だって料理なんてほとんどしたこ
理佐side理佐「今日もかわいい…。」齋藤「また、小林さん?笑」理佐「うん。って、ふーちゃん!?」齋藤「もー!部活中なんだからな?」理佐「…はーい」ん??今、目あったような気がする…気のせいか…な。それにしても…可愛いなぁ。ーーーーー由依side今泉「あー!また理佐ちゃんがこっちみてる。」由依「渡邉さん?」今泉「うん!最近よく視線感じるんだよね~」由依「ずーみんが?」今泉「えー!違うよ!たぶん、ゆいぽん見てるんだよ!」由依「え!?私!?」今泉「ほーら!」
森田side森田「まりな…肩貸して」松田「いいけど、珍しいね」森田「うん」松田「私でいいの?小林さんのところ行かないの?」森田「…由依さんには迷惑かけたくない」松田「そっか、わかった」朝から体が思うように動かないことはさすがに自覚していた。頑張って来たもののやっぱりしんどくて、休憩中だけでも体を休めたくてまりなに声をかけた。松田「あ、ひかる、ちょっと熱いね。もしかしたら熱あるかな?」森田「あるかもしれんけど、今は抜けられん…」松田「でもさ、今無理しても結局しんどいの
菅井が鶴見中継所に着くと、ベンチコートを着た小林と付き添いの森田と合流した。「由依、調子はどう?」菅井が聞くと、「絶好調です。」と小林が答えた。迷いは無さそうだ。小林が走る2区は、各大学のエースが集う区間だ。西野七瀬は白石麻衣と並ぶ乃木大の二代巨頭だし、小坂菜緒は日向大を引っ張る期待の新星だ。鳥居坂大の鈴本美愉も侮れない。さらに、留学生をエントリーしている大学もいくつかある。そんな強者揃いでも、小林は怯んでなかった。それどころか、期待に満ちた目をしている。「ぺーちゃんは多分最下位で来
理佐「天ちゃん可愛いね」天「そうですかねー?」なーんて周りの女の子に可愛いとか言って見てるのは由依だけ。チラチラと由依の方を見てると嫉妬丸出しの表情をしていた。理佐(いいねぇ…その顔が好きなんだよ…)由依が私の事を好きなのは知ってる。けやかけの相関図で公開告白されたけど、あれは友とかメンバーとしての好きじゃなく、特別な感情の好きだとすぐに分かった。私も由依のことが特別な感情…恋愛的な意味で好き…だけど、もっといじめたいと思っちゃう…好きな子はいじめたくなるの意味が22歳でようやく理
鍋の中の具材も少なくなり、パーティーは終わりを迎えようとしていた。森田は、時々話しかけられる以外は基本黙って周りを観察していた。何となく顔と名前は一致したし、関係性も少し見えて来た。森田の両隣に座っていたのが、齋藤冬優花と渡邉理佐だった。齋藤は、とにかく皆のムードメーカーでお調子者。"ふーちゃん"と呼ばれていた。理佐は気の利くお姉さんといった感じ。森田が驚いたのは、理佐とは1つしか年齢が違わないことだった。随分大人っぽく見えた。理佐の隣に座っていた綺麗な顔立ちの人が、渡辺梨加。会
多くの雑誌や新聞、テレビが欅学園大学を取り上げた。おかげで大学の後援会や町の人達、周りの家族や友人はより一層応援してくれた。…ありがたいことなのだが、森田は気が気で無かった。自身が1年前に起こした暴力事件が再び表に出てしまわないか、不安で堪らなかったのだ。だからなるべく取材では目立たないようにしたし、カメラを避け続けた。それでも、エースの森田が注目されることは避けられなかった。そして、恐れていたことは起きた。いつものように近くの競技場を借りて練習をしていた日のこと。「欅大の森田ひか
ラスト3kmの地獄の上り坂を、小林は無我夢中で走っていた。3校の選手の後ろにピッタリと付いていた小林だが、その中の1校、ユーラシア大の選手が坂の手前でペースをあげ、集団を引き離した。小林は、それに付いていく。苦しい。でも、離れるもんか。もはや意地だった。やがて前の方に、2校の選手を視界にとらえた。その中には、鶴見中継所の時点では3位だった英慶大のユニフォームも見えた。英慶大の2区の選手は確か、インカレでも上位の成績をおさめていた人だったはず…。調子が悪いのだろうか。いや、もうそんなの
私はある日森に迷ってしまった。果物を採りに森に来たのだが、いつも行ってる所だからと油断して遅くまで居たら、茂みが動く音がした。振り向くと月明かりが茂みのところに当たり、人が立っていたのだ。私はそれに驚いてただ逃げてきた…そしたら迷子…。小林「…寒いし、怖いし…今日ついてない…。」帰り道なんて分からないから走ってきた方向を恐る恐る歩く。また変な人に会うんじゃないかと思うと怖くて足がすくむ。小林「大丈夫…いざとなったらナイフで…」私は手に果物ナイフを持っていた。お腹すいた時にそこらの果物
高低差800mの箱根の山を、1人だけ搭載しているエンジンが違うかのように駆け上る選手がいた。乃木大3年、生駒里奈だ。生駒は一昨年、初めて出場した箱根駅伝で5区を走り、見事区間新記録を樹立。昨年もその区間新記録を自ら更新し、乃木大の2年連続総合優勝に貢献した選手だ。今年もまさに、自身の打ち立てた記録を破ろうとしていた。早々に2位の横浜大と1位の日向大を抜き去り、堂々と先頭を走る。もはや、生駒の敵は自分自身だった。まさかその遥か後方に、自分を上回るペースで快走する選手がいるなんて、予想だに
合宿は3週間続く。"夏を制する者が箱根を制す"という言葉もあるほど、夏の練習は重要だった。欅学園大学の練習も、過酷を極めた。「ねぇ、脚の筋肉ムッキムキなんだけど。しかも靴下焼けヤバくない?スカートもサンダルも履けなくない?」筋トレをしながら齋藤が言う。「どうせ今年は履かないですよ。ジャージとランニングシューズしか履いてないですもん。」小林が反論する。「無理〜、サファリパ〜〜ク〜」「いや、それふーちゃんのネタじゃないでしょ。」ふざけ倒す齋藤に、小林のツッコミが冴え渡る。そんな一