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《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第九章凶報(きょうほう)明け方、ようやく眠りに就いたバーンが目覚めたのは、昼近くであった。庭の井戸で洗顔を済ませ、母屋へ入って行くと、中の様相は一変していた。食器棚は、悉(ことごと)く空になり、部屋の奥に、木箱がいくつも積まれていた。台所の方からは、釘を打つ音が聞こえ、木靴が床を行き来する音が、断続的にそれに混じった。足音は、二種類であった。チャイカとポランが、引越しの準備をしているのだろう。彼とポ
総合目次へオリジナル・スペル(2002年作品)《目次》第一章大魔道師第二章魔道の探求第三章もたらされた知らせ第四章喚問第五章絆(きずな)第六章懇請(こんせい)第七章盟友第八章触媒(しょくばい)第九章凶報(きょうほう)総合目次へ
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第八章触媒(しょくばい)「おじいちゃん!ポラン!ご飯、冷めちゃうよ!」母屋からチャイカが呼ぶ声に、二人は慌てて立ち上がった。「おお、すっかり思い出に浸ってしもうた。夕食のことを忘れておったわい」「最近、ますますアンジェリンに似てきたな、チャイカは」「ふふ、そのようじゃのう」ポランが扉を開けると、白い月の光が差し込んできた。バーンは蝋燭を吹き消し、木箱の間を通り抜けて、外へ出た。
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第七章盟友「ただ今・・・きゃっ!」老木のように考えに沈んでいたバーンは、重い樫材の扉が開く音と、それに続いて聞こえた弾けるような声に、はっと顔を上げた。「もうっ!おじいちゃんったら、またお部屋を真っ暗にして!入口の近くに箱を置くから、つまづいちゃったじゃないの!」「お、おお、すまん。お帰り、チャイカ。ポランもご苦労だったの」彼は慌てて、新しい蝋燭に火を灯した。向こう脛(ずね)をさ
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第六章懇請(こんせい)翌朝は、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。落ち着かない食事を済ませた後、王立魔法院へ退学届を提出するために登校したチャイカとポランを見送って、バーンは慌しく引越しの準備に取り掛かった。小さな隠宅とはいえ、持って行かなければならない物は、かなり多い。蔵書類や覚書、魔法薬、それに触媒。運送用の荷駄の手配は、王都へ行くポランに託したものの、当座の研究に必要な物は、自分で運ばな
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第五章絆(きずな)「お帰りなさい!」ポランが着陸するのを待ちかねて、明かりの灯った家の扉が勢い良く開き、チャイカが駆け寄って来た。愛らしい孫娘の姿を見て、憂いに沈んでいたバーンは、わずかに愁眉(しゅうび)を開いた。杖をかざして微笑みかけ、巨大な白龍の背から飛び降りる。着地と同時に腰がぎくりと疼(うず)き、彼は思わず眉をひそめた。「やだ、おじいちゃんったら、しかめっ面なんかして」「おお。
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第四章喚問ロンバードの王城は、夕暮れの陽射しの中で、色褪せて見えた。空掘を巡らせた三重の城壁や、砲台を備えた四つの尖塔が、町を威圧するようにそそり立っていたものの、それらはひどく頼りないように思えた。普段なら夕食の買出しに出る主婦や女中たちで賑わう、城下町の通りには、人っ子一人いない。外出禁止令でも、布告されているのだろうか。ポランの背から町を見下ろしたバーンは、首をひねった。キャシオは確
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第三章もたらされた知らせそうした日々の明け暮れに、かすかな波紋が生じたのは、夏のある日のことだった。いつものようにチャイカを送り出した後、日課を済ませたバーンは、離れの部屋で魔道書を紐解いていた。揺れ動く蝋燭の光の下で、黄ばんだ羊皮紙を注意深くめくり、躍るような上古のエルフ文字を指で辿(たど)る。一語ずつ咀嚼(そしゃく)しながら読み進み、時折立ち上がって、書棚から別の書物を取り下ろす。さし
《総合目次へ》《作品目次へ》《前ページへ》《次ページへ》オリジナル・スペル第二章魔道の探求「遅ーい、おじいちゃん」食卓についていたチャイカが、フォークを持ったまま声を上げた。「いや、すまんすまん。つい昔の思い出に浸ってしまっての」バーンは微笑みを浮かべて、孫娘の隣に腰掛けた。ほどなく台所から姿を現わした白髪・紅眼の青年が、食卓に料理を並べ始めた。「おお、良い香りじゃ。ポラン、また腕を上げたようじゃな。・・・はて、このスープは?」顎鬚をしごいて鼻をうご
《総合目次へ》《作品目次へ》《次ページへ》オリジナル・スペル第一章大魔道師「おじいちゃん、どこ?」窓の向こうで、女の子の声が聞こえる。バーンは、古文書のページを繰っていた手を止め、ゆっくりと顔を上げた。肩まで届く白髪と、長い顎鬚(あごひげ)。炯々(けいけい)と輝く漆黒の瞳。厳しく引き締まった口元。黒ずんだ顔に深く刻まれた皺は、彼のこれまで歩んで来た苦難の人生を、如実に物語っていた。痩せぎすの体にまとった、黒いローブ。枯れ木のような、長い指。人々は彼を、『伝説の大魔道
森の家(ブログ版)「森の家」は、私が「Woodnote」というハンドルネームで、1999年12月から2020年9月までの約20年間運営していた、ネット小説のサイトです。このコーナーでは、サイト版「森の家」で発表した作品の何編かを、ご紹介します。ご興味がおありの方は、ご一読いただけましたら幸いです。《総合目次》1.オリジナル・スペル(2002年)ジャンル:ファンタジー