ギュスタブ・フローベールは、三十歳になる直前に『ボヴァリー夫人』の執筆を始めたことはすでに書いたが、中上健次は1946年8月2日生まれであり、彼の傑作『枯木灘』が、『文藝』に連載が開始され始めたのは1975年で、河出書房新社から単行本が刊行されたのは1977年のことであり、僕の頭の中では『ボヴァリー夫人』と『枯木灘』は、どちらも作家が三十歳ぐらいのときに書いた代表作というにとどまらない傑作として存在している。そしてときどき、その二つの作品の細部の描写を一緒に並べてみるのである。もちろん似ていると