いまだかつてこれ程何も起こらない小説があったでしょうか。大仰な展開はないし特に盛り上がりもない。慎ましい独居老人の日常がひたすら淡々と綴られているのですが、これがまあ面白くて仕様がない。目玉焼きを作るだの回覧板を回すだの、ありきたりな日常のいち場面を小説として成立させ、尚且つそれを面白く読ませるその技術とセンスたるや、そんじょそこらの尻の青い小説家に真似できる代物ではないのです。まあ真似できたとしたって誰も真似しないだろうって気もするのですが、いずれにせよ『百鬼夜行』や『巷説百物語』とは別方向で