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「こんな時間だもの、もう外を歩いてないで、どこかで身を潜めてるかもしれないわ」確かに若い女の子がフラフラと夜歩いているのは好ましくはない。杏子の言う通りどこか身を潜めているのでは、という推測は正しいかもしれない。でも、だったらホント食事はどうしているんだろう。真宏を見つけた時でさえ、真宏は4日ぶりと言った。あれからまた一晩明けている。どこかで食べる物を見つけて居ればいいけれども・・・・・。見つかる前に命を落とす羽目になってしまったら、知り合
扉を閉めて外へ出る。何一つ解決はして居ないのだけども。「とにかく、一刻も早く・・・・・ってあっ・・・・」歩きかけていた一行が足を止める。「なんだよ、杏子」「だって私たちは勿論知ってる・・・・・緑久保にも伝えた。でももし、他の菜桜を知ってる生徒が向こうの世界の菜桜を見かけたら・・・・?」「そ・・・か・・・・声を掛けられて逃げ出しかねないし、そっけない態度を取ればおかしいって思われるだろうし・・・・」だけど、どう対処していいかなんてわからな
とりあえず、緑久保には伝えたので、お暇することにする。「じゃあ、よろしくお願いします」尚人がそう言って玄関に向かった。「ああ、ことがことだけに『任せとけ』とは言えないけども、出来るだけ力になれるよう、頑張るよ。家にはこいつが居るから、買い物の時には目を光らせて貰うようにするから」楓がにっこり笑う。「お願いします」真宏が深々と頭を下げる。真宏の心情を思うと何とも言えない気持ちに菜桜はなった。私だって、知らない世界に行ってこんなに長いこ
「・・・つまり、今度は何らかの理由で昨年の次元の浅井と結城がこっちの世界へ来ちゃったって言うのか・・・・で、俺が見かけたのが・・・・」「多分、そんなに似てたんだったら、向こうの世界の菜桜だと思うの。先生の教え子の菜桜は足怪我しててそれにずっと私たちと一緒だったんだもの」う~む。緑久保は腕を組んだ。「ま、世界にゃ、信じられないこともたくさんあるしなあ。教育者だからそんなことあるもんか、なんて言わんよ。だけども、ホントにそっくりだなあ。ちょっとし
居間では楓が入れてきた紅茶を置いているところだった。「さあ、どうぞ」そう言うと、一緒にクッキーの皿もだし、居間を出て行った。「ホント、綺麗な奥さん。子供たちは奥さんに似たんだね」「うるさいわ」緑久保はそう言うと、「まあな、実家に行くとよく『美女と野獣』って言われたもんだ、で・・・・」紅茶を一口飲むと「話を戻すぞ。浅井は双子だったのか?身上書で見たことないが・・・・」と切り出した。菜桜たちは顔を見合わせると、やはりここは年長者と自
「はあい」女性の声が聞こえてくる。「奥さんかな」杏子に囁く菜桜に「・・・・かなじゃなくて妻だ」緑久保はそう言うと「開けてくれ。連れてきた」かちゃりと音がすると中から「ホントに先生の奥さん?」孝宏が驚くと「だから言うな、って言っただろう」緑久保は、孝宏を軽くにらむと「妻の楓、だ」「はじめまして。いつも主人がお世話になっています」その女性は、にっこりとほほ笑んだ。「綺麗な奥さんじゃない。勿体ない・・・・
「菜桜ちゃんの言う住所だったらこの辺・・・・かなあ・・・・」何せ住宅街と言うところは住宅しかない、当然だが。商店街だったら目印も色々あるけれども、住宅街では目立った目印はない。しかもいい加減暗くなって来てるし、わかりにくいのは当然なんだけども。「・・・ホントにあるの、緑久保の家」なんて、杏子が失礼なことを言いだしたのも無理はなかった。「・・・きゃあ!」「どうしたの、杏子!」「どうした!?」そう言って杏子が顔を左に向けた時、街灯の下にぼ
「それにしてももうどれくらい?1週間くらい経ってない?あの子、食事どうしてるんだろう、寝るところはどうしてるんだろうって思うと可哀想で・・・・」「ああ…美桜のこと?」思わず発した言葉に「美桜?」怪訝そうに杏子が聞く。ああ、そうか・・・菜桜は簡単に孝宏の家でのやり取りを聞かせた。「成程、孝宏に真宏、菜桜に美桜ね・・・・それはいいわ。んじゃ、早く美桜を探しましょう」杏子はそう言いながら「もし、私もこっちの世界に来てたらなんて名前にな
「・・・・って、あれ・・・6本?」「そうよ、今、バッグに詰めるから、これ持って、菜桜ちゃんも尚人のところに行きなさい。今タクシー呼ぶから・・・・」「おばさん・・・」ホントは一緒に行きたかった・・・・そんな気持ち、わかってくれてたんだ。足を怪我してるし足手まといにはなるだろうけども・・・・。お母さんがボストンバッグにおにぎりと水筒を詰めてると、ピンポン、玄関でチャイムが鳴った。「誰かしら・・・・」「あ、私が行くわ」ママが玄関に出て
「美桜、見つかるといいなあ」3杯目のお茶を飲みながら、することもなく携帯を持て遊び菜桜は呟いた。あれから既に1週間。一人で心細いだろうし、何よりおなかだって空いてるはず。ああ、見つかった時の為に何か持たせてあげればよかったかも・・・・・。そう思ってるとキッチンの方からぴっぴっと音がした。「炊けたみたいね」孝宏のお母さんが席を立って行く。「私も手伝うわ、誠子さん」ママも立ち上がった。何をするんだろう。「菜桜も手伝う?」ママがそ
軽いため息をついて携帯を見る。電池が少なくなっている。充電して置いた方が良さそうだ。あの時・・・・いきなり違う次元に飛んで以来、菜桜も孝宏もこまめに充電するようになった。何がいつ起きるかわからないからだ。充電器は・・・・家か。ううん、孝宏の充電器借りればいいや。だって同じ携帯なんだもん。「・・・菜桜ちゃん」電話が終わったのを見計らってか、孝宏の母が声を掛けた。「はい?」「・・・・・真宏って・・・誰?」あはは、そこかあ。菜桜はまず
「おう、結城か」後ろが騒がしい。「先生、今、外?」「・・・違う。家だ・・・・・おい、お前たち、静かにしろ!パパは電話中だ!」・・・あは、後ろで騒いでたのは緑久保の子供たちか。「すまん、も、うるさい盛りでな・・・・・ちょっと待て」ごそごそと音がすると、少ししてやけに静かになる。「悪かったな、今部屋を移動した」「先生のとこ、子供たくさん居るの?」ずっと担任のくせに結婚してることしか知らなかった。「おう、3人だ、しかも年子で5、4、3
孝宏の家に着くと、孝宏の母と菜桜の母が同時に飛び出してきた。「で、緑久保にはなんて言ったの?」菜桜が母をせかすと「とっさでなんて言っていいのかわからなかったから、菜桜は家に居ますって言っちゃったのよねえ。まあ、本来なら怪我してまともに歩けなかったんだし、外でうろうろしてる方がオカシイでしょう?」・・・まあ、そりゃそうだ。それに菜桜が緑久保に会って逃げ出すと言うのも、時間的に補導されるような時間ではないのでおかしな話だし・・・・・「とも
「・・・っと!電話だ」尚人は掛けたエンジンをまた止めて、携帯電話を取りだした。「・・・母さん?」発信先に「母」と出ていたその電話を尚人はいぶかしげに押した。「はい・・・・え?・・・・うん、うん・・・わかった、もう今駅だからこれから帰るから」緊迫した言い方に車内は急に静かになる。「何があったの、兄さん」通話を終えた尚人は「おまえたちの担任の緑久保先生から、菜桜ちゃんの家に電話があったらしい。菜桜ちゃんのお母さんがすぐに母さんに相談して
「ホントにいいの、尚人さん」杏子が会計になって恐る恐る聞くが「大丈夫だよ、一昨日、バイト代が入ったんだ」尚人は財布を出した。「兄さんはちゃんと現金なんだよな。母さんはポイントが溜まるとかお札を持ち歩かなくていいとか言って、いつもカードなんだけど」孝宏が言った。「ああ、うちのママもそう。カードで払って、年末貯まったポイントで何かしら貰ってる。でも私も仕事するようになったらカード作りたいなあ」尚人は会計を済ませると「僕も持ってるよ、
かくして30分後、ファミレスにはいった4人は思い思いの食事を食べ始めていた。「あ、菜桜、そのグラタンおいしそう、一口ちょうだい」「じゃ、そのパスタも一口」賑やかな菜桜と杏子を見て真宏は「いいな、こう言うのって。悪いな、俺の為に・・・」と呟いた。真宏も、菜桜と杏子が自分の為にわざといつもよりはしゃいでくれることを知っているのだ。「だからそれは言いっこなしだって・・・・あ!真宏のポテトも~らいっ」菜桜はフォークを真宏の皿の付け合わせの
だが・・・・「見つからなかったわねえ」散々走り回って、疲れたという表情で杏子が言った。あれから4時間が経ち、5時になっていた。駅は帰りの通勤客と学生でごった返している。人数も増えてきた。駅のトイレの前のポットの椅子のところに、疲れ果てて尚人も杏子も孝宏も戻って来ていた。「も、足動かないわ」「足、痛いな」「・・・すみません」「だから!すみませんはなし!」杏子はちょっと怒ったように見せて、それからボソッと呟いた。「ど
「居たのか・・・・・そっちの孝宏」孝宏にしても相手をどう呼んでいいのかわからない。「今・・・・杏子には菜桜の車に行って貰った・・・」孝宏はハアハアと荒い息を吐きながら、「じゃ・・・あ、杏子と兄さんと交代すれば・・・・運転手が・・・・」尚人はちょっと笑いながら「おまえ、かなり運動不足だな」と言った。ともかく、向こうの世界の孝宏は一人ではない。尚人は自分の弟の孝宏に、向こうの孝宏を・・・・ややこしい・・・任せて一旦車へ戻ることにした。
尚人の方はとにかく車を飛び出したものの、どこをどう探せばいいのか見当もつかなかった。何せ駅と言ってもいくつかの線が乗り入れてるので多少大きい駅なのだ。どこをどう移動してるかは知らないが、各線のホーム、改札、待合室、券売所・・・・売店もあれば立ち食いソバ屋もある。まあ、こんな時に悠長にそばを食べてるような奴ではないだろうし、売店で何か買うにしてもそばを食べるにしてもお金がかかる。彼は、お金を持ってるんだろうか・・・・いや、金を持ってたとしてもこんな
まあ、それが一番妥当だろうけど。今更ながら怪我した自分を呪う。仕方ないけどもさ。動かないって言うのと、動けないって言うのでは大きく違うのだ。別に孝宏と一緒に行動したかったって言うんじゃないからね・・・・ま、少しはあるけどさ。「さて、どこから探すか・・・・だな、やみくもに探しても・・・・」車に乗り込んだ尚人兄さんに、私はさっき孝宏に伝えたことを話した。つまり、向こうの菜桜を探しに駅に行ったのではないかってことをだ。尚人兄さんはちょっと腕組
「・・・どうしたの?」車に駆け寄り、後部席のドアを孝宏が開け、乗り込みながら聞くと「孝宏が・・・・あ、いや、あの孝宏が消えた」尚人兄さんは茫然として言った。「ここに居ろって言ったのに、僕が荷物を運びにここを離れた隙に立ち去ったんだろう」悔しそうに言うと一枚の紙を見せた。そこにはこっちの孝宏の字とは似ても似つかない乱雑な字で、何やら書いてあった。「ごめん。やはり菜桜は俺が探す。みんなを巻き込んでしまうなんて申し訳ない。もし見つから
結局待っても二クラスの実行委員は来なくてこれ以上待てんな、と言う高橋先生が、実行委員長の代わりに伝達事項を伝え、こなかった二クラスのうち、三年生のクラスの二人を実行委員長と副委員長に任命してしまった。「じゃあ、明日、体育祭委員を3名、選出して来週月曜日にもう一度全員揃って実行委員会だ。何せ新学年になってすぐの体育祭だ、時間がないから忙しいぞ、では・・・・解散、ご苦労さん!」一斉にガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる。そうなんだよね、新学年になって僅
「まあ、確かに同じような形の世界とは言え、自分のところと微妙に違う。ま、違う世界だって気付けばいいんだけど、おかしいって思いながらもそこまではわからないだろうな。だとしたら・・・・・もしかしたらって思ってあの場所に戻ってることもあり・・・・・得るっちゃ、有り得るわな」だけど・・・・と言いながら孝宏は階段を一気に降りると、手を伸ばして私を支えてくれた。「じゃあ、兄さんが見た、あの菜桜は?兄さんが友達に会ったのはうちの駅から少しは慣れたところだっ
隣からは二回目の「じゃんけ~ん・・・・・」の声が聞こえてくる。教室に残ったのは実行委員会の顔合わせに出る菜桜と孝宏、それから杏子だけだった。「うまいこといったね」私が言うと孝宏が「ま、誰かがやらなきゃいけなかったんだからな、でも杏子の機転はすごかったぜ」と笑った。「だって・・・・あの次元の菜桜がいつ見つかるかわからないでしょう?今日、実行委員会で体育祭委員を決めてくれって言われて明日決めるじゃない?来週早々に一回目の委員会よ。一
「先生」あ、杏子が立ち上がって手を挙げた。「なんだ、新川」「体育祭の実行委員会では次の時までに体育祭委員を3人選べって言われますよね。そしたら私、体育祭委員になります」緑久保は、気付いたと言うように腰を浮かし「そうだったな」と黒板に『体育祭委員』と付け加えた。「体育祭委員は、浅井たちが今日実行委員会に出ると、次回の実行委員会までに各クラス体育祭委員を選出して置いてくれって言われるんだ・・・よし、じゃあ、体育祭委員に新川。新川も1
そして「はい!」緑久保が驚いたように声のした方を見て「おう、結城か、どうした?」とほっとしたように言った。何せお通夜のようなクラスになっていたのだ。「私、やります、クラス委員」途端にお通夜会場から、乗降客の多い駅のホームのような騒がしさになる。「はい、はい!静かに!」緑久保が大きな声を張り上げる。「・・・やってくれるのか?結城」「はい」菜桜はもう一度頷いた。だってここで決まらないと、いつまで経ってもこのままじゃ
「ずいぶん遅かったじゃない」結局杏子と話したのはこれだけだった。孝宏ともクラスに入ったら何故か話せなかった。まあ、ことがことだもんね。こんな繊細なこと、好きなアイドルやアニメの話みたいに軽くなんてできやしない。ともかく、放課後はまたみんなで集まるのだ、今話さなくてもいい。「おまえたち、今日は静かだな」1年の時から一緒の子がからかう。悪いね、デリケートな話なのよ。今日が授業無い日で助かったわ。始業時間ちょっと前に緑久保が来て、すぐにHRが始ま
結局、杏子はママが車で送り、孝宏たちはもう一人の孝宏とお隣へ帰って行った。なんだかすっかり目が覚めてしまったので、ベッドに連れてってもらったものの、ずりずりと動き、椅子に座った。細めのマジックを出して教科書に名前を書く。まあ、どうせ明日は授業がないのだ。また今日くらいの量の教科書を持ち帰らなければいけないけど、朝行く時は布バッグだけでいい。明日は、向こうの孝宏と向こうの菜桜さんを探しつつ、私たちの学校が終わる頃、尚人兄さんが迎えに来てくれることに
そしてそれからひとつ聞いていいか?と孝宏に向かって言った。「ああ」うちの孝宏が答えると「・・・・次元が違うって、どういうことだ?」と真顔で言った。で、結局。紙とペンで孝宏は・・・・あ、うちの孝宏はまたも、通算三度目のパラレルワールドの話を始めた。「・・・じゃ・・・じゃあ、俺は、俺と菜桜は・・・・違う次元の同じ世界に来ちゃったってことか?」そう言うことになりますね。私たちも去年、そう言う体験をしたんだよ~。「確かに、ここは俺の居る
菜桜は深く頷いた。「・・・・あまりに菜桜に似てたんだけど、直感で違うって思って、怖くって逃げたんだ。不思議だな・・・・何で逃げたのか、菜桜だったのかもしれなかったのに。でもびっくりするほど似ていたんでドキドキした」「私が声掛けたのは・・・・?」杏子が聞いた。「ああ…お前、同じクラスの新川杏子に似てるわ。俺たち喋ったことないんだけど、よく似てる」杏子が、私も新川杏子よと言おうとして止めたのか、開きかけた口をつぐんだ。「俺、腹が減ってつい