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「お茶、入れるわ、ダイニングに移動しましょう。誠子さんもみんなも緑久保先生も・・・・さあ」ママが顔を上げて明るく言った。ママの誘導で、何となく催眠術に掛けられたようにぞろぞろと出て行く。いや・・・今が催眠術から解けたのか、今までのことは催眠術が見せた夢だったのか・・・・・。キッチンでママが紅茶を入れた。クッキーを載せたお皿も一緒に持ってくる。「そろそろお昼ね。何か取りましょうか」孝宏のお母さんが言った。「そうね、今から作るより、何か取
初めて見る緑久保は目を丸くしてみていた。小さな光の輪の中に大きな高校生2人がスッと引き込まれていく。「美桜!真宏!!」最後に叫んだ菜桜の声が聞こえたのかどうか・・・・二人が消えたのを見た瞬間、「菜桜、手を離せ!」孝宏の言葉に菜桜はびくっと動いて、手を離した。さあっと波が引くように輝きも光もすべて一瞬で消えた。そこには、もう何もないただの菜桜の部屋に戻っていた。どこにも光の輪もたまごイエローの輝きもない。外から子どもの遊ぶ声がする。洗濯
「杏子さん、色々ありがとう、お世話になりました。尚人さんもありがとうございました」美桜と真宏が揃って頭を下げた。「よしてよ、当然のことをしただけだわ」「そうだよ。双子の兄になれて楽しかった。僕も・・・忘れないよ」尚人もかわるがわる二人の手を握った。「元気でね」ママも涙声だった。「・・・じゃ・・・・」孝宏が頷き、手を差し出す。それに倣って菜桜も美桜も真宏も手を出した。菜桜が頷き、一斉に手を合わせる。強烈な光が菜桜の部屋を
「宝物にするわ」美桜がそのメモを胸に押し抱いた。もう一度、母に美桜の携帯で写真を撮って貰ってると、車を飛ばしてきた緑久保が菜桜の家のチャイムを鳴らした。「まあ、先生、どうも・・・・お世話になりまして・・・・・」母が対応している間に杏子がやって来て、そのあとから車を飛ばして帰宅した尚人が現れた。「・・・先生。お世話になりました」真宏が深々と頭を下げた。「いや、俺は殆ど何も・・・・でも良かったな。寂しいけどもこればかりは仕方ない
菜桜が母を呼び、杏子にLineをし、それから緑久保先生に電話をする。孝宏は母親を起こして引っ張ってくるし、尚人は用事を午後に延ばして戻ってくることになった。「・・・・緑久保も来るって」菜桜の言葉に真宏は「よし、じゃあ、兄さんが戻って来て・・・・緑久保が来たら・・・決行だ」そう言うとおもむろに手を出して、「楽しかったよ」と言った。「・・・・俺もだ・・・・楽しかったって言うか、世話になった。一言では言い表せないほど感謝してる」
「ダメか・・・・・」孝宏が手を離す。「ううん、色々試してみましょう」菜桜が提案した。「色々って・・・・」「いまは私に美桜が触れて、真宏、孝宏と続いたでしょう?」「よし、じゃあ、今度は俺が先に・・・・・」菜桜の手に真宏が触れ、そして美桜、孝宏と続く。「ダメだわ・・・・・」「でも、いま菜桜と真宏では光らなかったよね・・・・ってことは、この組み合わせだと光らないのね。次、やってみましょう」結局4人は順番を替えては色々試してみ
ともかく・・・・「ね、文面はこれから考えるとして、美桜と真宏が手をつないでるときにもし、向こうの次元と繋がるんだったら、その時にLINE返信したら向こうに届くんじゃない??」思わず出た言葉だったが、言ってから我ながら名案だったと思った。「ああ、それ・・・いいかも。やってみる価値はあるわ」美桜が賛成し・・・・だけども手を合わせながら、片手だけであちこちに返信するのはかなり難しい。「真宏と美桜は手をつないでもらってて僕と菜桜で、LINE来た
「・・・・受信・・・・未読154件・・・・・何これ・・・・」「LINEの未読が154件・・・・って」「俺の方は168件だ・・・・・」LINEを開いてみる。「理沙からよ、これは・・・・・香織。こっちは・・・・・ああ、お母さんからも入ってる・・・・眞由・・・琴・・・・」「俺の方も・・・・・石井だろ、山崎、高橋・・・・・」「今まで見ててもこんなLINEなかったわよね」「ってことは・・・・」思わず口を開くと、美桜と真宏が菜桜を見た。「二
「う・・・わっ!これ、結構キツイな」光は最初スパークするように光ったけれど、そのあとは指の周りが輝いているだけでそれ以上は何も起こらなかった。「やっぱり駄目か・・・・」二人が手を放すと「まあ、大体想定内よね」菜桜が言った。「どういうことだよ」「多分私と美桜や、孝宏と真宏同士ではきっと起こらないと思ったの。でも一応ね。一応何かあると思うのよ。だって、普通人と手を合わせるだけで光ることはしないでしょ」美桜はコーヒーを一口飲むと
「うん!」菜桜は大きく頷くと「じゃあ、美桜・・・・」と手を差し出した。「あ、その前に・・・・」と携帯電話をポケットから出すとベッドの上に置く。「なんだよ?」「なんかさ、磁気でも働いたら携帯おかしくなりそうじゃない?」あ・・・ああ。孝宏と真宏も携帯電話を置いた。「ま、俺たちのはここでは受信できないから大丈夫とは思うけどな。これじゃただの箱だよ」ちょっと自嘲気味に笑う。4つの携帯電話が菜桜のベッドの上に鎮座した。改めて菜
いつもなら私も2枚は軽くペロッと食べちゃうんだけども、今日はあとで食べればいい。ドアを開けると、美桜も後を追ってきた。「昨日の手を合わせるのでしょ。今日も光るかしら・・・・」「うん、色々試してみよう、まずは私と美桜でも光った。ってことは孝宏と真宏でも光るか、私と孝宏ならどうか・・・だったら、真宏と私だったら、何かわかればいいけどもね」5分後、孝宏と真宏もやってくる。「・・・で?」私は、全員にコーヒーを配った。ポットは保温されているので
「・・・なんだよ、こんなに早く」案の定、孝宏はぶつぶつ言いながら電話に出た。どうやら、無視しようとしたのだが、隣に寝ていた真宏に起こされたらしい。「あいつはそう言うところ、律儀だよな」「それが当たり前なの、それにこの時間はいつももう学校に出てる時間じゃない」菜桜が言うと「平日はな、今日は土曜だろ、学校は休み、休みの日はこんなに早くは起きない」「私もよ、でもとにかくいいから、真宏と一緒に出来るだけ早く来て」せかす菜桜に「でもまだお袋寝て
「ってことはよ・・・・他の時空にも『結城菜桜』と『浅井孝宏』が存在するってこと?」不意に頭の中に、何十人と言う私と何十人と言う孝宏が、ぼんっと一気に現れた。「・・・・・そ・・・それは確かに気持ち悪い・・・・」私が頭を抱えると美桜も「私も同じく・・・・」と言った。「でもそういうことよね」美桜は一人で納得して、一つの時間に対してもう時空は数限りなくあるとすれば、何十どころか何百、何千の私たちが居るってことよね。と呟いた。うん、想像も
孝宏はレシートの裏に縦の線を1本引いて、横の線を沢山引いてこう言ったんだ。「これが、時間な」孝宏は、縦の線を指さして言った。「で、これが次元だ」と横の線を指した。「・・・次元・・・・?」と私が聞いたんだっけ。「この線の真ん中を僕たちの世界にすると、この一本上の次元に行っても、浅井孝宏は存在する。だけど、この僕の時代の浅井孝宏と、微妙に違うんだ。それはこの一本下に行っても同じことだ。ここにも結城菜桜は存在するけど僕の世界の菜桜
とりあえず明日と明後日は学校も休みだ。解決、まではいかなくても糸口くらいは見つけなくちゃ。私は意気込んで、だけど解決ってことは、もう真宏や美桜と会えなくなることを意味するんだって思うと、やっぱり悲しくなった。いつか二人とも私にとってもかけがえのない存在になっている。きっと孝宏たちにとってもそうだろう。次元って残酷だわ。でももしかしたら二度と会えないかもしれない、連絡も取れないとしてもやっぱり返してあげなくちゃ。あの二人の居場所はここじゃないのだ。
「何・・・・?」不審そうに覗きこんだ真宏は「・・・・・菜桜!!」叫ぶと中央まで走った。「・・・な・・・菜桜!菜桜!!・・・・・見つかったのか、ありがとう!ありがとう!!」「菜桜じゃないでしょ、美桜でしょ」杏子はちょっと声を詰まらせて笑った。美桜がちょっと身動きして目を開ける。「・・・・・た・・・・!」あとは声にならない。真宏が美桜をしっかり抱きしめる。「良かった・・・・・良かった・・・・・」もう言葉にならない。
ママが夕食の準備をはじめ孝宏たちの分も作ることになったので、杏子にも食べて行きなさいよ、じゃあ、みんなで一緒に作ろうか、と杏子とママと私と三人で夕食作りが始まった。3人立つとキッチンも結構狭いけれども、ワイワイやりながら作るのは楽しい。まるで調理実習かキャンプのようだ。お米をといでお味噌汁を作って、野菜をたっぷり摂れるように煮込みハンバーグにした。大きめに切った人参やブロッコリー、冷蔵庫に残ってたキノコなども一緒に煮込む。「真宏に
孝宏が出て行ったあと、杏子がため息をつく。「どうしたらいいんだろうねえ」・・・・・それが一番知りたいわ。そうそう、上手く次元が歪んでくれるとは限らない。それが私たちの近所で起きるとも限らない。だけど、二人をこのままこの世界に置いておくわけにもいかないのだ。帰しようがないから当然居るしかないのだけども。「次元の歪みねえ」およそ普通の日常では、お目に掛かれない現象だ。私だって去年のようなあんなことが無ければ、知らないで一生過ごしたかも
外で来るのを待つのとは違う。電話で呼ぶといとも簡単にタクシーは、学校の裏門に着いた。正門だと人目につくとの緑久保の配慮だった。急いでタクシーに乗り込む3人を見て、運転手はちょっと驚いたようだったが、そこは菜桜の足を見て納得したようだ。「どちらまで」孝宏がマンションの名前を告げる。ドアが閉まり、車はすうっと発進した。「さすがプロよねえ・・・・運転が違う」何気なく発した杏子の言葉に気を良くしたのか運転手は「怪我をしたんですか」と
学校へ着くと、2時間目がちょうど終わった頃だった。休み時間で教室も廊下も騒がしい。すぐに杏子がやって来て、「体育祭の種目は、浅井君がリレー、菜桜が100メートル走に決まったわよ。それまでには菜桜も足治るでしょうし。次の時間から各競技ごとに別れて相談するって・・・・私も100メートル走なので、一緒だよ」と説明してくれた。そして菜桜たちから説明を聞いた杏子は「見つかったんだ、良かったねえ」と自分のことのように喜んだ。10分の休み
「違う次元・・・・でも、確かに私と孝宏は、教室の光ってる床を見てたらいきなり街の中へ出ちゃったの、だけど、そこは私たちが住んでる街のはずなのに何か微妙に違ってて・・・・とにかく場所を確かめようと孝宏と駅に行ったの。私がお手洗いに行きたいって言って、二人で別れて・・・・だけど・・・トイレのドアを開けたら、トイレじゃなくてそこは違う街並みの場所だった・・・・・」孝宏と菜桜は思わず顔を見合わせた。思った通りだ。向こうの世界の菜桜が、トイレのドアと思っ
「・・・・ううん。ちょっと違う・・・?いえ、孝宏・・・?あなたは」孝宏はそっと少女のそばまで来ると「僕は・・・・浅井孝宏、そしてこれは結城菜桜、と言います。この世界での浅井孝宏と結城菜桜です」と言った。「・・・この世界での・・・・?」少女が怪訝そうに返す。「君たちは、違う次元の僕たちに会ってるんです」「・・・どう・・・・いう・・・」孝宏は続けた。「僕とこの世界の菜桜は、去年、君の世界の『浅井孝宏』に会ってます。菜桜は、君の
「・・・・ごちそうさまでした」少女がきちんと箸をおいて頭を下げた。「こんなに親切にしていただいて・・・・あの・・・・」少女は、母が勧めたお茶を一口飲むと「言われた通り・・・・私5日間何も食べてなかったんです。お水は公園やショッピングモールで飲みました。お風呂にも入れないし、お金も持ってないしで・・・・その・・・・」「いきなり訳の分からないところに来ちゃって・・・・でしょ」菜桜が言うと少女はびっくりして「どうしてそれを・・・・・」
玄関がばたんと開いて、また閉まる。「菜桜!」ママが駆け込んできた。「・・・美桜は?」と小声で聞く。「今出たみたい」と返すと「良かった、じゃあ、間に合ったわね、これから朝ごはん作るから」とそのままキッチンに立つ。「ママ・・・・?」ママはまた近くまで来ると小声で「美桜には内緒よ、横から支えただけで凄い臭いが移っちゃって・・・・でもそれを言ったら美桜が気にするから、お隣でシャワーを借りたの。ちょうどよかったわ、尚人君
5日も食べてないのだ。どこで寝ていたか、どうやって過ごしていたかまだ聞いてないのでわからないが、体力は確実に衰えているはずだ。尚人も菜桜の母も時折、ガクッと膝が崩れる少女を何とか持ちあげて、3階まで連れて行った。3階建てのマンション、マンションって名前付けてるんだったらエレベーターくらい付けろよ。ちょっと菜桜は心の中で毒づいて、壁伝いに何とかのぼる。ああ、ホントに足なんともなければなあ・・・・何度悔やんでも仕方ないことだけども。
「・・・・結城菜桜さん?」少女はびくっと身体を震わせた。そしてゆっくりと顔をあげ、怯えたように身を固くする。「怖がらなくていいわ」菜桜は、少女にそっと触れると、「とにかく・・・・無理な話かもしれないけども私を信じて。お願い」そう言った。少女は不思議そうに菜桜を見上げ、身体は固くしたままだったが、少し表情が和らいだように見えた。「信じられないかもしれないけど、私はあなたの味方よ。悪いようにはしない。信じてほしいの」少女は
菜桜が玄関にたどり着くのを待っていたかのように、チャイムが鳴り響いた。「グッドタイミングじゃん」ちょっとウキウキしながら扉を開ける。ところがそこに立っていたのは、孝宏たちではなく「緑久保・・・・・先生!」菜桜の言葉に台所で洗い物をしていた母も飛んでくる。「ま・・・・あ、先生。おはようございます。一体どうなさったんですか?」緑久保は、いや、どうも・・・といつもとは違う歯切れの悪い返事をすると、顎をしゃくって見せた。「・・・・え?」
翌朝は多少、4月らしい気温になった。とは言え、通常だったらちょっと動けば汗ばむくらいになるのに、まだ空気は冷たい。8時15分に出発でよいことになったので、ゆっくり朝ご飯を食べながら、「おなか空いてるんだろうなあ」と思う。確か向こうの菜桜って、病弱だったんじゃなかったっけ。だとしたら、この寒さに加えての空腹に精神的肉体的疲労・・・・どうかならない方がおかしいわ。「ママ!」「何?おかわり?」さすがに3杯目は食べないわよ、ちょっと
明日も尚人が学校まで送ると言うことになり、結局明日も8時15分でよいとのことになった。菜桜の帰宅を自宅で待ってた母は、美桜が居なかったことにガッカリしたが、明日また捜索すると言うことを聞いて明日もおにぎりを作ると言った。「毎晩、尚人君に散財させるわけにはいかないわよ」ママは笑って、尚人兄さんの肩を叩いた。それから財布を持ってくると、中から1万円札を1枚抜いて尚人の手に握らせた。「あ、だって・・・・」「いいから!尚人君には菜桜の送り迎えまでし
「美桜はうちに来たのかなあ」車は家に向かいながら走る。菜桜が呟いた。「え?」「真宏はたまたまうちの近所に落ちて、そのままこの辺に居たわけでしょ。でも、美桜はトイレで別れてから行方不明になった。もし、トイレのドアを開けたら違う場所だったら・・・・うん、そうよ、尚人兄さんが美桜にあったのも、緑久保が美桜にあったのもうちから少しは離れてる。着の身着のままだったら、お金なんて持ってないかもしれない・・・・そしたら」「そうか、電車に乗れない・・・・緑