ブログ記事421件
彼女の優しい笑顔を見ていると、ふとそんな昔のことを思い出した。お金はもちろん大切だ。家族が生きていくためには必要だ。でも...きっとお金より大切なものもある。俺はそう信じている。そして今のPEACEisがあるのは、この決断をしてくれたシルベスタと、彼の妻がいてくれたからだ。本当にありがとうございます。心の中で何度も頭を下げた。遊園地に入ると、シルベスタはさっそく子どもたちに連れ回されていた。気がつけばシルベスタは汗だくになっている。完全に日曜日のパパの家族サ
「お金じゃない」そんなことをいつもどこかで思っていた。みんなもきっとそうだと勝手に信じてた。PEACEisの想いがあれば一緒にやってくれるんじゃないか。そんな自分勝手な妄想があった。だからこうやってお金の話になると俺はいつも何も言えなくなる。しばらく沈黙したあと、シルベスタが言った。「ヒロさん、少し返事を待ってもらえますか?妻と話します。家族のことだから妻の意見も聞かなくてはいけません」「もちろん、待つよ」そう答えた。本当は...なんなら答えなんて出さなく
その日、みんなとは遊園地の前で待ち合わせをした。久しぶりに会ったシルベスタの子どもたちはびっくりするくらい大きくなっていた。「こんなに大きくなったら、この遊園地なんて、もうつまらないんじゃないの?」「みんな、ヒロさんに会いたいんですよ」それはシルベスタのリップサービスだったのかもしれない。それでもこうしてみんなが来てくれて、久しぶりに顔を合わせることができた。それだけで俺は嬉しかった。警察官でもあるシルベスタの奥さんにも笑顔で挨拶をする。「お元気でしたか?」彼女
バンギに来たら必ず行く場所がある。バンギに唯一ある遊園地だ。……いや、遊園地と言っていいのかどうかも、正直よくわからない。きっと皆さんが想像する「遊園地」を悪い意味で遥かに超えてると思う。乗り物も少ない。設備も決して立派ではない。日本の遊園地と比べたら、そりゃもう、とんでもなくしょぼい。それでも…俺は、なぜかここが好きだ。だからバンギに来ると、いつもシルベスタの家族を連れてくるという名目でここへやって来る。たぶん本当は俺自身が一番楽しみにしているのかもしれない。そ
……来週の月曜日?俺は、その頃にはもう出国する予定だった。つまり今回は諦めるしかなかった。まただ。また今回も大統領に会うことができなかった。とことんトゥアデラ大統領とは縁がないらしい。ここまで来たのに。大統領の家まで来たのに。それでも会えない。苦笑いするしかない俺をクレヴァーが励ましてくれた。「ここまで来ることができただけでも、大きな一歩だ」「次回、ヒロが来る時には、きちんとアポイントを取って、大統領と会談ができるように用意しておく」その言葉が、本当にあり
クレヴァーの車で大統領邸に向かう。大統領と会談できるのなら、公式だろうと非公式だろうと関係ない。それになんだか非公式のほうがPEACEisっぽくていいじゃないか。しかも大統領のお家で会えるなんて最高じゃん!そう思ったら、なんだかさらにワクワクしてきた。大統領の私邸とはいっても、もちろん完全なプライベート空間ではない。そもそも俺にとっては初めて来るエリアだった。この国に来てもう10年になる。それなのにこれまで一度も足を踏み入れることのできなかった場所だった。入口には軍
「ヒロさん!すぐにスーツに着替えて、準備をしてください!」朝からまたシルベスタから突然の電話だった。「なんだよ、突然?どうせまた、そんな大したことでもないんだろう?」いつものように、少し軽く返した。「大統領との会談が決定しました!」「……え?」一瞬、言葉が出なかった。朝から、度肝を抜かれた。そして、俺の頭の中では次々と言葉が湧いてきた…まさかこんなに急に大統領との会談が決まることなんてあるのか?しかもTAKUMAはまだこの国に来て1週間ほどしか経っていない右も左
養鶏場を一通り見せてもらった俺はマーシャルに言った。「少し見ただけでも、これだけの改善点がある。ということはまだまだうまくやれる可能性があるってことだね」マーシャルは頷いた。そして現場責任者ともう一度情報を整理して、改善のために一つひとつ手を打っていくという。もちろんダメ出しばかりだったわけじゃない。中には「へー!これはいい!」と思うアイデアもあった。むしろ、うちの養鶏場でも取り入れたいって思えるものもいくつかあった。「これ、うちでもやってみたいよ」そう伝えるとマーシャル
さっそくマーシャルの養鶏場を見せてもらうことになった。場所はバンギ郊外。単純な距離だけで言えばPEACEisの養鶏場よりずっと近い。ところが実際に車で向かってみるとどんどん山の中へ入っていく。その道はほとんど整備されていない。ガタガタの山道を進んでいくと距離的には近いはずなのにPEACEisの養鶏場へ行くよりもずっと時間がかかった。養鶏場を実際に運営してみて、俺たちも痛感したことがある。「整備された道は絶対に必要だ」ということ。ひよこや飼料、機材などを現場へ運ぶとき。
「自身のため」「家族のため」「会社のため」もしかしたら、それは日本人の我々にとっては当たり前のことなのかもしれない。自分のために頑張る。家族のために働く。会社を成長させる。そして、それがひいては国のためになり、未来の子どもたちのためになる。確かにそうなのかもしれない。だけどこの国ではもっとシンプルだ。明日のため、家族が明日も生きていくため。それが最優先だ。今日を生きることに精一杯でとても「この国」のことまで考えられない。そんな人たちを、俺はこの10年間、たくさん見て
PEACEisプロジェクトは趣味でも遊びでもない。ここまで来るために俺たちは膨大な時間とお金を使ってきた。リチャードと出会い、この国で何度も失敗して、試行錯誤して、それでようやく積み上げてきたものがある。養鶏場をつくるために必要な知識や現地での経験。失敗したからこそわかったこと。そして、俺たちだけのやり方。いわば俺たちが時間をかけてつくってきた「レシピ」だ。それをそんな簡単にマーシャルへ渡してしまっていいのだろうか。助けることとすべてを与えることは違う。マーシャルの養鶏場を成功
そこは、とても素敵なレストランだった。バンギでは今まで見たことのないブッフェスタイルのおしゃれなオープンレストラン。店内はすでにたくさんの外国人の招待客で賑わっていた。ここにいる外国人ゲストは、例外なく国連やNGO、大使館関係者など、この国で働いている人たちだった。普段はそれぞれがそれぞれの仕事に追われている。この国では、どこにいても、何をしていても、なかなか心からホッとできる場所がない。俺だってそうだったからわかる。マーシャルのレストランは、異国の地で毎日戦っている彼らに
正規の清掃の仕事を終え、その足で市場へ買い出しに行く。翌朝は、まだ暗いうちからランチの準備を始める。気がつけば、UNDPのオフィスにいるほとんどの外国人スタッフから注文が入るようになっていた。一人分なら簡単でも、それが何十人分となれば話は違う。毎日これだけのランチを用意するのは相当大変だったと思う。それでもマーシャルは手を抜かなかった。「みんなが『今日もおいしかったよ』って喜んでくれる。その笑顔を見るのが幸せでした」そんなある日、最初にマーシャルへランチを頼んだあの英国人ス
地元・鳥取で講演会を開催します!内戦が続いているにもかかわらず、テレビで報道されることのない忘れ去られた中央アフリカという国をまずは知って頂き、悲惨な戦場のイメージだけでなく、そこに住む人々の日常を写した写真から、日本で暮らす私たちと変わらない生活があるという事を知ることで、遠い国の他人事ではなく自分事として、戦争・人権について考えてもらうきっかけづくりへ!アフリカから帰国したばかりの青木に会いに来てください!皆様のご参加をお待ちしています!!!詳細は下記へ青木弘講演会「
俺がこの話の中で一番驚いたのはそこだった。注文が増えれば増えるほど儲けるチャンスも増える。ほんの少しだけ自分の取り分を入れても誰も気づかなかったかもしれない。それでもマーシャルは一度も自分の利益を抜かなかった。小さな金額でもお釣りはきちんと返した。この国では、外国人を「お金を持っている人」と見る人も少なくない。だから外国人との関係を利用して、少しでも多くのお金を得ようとする人間を俺は何度も見てきた。そのすべてを責めるつもりはない。明日を生きることすら簡単ではない国だ。生
今回の滞在では、PEACEisの可能性を少しでも広げるため方々に声をかけていた。現地で「ビジネスマン」と呼ばれている人たちに会い、何か一緒にできることはないか。新しいパートナーになれる人間はいないか。そんな可能性を探していた。「ビジネスプランをシェアしたい」そう言って会いに来る人の数は想像以上に多かった。次から次へと会った。でも正直、そのほとんどは「ビジネス」と呼べるようなものではなかった。ビジネスマンでもない素人の俺がそう感じるのだから、たぶん、やっぱりそうなのだろう。
街に戻ると、早速シルベスタに頼んだ。「TECKの苗木、買えるだけ用意してくれ」本来なら、20本ほどの苗木を買うくらいのお金しか用意できなかった。ところがPEACEisの活動を知ってくれていた農家さんがなんと100本もの苗木を譲ってくれた。ありがたい。人の縁というのは本当に不思議なものだ。リチャードが苗木を見ながら言った。「これだけあるならこれを養鶏場の周りに植林すればいい。10年、20年後には立派な大木になってフェンスの代わりにもなる」なるほど。養鶏場を守るフェン
リチャードがいつもの話を始めた。「ヒロ、覚えてるか?あの時植えた木がもうずいぶんと大きくなっていたよ」何かあるたびにリチャードはこの話をする。あの時植えた木、とはTECKの木のことだった。TECKはこの国の主要な輸出品の一つ。日本でいうチークにあたる木だ。あれは俺が初めてリチャードと出会った年。たまたま政府主催のTECK植林イベントに出くわした。なぜだか俺まで参加することになり、リチャードと、当時コーディネーターだったマティアスと一緒にTECKの苗木を植えた。あ
久しぶりに訪れた養鶏場は想像以上に荒れ果てていた。もう1年半も稼働していないし、武装組織の襲撃も受けたと聞いていたから、ある程度は覚悟していた。それでも実際に目の前にするとやっぱりショックだった。あの頃はたくさんのひよこや鶏がいた。スタッフたちは生き生きと働き、村人たちが行き交い、鶏を買いに来るお客さんで賑わっていた。たった1年半前のことなのにずいぶん昔の光景のように思えた。リチャードも荒れ果てた養鶏場を見渡しながら肩を落とした。「再開するために、やらなくてはならないことが
カートから届いた最新情報とさらに、そこにリチャードやアリューたちから入ってくる現場の情報も加味した。行ける!俺はそう判断した。100%の安全が確保されたわけではない。それでも俺たちは予定通り養鶏場へ行くことに決めた。もちろん無謀に行くわけではない。シルベスタにも常にカートから最新情報が入るようにしておく。そして、何かあった場合に備えて現場には長居をしない。それが今回のルールだった。ただ、一番気になっていたのはTAKUMAのことだった。彼にとって、ここは初めてのアフリ
大臣との会談がうまくいった。お礼と報告を兼ねて、俺たちはカートのオフィスへ立ち寄った。中に入ると、今朝の掃討作戦から戻ったばかりの軍人たちが、少し遅いランチを食べていた。「こちらへ」カートに別室へ案内される。大臣との会談について報告し、改めて礼を伝えた。「必ずうまくいきますよ」カートもそう言って喜んでくれた。そして、俺が一番聞きたかったことを尋ねた。「今朝の現状はどうだった?作戦は成功したの?」カートは携帯電話を取り出し、今朝撮影した写真や動画を見せてくれ
大臣室に入る。立派な部屋。そこで待っていたのは、体格がよく、圧倒的な存在感を持つ大臣。例によって上から下まで舐めるように見られる。ここではよくあることだ。状況が状況なので無駄話はしない。簡単に挨拶を済ませ、俺が何者なのか。これまで何をしてきたのか。PEACEisとは何なのか。そして、なぜ俺が大統領との会談を求めているのか。一つずつ説明した。写真集『樹平線』も手渡した。これまで中央アフリカでやってきたこと、そしてPEACEisがこの国で何を目指しているのかを伝えた。
大統領直属の特殊部隊のカートの尽力で内務大臣との会談をねじ込んでもらった。「ねじ込んでもらった」という表現が本当にぴったりだった。その日は大臣にとっても尋常ではない一日だった。前日にクーデター未遂事件が勃発。大規模な戦闘が起きていた。そして最悪なことに、その戦闘現場はPEACEisの養鶏場に近いエリアだった。カートたちはもちろん、政府も軍を動かし、その一帯で作戦を展開していた。その陣頭指揮を執っていたのが、今回会う内務大臣だった。ほとんど寝る間もなく夜明けまで現場に立ち、
今日は、久しぶりのリチャードとの再会。今回が初対面となるTAKUMAはリチャードに会えることを相当楽しみにしていた。TAKUMAにとっては、俺が語るリチャード、そして文章の中に登場するリチャードはある意味、物語の中の人。そんな「英雄リチャード」は間違いなくTAKUMAの人生を変える大きなきっかけになった人物だ。そして俺も、別の理由で少し緊張していた。時間と資金の問題で、今回はバンギを出ることができなかったため、リチャードがヤロケから俺たちに会いに来てくれた。久しぶりに
今回の滞在中、中央アフリカは雨季の真っ只中だった。ほぼ毎日、雨が降る。と言っても、日本の梅雨とはまったく違う。いわゆるスコールだ。初めてアフリカでスコールを経験したときは本当に驚いた。さっきまで太陽が照りつけ、青空が広がっていたかと思うと、それが突然、空が暗くなる。そして次の瞬間、バケツをひっくり返したような水が一気に落ちてくる。「雨が降る」というより「水が落ちてくる」感じ。ものすごい音と水圧で、隣にいる人間と会話することすらできない。空気まで水に押しつぶされるようで
その「サクライさん」がこの国で病気で亡くなってからもうずいぶんと経つ。サクライさんの会社はその後、この国の財閥の一つであるカマシュ家に二束三文で買い取られ、事実上消滅した。日本へ戻されることもなく、この国に埋葬されたサクライさんの墓はバンギ郊外の大きな霊園にあった。ところがその話はそこで終わらなかった。さらに偶然が重なっていたのだ。その霊園が、大規模な都市開発のため撤去されることになり、半年ほど前、当時の関係者だったシルベスタのもとに担当省庁から連絡が届いていたのだった。
20年という時間が経っても人の記憶というものは消えない。人間が一緒に過ごした時間だけは誰にも奪うことができない。カートとシルベスタは、まるで昨日のことのように昔話を始めた。「あの時は、ああだった」「そうそう!」「サクライさんは、あの時も……」2人とも、少年のような顔になっていた。俺は、ただその横で話を聞いていた。すると突然、シルベスタが俺のほうを振り返った。「やっぱりカートもそう思うでしょ!」何のことかと思ったら、また俺の顔を見て笑っている。「似てるよな!
「サクライさん…」その名前は知っていた。以前から、シルベスタの口から何度も聞いていた名前だった。若き日のシルベスタは、この「サクライさん」のもとで、通訳兼ドライバーとして働いていたという。当時は、まだ日本と中央アフリカの国交も正常に機能していた。日本と中アの間では、今では想像できないほど、いろいろなビジネスが動いていたらしい。その中でもサクライさんの会社はかなり実績のある会社だったという。そしてシルベスタもその会社ではかなり重宝されていたらしい。まあ、これは本人談だけど(笑)
「サクライさん……」俺は、もう一度その名前を心の中で繰り返した。サクライさん。その名前を俺は知っている。でも、この男の口から、こんな場所でその名前が出てくるとは思っていなかった。さっきまで国家機密を淡々と語っていた男が、突然、一人の日本人の面影を語り始めた。それは政治でも戦争でもビジネスでもない、ただ、一人の人間の記憶だった。そして俺は、その瞬間に初めて気がついた。この男が20年間守ってきたものは、国家という巨大な仕組みだけではないのかもしれない。この国で生きてきた人間
「私は、この20年間、この国のために命を賭けて働いてきました。これまでに3人の大統領に仕えてきました。いつだって、ほころびというものは、その時には誰にも気づかれないものです。でも私は、なんとなく分かるようになってきたんです。近く、この国でまた大きなクーデターが起こるでしょう。その時、現政権が持ち堪えることができるのかどうか……」カートはそう言って、今の政権がどれほど危険な状態に置かれているのかを様々な角度から話し始めた。国内の情勢から武装勢力の動き、そして政治的な力関係まで。その