宮崎氏はやがて長剣を鞘に収めて信太郎に手渡し、奥の一ト間に退いて密に病人の動作を窺いました。病人は暫時《しばし》平伏の後、やおら頭を擡《もた》げ、弟の持てる長剣にきっと眼をつけ、鍔元《つばもと》より見上げ見下ろし熟覧する様、意味ありげに想いやられましたが、やがて眼顔《めがお》もて、その長剣を汝の膝に上げよとの風情を示しました。先刻から恐怖の余り、おののき居《い》たる信太郎は、耐らなくなったものと見えまして、そのまま席を立ちて逃げ出しにかかりますと、父の傳四郎が側から声を励まし、『動いてはならぬ。