ブログ記事3件
(32)✳✳✳✳✳秋原は、手紙を読んだ後、しばらく茫然と椅子の背にもたれていた。外はいつのまにか暗くなっていた。ケイコは今、どうしているのだろう。自分の書いた手紙を、秋原が読み、読んでどう思っているのか、その返事を待ちわびているのではないか。真っ白なワープロ画面を見つめながら、返事を書こうと思ったが、何を書いていいやら、迷うばかり。それより早く会いに行った方がいいのではないか。明日にでも。昼前に出発しようと決め、寝床に入った。が
(21)佳都子のことをめぐって、その後もいろいろと話し合ったが、なぜ家を出たのか、どこへ行ったのか、これと言う理由も証拠も、見つかりそうになかった。「ともかく捜しに行こう。早い方がいい。明日にでも。ぼくも協力する。一人ではとても無理だから」勇治は、意を決したように言ったものの、最初の出会いからして不可解だったし、百合の語ったことが、百パーセントほんとであるのかどうか、まだ疑いが残り、疑えば疑うほど、針小棒大に怪しくなり、寝床に就いても、あれこれ思いめぐらすばかりで
昨日に続き、旧作「子の進学」連作30首より、(3)10首です。翌朝は子の発つ宵を子も我も部屋に籠りて会はず語らず翌朝は家を発つ子とその母と顔の笑みつつ言ひ合ひてをり次の日は五時に起きねばと早寝して輾転反側して眠れざり朝まだき息子と妻は話しやまず車に乗せて駅まで送る「元気でな」別れを言へば子の目にも涙うかぶと見しは惑ひか子の為に紙のサイコロ作りては双六遊びき幼かりし頃色淡き八重の桜も知らぬうちあらかた散りぬ家裏の庭に一人子は東京に住む夫婦のみ家に残され互みに優し一人子のこの春よ