渋谷駅から六本木通りを数分ほど、軽い傾斜をのぼりながら高樹町方面へ歩いていくと、「日本薬学会長井記念館」のビルがそびえ立っている。「長井」とは、「日本近代薬学の始祖」と呼ばれる長井長義博士のこと。彼は、麻黄属の植物からアルカロイドのエフェドリンを抽出し、ぜんそくに苦しむ多くの患者を救済した。だが、後にエフェドリンは、覚醒剤の主要成分となるメタンフェタミンへと変貌を遂げていく。皮肉なことに、この長井記念館が建つ渋谷から六本木にかけての界隈は、東京で、いや日本で最も覚醒剤が蔓延し、摘発が絶えないエリ