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ギデオンの息子のアビメレクの騒乱が、その死を以って終わった。イスラエルの民は平穏を取り戻した。しかし、時とともに民は自分たちの神から離れて行った。異教の神々との交わりもさることながら、未だにオフラにある「ギデオンのエフォド」への信仰が根強かった。「エフォドは我らが神の大祭司の身に着けるもの、これを崇拝することは我らが神を信仰すること」。これが彼らの言い分だった。多くの民がオフラを訪れた。彼らは自分たちを「巡礼者」と呼んだ。オフラの都市にはその「巡礼者」を泊めるための宿が増えて行った
ペヌエルの都市を出た時、囚われのミディアンの王ゼバハが、ギデオンに向かって言った。「ギデオンよ。過去において、お前たちは幾度もお前たちの神を離れ、その度に別の民に支配されていたそうだな」「何が言いたいんだ?」「この度も、お前たちがお前たちの神から離れたせいで、わしらが攻めることになったのではないか?」「たしかにな。だが民は悔い改めた!オレたちの神は生きている!力を及ぼすのだ!」「神が手を貸さねばどうなっていたことか。……まあ、それを言っても仕方がないだろう」「その通りだ。神はオ
ギデオンはヘレスに上る峠(へレスの坂とも言われる)を通って戦いからの帰途に就いた。スコトの都市の前に来た。ギデオンはこの都市の長たちの態度を思い出した。無性に腹が立った。その時、都市の門から若者が出てきた。「あの者を捕えて、ここに連れてこい」ギデオンが兵の一人に言った。兵はすぐに動き、若者を後ろ手に締め上げて連れてきた。「スコトの若僧だな?」ギデオンは凄んで見せた。数々の戦いで鍛えられたのか、その凄味は増していた。「答えろ……」静かな口調がかえって若者を恐れさせた。見てわかるほ
ミディアンが敗走して行く間に、イスラエルの人々がナフタリとアシェルおよび全マナセから呼び集められ、それらの者たちもミディアンを追撃して行った。さらにギデオンはエフライムの山地全域に使者を送ってこう言った。「下って行ってミディアンを迎え撃ち、彼らより先にベト・バラまで、そしてヨルダンをも攻略せよ」それでエフライムのすべての人々が呼び集められ、その者たちは、言われた通りに攻略した。敵がヨルダン川の西岸を制圧し、渡って逃げないようにした。彼らはまた、ミディアンの二人の君、すなわちオレブ
神によって精鋭三百人が選ばれた夜だった。「ギデオンよ……」神の声がした。ギデオンは天を見上げた。「立って、その陣営に向かって下れ。わたしはそれをあなたの手に与えたからである」ギデオンは立ち上がった。いよいよか……だが、オレは戦さなどしたことがない。どうしたものか……「しかし、下って行くことに恐れを感じるのであれば、従者プラと一緒にその陣営に下って行け」恐れ……たしかに恐れてはいるな。神はお見通しだ。……でも、プラと二人だけで行けとは、どう言う事だ?三百人と共にではな
ミディアンとアマレクまた東の者たちすべてが一つに集まり、ヨルダン川を渡って来てエズレルの低地平原に宿営を張った。そこはイッサカルの都市エズレルから南東方向に19キロメートル近く伸びており、幅は3キロメートルほどあり、ヨルダン渓谷の西の端にあるベト・シェアンに至る低地平原だ。「いよいよ、このカナンの地が征服される」「奇襲攻撃ではなく正面攻撃を仕掛ける気だ」「神は我々をお見捨てになったのだ」大陣営を見聞きした民は口々に落胆の言葉を漏らしていた。ギデオンもこの話を耳にした。ここ
神のみ使いと遭遇したその夜、ギデオンは寝床でまんじりとも出来なかった。オレがミディアンを打ち倒す?神が共にいて下さる?たしかに岩の上の供え物は燃えた。オレはみ使いを見たが死ななかった。神はオレを選んでくれたんだ、このオレを……やっぱり、オレなんだ!「ギデオンよ……」声がした。聞き覚えがあった。神の声だ。ギデオンは寝床から飛び降り、床に平伏した。「はい、ここにおります……」「若い雄牛を取りなさい。あなたの父に属する雄牛、つまり七歳になる第二の若い雄牛を……」「……バアルに捧
オフラはタボル山から南西に約十五キロメートルほど行ったところにある、マナセ族の都市だ。そこの大木のそばに酒ぶねがあった。酒ぶねは、自然の石灰岩をくりぬいた二つの流しのようなくぼみが段差を作って並んでいて、その60センチ程度下がった段差が小さな溝で繋がれている。上側のくぼみはぶどうなどを踏んで搾る場所で、2.4メートル四方で深さは38センチ程あった。そこから搾られた果汁が溝を流れ、1.2メートル四方で深さは90センチ程の下側のくぼみに溜まるようになっていた。しかし、からからに
士師バラク(デボラが中心だったが)の平安が過ぎた。イスラエルは再び自身の神から逸れた歩みを行なった。神はイスラエルの民を遊牧の民であったミディアン人の手に渡された。ミディアン人は、アブラハムがそばめのケトラによってもうけた子たちの一人、ミディアンの子孫であり、時にはイシュマエル人と呼ばれた。かなり裕福で、何万頭にも上るろばや羊や牛を所有し、男性も女性も鼻輪や耳輪を含め、金の装身具で身を飾っっていた。ミディアンの王たちは「赤紫に染めた羊毛の衣」で着飾っていた。また、そのらくだでさ
モーセはエジプトからミディアンの地に逃げた時、そこに住んでいたケニ人の家族と婚姻関係に入った。エテロは「ミディアンの祭司」でモーセの舅であった。また、ホバブはモーセの義理の兄弟だった。イスラエル人がシナイ山の地域を出発しようとしていた際に、モーセはホバブがその地域をよく知っていたので、国民のための「目」すなわち偵察者として同行してくれるよう頼んだ。それほどにイスラエルとケニ人の関係は長く深いものだった。さて、ケニ人ヘベルは、ホバブの子らから離れ、ケデシュのツァアナニムの大木の近くに天幕
タボル山は、ガリラヤ湖南端の西方に位置し、頭を切り取った円錐型をしており、標高は今でいえば五百七十五メートルで、エズレルの谷と呼ばれる平野にそびえている。平野に一つあるので、見晴らしは良かった。バラク達一万の民はデボラと共に、その山上にいた。「バラク!シセラの戦車隊が!」見張りをしていた者が叫んだ。全員がその指さす方を見た。キションの奔流の谷と呼ばれるキション川は、このエズレルの谷を流れるのだが、今は川床が乾いていた。そこに、シセラの九百両の戦車が、整然と隊列を組んで陣取ってい
道中でバラクは幾つかの部族に声をかけた。エフライム、ベニヤミン、マキル(マナセ)、イッサカルなど協力的な部族たちもいた。しかし、中には、神の民が血生臭い戦さなどできるわけがないと、誇りのために戦いに加わろうとしない者、ヤビンと通じているのか、ぜいたくな生活を好む者、面倒に関わりたくないと、楽をしたい者などがいた。さらに、ルベン、ダン、アシェルのように、自分の生活に重きを置く部族などもいて、統一が図れなかった。デボラとバラクはケデシュに着いた。ケデシュはヨシュアが定めた避難都市の
数日が過ぎ、デボラは外に出た。神から告げられていたことがあったからだ。時を違えずにラピドトが戻ってきた。上背のあるがっしりした男性を伴っていた。ラピドトは馴れ馴れしくデボラに手を振ってみせ、小走りに駆け寄ってきた。「デボラ、こちらがケデシュ・ナフタリのバラクだ」ラピドトが上機嫌で男性を紹介した。「バラク、こちらが……預言者様のデボラだ」デボラは忌々しそうな顔でラピドトを見る。人がいると妻が文句を言えないのを知っているこの卑屈な夫は、にたにたしながらデボラを見返していた。「これはこ
エフドは士師として平安を八十年と言う長きに渡り守った。しかし、その死後、民はあっと言う間にくつがえし、シャムガルが身を持って伝えたフィリスティアの脅威に注意もせず、神の目に悪い事を行なった。異教の神々を崇拝し、異国の習慣を取り入れた。ついに神は民をカナンの王ヤビンの手に渡された。ヤビン王はナフタリのハツォルで治めている。この王はイスラエルに根深い怒りを持っていた。王はヨシュアの時代に打ち負かされたハツォルの王ヤビンの子孫だった。その後ハツォルはナフタリの土地となっていた。それを
その日、夜がうっすらと明け始めた頃、千人ほどのフィリスティア人の一隊が、カナンの地へと進んでいた。彼らは戦さの時のような重装備はしていなかった。軽装で懐剣を携えているだけだった。斥候として、カナンの地へ入ったなら各地へ散らばり、イスラエルの現況を探るよう命じられており、目立たぬように振る舞うためだった。「噂じゃ、士師エフドが死んだらしいな」「ああ、長年の平穏さに、奴らはすっかり平和ボケをしているらしい」「またバアルだアシュトレテだと、浮かれ始めているらしい」「ならば、我らの神ダゴンも崇
カナン南部の地中海沿岸地域周辺にフィリスティア人の土地がある。それぞれに領主の支配する五つ都市国家、アシュドド、アシュケロン、エクロン、ガザ、ガトが連合を形成していた。モーセの下、エジプトを去った際、神はエジプトから約束の地に行く最短経路であったフィリスティアを経由させなかった。それはすぐさま生じる戦闘でイスラエル人が意気をくじかれ、エジプトに戻る決心をするようなことのないためであった。年老いたヨシュアがヨルダン川の西の土地を配分した時も、フィリスティア人の領土にはまだ征服の手が付けら
エグロン王に抱きしめられるようにして王の間から出て、しばらく歩き、ある扉の前で止まった。「ここだ」王は言うと自ら扉を開けた。室内はさほど広くはなかった。扉に面していない三方の壁には窓はなく、格子状の穴が一面に開けられており、薄暗い。部屋の中央には果物を盛った大皿のある卓と大きな椅子があった。低い天井は卓と椅子の上で開口されており、そこに乗っている頑丈な板が太い棒に支えられ塩の湖に向かって斜めに開いていて、風を取り入れている。エフドは開けられた扉の前で立ち止まった。「そう硬くなら
ベニヤミン族の土地は、エグロン王の住まうギルガル(エリコの東の境にある都市)の西側にある。そのため、エグロン王からの無理難題も受けやすかった。貢物も最初の頃の数倍の量を求められるようになっていた。隊列を組んでギルガルに向かう。どの顔も沈痛な面持ちだった。一人エフドだけは内に闘志を秘めていた。神が共にいるという確信もエフドを強めていた。ギルガルのエグロン王の居城に着いた。「お前たちは何者か?」門番に問われた。「ベニヤミンの僕が献上の品をお持ちいたしました」エフドが答える。門番
若者に成長したエフドは強制労働に駆り出されていた。「神と共にあるためには神の道を歩むことなんじゃ。道を逸れたら、神はもうそこにはおらん……」との祖父の声を思い出す。エグロン王がエリコを支配し、イスラエルの上に君臨して十八年が経っていた。裁き人オテニエルの時の圧政は八年だった。今はその倍以上だ。その時とは比べ物にならない程、神はお怒りなのだろう。モアブ人は我らが祖アブラハムの甥ロトの子孫で、血縁関係にあったというのに、この敵対具合はどうだ。しかも、我らの先人たちがヨルダン川を越えて最
神から「さばきづかさ」に任じられたオテニエルは、その寿命を迎えた。「さばきづかさ」として歩んだ四十年の歳月は騒乱も無く、穏やかなものだった。イスラエルの民はその死を悼み、神と共に歩むことを誓った。しかし、民の誓いは長くは続かなかった。「それじゃ、行って来るぜ」ベニヤミン族のゲラは言った。「お父さんも一緒に行きましょうよ」ゲラの妻が言った。二人ともバアルへの崇拝のために集まりに出かける所だった。「……」父と呼ばれた老人はじろりと二人を睨んだ。「……わしは行かん!」「お
オテニエルが走り続けていると、茂みの中から声がした。足を止め、茂みに耳を凝らす。「おのれ!逃げ出しやがって!」「勘弁してください……もう、耐えられません……」「じゃあ、ここで楽にしてやろう」オテニエルが茂みに分け入ると、大柄な兵が剣を振り上げ、地に座り込んで頭を抱えて怯えている小柄な男を、今にも斬り倒そうとしているところだった。兵はクシャン・リシュアタイム王の者で、怯えているのはイスラエルの者だった。「待てぃ!」オテニエルは怒鳴りながら飛び出した。「お前の相手は、このオレだ
クシャン・リシュアタイム王がイスラエルを支配をして八年が経った。厳しい税の取り立て、過酷な労役の強制……イスラエルはバアルでもアシュトレテでもなく、真の神へ助けを求めるようになって行った。その日、オテニエルはいつもの通り畑仕事に精を出していた。あの時の一睨みが効いたのか、耳の聞こえない者として扱われたのかはわからないが、クシャン・リシュアタイム王からの兵は一切来なかった。そろそろ昼になる頃だった。オテニエルは雲一つない青空を見上げ、額の汗をぬぐった。空が俄かに黒雲に覆われた。オテニエ
「あんた、どうしたもんだろうねぇ……」昼前の畑仕事を終えて戻ってきた夫の昼食を用意しながら妻が嘆息した。「どうもこうもないだろう!」夫は吐き捨てるように言った。「神に背いているんだからな!」「どうしてこうなっちまったんだろうねぇ……」妻は作り終えた煮豆を大きな木の器に盛りながらため息をつく。「死んだ父さんがこの事を知ったら、どうするだろうねぇ……」「今の軟弱共が打ち滅ぼされるだろうな」「だよねぇ……」夫の名はオテニエル、妻はアクサと言った。死んだ父とはカレブの事だった。カレブ
「乗用」とは背に乗るか、足に乗るか乗用ラクダmatiyyahのなかでも、愛用ラクダdhuluulならば、愛着もあり癖も知り尽くしている。人駝一体となってスムーズな乗り心地を約束させてくれる。幾ら高額を提示されても売りはしないだろう。また盗難や迷いラクダ(daluul)となって行方不明となってしまったら、絶望感に打ちひしがれることになろう。ここで紹介するのは、愛用ラクダが迷い出てしまって、それを求めて旅をする話である。いくつかのどんでん返しがあり、