ブログ記事34件
withyouの続きになります聞き覚えのある音がして、不意に目が覚めた。かすかに開いた目の中に、剣道部員の寝顔が飛び込んでくる。おぼろげな意識が一瞬にして鮮明になった。そうだ、夕べこいつらが大挙して押しかけて来たんだった。一人暮らしの教師の部屋へ、夜になり突然やってきた生徒を追い返すわけにもいかず、クリスマスパーティーを始めた俺たちは、真夜中まで騒ぐだけ騒ぎそのままリビングで雑魚寝していた。その間も耳に届く馴染んだメロディーは、ケータイの着信だ。急いでポケットから探り出したケータイに表示
ふーっ、器とお箸を置いたぼくは、お腹いっぱいになってため息をついた。「クリスマスなのに、本当にこれでいいのか?託生が和食にしたいって言うから、ここにしてみたんだが」「うん、ありがとうギイ。とっても美味しかった、きっと、これ、最高級のお肉だよね。それに、」言って、ガラスが嵌め込まれた窓の向こうを見た。様式美っていうんだろうか、雑誌や写真集で見るような和風の庭園が、ずっと向こうまで広がってる。温かな灯りが砂利の間から立ち上る庭は、きれいに人の手で刈り込まれた庭木の下で、ついこの前までなら足
クリスマスまでこうして繋ごうか、なんてあざといですかね(笑)託生が当初に抱いていたアラタさんのイメージです。政孝と思いながら、野沢くんと呼ぶ託生がね。そのアラタさんは、サニーハウスにて章三へ祠堂でもそれくらい弾けたらどうかと提案しました。章三も、学校で装っていた模様(´・ω・`)そのサニーハウスでまたまた不本意な誘いを受けたアラタさんですが、ここでも真行寺は想い人の意向をスルーして自分のしたいことしかできない人になりました(笑)誰かを不幸にしても気づけない自分勝手で未熟な
三洲新がPure作品で放ったひとことです。いろいろな物議があるようで、プライドの高さを示すという見解もあるそうです。アラタさんは、あの晴れた青空の中で、媚びる人間は嫌いと明言したので、プライドは高くないと思うのですが。普通に、わっしょいわっしょいしなくても付き合える、今時なら少数派の男性になりそうでしょ。おそらくは、このひとことを話したシーンで、真行寺の瞳孔が開いていたのではないかと、私は思いました。一目惚れすると、ほぼ例外なく瞳孔が開くので、相手には伝わり知らぬは当事者ばかりなり。一目
まだ宿題を終えていないぼくはギイにゼロ番を追いだされ、もやもやした気持ちを抱えたまま廊下へ出た。ぼくだけじゃなく、きっと誰もが宿題をしている時間なんて、なかったはずだろう。ぼくより先に矢倉の部屋に来ていた政孝は、あれからブラバンの練習に顔を出し、食堂で再びぼくたちと合流した。甲斐甲斐しく下級生の面倒をみるみんなのように、ぼくだってギイのためにできることが何かあるはずなんだ。きっと今は、宿題なんて始めても、気が散ってできっこないよ。くすぶった気持ちのまま、2階の突き当たりまでたどり着いた。270
とっくに日が暮れた第一校舎を出た三洲は、真っすぐに食堂へ向かい歩き出した。来年度の役員選挙を終え次期会長への引き継ぎの傍らで、目前に迫った文化祭を巡る会議や諸々の報告も生徒会には絶えず届く。放課後の僅かな時間は瞬く間に過ぎて、気づけば一人ポツリと校舎に残されていたことは一度や二度ではない。学生ホールから洩れる明かりが、人影もなくだだっ広いグランドを微かに照らす。山から吹きおりてくる冷たい風を避けるように、三洲は足早にそこを横切った。食堂の向かいにある売店で緊急用の食料を見繕っていた真行寺は寒空
うー、さぶい駅ビルから、とっぷり日が暮れた歩道へ出ると、冷たい風が吹いた。思わず身を竦める。そろそろ、マフラーくらい必要かもな。週末の繁華街は蜃気楼のように高揚感が漂い、街頭にぶら下がる垂れ幕からは大口を開けたいくつものカボチャが見下ろしてくる。今年も、ハロウィンの時期なんだ。学生の頃なら、イベントのたびに心が踊りだし、さして興味のないアラタさんを誘っては、しかめっ面で見返されていた。それが社会人になれば、イベントを待ち侘びる間もなく日々が過ぎていく。そして、ふと気づけば、こうして街の至
崎の計らいにより、真行寺は急な来客として扱われ、俺たちは早々に部屋へと引き上げた。数日に渡り猫姿で過ごしていた真行寺は、まだ自分のからだに慣れないのか、部屋へ入るなり肩や指を鳴らしたり足をぶらつかせたり、そわそわと落ち着きがない。が、その顔はあどけない子供のように、無邪気な笑みを絶えず浮かべている。「いい加減、落ち着いたらどうだ。」座ったソファから声をかけ見上げれば、たちまち恥ずかしそうにはにかむ。猫だった時は、あんなにも衒うことなく俺を眺めていただろうが。「なんか、猫だった時とは何もかも
水では飽き足らず、ついにはドレッシングまで浴びた真行寺。煮ても焼いても食えはしないが、生ではさらに食欲が減退する黒猫を洗い流し、洗面器に張った湯の中へ納めた。恐慌状態を脱した猫は、ネジが緩んだからだを投げだし縁に顎を乗せる。「はあ、キモチイイっす。」その頭にタオルを置けば、立派な温泉客だな。温泉に浸かる猿ならば有名だが、さすがに猫となれば奇妙奇天烈だろう。「だから、さっさと洗ってもらえ、と言っただろう。なぜ、あんなに逃げ回っていたんだ?」「それ、訊く?」湯の中で蕩けていた猫は目を開き、
仕事を終えた俺は、本来ならばこのまま託生を誘い、一緒に夕飯を取るはずだった。しかし、突然変異した真行寺を預かったばかりに、託生と会う回数こそ増えはしたがデートと呼べる状態ではなくなっていた。今も、一足先に会社を出た島岡と共に俺を迎えにきた託生は「島岡さんが、真行寺くんのミルクにお酒入れちゃうんだよ、ギイ。あんなに小さな猫が酔ったら、どうなるんだろ。」「心配ありませんよ、託生さん。お酒といっても数滴なんですから、子供も食べるチョコレートやケーキに比べれば、ごくごく僅かでしょ。」こうして真行寺
手近な棚へバッグを押し込み、黒猫の後を追う。ただでさえ運動神経がよい真行寺、猫姿ではさらに磨きがかかっていても不思議はない。この邸宅の中で縦横無尽に角を曲がられては、ひとりでアイツを見つけるなんて困難だ。しぶしぶ、めぼしい場所から、声を張り上げた。「待て、真行寺!」すると、せわしない足音が、徐々にこちらへ近づいてきた。そして見えた、黒猫の姿。なにがあったのか知らないが、恐慌状態に陥った真行寺が泡を食ったような顔で走ってくる。「ア、ア、ア、アラタさん、」小声で叫びながら、3メートルほど離れ
真行寺が崎の家へ迎えられ10日が過ぎた。当初は、時折、様子を見にいくつもりでいたのだが。そそっかしい真行寺を心配した葉山が暇を見つけては訪れ、ストレスが頂点を極めた崎は、俺に連絡をよこした。崎の言い分では現在の常態が猫でも、突然虎になるのなら、それがいつ人間に変化してもおかしくない、という理由だ。もし人間に戻ったのなら、ひとりで自宅に帰せば良さそうなものだが。崎にとっては、そういうことではないらしい。そうして今夜も、俺は、崎家のいくつあるのか知らない自宅へ帰宅した。雑多に人が行き交う都会の中に
ー真行寺の猫日記ーある日、目覚めたら俺は猫になっていた。にわかには信じ難いが、俺が信じなければアラタさんには信じてもらえない。そうして一生懸命に訴え、涙ぐましくも説得し、あのロジカルなアラタさんを信用させた。動物愛護の精神を持つ、特に猫が大好きな俺と違って、アラタさんは物分かりの良いモノ以外を好まない。だからペットなんて飼ったこともなく、初めはどうなることか不安だった。もしかしたら、猫になった俺は捨てられちゃうんじゃないかって、ドキドキハラハラ。しかし意外にも、リレーションシップは上手くいっ