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お母さんは死んだんだと思って生きてきた。その事で、心の全てが哀しいに覆われてしまいそうになるのを、無理矢理よそへと追い遣るよう努めてきた。小さかった和也。兄である自分が守ってやるんだと歯を食いしばってきた。それから…それから、家には新しいお母さんがやってきて…智くんが…そして……頭が混乱してどうしようもない。座っている自分の膝に、ポタポタと何かが落ちていた。<ごめんなさい。驚かせてしまったわね…。>横山さんの…いや、お母さんの本当に申
母さんが生きていた。それはにわかには信じられないことだったが、親父がふざけてそんな話を持ち出すわけもなかった。よかった…心の底からそう思った。じんわりと溢れるものに目の前が霞む。恐ろしい事情が付きまとっていたが、それでも亡くなったと思ったその人は生きていたんだ。泣いてる場合じゃない。しっかりしないと…サクライを取り巻く様々な思惑が、綺麗ごとでは済まされない事態を生んだに違いない。そして、それは今現在も俺たちが関わっていかなくてはならない世界だった。
思わず笑い出しそうになって何とかこらえた。親父の好きにすればいいと思っていたのに、現実にはそう簡単には割り切れなかったようだ。勝手にすればいい。女に夢中で、本当に智君の事にまで気が回っていないのかもしれない。俺は横山さんを軽く一瞥しただけで、そのまま廊下を歩いていこうとした。グイッ…横山さんに腕を掴まれていた。元々、勝手なペースのある人だったけれど、腕を掴まれるとは思っていなくて唖然としてしまった。<お願い、部屋に戻て頂戴。>頂戴…?馴
国分さんに教えてもらったマンションのすぐ横の道路に車を停止させる。智君から聞いた話だと、アトリエより広くて交通の便もいいという話だったが、ここは少し不便な場所だった。なんだってこんなところ…スマホに記録させたメモを確認する。部屋の場所は分かっていたが、いきなり押し掛けるにはそれなりの理由がいるだろう。先に電話して…そんな段取りを考えていると、エントランス横から車が一台出てきた。親父…?間違いない。親父の車だ。ということは自ら運転しているということか
俺はわざわざ別室に案内されていた。国分さんは俺が本社にやって来て、父親に会えないでいることが申し訳ない様子だった。『本日は終日こちらに戻らない予定なんです。』「聞いてる。だらら、場所が分かれば会いに行こうかと思ったんんだけど…無理だよね…?」先ほど別の秘書さんに断られたばかりだ。「仕事の邪魔をする気はなかったんだけど…。」『邪魔だなんて…最近あまり本宅へ帰宅されていない様だったので気になっていたんです。』国分さんは少し焦ってい
あれだけ注意したにも関わらず、浴室でも翔ちゃんにスキにされた俺は結局その日の講義を欠席する羽目に陥っていた。翌日になってもダメージがとれない。俺がもっと毅然と拒否しないと…こんな事を繰り返していたらとんでもないことになりそうで、奇妙な不安の様な感情が湧き上がっていた。『大野っ?』大きな木の下の石の椅子に腰かけていた俺を青木が覗き込む。『まだ顔色悪いみたいだけど、大丈夫なの…?』「ああ…熱は下がったから…。」青木には熱が出たこ
:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-「翔ちゃん…。」「翔ちゃん…。」遠くで俺を呼ぶ声がする。俺は構わず自分の中に滾る熱を迸らせていた。これは夢だ…何もかも…夢に違いない。俺は…遠くで再び智くんの聲が、聞こえた……気がした。:-:+:-:+:-:+:-:+:-:
相手を男だと認識してないなら仕方がない。でも、俺としてはそれじゃ困る。意を決してそれを言おうとしたところで、智くんは何かを思い出すようにふんわりと微笑んだ。「何…?」『そう言えば、アイツ、塀を歩いてたら面玉おっぴろげて見てたんだよな。』「おっぴろげてって…。」言い方…『体は大きくなってるけど、中身は変わってないぞ。』「はいはい。でも、もう子どもじゃないんだから…。」会話が堂々巡りだ。どれだけ可愛い後輩だったとしても貴方
バスを一台チャーターして、後輩たちは全員それで都内まで送り届ける事となった。みんな荷物を整理して準備万端だったが…『あっ…はっはっ…はっはっはっ……。』先ほどから智くんが笑いながら悶えていた。何とか収めたいらしいが、すぐさまぶり返す。<ほんと信じられないよな。>何かあったのかは知らないが、大倉はずっと不機嫌顔で文句を言っていた。『はははっ…ひっ…。』「何があったの…?」『…ひっ…ひっ……ちょっと……。』笑
顔を洗い終わろうとする頃になって、ようやくタオルを忘れたことに気が付いた。どこかに備え付けがあったような…ガシャッ…背後で豪華に何かが壊れたような音がする。顔の水けを乱暴にふるうと、その音のした方に目をやった。「え…。」潤が小さなゴミ箱と格闘していた。いや…きっと、うっかり蹴り上げてしまったんだろう。〔うわ…っ。〕プラスチックのそれにはヒビが入っていた。「壊れてるね。」〔くそっ…。〕「大丈夫だよ。」〔大丈
松本の心は読めなかったが、牽制にはなったはずだ。あの状況で俺達の関係がどんなものか分からないわけがない。だから…『翔ちゃん…?』ゆっくりと階段を登り切ると、突然声がかかった。どうやら起こしてしまった様だった。『どこ行ってたの…?』「ごめん…起こした…?」珍しい。一度眠ると、そうそう起きたりしないのに…そう考えて、以前にも同じような事があったことを思い出した。『大丈夫…?』「…何が?」『その…軀…とか…。』
夜中過ぎて辺りはますます寒くなっていた。ゆっくりと暗い中を歩き出す。コテージを通り過ぎようとしたころ、その香りに気が付いた。煙草か…?暗がりの中、誰かがコテージの壁によりかかって煙を吐き出していた。顔は見えていなかったが、そのシルエットで誰だかすぐに分かった。「結構不良だな。」『…。』見つかって動揺するそぶりなんてない。むしろ文句があれば言ってみろといった挑戦的な態度に見えるのは昔となんら変わらない。『先輩は…どうして…?』
二階には暖炉の熱が上って十分暖かい空間になっていた。このままグッスリ眠れそうだ。『寝ちゃうの…?』「はっ?」小声だったが、気になって柵から下を伺ってしまった。起きているだろう二人が気にしてる感じはない。そんな俺の体が再び布団の方へと引き戻される。「翔ちゃんっ!」あくまで小声で怒鳴った。だが、そんな唇はすぐさま塞がれベッドの上に押し倒されていた。ねっとりと舌が絡みついておかしな音が漏れるんじゃないかとヒヤヒヤする。離され
みんながすごい勢いで肉を平らげていく中で俺はせっせと食料を取られないようにと確保していた。翔ちゃんは少し離れたところで、気分良さそうに後輩たちに聞かれるまま、仕事の話をしていた。てんこ盛りになった皿をもって立ち上がる。<それ、もしかして松本のですか…?>「うん…少し取っておこうかと…。」<ありがとうございます。潤くんきっと喜びますよ。>ニッコリ笑顔で忠にそう言われたが、そんな気はしなかった。彼はあまり俺には話しかけてこない。というか、なっ
届けられた肉は予想通り高級なモノだった。<すごい…。>〈先輩、ありがとうございます。〉<今回だけだからな。>〈はい。〉俺達のやり取りを聞きつけた後輩たちがキッチンに押し寄せる。コテージに戻ろうとして丁度荷物が届いたところだった。「あれ…潤は…?」<さあ…一仕事終えたから風に当たりたいって言って出て行きましたよ。>え…俺はギョッとして翔ちゃんを見たが、彼の方は笑いながら談笑を続けていた。まさかな…≪おい、大倉。
外は予想通り寒かったが、さっき迄動いて熱くなっていた体にはちょうどいい。「ふ―…。」楽しくないわけじゃない。コテージだって興味はあった。ただ…ベッタリとくっつく二人を見るとモヤモヤする。以前なら可愛い後輩のふりで分け入ってしまえたが、今さらそんな気にはならない。あの感じ…あの二人はもう…「はぁ…。」今さらわかり切った事を想像して落ち込んでりゃ世話がない。ジャケットの胸をまさぐると、そこから煙草を取り出す。さすがにみん
出口でダウンジャケットを羽織らされると、そのまま外へと出た。思った通り寒くて震える。そんな俺の手を翔ちゃんがギュっと握る。『はぁ…まだみたいだな…。』息が白い。「ここの場所は分かるんでしょ…?」『多分…。』「だったら、中で待っていようよ。」『イケズだな…。』「はっ?」どっちが…?これじゃあ寒くてたまらない。俺は震えて見せた。『寒い…?』「当たりませじゃん。」『じゃあ、あっためてよ。』「え…?」『寒い
結局後輩たちとは別れて夕方コテージに向かえることになった。二階の奥には布団が何個か用意されていて翔ちゃんがそれの数を数えていた。『数が足りないけど、雑魚寝すれば何とかなるな…。』「泊めるの…?」『一応そうなった時の事を想定してだよ。この後来て帰るなんて絶対に無理だろうからね。』「…。」他の所に泊まるわけにはいかないんだろうか…?『空いてるかもしれないけど、この流れで他所へ泊らせるのってもな…。』「もしかして怒ってる…?」『ま
きっと自分の容姿に自信があるんだろう。潤の事をまっすぐ見つめ返している姿は堂々としたものだった。《さっきからかっこいいなって噂してたんです。》そう言って飛び切りの笑顔を見せる。後輩たちからはどよめきが沸き起こっていたが、すぐさま静まり返る。とうの本人が眉を吊り上げていたからだった。可愛そう。あれは…きっと分かってやってるんだよな…俺は彼からどんな言葉が飛び出すのかとヒヤヒヤしていた。そして、それは側にいたみんなもそうだろう。『
自分たちのコテージに戻って昼寝でもしたい気分だったが、そうもいかない。俺は休憩所に向かうとコーヒーを片手に確保しておいた席に戻ろうとしていた。<大野さん…?>知ってる声がする。周りを見渡したが、声の主は見当たらない。<やっぱり大野さんだ。>見上げた。「忠…。」思った通り、忠だった。でも…<すごいっ、こんなところで会うなんて…。>「でかっ…。」<えっ…?>一瞬気が付かないくらい頭の位置
心地よい振動に揺られて深く深く心が落ちていく。寝不足だった体からはぐったりと力が抜けて、更に深い眠りへと誘われる。『…くん…智くん…。』翔ちゃんの声が聞こえていた。心なしか冷たい風を感じる。夢…?それとも…瞼を開いて確かめればいいモノを…出来ない…そんな俺の中途半端な意識は、体を揺すられたことで本当に覚醒した。「翔ちゃん…?」『起きた…?着いたよ。』俺が眠っていたのは助手席で、車は小さなコテージのすぐ前のスペースに止
仕事を順調に終え、何かトラブルが起きる気配もない。この調子だといつもより早く帰れそうだ。俺はすっかり浮かれていた。帰りにスイーツでも買って帰ろうかな…何か欲しいものがあるかもしれない。智くんに直接聞くか…?そんな事を考えながら携帯を取り出していた。「ん…?」嘘だろ…どういうことだ…?俺は智くんからのメールを何度も読み直していた。◇◇◇◇◇櫻井家の正面玄関を管理していた使用人が腕時計を確認
コーヒーのいい香りに目が覚める。グッスリ眠ったせいかスッキリと起きることが出来た。でも、やはり目覚めたばかりは少し意識がぼんやりしていて…『あっ、おはよう。』「…おはよう。」リビングですっかり支度を整えた翔ちゃんの姿をみたとたん、昨日のアレコレを思い出した。『グッスリ眠れたでしょ…?』「うん…まあ…。」昨日のやり取りを思いだしていた。全身ベットリ汚れてしまって、急いでお風呂で洗い流すとそのままベッドに入って眠ってしまったん
何事も起きない毎日を送るうちに、緊張は完全に解けていた。きっと何も気づかなかったに違いないと判断した。女性にのぼせてるせいで感覚が鈍っているのかも知れなかったが、こちらとしては好都合だった。『ふふっ…。』テーブルの方から笑い声がする。そんなに課題が楽しいのかと思ったが、智くんは雑誌を眺めているようだった。それも、経済誌。どういうことだ…?そっと立ち上がると、そのまま静かに近づいて行った。勉強の邪魔をするのは良くないと思って我慢して離れてや
朝食を取ろうと部屋を出ると、一階のラウンジに向かう。今日はこの後仕事を入れていない。早めに帰れば、葉月と今後の事を相談できるだろう。早朝のせいか人の姿はなさそうだった。奥のへと案内され、余裕のある広いテーブルに腰を下ろした。手近にあった新聞に手を伸ばし、先に出されたコーヒーを嗜みながら広げてニュースを拾いながら寛いでいた。『Mornin'…』声に視線を向けると、予想した通り朝のさわやかな笑顔を浮かべた貴族が立っていた。『
彼は遠慮なく向かいに座り、事業について熱く語り始めた。貧困によって才能が失われることを嘆き、そんな彼らの才能を開花させることに尽力したいんだと語っていた。みすみす才能を埋もれさせない事には俺も賛成だった。もちろん、貧困とは関係なく才能のある人間のサポートも行っていて、より高め意を目指してもらうための手助けをや助言を無償で行っていた。今回の来日はそんな目的もあるそうだった。ヨーロッパにとどまらず、アジアにまで…やはり規模が大きすぎる。それから話題は「サクライ
ひとしきり会話を終えると、シャワーを浴びて汗を洗い流すと、体も気分もサッパリさせていた。室内の最奥の窓から覗く下界はきらびやかに輝き絶景となっていた。この階でこんな状況なら上はもっと凄いだろと感心しながら、どこか冷めていた。一人で見ていても味気ない。すぐさま時間を持て余し、酒を飲もうとして冷蔵庫を開いたが、部屋のみする気にもならなかった。ソワソワと落ち着かない俺は、クローゼットの中に閉まれた洋服に着替えると外に出た。すぐさま廊下にいた顔見知りの男が近寄って来る
ホテルの一室に戻ってネクタイをほどくと、そのまま携帯を操作していた。「もしもし…?」『仕事は…?』「今終わったところだ。部屋にもどってるよ。」『お疲れ様。』「体調は…?」『大丈夫よ。』柔らかな笑い声が耳元に響く。そんな調子に安堵しながら心配は尽きなかった。いざとなったら東山弁護士にお願いはしてあるが、それでも傍に誰かが付いているわけじゃない。『仕事の方はどうだったの…?うまくいった…?』「ああ、ピアノも含めて好評だったよ。
あれから親父からは何も言ってこなかった。一度本社を訪れた時、会えるかどうか国分さんに連絡を取ってもらったが、忙しいらしく親父をつまえることは困難だった。あの時言っていた通り、本当に忙しいらしい。もしかしたら、俺の言った事をそういう意味だとは受け取らなかったのかもしれない。…そう考えて、あの親父が…?疑問が浮かぶ。だが、そう確信したらなら、今頃俺達をほったらかしになんてしないはずだ。俺はため息をつきながらリビングに降りていた。<お疲れ様です。コー
テレビからそのもその有名な老人のニュースは流れていた。刑事との会話の最中に心臓麻痺を起こしたそうだ。罪を認めず逃げるきられた事に、悔しいような何とも言えない気分になっていた。『うっ…。』「葉月…?」葉月は慌ててパウダールームに駆けこんでいた。身内から自殺者が出たことに嫌悪感が起きたのかもしれない。櫻間氏によってあの部屋に住む住人を殺すように依頼された殺し屋は、待ち構えていた東山とGB達によって取り押さえられていた。持っていた道具からプロなの