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―…せっかくの武道館、大事にしろ、ってニッキーさんは言ってくれたよ…オフの最後の日、次の日のリハーサルのことで電話をくれたタカネだったが、話はつい前日の飲み会のことになってしまった。―次のツアーのファイナル、千三百席の会場にビビってる場合じゃないんだなあ。受話器を置くと、また、ベルが鳴った。―もしもし…マリアは凍りついた。ZENNだった。―マリア、これから僕のうちに来ないか?昨日は全然話もできなかったし…ニッキーとのはしゃぎぶりが嘘のような、あの夜と同じ…冷ややかな口調に、
麗華とSHOは笑っていたが、他のみんなは見たことがないらしく話に乗ってこないので、ニッキーはマリアに矛先を向けた。「マリアは見たんだろ?あのすげえゴージャスな天蓋付きのベッド。」どうしてニッキーが知っているのか、マリアは返事に困っていた。「何、マリア、ZENNちゃんのうちに行ったことあるの?」麗華をはじめ、シヴァ達もびっくりしていた。マリアが困っていると、ZENNがようやく口を開いた。「ほら、半沢さんのパーティーの帰り、遊びに来させたら、俺、途中で具合悪くなっちゃって…マリアに介抱
が、ZENNはにんまりと笑い、「大丈夫だ。ドームより音はいいから。」そういう問題ではないのだが、ためらいは許されない。CUEの、謹んで務めさせていただきます、の言葉に合わせ、MOON一同はぺこりと頭を下げた。「それじゃあ、詳しいことは後日、業務連絡ということで…」まだ事務所を持たない自分達の身の上が、マリアはとても気になった。「飲み会はいつもこんなところだったよねえ。でも、昔は全員、揃えたよね。」SHOがしみじみと言うと、ニッキーも、「俺達の時なんてもっと安いとこだった。そうい
みなノーメークではあるし、服もTシャツや革ジャンの普段着なのだが、黒だけでなく赤やら金やら茶色やらの長髪のミュージシャンが十二人も揃うと、そぐわない日本間でも壮観だった。しかし、ZENNは、「これしか集まらないのか?アナスタシアとディケイドは?」移籍組のことを尋ねた。が、麗華の反応は冷ややかだった。「ツアーの最中だよ。もういいんじゃない?あの人たちは。」マリア達には事情はわからなかったが、ZENNは諦めたようで、社長挨拶を始めた。「見ての通り、仕事が多くて、全部のバンド全員が揃
羽村びおらBLロック小説「ディスティニー・アンダーグラウンドさんの投稿したなう●9/4このアメーバなうが11/16で終了しちゃうなんて大ショック。まあ、うすうす感じてはいましたが...週一回の、ブログへのまとめ投稿が、小説ブログには便利なのですが...9/415:02●9/5病院へようやく行ってきましたが、待ち時間が長くて〜(p_q)風邪は大したことがなかったので、おとなしくしています。9/517:36●9/6本日はお昼に1回、小説「黒服のマリア‐二十世紀末英雄序曲‐」を更
会場ではCDの他、ポスターや写真の売り上げもよく、回収されたアンケートでの評判も上々だった。インディー・デビューしたばかりだというのに、他のバンドより頭抜けて華のあるステージ…それはMOONのファンばかりでなく、ギルティーのファン、ZENNのファンまで狂喜させていたのである。当然それはみなの知るところになり、ツアーが終わると、「ヒットのお祝いをしてやるから」とMOONのメンバーは麗華にいつかの居酒屋に呼び出されていた。まだメンバー全員で歩いていても騒ぎになどならなかった。早めに店に着いた
レコーディングが始まる頃から、MOONのスケジュールは本人達にはあまり喜ばしくないものになっていった。というのは、メジャーなみと言われるギルティーの宣伝戦略のために、アルバムジャケットやポスター以外の写真撮影やロック雑誌の取材が、レコーディングの期間にも予定されたからである。それ自体は嬉しかったし、自分達のために何人もの人が動いてくれる初めての作業は何もかもが珍しかった。プロのスタイリストやヘアメークの技術で、自分が期待以上のビジュアルになっていくのも嬉しかった。しかしそれは、慣れないレコ
「それじゃあ、どうしようかな。おまじないに、YOUくんにはステージネームをプレゼントしようか。」YOUはただ驚くだけで、言葉もなかった。また麗華と仁まであわてふためいた。「ZENNちゃん、まだ契約も済んでない人にあんた…」それを見て他のメンバーは、二人の機嫌を損ねてはと真っ青になった。が、ZENNはすましたもので、「どうして?いいじゃない。どんな名前がいいかな…そうだ、思いつきだけど、『マリア』なんていうのはどうだろう。」すると、YOUが口を開くより早く、麗華が吹き出した。「その
その日もインディーズではなかなか有名なバンドと一緒だったから、MOONの出番は最初で、まだライヴは続いている間に、メンバーはローディー達と機材の積み込みをしていた。その時、CUEが業界風の男に話しかけられているのが視界に入った。CUEはすぐに作業の手を止め、直立不動になっている。そして、みんなを呼び集める。「こちら、麗華さんのマネージャーさん。麗華さんが、ライヴ見てやっぱり気に入ったから、話したいって…」麗華が待ち受けていたのはサラリーマン客ばかりの居酒屋の奥の座敷だった。そこで、赤
―お前達に言えなかったんだけど、今日のライヴ、昔対バンだったよしみで、ROSEの麗華さんがマネージャーさんと来てたんだよ。で、あんまり楽屋はいい雰囲気じゃなかったんだけど、帰り、一瞬俺が機材車の横で一人になった時、突然マネージャーさんが話しかけてきてさ。「もしかして、MOONのベース?」って言うわけ。ハイ、って答えたら、麗華さんが出てきて、「この人が似てるって言い張るけどまさかと思った」って。まずマネージャーさんがこの前のデモテープを気に入って、麗華さんに聞かせたんだって。で、麗華さんも気に入
悪かった、ごめん…YOUには謝罪の言葉しかない。しかし、彼女を泣かせておくわけにもいかず、気持ちをひき立たせるように、「由真、明日学校だろ?今日はもう寝ろよ。明日は早くに制服に着替えに帰らなきゃ。」すると彼女は必死で首を横に振る。「明日は家まで送ってやるからさ…」それでも彼女はうんとは言わなかった。「とにかく、ベッドに入れよ。」テーブルを片付けようとすると、由真の視線を痛いほど背中に感じた。「YOUさん…何も変わってないのね…」「何が?」「私、やっぱり、YOUさんの友達な
「YOU、最近元気ないね。」最初に声をかけてきたのはシヴァだった。YOUは曖昧に微笑むしかなかった。「あのコスプレの人…」シヴァがまだ何か言いかけるのを、YOUは無視して立ち上がった。その後、ホームグラウンドでのライヴの時、自分達を待っているファンの中に由真を見かけたのもシヴァだった。自分と目が合ったので彼女はあわてて逃げたのだろうと、彼はずっと気にしていた。ライヴの盛況は相変わらずだったが、ここで何かもう一発、ステップアップが欲しい時期だった。そうでなければ観客は飽き、離れて行って
「YOUさんが他に好きな人がいるのは仕方ないけど、でも、あの女の人だけはだめよ。」なぜ、という言葉を飲み込むのがやっとだった。それくらい、由真の声は説得力を帯び始めていた。「…あの人、彼氏いるもの。私、何度も一緒に歩いてるの見たもの。YOUさんくらい背のある、エリートサラリーマンみたいな人…」動揺したYOUはそっぽを向いた。「昨日なんか…ジュエリーショップから出て来て…」「作り話したってダメだ。」「嘘じゃないもの!」由真の叫びは痛ましく響き、それがYOUの神経をショートさせた。
すっかり舞い上がったYOUが彼女と別れてまたコンビニを目指そうと振り返った時、ふと、由真と同じ制服が狭い小路に消えて行ったように思った。まさか、とYOUはその小路をのぞいた。右手の道に消える、モス・グリーンのタータンチェックのミニスカート。だが、YOUはすぐに見失った。仕方なくもと来た道を戻った。他にあの制服は歩いていない。由真は、学校を抜け出してわざわざ様子を見に来たのだろうか。後味が悪かった。それなのに、その夜、どうしてあんなことができたのか。酔った勢いのふりをして、YOUは彼女を誘
シヴァは由真に目を転じると、「もしかして、この前のコスプレの人?」と微笑みかけた。あわててお辞儀をする由真の肩を軽く叩きながらYOUは、「由真ちゃん、ていうの。も、すっかり友達になっちゃって…今日なんか晩ゴハン作ってきてくれたの。」「いいなあ、もう少し早く来ればよかった。」シヴァは由真に暖かく接していたが、実は早く用件を切り出したがっているのをYOUは察し、由真を笑顔で送り出した。部屋に入るなり、シヴァはCUEがローディー見習いをやっていたバンドの名をあげ、彼らがインディーズに戻
曲作りに忙しく、気にしていながらも、YOUからは電話しなかった。彼女の方から電話がきたのは三日ほど後の夜だった。いいメロディーが浮かんで、それをまとめようとしたところだったので、由真とわかってもゆっくり話したいとは思わなかった。―ごめん。今取り込み中だから。それどころか、気にしていながら電話をしなかったのは自分なのに、―ねえ、どうしてうちの番号わかったの?教えた覚えがなかっただけに、女の子の図々しさを見たような気がして不快になっていた。―昔のチラシを見たの…バンドの問い合わせ先がライ
驚いたようにきき返す由真に、YOUもきちんと答えた。二才で両親が離婚して、十才の時に父が客死したこと。「お父さんの顔、覚えてる?」「うん…一回会ったきりだけどね、父親にも虫の知らせでもあったのかなあ。ロンドンに出発する前にね。」「ミュージシャンなら、カッコいいお父さんでしょう?YOUさん、似てるの?」「ううん。似てもいないし。こんな人なんだ、って思っただけだったな。まだ俺もガキだったからさ。」半分は嘘だった。がっちりした体格で、想像以上にカッコよかったお父さん。母の代わりに付き添
「年いくつ?十五?十六?」「十六。YOUさんは?」「二十一。名前は、なんていうの?」「由真。加藤由真。」「俺はね、松岡優輔。」「へえ、そんなカッコいい名前なんだ。それでYOUさん、ていうのね。」「俺の部屋、相当ボロいから。驚かないで。」「私のウチもそうなの。」「いや、絶対、俺の勝ち。」しかし、部屋に着くと由真は驚かなかった。間をもてあましたYOUは冷蔵庫を開けた。「ウーロン茶しかないんだよねえ…ビデオでも見る?」「うん。何の?」「CUEがローディー見習い
「どうも。」ファンにウケる、だだっ子っぽい、横柄な口調でYOUは礼を言ったが、その子はまだ話したい様子でついてくる。YOUはもうメークも落とし、普段着に着替え、ストイックなミュージシャンタイムを終えていたので、無視して歩いていた。が、連れの女とその友達にはカンに触るらしく、「子供は帰りなさいよ。」「コスプレはコスプレらしくライヴの時だけいればいいの!」「一回や二回見たくらいでファン面するのはやめてよ。あたし達の方がYOUのこと、MOONのこと、よくわかってるわ!」「はいはい。でも今
バイト先のビデオ屋の隣にある、小さな化粧品店の店員。三つ年上の二十四才。服は流行のものをセンスよく着こなしてはいるけれど、浮わついたところなんてこれっぽっちもない、年齢以上に落ち着いた清楚な美人…YOUもライヴの時のメーク用品は全部ここで買い、バンドをやってることをアピールしたりして話もするのだが、思いが募り過ぎているのか、らしくもなく攻めあぐねていた。ロックに全く興味を示してくれない普通の女性の気をひくには、YOUはあまりに多忙で、かつ、貧しすぎた。練習や曲作りばかりでなく、ポスター
結局、シヴァとYOUは黒のドレス、というか、ロングスカートに見えるワイドパンツをはくことにした。CUEの知り合いのデザイナーの卵に縫ってもらったのである。コーディネートのために二着ずつ、それも大至急でと頼んだので、高い生地代の他に謝礼も払わないわけにいかず、二人はまたデパートの配送センターでバイトをする破目になった。が、悲しいフリーターも、ひとたびステージに上がれば、客席が…息をのんだ。YOUは何かがふっきれた気がした。もう何も怖くない。俺達は俺達でしかないんだから。しかし、い
ファンがミュージシャンと同じ格好でライヴに押しかけることは、ロックではさほど珍しくないだろうが、コスチューム・プレイ―略してコスプレ―と称して、特に過激なコスチュームのアーティストの格好を完全にコピーすることはROSEから始まっていた。天を突くかのように立てた金色や、血のような赤の長い髪。極彩色のサテン、エナメル、レース、そして、ギターの麗華だけは印度更紗という派手な衣装。特にブルーやパープルのシャドウが強烈に映えるメーク。派手で何が悪い。美しくて何が悪い。そう言わんばかりのROS
じらす素振り、というのは覚えたようだが、素肌を重ねればまだまだ由真はたわいない。制服のブラウスのボタンをはずし、スリムな体からは想像できない豊かな胸に手をすべりこませれば、二重まぶたの、大きな美しい瞳はもう恍惚としている。まだ高校二年だっていうのに、すでに都合のいい女。由真の手料理が並べられたテーブルで、二人で食事をするのがマリアは大好きだった。ママゴトのような暮らしが気に入っていた。彼女が忙しく立ち働いている間、自分はよそのお姉サマにピアスを買ってもらっていたり、部屋に招かれたりも…してい
ここ一週間ほどの目まぐるしい変化を聞いた由真はただ驚いていたようだったが、ギルティーと契約したことを心から喜んでくれた。マリアが説明する予定をダイアリーに書き留める由真は、絶対他人にもらすなよ、の一言にもうっとりしていた。彼女はひたむきに自分を愛し、尽くしてくれるのだが、「ファンの目につくと困るから」と真剣に考えているらしく、人目につくところでは決して彼女気取りをしないところもマリアは気に入っていた。もっとも、他人の目にはマリアと由真は顔立ちなどが似て見えるらしく、一緒にいると兄妹と思わ
「持ってるのもなんかイヤだけど、捨てるのも…寂しくて。」「じゃあ持ってりゃいいじゃん。お父さんの話、聞きたくなるかもしれないし。」「それが向こうのテだろ。」「まあそうだけど、だからってお前が丸め込まれるとは思わないし。」「まあ俺はギルティーに洗脳されてるしな。」「根に持つなよ…俺だって反省…してるんだから。」マリアは驚いてCUEの顔を見た。彼はバックミラーに気を取られているような顔をして、「お前にあん時怒鳴られといてよかったよ。そうでなきゃ、契約の時の仁さんのあの雰囲気に、俺は堪え
そして、連れのディレクターも巻き込んで、「一目でわかった。サエちゃんのお姉さんにそっくりなんだよ。ビデオでね、一発でわかった。似てるってよく言われない?」親しげな江波の様子をマリアは嬉しく思いながらも、「いえ…父親の方の親戚とは一切つきあいがないし、母も何も言わないものですから…」すると、江波は本当に困った顔をして、「…それはすまなかった…」「い、いえ、ルーツがわかって嬉しかったです。俺、親父にもオフクロにも似てないの、気にしてたんで。」マリアのフォローに彼はほっとした顔をした。
羽村びおらBLロック小説「ディスティニー・アンダーグラウンドさんの投稿したなう●8/29とにかく早朝のミサイル発射にはまいりました。早くいい方で解決してくれないかなあ…8/2921:57●家族のサポートのために、「ディスティニー・アンダーグラウンド」の更新は当分おあずけ。早くペースをつかんで、時間をひねくりださなければ…8/2921:58●8/30東京は今、どこが豪雨になってもおかしくないらしい。ので、ひやひやしてゲリラ雨?待ち(^_^;)です。◆雨のさなかに地震がおきて、ミサ
あくまでこちらの意志だから、というのである。ZENNの名を出されて身をひき締めた五人だったが、CUEが小さな声で、サインするよな?とみんなに尋ね、全員うなずいたところで、代表して仁に答えた。「今日、サインしていきます。」「そう。みんなそれでいいですか?」真新しい会議用のテーブルの上で、みんなはカリカリと自分の名を刻んだ。森口幹広、松岡優輔、柴山信之、岩本久、高嶺晴寿、と。それからは、事務所のないMOONのマネジメントも担当するというギルティーのディレクターを交えての、今後の打ち合わ
「こうやって俺達を仲間割れさせるのが目的なのかなあ、ZENNさん達って。」「は?何で?」「契約までも何だか長かったし、昨日はマリアだけ拉致しちゃうし。ROSEを食いそうなバンドは芽のうちに摘んでしまうと…」「何言ってんだよMIKU。」がっかりしたタカネが叫ぶ。するとCUEは体勢を立て直し、いつものような口調で、「マリア、俺は腹くくったからな。お前こそ後から泣きごと言うなよ。」恐る恐るマリアはCUEの顔を見た。彼の真剣なまなざしを見た途端、マリアは後ろめたさも愚かな迷いも忘れた。
「ステージの一番奥から、まあ、お客の動きとお前達の背中を見てるだろ。最近だと客とバンドが一緒になって楽しんでるのがよくわかるんだよ。それって、曲だけが愛されてるんじゃなくて、俺達のすべてを客が認めてるってことだと思うんだ。他のバンドより過激なカッコして、お客を刺激して、一緒に楽しもうぜって俺達全員が言ってるのが受け入れられてるってこと、ロックの、暗黙のきまりごとより、みんなが楽しむことの方が大事だ、ってわかってるバンドが俺達だってこと…」マリアは思わず黙り込んでしまう。ギルティーから声がかかっ