宮本百合子が、前掲「『行人』について」の中で、「道草」の健三とその妻との関係にも触れて《「道草」の健三とその妻との内的いきさつに進むと、漱石の態度は女は度し難いという男の知的優越に立って揶揄して居るどころではなくなっている。「行人」の一郎が妻の心の本体をわがものとして知りたいと焦慮する苦しみは、見栄も外聞も失った恐ろしい感情の真摯さで現れていると思う。「女は腕力に男より遙かに残酷なものだよ」「どんな人のところへ行こうと、嫁に行けば、女は夫のために邪になるのだ」という一郎の言葉に、作者は何と悲痛な