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夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使夏が帰ってしまうときstory両側の柱にカーテンは優雅にたぐり寄せられて、大きなガラス窓が暑い外の夏を遮っていた。適度の冷やされた気持ちのいい空気が室内をわずかに動いているのが感じられる。わたしは人と待ち合わせたとき、先に着いて静かに待っているのが好きだと思う。そういう場所で目的もなしにぼんやりと時を過ごすことが苦手なので、人に会うというりっぱな口実があれば、一時間でもただ坐りつづけることができると思う。彼女が暑くて悪いけどどうしても会っ
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使夏が帰ってしまうとき夏の思い出は多すぎるのでわたしたち無口になってしまうひとつの夏の中にたくさんの夏を見るのでわたしたち少しぐったりしてしまう夏の出来事は夢に似てるのでわたしたち主人公になってしまう明るい午後のおひる寝から覚めたみたいにわたしたち少しぼんやりしてしまう
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使雨の日には花を買いにstory水たまりをよけもしないで、わたしはまっすぐに歩いて来た。傘もさしていなかった。コートの衿を立てていたけれど、髪をつたって首すじに入ってくる滴がわたしをせきたてた。なぜ強引に送って来てくれなかったのだろうあの人は、と考え始めた。少しみじめな気持ちになっていた。降り出す前に帰りつくから大丈夫よといったら、それじゃ急いだ方がいいねと、あの人は簡単に言葉だけを受け入れてしまった。あのお連れがいなければ、もう少し早い時間
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使雨の日には花を買いに薔薇が一本欲しいのです雨が降るから止みそうにもないからわたし花屋さんに行って来ます雨がこんなにもやさしいと教えてくれたあの日からわたしの花屋通いがはじまり雨の日は花屋の小父さんも待っています矢車草でもよかったのです雨が降るから一輪の花があればわたし話し相手には困りません
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使嘘つき天使storyあたしのきらいな風が吹く心配のない午後だった。陽は静かに西に向いて、窓際のパンジーやさくら草を優しく照らしていた。空気は春らしくいくぶん湿り気を帯びて肌に心地よくふれた。何事も起こりそうになかった。誰の小説も読みたくは無かった。詩はもっと読みたくなかった。音楽はよさそうな気がした。中でも、バッハはよさそうだった。電話でもかかってくればいいのにと、わたしはほとんど満足しながら考えた。けれどわたしは何もしないでじっと
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使嘘つき天使四月の空が嘘つきで四月の風が嘘つきでわたしの旅はおあずけであなたも嘘つきほんの冗談なんて嘘信じたふりのわたしも嘘四月の雨も嘘つきなら四月の花も嘘つきです嘘つきばかりに囲まれてわたしは上機嫌の片足とび四月があるなんていったい誰がついた嘘
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使ピクニックは春浅くstory私はその大学の学生ではなかったけれど、休みの日に、その校庭を散歩するのが好きだった。芝生に座って、ピアノの練習曲を聴きながら、本文を読むのもかなり気に入っていた。ときどき体育館の方から“オウ!”とか、“ナイスシュート”なんていう威勢のいいかけ声が聞こえてきたりする。要するにわたしはそれらのすべてがかもし出す、春の空気を含めた全部が好きなのだった。「やあ、きみじゃないか」ふり返ったまぶしい光の中にのっそりと立
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使ピクニックは春浅く守れない約束だって約束のうちわたし約束がいくつあってもかまわない約束しましょうできるだけ明日はきっとお天気でピクニックには絶好よロールサンドを作っていくわそれからオレンジパプコーン氷入りのお水とそれにきつけ薬のブランディ約束します花がなくてもがっかりしない人がたくさん来ていても文句はいわない道に迷っても怒らないあしたじゃなくても構わないだから約束してちょうだいまだ春浅いピクニック二人でおくる
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使リボンがゆれていた木立が風に泣いてます飾る雪もなく落ちる葉もなくただ春を待っています待つことは迎えることなのですからわたしはここにいて自分の心をしっかりとみつめてればいいわけですけれどつつましくたたずんで待つことのむずかしさをあなたは知っているのでしょうか待つことは迎えることなのですが祈らずにはいられません願わずにはいられませんこの想いが届くことを外は風です春はまだ少し先あなたもまだです夏木洋子作品集に載
夏木洋子第2作あなたが好き嘘つき天使リボンがゆれていたstory冬の陽ざしは低いので、白いレースのカーテンをすり抜けて、部屋のずっと奥まで差し込んでいる。私は、自分の華やかにかかったチョコレートの箱をテーブルにていねいに置いて、それからコートを脱ぎ、古びた籐椅子に腰掛けた。熱帯魚は花のようにゆれ、鉢植えのゴムの木は今もなおすくすくと伸びているように見え、そしてその向こう側ではベレー帽の初老の紳士が新聞をひろげている。小じんまりとした店にウェイトレスは一人しかおらず、カウンタ
リボンがゆれていたstory冬の陽ざしは低いので、白いレースのカーテンをすり抜けて、部屋のずっと奥まで差し込んでいる。私は、自分の華やかにかかったチョコレートの箱をテーブルにていねいに置いて、それからコートを脱ぎ、古びた籐椅子に腰掛けた。熱帯魚は花のようにゆれ、鉢植えのゴムの木は今もなおすくすくと伸びているように見え、そしてその向こう側ではベレー帽の初老の紳士が新聞をひろげている。小じんまりとした店にウェイトレスは一人しかおらず、カウンターの向こうでコーヒーを入れているのはここの主
冬木立を通ったあとでstory「きれいな歌だね、誰の歌?」「ん?あ、これ、ビートルズ」「へえ、ぼく知らないなあ。ビートルズは大好きだし、たいていは知ってるつもりだがなあ?」「私もいちばん好き。でも、このごろ多いでしょ、ビートルズファンって。わたし最近プレスリーもいいと思ってるんだけど・・・」「プレスリー?もう年寄りじゃないか。ほんとにプレスリーの歌そんなにいいと思うのかい?聞いたことあるの?」「ええ。むかしのレコードがたくさんあるのよ。兄さんの。すてきよ。体が揺れてくる
冬木立を通ったあとであなたの心に映っているのは明るすぎる夏の陽ざし咲き匂う花さああなた旅立ちたいのならどこへでもお出かけなさいわたしにはまぶしすぎますそれにいまは旅の季節ではありませんさああなた一足先にお出かけなさい新しい夏に向かっていじわるな季節のいたずらですたぶんわたしも春が来たら旅立つことになるでしょう冬木立を通ったあとでstoryへ続きますこちらの夏木洋子作品集に載せる写真を募集してます希望される方連絡ください
夏木洋子第2作あなたが好き02嘘つき天使冬木立を通ったあとで「きれいな歌だね、誰の歌?」「ん?あ、これ、ビートルズ」「へえ、ぼく知らないなあ。ビートルズは大好きだし、たいていは知ってるつもりだがなあ?」「私もいちばん好き。でも、このごろ多いでしょ、ビートルズファンって。わたし最近プレスリーもいいと思ってるんだけど・・・」「プレスリー?もう年寄りじゃないか。ほんとにプレスリーの歌そんなにいいと思うのかい?聞いたことあるの?」「ええ。むかしのレコードがたくさんあるのよ。
夏木洋子第2作あなたが好き02嘘つき天使冬木立を通ったあとであなたの心に映っているのは明るすぎる夏の陽ざし咲き匂う花さああなた旅立ちたいのならどこへでもお出かけなさいわたしにはまぶしすぎますそれにいまは旅の季節ではありませんさああなた一足先にお出かけなさい新しい夏に向かっていじわるな季節のいたずらですたぶんわたしも春が来たら旅立つことになるでしょう