寺の本堂にて。住職が仏壇に向かい、看経(かんきん)をしている。経文を読む前に「南無釈迦牟尼仏」と三回唱えている。という事は宗派としては「曹洞宗」だろうか。いつもなら何の雑念も湧く事が無く、日常のお勤めを行えるのだが、その日はいつになくそわそわとして頭の中には良からぬ妄想(もうぞう)ばかり駆け巡り浮かんでは消えていた。よぎっては消え、よぎっては消え。「いかん。こんな状態では仏様に鼻で笑われてしまう。」気を取り直し、心を鎮ませて無心になる。どれくらい経ったのだろうか。住職の眼前には今も尚、黙々と修行