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東京拘置所。刑務官に呼び出された沖田は、面会室へと誘われた。まるで憑き物の落ちたような表情の沖田は、口笛を吹きながら、刑務官に言わるまま面会室へと入っていく。すると、ガラス越しにいる人物を見てその目を丸めた。面会に来た者は丈二だった。沖田は途端に訝しそうな表情に変わって、「はぁ〜〜〜?」と言いながら対面の席へと座る。「元気そうだナ…………ツトム!」丈二の言葉に、沖田は更に憮然とした表情を浮かべ、丈二と目があわないようにと横を向いて話し出した。「ナンでテメーがノコノコ面会なんぞに来てん
菊水会との抗争が終結する数日前。山崎は、組長室のソファーに深々と腰を降ろし、腕を組んで静かに瞳を閉じていた。そんな山崎の前にテープレコーダーが置かれ、聞きなれた辻井隆の話す声が、静まり返った組長室の中に響き渡っていた。『ホレ、あそこダヨ!いつもはした金でウチの組の便所掃除させてる……………………柳曽組!八丁のヤローなら都合のいいようにやってくれんだろ?』『ああ…………あそこですか…………だけど、柳曾は今、殆ど人いなくなってて……組って程のモンじゃネーですよ?』『それでも
菊水会との抗争も海江田組の完全勝利で終結し、山崎を狙う最強のヒットマン、沖田を止めることを成功したことによって、丈二の知る2度目の人生の歴史とは大きく違う未来が訪れていた。だが、まだこれで終わった訳ではない。沖田と山崎の命を救うと言う、悲願を成就させたと言うのに、その余韻に浸ることもなかった。元よりまだやるべきことを考えたら、気が張っていて実感が湧かないのかも知れない。丈二は沖田との喧嘩で傷ついた身体を休めることなく、顔中に絆創膏を貼り、ひよこのエプロンを身に着けてモップを手に持ち、海江田組の
寝静まった住宅街の合間に、小さな公園があった。小さな街灯にうっすらと照らされた園内で、丈二と沖田は向かい合って立っていた。丈二は沖田に向けて銃を構え、鋭い目つきで沖田を睨む。それに対して沖田は、余裕だと言わんばかりの薄ら笑いを浮かべて丈二を見据えていた。「こんなトコロに連れてきやがって………………どーしようってんだヨ?俺が鉄砲玉だってコトは判ってんだろ?ヤルなら早ええとこヤッてくんネーか?」悪態をつく沖田。平静を装って、こちらを怯ませる意図もあるのかも知れない。だが、丈二は微塵の
夏の日差しは傾き、夜のとばりが降り始めていた。まるで目覚めの時が来たかのように、新宿の街は雑多な人々の往来が増えて行った。菊水会の本部事務所は大通りから外れた人気の少ない路地の奥にあった。3階建ての自社ビルの2階にある事務所には明かりがともり、安田がデスクに座って眉を顰め、腕を組んで「う〜〜〜ん」と唸っている。その前に林田が立ち、困り果てた表情で安田を見つめていた。「やっとお気づきになったんですか?…………あそこがバケモンみたいな輩ばっかりだってコトに…………鷹山だって……元はと言えば百
夕焼けに染まった街角に、とある男たちの群れがあった。ビルの合間、細い路地に並ぶようにして10数人が集まり、通りの反対側にあるビルを睨みつけていた。その中にいた大田原は、あからさまに不満げな表情を浮かべ、口髭をさすりながら焦燥した表情でぼやく。「ったく…………なんでワシがこんな最前線にいかなきゃならんのだ?医者から糖尿のケがあるって言われてるちゅーのに……殴られたりでもしたら死んでしまうわ!」その横で話を聞いていた石田は、愛想笑いを浮かべつつなだめるように口を開く。「まぁ、
そして、スナックでのやりとりから3日経った。夏の西日が照り付ける夕方。海江田組の事務所は物々しい雰囲気に包まれていた。山崎はいつものデスクに座り、腕を組んで目を閉じ、まるで周りの空気が歪むような威圧感を放っていた。そして、その右側に立つ大西は、眉間にしわを寄せ、普段の温厚な雰囲気など微塵も消え去っていた。そんな二人の前には、大田原を始めとする海江田組の幹部が一堂に会し、皆、神妙な面持ちで山崎の顔を見つめている。幹部たちの後ろには主だった若い衆達も集まり、20坪ほどの広さの事務所はまるですし
「ワシが引退した上に2億ゥゥ!?そんなバカなコト飲めるワキャねーだろうが?テメー!!そんなコト言われたっちゅーのに黙って帰って来たんかい!?」菊水会事務所の応接室では、海江田組の要求を聞いた林田の話を、安田が真っ赤な顔で聞いてた。明らかに激昂している安田を前に、林田は無意識に両掌を胸の前で安田に向けて答える。「モチロンそんな要求は飲めないって言いましたヨ!……………………それだけじゃなく……ウチもケツまくるしかないってまで………………」「ハァ?ケツまくるってどーゆー意
寺尾襲撃事件の翌日。海江田組事務所の応接室で、山崎と大西は向き合って座っていた。山崎は足をがばっと開いてソファーに深々と座っていた。腕を組み、きつく眉間にしわを寄せて瞳を閉じる。山崎からは物々しい雰囲気がありありと漂っている。そんな山崎を、大西はじっと見据えつつ正面に座っている。山崎の出す空気を押しのけるようにして前かがみに顔を突き出し、ゆっくりとその口を開く。「飴善のオヤっさんもウチと本家のいきさつを知ってるから、それでこの件から手を引いてくれって言ったんでしょう?なのに、喧嘩の下駄を
「寺尾サン!!しっかりして下さい!……………………寺尾サン!!」背中にドスの刺さった寺尾を支えるように抱き留め、丈二は叫んだ。街灯に照らされた寺尾の表情は青ざめて見え、激しい痛みに歪んでいる。そして背中に視線を送ると、ドスの刺さった傷口から真っ黒な血が溢れ、シャツをぐしょ濡れに染め上げていた。「こいつは太い血管がヤられてるかも知れネェ…………早ええトコ医者に連れていかネーと…………」丈二がそう呟くと、寺尾の絞り出すような声が聞こえてくる。「お、俺は…………死ぬワ
菊水会と飴善屋一家の抗争が起きる1週間程前。夕暮れ時の海江田組事務所は、西日のオレンジ色に染まり、静まり返っていた。組員たちはそれぞれのシノギに出払っており、室内には大西の姿だけがあった。デスクに座る大西は、眉間にしわを寄せ、黙々と書類を睨みつけている。そんな大西の視界に、右から左へと人影が通り過ぎて行くのがぼんやりと見える。明らかに自分を意識して、何度も何度も繰り返し通り過ぎるその人影に、――またか――と思い、「ふぅ」と息を吐きながら顔を上げると、そこには大西の予想通り、エプロンを纏い、モ
そして。海江田組を震撼させたあの大抗争は、それまでの歴史と同じように起るのだった。とある夏の夜。都内の某所で行われた夜祭にて、東京飴善屋一家村上組・幹部日野輝夫(34)が、関東菊水会・組員の真鍋悦治(24)に刺殺された。事件の発端は些細なことだった。的屋を生業とする東京飴善屋一家の出店の一つである、やきそば屋の店主が作ったオリジナルソースを、真鍋が無理やり奪う所から始まる。その事実を知った日野は舎弟たちと共に、ソースを返すよう真鍋に詰め寄るが、真鍋は応じなかった。そうして日野は、舎弟たち
新宿の中でも簡素な住宅が密集した地域の一角、古いアパートの2階、1LDKの部屋を石田達はノミ屋の事務所として利用していた。6畳程の畳張りの部屋の隅には、折り畳み式のテーブルが置かれ、その上にパソコンが設置されていた。丈二はくたびれた座布団に座ってパソコンのモニターを睨み付ける。「アレレ…………こういうトキどーすんだったっけなァ…………」丈二が首を傾げながらそう言うと、後ろで胡坐を組んで座り、丈二の様子を見守っていた石田が眉間にしわを寄せながらぼやく。「オメーが分かんねぇんじゃお手上げだヨ
山崎忠義が梅沢一家の舎弟頭に就いてから、すでに半年が経過していた。海江田組は田上連合の直系組織になるという好機を逃し、「落ち目」と評されるほどの苦境に立たされていた。しかし、外部の評価に反して、組内は盛況で活気に満ちていた。丈二の二度目の人生と比べると、まるで別の組織のようだ。『誰も死なせたくない』三度目の人生でそう誓った丈二の願いは、ここまで完璧に守られており、三度目の人生では海江田組の誰一人として命を落としていない。さらに、二度目の人生で個人的に始めたノーパン喫茶のシノギを、
仲西組が運営するノーパン喫茶は相変わらず大盛況だった。終日ほぼ満席の店内は、鼻の下を伸ばした男たちが代わる代わる忙しそうに行き交うウエイトレスを眺めている。ある者はコーヒーを片手に横目でウエイトレスを追いかけ、ある者は下心を隠そうともせず、頭を上下させながら少しでもスカートの中を覗こうと必死になっていた。そんな欲望に塗れた男たちの視線をよそに、ウエイトレス達はミニスカートに網タイツと言ったスタイルで、客に笑顔を振りまきながらせわしなくコーヒーやスナックを運ぶ。そんな店内の光景は、なんとも独特
都内のとある場所にある小さな会社。クレーンなどの重機が所狭しと並べられた敷地の奥に、プレハブで建てられた質素な事務所があった。20坪ほどの室内には、学校にある机のような四角いテーブルが二列に並べられ、そこに20人程の男たちが向き合うようにして肩を並べて座っている。そして、正面にはこの会社の社長と思わしき中年の男がシワシワになってくたびれた作業服を着て座っていた。社長はうなだれるようにして肩を落とし、神妙な表情でうつむいている。そして、その横には弁護士と思われる小奇麗なスーツを纏った中年男性
海江田組、組員達御用達の喫茶店。人で賑わう店内の片隅にあるテーブルに、丈二と洋一の姿があった。あからさまに落胆の表情を浮かべた洋一は、目の前に置かれたホットコーヒーをあおるようにグッと飲み干して深いため息をつく。「あ〜〜〜あ…………こんなコトならアニキの話なんざ聞かなきゃヨカッタよぉ…………」丈二はそんな洋一に対して申し訳ない気持ちも少しはあったが、気遣うそぶりも見せずに「フン!」と鼻であしらった。「だから言っただろーが…………そう上手く行ってりゃいいいんだけどってヨ…………」「そうだ
1981年1月。丈二の2回目のタイムスリップから約1年の時が過ぎていた。山崎組の小さな抗争からしばしの時が流れ、賢治に刺客を差し向けた者の足取りも相変わらず掴めないまま、海江田組の面々は忙しさに追われながら日々を過ごしていた。そして、そんなある日。海江田の組事務所には幹部達が一斉に集まり、「月寄り」と呼ばれる幹部会が行われようとしていた。事務所内にある、会議用に使われている和室の中へ続々と幹部の面々が集まり、並べられた座布団の上に座ってガヤガヤと世間話に花を咲かせている。一方、飾り気
ドン!!拳銃のグリップでデスクを殴りつける音が山崎組の事務所中に響き渡った。賢治は見開いたその目に血管を浮き上がらせ、怒りを隠すことなく露わにしている。「ククク…………ハチ公のヤロー……コケにしやがってぇ~~~!」激昂した賢治から発する空気は凄まじく、周りにいる組員達はそんな賢治に振れることが出来ずに、額に汗を浮かべてただ見守っていた。丈二はそんな山崎組の面々を一歩離れた所から見つめると、ゆっくりとソファーへと歩いて腰を下ろす。そして、おもむろにジャケットの内ポケットから煙草を取り出し
焼き鳥屋で賢治が言っていた不吉な言葉。『渡世の行き違いで俺とオメーが刃を向け合うって未来もあるかも知れネーぞ?』これは直ぐに現実の事となる。山崎組の賭場からの帰り道に、堅気のお客が襲われる事件が起こった。犯人は二代目柳曾組組長である火影によるものだった。火影は賭場での最中に因縁を付けていた男を尾行し、人通りの少ない路地に入ってから襲い掛かった。殴る蹴るの暴行を加え、動けなくなった所で財布を奪い逃走。幸い男は命には別状なかったが、重傷を負い入院する事態となる。覚醒剤で見境の無くなってい
快晴の空の下、府中刑務所のグラウンドは囚人達で賑わっていた。1日の中にある限られた自由時間を満喫しようと、気の合う者達で集まり穏やかな時を過ごす。そんな中に賢治と八丁の姿もあった。2人は芝生の上に直に座り、行き交う囚人達を見ながら話をしていた。「オメー...柳曽のオジサンとこの若い衆だったとはネェ...それならそうと早いトコ言ってくれりゃあヨカッタのにヨ?」「いゃあ...アタシもそうしたかったんですがネ?アタシがあの房に入った時...神田さん、懲罰行ってていなかったですし..
丈二と宮下は警察の手を逃れ、何とか山崎組の事務所へと戻った。2人は息を切らせながら大粒の汗をこぼし、賢治の待つソファーに座ると、組員達も一斉に丈二達の周りを囲む。丈二と宮下の顔を見れば、一悶着あったことは明白だ。それによって事務所の中の空気は緊張感で重々しくなり、一同は固唾を飲んで宮下の話に聞き入っていた。「.....それでオヤジ...どうやらウチを狙ってる奴らって......柳曽組らしいんスよ...」その言葉に組員達は声をあげて互いに顔を見合わせる。そんな中、賢治は眉間にシワを
裏路地の街灯に妖しく照らされた丈二は、不敵な笑みを浮かべてはいるものの、その眼差しは鋭い。そんな丈二の纏った空気を敏感に感じたのか、角刈り男は蹴られた腕を庇うように逆の手で抑えながら額に汗を滲ませていた。「あの2人をこんな短え時間で片付けるとは.....テメー...只者じゃネーな...」「イヤ...俺りゃそんな大したモンじゃネーよ!そんなコトより...盛り上がってるトコ悪いケドよ...俺の方から先に相手してもらうゼ...?」「ドッチが先だろうと同じコトだ。なんなら2人同時に来
「宮下の兄さん...アニキはああ言ってたケド...ホントに心当たりとかネーんすか...?」「それが本当にネーんだよ。そりゃあウチを潰してぇって思ってる奴はゴロゴロいるだろうさ...しかしこのご時世に抗争してまでとなるとなぁ...まぁ、このご時世っツーてもウチはヤルとなったらサツのコトなんざ考えずにトコトンやるけどヨ...それだってそれなりの理由は必要になる。ただ単に気に入らねーぐれぇでイチイチ抗争してたら直ぐサツに目ェつけられて潰されチまうし...そんなことばっかしてたら
山崎組に正面から喧嘩を売ってきた者がいる。そんな事実よりも2度の人生で経験のない出来事が起きている。その方が丈二にとっては脅威に感じていた。そこからなし崩しに歴史が変わってしまうのではないか。コツコツと積み上げてきた物を根底から壊されるのではないか。額に汗を滲ませ宙を見つめる丈二だったが、はっと我を取り戻して賢治の方へと視線を向ける。賢治は眉間にきつくシワを寄せてはいたが、丈二が思ったより冷静だった。その姿を見て丈二も次第に冷静さを取り戻して行く。「アニキ...どこのどいつが喧
人気のない深夜の裏路地。パンチパーマにジャンバースーツをまとったヤクザ風の男が、息を切らせながら必死の形相で走っていた。もう若いとは言い切れないその身体からは、まるで雑巾を絞るように汗が噴き出し、その顔は何者かに殴られた痕がくっきりと浮かんでいる。左腕も恐らく骨が折れてるであろう。アドレナリンが男の体内に充満しているお陰で痛みはそれ程気にならなかったが、思うように動かない左腕に右手を添えて抱えるようにして走り続ける。そして。「ハァハァ」と掠れた息を吐きながら振り返ると、そこには自
夕焼けに包まれた海江田組のビル。西日の差し込む事務所の中で、大西がデスクに座って眉を顰めながら書類に目を通していた。そして、時折「う〜〜ん」と困ったような声を発し、首を傾げてため息を付く。そんな大西の前を、モップを握りしめて左右に行き交う丈二の姿があった。丈二は掃除をしながら大西を見つめ、しばらく様子を伺っていたが、やがて堪えきれずに声をかける。「カシラ...?さっきからムズかしい顔してますケド...なんかあったんスか....?」「ん...?なんだ丈二か。って言うかオメー.
カオリがホテルで吉村に会う少し前。丈二と佐山はキリトリの仕事を終えて新宿の街を歩いていた。一仕事終えた満足感からか、佐山は上機嫌で丈二に話しかける。「...にしてもオメー...ほんっっとに口が達者だよナ。機転がきくっツーか如才がネーっツーか。でもヨ。ホント、オメーのお陰で上手く行ったヨ。」「イヤ...た、たまたまだヨ。あのヤロー結構な狸オヤジだったから俺もどうなるかと思ったケド...まぁ、なんとかなってヨカッタ、ヨカッタ。」「そんで...どーなんだよ?賢治サンとはよ?ま
新宿のとあるホテル。その中に、高級感のあるゴシックなテーブルとソファーが並べられたカフェがあった。カフェの中では沢山の人々が食事やお茶を楽しみ賑わっている。そして、そのカフェの入り口から離れた一番奥の席に、人を避ける様に一人の男が座っていた。高そうなブランド物のスーツを纏いモデルのような体型、誰が見ても疑う余地のない程の甘いマスクを持ったその男は、憂いを纏ったその目を細めて窓の外を眺めている。男は周りからの視線を常に意識しているのか、隙のない所作で目の前に置かれたホットコーヒーを一口啜
賢治とのいざこざから数日後。顔の腫れもすっかり引いた丈二は、今にも倒れそうな古い雑居ビルの一角にある山崎組の入り口に立っていた。至る所の塗装が剥げた鉄製のドアが、この奥で紡がれてきたであろう山崎の歴史を語りかけて来るように感じ、丈二は思わず襟を正してその背筋を伸ばす。そうして一つ大きく息を吐いてからノブに手を掛けた。建て付けの悪くなっているドアはギギギと鉄が軋むような音を立てて開いていく。すると、歴史を感じずにはいられない独特の匂いと空気が丈二の体を包んだ。山崎組の事務所は10坪程の