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「こんにちは!」翌日に顔を見せたのは、『バイオリンの君』だった。「こんにちは…」「どうしたの?元気ないね…」「そんなことないですよ…それに、そろそろ退院出来そうです」「そうなんだ!良かったね!じゃ、三洲くんに報告しないと!」退院という言葉を告げると、飛び跳ねるほど喜んでくれる。それと共に、報告を…そう言う先輩。聞いてないの?「あの…オレ、三洲先輩に引っ越すことを伝えたんです」「え?!」その言葉に『仰天』って言葉がぴったりなほど驚く。「オレみたいに、足を引っ張る存在が側にい
俺を椅子に座らせ、真行寺は一つ一つ謝り始めた。大学に寝泊まりさせたこと怒らせてしまったこと勘違いさせてしまったこと浮気という言葉を吐かせてしまったこと更には、自分が俺を好きになったこと…それは謝ることなのか?今更だろ、真行寺…確認すれば、毎日好きを連呼したことで自分もそうなのではと、思い込んだことによる感情だとそう言った。本当は好きじゃないのに…と。お前、俺の気持ちがそんな軽いものだと思ってるのか…それなら、何度も口にした嫉妬はなんだったんだろうな…あまりに腹が立って口
「そう言えば、お前の母親は出版社務めだったな…」「そうなんです」「それと、アイツとなんの関係がある」「そ、それは…母さんじゃなくて、その雑誌の切り抜きを見たらしくて…それで入院してるときに、声をかけられたんです。きっとそれを看護師さんたちは見てたんでしょう。オレは本当にテレビを見に行ってたんだ。だけど、必ずその時間に合わせてくる。それがどうズレても…。しかも、アラタさんが来るだろう時間に合わせてオレに話しかけてたって…。だから、アラタさんに会えなかったのは、あの人がオレを引き留めてた
オレは座ったアラタさんにいろんな『ゴメン』を口にした。「アラタさん…よく聞いてね、まず一つ目。大学に寝泊まりするようなことをさせてゴメンなさい。二つ目…オレが不甲斐ないばかりに、怒らせてしまってゴメンなさい。三つ目…怒らせるような勘違いをさせてゴメンなさい。四つ目、『浮気』なんて言葉を口にさせてゴメンなさい。五つ目…オレがアラタさんを好きでゴメンなさい…」5つの謝罪…中でも一番大きいのはオレがアラタさんを好きなこと。それが根底にあるから、アラタさんに嫌な思いをさせてしまった…
ドキドキと手に冷や汗をかきながら、鍵を開け、玄関に入る。開けた時の空気にのって、アラタさんの香りがした…それだけでオレは泣きそうになる。あの日に追いかけて、見つけられなくて…部屋に入って見つけたメモ…そして、冷えた部屋…ドアを開ける度に思い出されて…我慢できず実家に帰った。だけど、今日はアラタさんが居る!帰ってこいと…どんなに冷たく言っても、最後には気をつけて帰ってこいと言ってくれた人。早く顔が見たい!でも怖い…やっとリビングに繋がるドアノブを持ち、深呼吸した。「ただいま
やっと繋がったライン。ほっとしたのも束の間で、電話の向こうから知らない男の声がした。思い返せば、アイツの声に似ている。だが、真行寺は信じろと言った。色々と渦巻くものはあるが、それは聞いてからだ。一番大事なのは、真行寺が唯一無二だということ。この二週間は食事も殆ど取らなかった…いや、取れなかった。何しろ喉を通らない…。見かねた先生が点滴をしたほどに。会って何を言う?会って何を聞く?あんなに会いたくないと思っていたのに…今は会うことしか考えていないことに気付く。「身勝手
コールした指が震える…これほど緊張して電話をかけたことはない。いや、あるにはあるけどこんな緊張じゃなくて、ドキドキワクワクのそれ。だけど、今回は…『もしもし』久しぶりに聴く声に…思わず涙が出る。「アラタさん…真行寺です」『言われなくてもわかる』「あ、あの…」『お前、何処に居るんだ?』「え、えっと…」説明しようとしたその後ろで業となのか?そう思えるように大きな声で部屋の中から叫んでくる。「真行寺くん、とっても良かったよ!一度とか言わないで、またよろしくね!」『真行寺…ア
オレはアラタさんが帰らなくなった部屋に居たくなくて…色々考えた結果…あの人のところに向かった。ーーーーー「こんにちは」「おや。やっと心を決めてくれたのかい?」喜ぶその人にオレは頷いた。「そう!じゃ、ちょっと待ってね!」いそいそと準備を始めるその人に、オレは最後の抵抗を見せた。「一度だけですから…」その言葉に、「ふふ、わかったよ!一度でも充分だ!でも…キミがそう思わなくなるかもしれないけどね…」思わせ振りなことを言いながらも、彼は部屋の奥に消えた。「じゃ、どうぞ!」オレは
約二週間ぶりに帰った部屋は、もう人の温もりを消していた。「…真行寺」テーブルには俺が書いたメモ『しばらく、大学に泊まる。好きにしろ』そしてその横に…『オレを信じて…でも…ごめん』その『ごめん』は何に対してなのか…俺にあの場をみられたから?俺が家を空けることになったから?それとも…俺に愛想をつかしたから…ーーーーー"プルルル"携帯をかけてみるが、反応はなし。いつから部屋を出た?全ては俺の勘違いが招いたことだが、もう手遅れなんだろうか…こんな風になるはずじゃなかった
真行寺と距離を置いて二週間…。電話は、真行寺のナンバーだけ拒否設定していた。そこにかけてきたのは葉山。『三洲くん、見て欲しいものがあるんだ!』慌ててかけてきて、その一言だけ…そして、自分のアパートに来てくれと。ーーーーー"コンコン"こいつの部屋のブザーは少し音が大きいから、ノックでいいよと以前言われた。だから、今回も…「いらっしゃい、三洲くん」扉を開かれ、中に招き入れられる。「何か飲む?といってもお茶かコーヒーくらいだけど…」「じゃ、お茶を…」ーーーーー出されたお茶
駒澤に礼を言ってくると伝え、オレは家を出た。「駒澤!」「おお、真行寺」午前中までが学校だと言う駒澤を呼び出し、俺は礼だと言ってランチを奢った。「この間はサンキューな!ほんと、助かったよ」「礼を言われることはしてない。あのくらい、友達なら当たり前のことだ」表情を崩すことなく当然だと言う友人を持ったことに、オレは感謝した。これも、やっぱり葉山さんやギイ先輩、アラタさんのお陰なんだろうな…。「それでも!オレが助かったのは事実だし!だから、今日は何でも食えよ!」格好いいことを言いながら
「じゃ、行ってきます!」ーーーーー『怪我も治ったから、お礼がてら駒澤と出掛けて来るっす』そう言って出掛けた真行寺。だが、今日は例の水曜日。そして、時間もそれに近い。俺は葉山に教えて貰った場所に向かい…来るであろう、店の入り口が見える場所で真行寺の登場を待った。ーーーーー「どうぞ」店の扉をカランと鳴らし、紳士的に促す。「ありがとうございます」その後ろに居たのは紛れもなく真行寺で…そして、二人は俺の視線から見えない位置に向かった。「店に入るべきか…それとも出てくるのを待つ
「三洲くん!」カフェで先に待っていた葉山が俺を見つけ、手をあげる。「すまない、待たせたな」こいつのことだ、きっと15分は待っただろう。「ううん、ぼくも今来たところ。それより、何飲む?」そんな謝罪すらも軽くスルーして、メニューを渡す。「じゃ、オレはミルクティで」ーーーーー「ねぇ…三洲くんと真行寺くんって、ちゃんと付き合ってるよね?」ゴホッ!「なんだ突然…」急に振られた言葉にミルクティを吹き出しそうになった。祠堂の時からそうだが、こいつには文脈がない。話し始めなのにも関わら
オレは部活で怪我をし、一週間入院することになった。最初はたかが打撲、そう思ってた。偶然にもその時に駒澤が居てくれたから、アラタさんが待つ部屋にも帰って来れた。でも、その状況を見るや否やアラタさんはオレを自分が学んでいる病院に連れていった。そこでの結果…打撲もあるが亀裂骨折も…そして半月板を損傷している可能性が窺えるとのものだった。そして下されたものは、一週間の入院。その間、オレはアラタさんに会えない…それなら、通院で…そう思った。だけど、敵もさるもの…『一週間入院だ、真行寺』
「お世話になりました!」今日は真行寺の退院の日。俺の休みに合わせて貰ったから、荷物も一緒に運べる。「しかし、ほんと…キミは…」俺の顔をみて、まだ何か言いたげな外科の先生だったが…その視線は真行寺に向いた。「まぁ、帰れたからといってムリはしないように。それと…学校には報告したのかな?」そう、これは言うなれば傷害。だが、警察に報告することはしたくないと…真行寺は言った。しかし、放置するわけには行かない。また誰かが犠牲になる可能性もあるからだ。「はい、一応…。ただ、向こうも反省してるら
「三洲くん」俺を呼び止めたのは、あの日真行寺を診察してくれた先生だった。「お疲れ様です」「ほんと、キミはブレないねぇ。彼以外はみんな同じか…。まぁ、いい。えっと、その真行寺君だけど、そろそろ退院と思ってるんだ。でもリハビリはして貰いたいんだよね。近くの病院に紹介状を書いてあげたいんだけど…キミはシェアしてるんだよね?キミが決めるかい?それとも…」俺が決めたとして、真行寺がそこに行ける時間があるか…「いえ、本人に聞いてください。学校帰りに寄るとなると…ちょっと悩むところもあるので」「そ
明くる日も、またその次も…足を向けたが真行寺は部屋に居なかった。そして、3日目。ーーーーー「うーん…真行寺くん、中々OKくれなくてね…困ったよ」真行寺の名前で、俺は足を止めた。そして、この声…よく聞けば、あの日真行寺と会話してた相手。「色々と、アピールはしてるんだけど…良い返事をくれなくてね…私としては、ストライクなんだけどなぁ…兎に角、懲りずにまたアタックしてみるよ。うん、その時は宜しく。良い返事もらえるまで頑張るさ。じゃ…」アピール?アタック?どういうことだ?ーーーーー
最近のルーティーンは、日課を終わらせた後に病室に寄ること。「真行寺…」ドアがオープンになっている4人部屋…何故オープンになっているかと言うと『病室にいるだけで、なんかスッゲ病人になった気にならない?それならさ、カーテン取っ払ってさ…わいわいとやろうよ…俺たち外科だしさ…少しでも明るく過ごそう!』そう、患者たちに勧めたらしい。それにみんなが同意し…この部屋だけは、まるで合宿所なのか?というくらい、賑やかだ。だが、覗いても真行寺の姿はなく…「あ、三洲先生!真行寺くんなら、多分談話コー
「大丈夫か?」顔を歪めながら車椅子に乗る真行寺。随分と衝撃があったのか、帰ってきた時よりも腫れてるように見える。「平気っす。それより、ごめんなさい。アラタさんの時間潰しちゃって…」車椅子に乗るほどの怪我なのに、俺の心配…「そんなことは気にするな…酷くなきゃいいんだが…」外科医を目指した時もあった。だが、俺は心療内科医に切り替えた…。それでもこれはかなりの怪我と診断できる。我慢強い真行寺が、少し触られただけでも悲鳴を上げた…ということは…「真行寺さん、真行寺兼光さん。こち
病院に行く前に、電話を入れた。「もしもし、今日は宿直だったよな?悪いが今から友達を連れていくから診てほしい。多分打撲…もしくは亀裂骨折…酷ければ…」そう伝えて、俺たちはタクシーに乗り込んだ。ーーーーー「三洲、こっちだ!」救急入り口で待っていた同期。「すまないな…」「お前の頼みだ、構わんよ。じゃ、兎に角診察室に行こう…」ーーーーー「これはどうかな?」「いって!」「うーん、少し触っただけでも熱を持ってる気がするね…俺はまだ診察出来るだけの免許を持ってないから、先生を呼ぶよ。診た
この時に…ちゃんと気づいてさえいれば…ーーーーー「真行寺…どうしたんだ?」駒澤に連れられて帰って来た真行寺。「や、何でもないっす」「おい、三洲さんにちゃんと説明しろよ真行寺!」駒澤に注意され渋々俺を見る。「で、どうしたんだ?」再度、同じく言葉を口にする俺。「あ、あの…部活っていうか、その…」「こいつ、大学の先輩に物申したんす。実は今日、うちの学校と合同練習があったんすけど…そのときに、ちょっとありまして…。大したことないものだったんすけど、真行寺の先輩があまりにも理不尽なこ
久しぶりに来た病室の前で耳にしたもの。それは真行寺のすすり泣く声だった。だから、俺は音を立てず中に進んだ。見るとやはり…布団に丸まりながら身を守るように…声を圧し殺していた。「寝てるのか?」「三洲先輩…」返って来たものは、やはり敬いのもの。しかし、何を泣いていたんだ?気分が悪いとか?「どうした…気分が悪いのか?」だが、それに大丈夫だと応える。「なんだ、泣いてたのか?泣き虫小僧くん」あの日の姿に重なり…思わず出たもの。「泣いてないです…」その返事すらまるでタイムスリップ
泣き止むまで、ずっと抱きしめていてくれた人。「ありがとうございます…」「もう、良いのか?」ぶっきらぼうの中に、優しい光を持つ瞳。「はい。ありがとうございました、三洲先輩」「構わないさ…」お礼を言ったのに悲しげな表情…「あ、あの…お礼に…天蕎麦食べに行きませんか?」「礼をされることはしてないが、腹は空いたかな…」「なら!いきましょう!」その人の手を引いて…オレは食堂に向かった…。冷たい手…でも、温かい手…そんな優しい手。ーーーーー「初めて来たんで…旨いかは、わかんな
「おはよう、真行寺くん」朝の挨拶をしながら入ってきたのは、白神先生だった。「おはようございます」「あのね…そろそろ退院を…と思ってるんだけど、その前にほんとに全身に異常がないか写真を撮りたいんだ。今日やってしまいたいんだけど…どうかな…内臓じゃないから、造影剤も使わないし」「構いません…。そっか…退院…」「なら、予定は14時ってことで。後から看護師が来るからね」オレはその日に覚悟を決めなければならなくなった…ーーーーー検査を終え、写真を確認した先生が部屋にやってきた。「真行寺
「三洲くん、聞きたいことがあるんだ…」ぼくは、病院の帰りに三洲くんに電話をかけて、落ち合うことにした。「どうした、葉山…困りごとか?」ぼくよりもずっと悩んでいるのは三洲くんなのに…それでもぼくの悩みを聞こうとしてくれる。「あのね、悩みと言うか…ちょっと確認したくて…」「何を?あまり回りくどく言わず、ハッキリと聞いてくれないか」そう、三洲くんはこういう人。時間を無駄に使わない…だからきっと、未来を見ているのかも…「あ、あのね…真行寺くんって、昔彼女が居たことあるの?」あまりに
「ちょっと、トイレに行ってくるね。バイオリン、見ててくれるかい?」「はい!何処にも出ないんで大丈夫です!」バイオリンを預け…ぼくは部屋を出た。ーーーーー「っふっ…ぅぅっ」トイレから帰って、部屋の前に立つと小さな泣き声が聞こえた。真行寺くん?そっとドアを開け中を覗き見る。すると、テーブルの上を見つめ泣いているようで…でも、何を見ているのか…ぼくには見えなかった。一か八か…ドアをノックせず…扉をスライドさせた。それに慌てた彼はテーブルの上にあったものをひらりと落とし、慌てて拾
「あ、葉山先輩」「お邪魔してます」庭園から帰って来た真行寺くんを、ぼくは病室で出迎えた。「あ、ごめんなさい。オレ…ちょっと散歩してたんです」「いいよ。久しぶりに動いた感じはどうだい?」「『あぁ、空気って美味しい!』って初めて思いました!」そっか…そうだよね…ずっとここに居たんだもの…それに…体育会系の真行寺くんがじっとしているのは、ぼくがバイオリンを弾けないのと同じだ。「良かったね。やっぱりキミには太陽が似合うと思うな」照れ臭そうに頭を掻きながら「ありがとうございます」と頭
また懲りずに、ぼくはバイオリンを持って病院に向かった。"コンコン"返事がない…倒れてるってことはないよね?そぉーっとドアをスライドさせて中を覗いてみる。「あれ?居ない」出歩いて良いって言われたのかな?とりあえず荷物を置いて…こんなところでバイオリンを盗む人なんか居ないだろうし…と、ぼくはステーションに向かった。「あの、真行寺くんは…」「あぁ、彼なら屋上に行くって言ってたわよ」なるほど。彼らしい…許可が下りて直ぐに空気を吸いに行く辺りが、スポーツをしてる人の行動だ。ぼくはそ
また来るね…そう言って母さんは早々と仕事に戻った。「編集長かぁ…ちゃんと、ご飯食べてんのかな…昔から片付けも下手で父さんに注意されてたっけ…おかげでオレは片付け上手になったけどね…」しかしなぁ…記憶喪失かぁ…この間、白神先生に言われたこと。『キミはね、うちの息子を助けてくれて車に跳ねられたんだよ…。で、ここに運ばれてきた。大学4年生の真行寺兼光くん。同居人は、三洲くんだよ…ずっと葉山くんと二人で意識不明の間、休憩室で待ってくれてたんだ。どうかな…何か一つでも思い当たるものはないかい?
「親御さんは来られたのかい?」俺は生徒会長のそれで会話することにした。「いえ、あ、でも…連絡はついたらしくて…。きっと近々くると思います」近々だと?交通事故にあった息子を放ってまでやらないと行けないものがあるのか?「そっか…でも、連絡ついて良かったね!真行寺くんのおうちをピンポン!ってしないと行けないかなって思ってたんだよ?ふふふ」「葉山先輩、オレの家知ってるんですか?」「え?知らないよ?」「じゃ、ピンポン出来ないじゃないですか」あははと二人でそれを想像しながら笑う姿はいつもの