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ジュンスから電話が来ない。突然に親父さんが亡くなったんだ、きっとバタバタしているに違いない、煩わせてはいけない。ユチョンはそう思い、ジュンスに電話やメールをしなかった。だが1週間たっても2週間たっても、電話はおろかメールさえ来ない。もしかして…ジュンスはもう帰ってこないんじゃ……。そう考えると胸の奥がギュッと痛んだ。子供のころから別れには慣れていた。母親との別れでさえ、涙一つ零れなかった。人と人は別れるもの、それを知っているユチョンは今まで誰とも深く付き合った事がなか
ジュンスと同居を始めて半年が過ぎていた。ジュンスはクラブのフード担当の仕事と、週に2回引っ越し業者のバイトをしていた。クラブでの仕事は夜11時に帰宅するが、毎朝早起きをして植物の世話をし、掃除して、朝食を作って食べる。本当に働き者で、ちゃんとしている。部屋を片付け、トイレはピカピカ、洗濯物は外に干し、ゴミは朝に出す。ジュンスを見ていて、自分がいかに「普通の事」が出来ていないか実感した。洗剤には混ぜてはいけないものがある、ジャガイモの目は毒があるから取り除かなければならない、魚をさ
俺、パクユチョンはソウル郊外の花街(遊郭)で生まれた。花街で働く母が俺を身籠ったが、当然父は誰だか分からない。それでもそこで働くお姉さんたちは、みんな優しい人たちだった。「ユチョン、アンタいい男に育ったねぇ」「あんまり女の子泣かすんじゃないよ」ここは男と女の欲望が渦巻く街。見た目の派手やかさの裏に、色濃くこびりつく孤独の影。今日もこの街で働く一人の遊女が消えた。見受けか、逃げたのか、それとも…。18になった時、母が消えた。恐らく馴染の男と逃げたんだろう、置手紙に少
皆様、最後まで読んでいただき、たくさんのいいねやコメントありがとうございました!とても励みになります!嬉しいです♡今回自然の癒しに飢えていたのか、美しい山の景色を書きたい!所から始まって。かと言って山に登るタイプでもないので(体力ナシ)も~たっくさんの美しい景色の写真や動画を、涼しいエアコンの部屋で見まくって。気持ちだけ山に登って、でも力を込めて書きました。まるで自分が山の中にいるみたいに、小さな花や風を感じて欲しくて頑張りました。過去に色々あった彼らの「再生の物語」に繋げ
店をオープンして一年が過ぎた。順調過ぎるほど売り上げを伸ばしており、村の観光スポットにまでなった。今日は月曜日で山の仕事もお休みして、いつもはまったり過ごすのだが。ジェジュンとユノは、朝早くから山を登っていた。「ジェジュン、大丈夫か?」「…ハヒハヒ…大丈夫だけど…ま、まだかな…」「もうすぐだ」二人は山の頂上を目指していた。高山植物の小さな花に癒されながら、ユノに背中を押してもらいながら歩を進める。そうして二人はやっと山頂にたどり着いた。ジェジュンは疲れも忘れ、その光景
「いらっしゃいませ!順番にお聞きします。少しお待ちください!」「JJàlaMontagne」の前に長い行列ができるのは、もう毎週末の見慣れた光景だ。パリの街角のような外観の店に、深いグリーンとベージュの縞模様のオーニング、その下のテラス席で楽しそうに語らう若者たち。ユチョン考案跳ね上げ式の大窓から注文を聞き、テイクアウトの「ザクザクシュークリーム」や「デニッシュ・オ・フロマージュ」を箱に入れてさばいていく。みんなジェジュン達の店のロゴが入ったカップのコーヒーを持ちながら歩いてい
電車を乗り継いて、田舎町に降り立つ。電車を降りた途端、澄んだ空が目に入り、柔らかい風に包まれる。ジェジュンの師匠であり、全てを教えてくれた店主は、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んだ。駅からすぐの所に、弟子の店があった。たくさんの村人たちが集い、店の前の椅子やテラスの木陰で楽しくおしゃべりしている。洒落た外装や看板に目を見張るが、師匠にとってそれはあまり意味を持たない。彼はパン職人であり、パンの味こそが全ての世界で日々戦っているからだ。黒いキャップを被った大柄な男が店に入って
ある晴れた初夏の日、とうとう店が完成した。「やったぁ~♡最高~♡」ジェジュンはこれから自分が使う厨房に頬ずりしていた。シルバーステンレスで揃った数台のオーブン、大型冷蔵庫、生地をこねるミキサー、粉などの貯蔵庫。作業台も、店舗に続く動線も計算し尽された、ユノ渾身の厨房だ。「どうだ?使いやすそうか?」「最高だよ!ユノがここでカスタードを作るんだよね。あんなに早く覚えるとは思わなかったよ」「ハッハッハ!コツさえ掴めば俺様に出来ない事はない!細かい作業は苦手だが、カスタード(力
晴れ渡る天気の中、ユノは今日も畑仕事をしている。店を開くことを決定したが、山の仕事を疎かにはしない。ジェジュンは週の半分ぐらいは村に下り、開店に向けて忙しく、今日も村で打ち合わせをしていた。「チャンミンさーん」ジェジュンが最近買った白い軽トラから手を振っている。「これはこれは。高級車でのお出迎え、ありがとうございます」「ふふ。JJ号だよ~。さぁ出発!」今日は村に来たジェジュンがチャンミンを迎え、途中まで車で行ってジュンス達の家で打ち合わせを兼ねたパーティーをする予定
全てを話し終わった時、ユノは目を丸くしていった。「え?パン屋を?どこで?ここで?」「ここにはお客さんは来ないよ。だから村で。実はね…」山に登る前、村の村長と話をした。ここ最近、この村は美しい景色がバズって、週末になると若者たちが来るようになっていた。限界集落の身として、地域活性化のためにこのチャンスはどうしても生かしたい。週末の電車の本数を増やしたが、景色だけではリピーターにはつながらない。この村に何度も足を運んでもらう為の方法を、村長たちは考えあぐねていた。「だから
「店長、長い間お世話になりました。たくさん教えていただいて本当に感謝してもしきれません」ジェジュンは洗濯した制服を畳み、店長に渡し深くお辞儀をした。「お前がいるのが当たり前になってたからな、これから大変だ」ジェジュンが笑うと、店長がいつも被っていたキャスケットをポンとジェジュンの頭に乗せた。「それはやるよ。似合ってたからな」「あ、ありがとうございます」もう一度店長に深くお辞儀し、出て行こうとしたジェジュンを店長が止めた。「ジェジュン」「はい?」「…頑張れ
チャンミンは朝早く、日に一本しかない電車に乗っていた。あれからジェジュンに何度電話をかけてもつながらないので、心配になってソウルに向かっていた。心配をかけたくないので、ジュンスやユノには黙っていた。だがユチョンだけには秘かに相談していた。「連絡がつかない?ん~…ジェジュンが勤めていた会社、よくない会社だったんだろ?だったら番号を変えているのかもしれないな」「えぇ。何もないとは思いますが…一度ソウルに行ってみようと思います」「うん。頼むよ」「心配をかけたくないので、ジュンスとユノ
「あの…店長、コレ食べてみてもらえますか?」「ん?デニッシュ・オ・フロマージュか…」ジェジュンが差し出したのは、丸く焼いたデニッシュ生地の真ん中にたっぷりチーズが詰まったパン。フランスの定番のパンだ。サクリと歯ごたえのある生地、もっちりと出てくる濃厚なチーズの風合い、軽くかかった粉砂糖が良いアクセントだ。だがチーズが違う。香りが強くてクリーミーなのに後味がすっきりして…これは…?「ヤギのチーズで作ってみました」「ヤギのチーズで?」店長はパンを一口かぶると、スッと目を
「本当にありがとうございました!助かりました!」「いいって事よ。そんなに荷物もなかったし。んじゃトラック返してくるわ」シンドンさんがトラックを借りて引っ越しを手伝ってくれた。新居は雑居ビルの屋根部屋で、夏は暑く冬は寒い。だが部屋の前に縁台があり、日当たりもいい。何より高台にあるため街が一望でき、見晴らしが素晴らしかった。ヒチョル先生もシンドンさんも、本当に良くしてくれる。チャンミン先生が言った「ジェジュン、あなたは一人ではありませんよ」その言葉が身に染みる。ずっとソウルで
ソウルから電車に乗って一時間、ジェジュンは母が住んでいる街へやって来た。ビルが立ち並ぶソウルとは違い、建物は低く小さな店が密集し、子供の姿が見える。そこから乗り換えてさらに数十分、今度は緑が広がる長閑な田舎町になって来た。ジェジュンが山にいる間、メールの返事が無い事に母はとても心配していた。だが、ジェジュンがメールの返事をしない事はよくあったので、返事が欲しいとだけ書かれていた。自分の事で精一杯だったとはいえ、普段からもっと優しくしてあげるべきだったと反省した。父はジェジュン
「ジェジュン、食事はしましたか?」ジェジュンは首を横に振った。「そうだろうと思いました。どうせ何もないでしょう。買い物に行ってきますから、あなたは部屋を整えていなさい」チャンミンが買い物に行き、ジェジュンはのろのろと部屋を片付けた。窓を開け空気を入れ替え、掃除機をかけて部屋を整えると、少し気持ちが浮上した。やる事を与えられたから、ウジウジと考え込まずに済んだ。その間に、チャンミンが栄養満点のお粥を作ってくれた。「さぁまずは腹ごしらえ。お腹がすいている時に考え事をして
「なるほど…。そうだよなぁ、生きていかなきゃだよなぁ。田舎のおふくろさんには頼れないもんなぁ。だったら、分かるよな…」ミョンテはソファにジェジュンを押し倒し、無理やりキスしてきた。「や、やめてくださいっ!」ジェジュンがもがくと、ミョンテにガツンと殴られた。首元を押さえられたまま、下卑た笑いを浮かべながらミョンテが囁く。「いいじゃねぇか初めてじゃあるまいし。俺の言う事聞けば会社には置いてやるし、給料も払うぞ」無遠慮にミョンテの手が体を這い回ると、ぞっとして鳥肌が立っ
「ユノ、今日はありがとな!ジェジュンにもよろしく」「あぁ。じゃあな」ユチョンに手を振り返し、家路につく。夕方の山道は昼より冷えていて、空気が薄い。ユノは気づけば歩幅を広げていた。いつもなら一緒に昼食を食べ、3時にはジェジュンとお茶の時間を過ごし、くだらない話をして笑って。だが今日はその時間がぽっかり抜け落ちている。ユノは自分でも驚くほど“早く帰りたい”と思っていた。家が見えてくる。煙突からの煙は無く、ヤギたちは小屋に戻っているがドアが開いている。いつもなら絶対に閉める
金色の鍵を握ると、ジェジュンはそっと部屋を出た。玄関のドアを開けると、テプンがゆっくりついてきた。ジェジュンとテプンは、音もなく夜に溶け込むように家を出た。月明かりがあたりを照らし、懐中電灯もいらないぐらいだ。虫の声が遠くで響き、影が山の輪郭を浮かび上がらせているジェジュンは温室の前で立ち止まった。金色の鍵は月光を受けて、ひと際冷たく光り、ジェジュンはそっと鍵穴へ差し込んだ。導かれるように鍵は入り、ガチャリと音を立てて鍵が開いた。キィ…。小さな音を立ててドアが開くと
今日は村に下りる日だったが、少し寝坊してしまった。昨日熱い夜を過ごしたのだから仕方がない。それでもユノとジェジュンは、いつものようにチーズや野菜をたんまり持って山を下りた。チーズや野菜を店に卸し、村人たちと挨拶がてら話をしていると、ユノが言った。「工具と農機を見たいから行ってくる」「うん。気を付けて」ジェジュンも食材や食器を見て回りながら、村をぶらぶらと歩いていた。ふと、雑貨屋に古いデジカメがあるのが目についた。スマホを持たない生活をして数か月、スマホがあればあの山の
次の日ミランが起きると、昨日の嵐がウソのように空は晴れ渡り、いつものように鳥が騒がしくさえずっていた。寝室のドアを開けるとユノたちの姿はなく、犬たちも外にいて静まり返っていた。ミランは、ユノの書斎のドアを見つめた。そっと音を立てないようにドアを開けると、ベッドで二人が抱き合って眠っていた。昨日紙のように白い顔でずぶぬれだったジェジュンも、今は顔色が戻り安心したようにユノの胸で眠っている。ミランは音もなく、そっと扉を閉めた。外に出て、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込む。見渡す限りの
テプンの後ろをついていき、大きな岩陰を見つけた。遠くの方で雷の音が聞こえ、すぐさま岩陰に身をひそめる。山で雷に遭遇したら木の下にいてはならない、そのまま感電する恐れがあるからだ。雨宿りが出来るほどの岩陰ではない為、ジェジュンはテプンだけは濡れないよう押し込んだ。テプンと身を引締めながら、さっき拾った社員証を見つめた。ゴウゴウと風が唸り出し、木の枝がしなる。下から巻き上がるような風は湿気を含み、濡れた土の匂いがした。鉛色の空、近くなってきた雷鳴に不安が募る。社員証の中の自分が、
昼時になってもジェジュンから声がかからない。ユノは不思議に思って、自分から家に戻って来た。屋根の下の長椅子で、ミランがウトウトしていた。「おい、ジェジュンは?」「…へ?…いや、見てないけど…ふわぁぁ~…」キッチンには人影はなく、昼食を作っている様子もない。ユノは納屋やヤギの小屋、家の周りをぐるりと走ってみるが、ジェジュンの姿はない。…おかしい。ジェジュンが何も言わず家を空ける事は、今まで一度もなかった。それにどこかへ行くとしても、必ず昼食を作ってから行くはず、ジェジ
ユノが畑へ行き、朝食の片づけをしていると、ミランがキッチンにやって来た。ミランは毎日、山の仕事も家事も何もせず、ただ出されたものを食べ、ログハウスの前の長椅子に座って本を読んだり、ぼーっと景色を見たりしている。だが今日は珍しくジェジュンを手伝いに来た。「私も居候だし…手伝うわ」「あ…じゃあ、洗い物お願いできますか?」洗い物をしながらミランがジェジュンに話しかける。「ねぇジェジュン君、あなたユノに尽くし過ぎじゃない?」「え?」「朝から晩まで働いて、料理して掃除して動物の
ジェジュンはこの家唯一の居場所であるキッチンに籠り、夕食の支度をはじめていた。やっぱ…3人分作ったほうがいいよね…。すると、書斎からユノが出て来た。「ジェジュン、すまん。ミランがしばらくいるみたいだから、書斎で一緒に寝よう。俺がソファで寝るよ」「ダ、ダメだよ。僕がソファで…」「気が済んだら帰ると思う。それまで…すまんな」「ううん…僕は別に…。それより、ミランさんは何の話を…?」ユノは何も言わず、畑に行ってしまった。チラリと書斎を覗くと、散らかっていた本やノートは片づけられ
その日もとてもいい天気だった。朝の仕事を終え、ジェジュンが作ったランチを食べ終わった時だった。ユノが畑に向かおうとした時、外でテプンとフィーがやけに吠えている。誰か来たのかな?と思った時、玄関のドアが開いた。見れば30代の綺麗な女が立っている。白い薄手のコートに、シフォンブラウスに細身のパンツ。ヒールがあるショートブーツを履き、髪は緩く巻いて束ね、上品なアクセサリーやネイルも完璧な、判で押したようなキャリアウーマンだ。「ユノ、久しぶりね」「ミラン…。なんでここに?」
今日は月一回の村に降りる日。ジェジュンは朝からウキウキしていた。「ジェジュン、足大丈夫か?やっぱり今日はやめておいた方が…」「大丈夫!ずっと楽しみにしてたんだから!」「楽しみにって…ただの田舎の村だぞ」「いーの!」ユノは月一村に行って、熟成させておいたホールチーズや採れたての野菜などを売りに行く。ユノは客商売が苦手なので、いつも店に買い取ってもらっている。ログハウスの裏にある熟成庫には、たくさんのチーズが熟成されており、半年から1年熟成させている。ユノはヤギの乳でチーズ
満月の月明かりが、滑らかにジェジュンの白い肌を照らしている。零れそうな大きな目には涙が浮かび、キラキラと夜空の星の様に輝いている。「ジェジュン、綺麗だ…」ユノはジェジュンの頬に手を当てると、親指で優しく頬を撫でた。マメだらけの武骨な手だが、その手からユノの優しさが伝わる。見つめ合いやっと気持ちを伝えあった時、それは性別を超え、本当に大切なものを見つけた気がした。心の中に燃え上がるこの感情は「恋」であると、二人とも実感した。ユノの顔が近づいてくる。いつも盗み見る様に見つ
まだ脚を引きずるが、杖なしで歩けるようになってきた。ユノは朝早くから畑仕事、ジェジュンは炊事・洗濯や掃除などの家事、動物たちのえさやりや小屋の掃除、花壇の草むしりなど、いつの間にか仕事を分担していた。そのおかげでユノは長時間畑と向き合うことが出来て、作業がストレスなく進んでいた。「ユノさぁ~ん。休憩しませんか?」朝10時と午後3時にいつも行われる「お茶の時間」ジェジュンがポットに入れた紅茶を注ぐと、籠には今朝焼いたスコーンに、チーズやジャムが。ユノが作った丸太の椅子に二人で座
ユノの家に来て一か月半、ようやくギプスが外れた。チャンミンが丁寧にギプスを切ってはずす。「あ~やっととれた。痒かったんだぁ」「まだサポーターは外さない事、松葉杖も使う事、リハビリも頑張って」「はい!」「じゃあ一緒にリハビリ頑張ってみましょう。まずは足首をゆっくり回して」「はい…イテテ…」「痛みがない程度にゆっくりと…。次は上下、左右も…」ユノは畑仕事にも行かないで、ジェジュンの様子を座って見守っている。「無理すんなよ」「うん…ちょっと痛いけど、平気」「次は床に置