マイナスZカップの女

私見を述べた更科昌志は、加藤莉香と言い合っていた。「そんな事より今度のオカルト調査ってどこか候補あるのかよ！いつも提案するのは俺か伊藤じゃねーか！」「私が提案した所はいつも却下するじゃないですかー」「お前はいつも食いもん目当てで考えてるからだろ！中身が伴ってないんだよ！中身が！」「えー、でも昌志先輩も「美味しい」って言いながらソフトクリーム食べてたのを私見ましたよー」「みんなが食べてたら食べたくなったんだよ！もーいい！おい伊藤、次の候補地なんかいい所ないのか？」「待ってました」と言

「『ペンキ塗りなんか朝飯前だ』くぅ〜！痺れるね〜！何回観てもこの映画面白いわ。お前らはどうだった？」と昌志は高まった気分の共有をオカルト同好会メンバーに押し付ける。「最後がよくわからなかったんですけど、どうゆう事なんですかー？」と莉香が顎に左手をあてながら鶴首をかしげ問う。「最後って？」と昌志。すると綾子が「鶏の羽根をウサギに移植するシーンよ。私も分からなかったわ。なぜああいう行動をとったのか。」と素直な疑問を昌志にぶつける。それを聞いた昌志は、左手を腰に当て右手人差し指を左右に振った「

オカルト同好会メンバー。青木綾子(あおきあやこ)、齢22、女、東貼文化大学4年生。典型的な現実主義特有のこだわりなき無難なセンスと、重ねて本質的に母性の強さを持ち合わせたことにより具現化したコーディネートは、艶のある黒髪ストレートに、半袖にワンポイントのロゴが入った無地の白いTシャツの上から青いオンブレチェックのネルシャツを羽織り、サックスブルーの細いデニムに、白いスニーカーを着用。「履ければ何でもいい」という実用性により選出された無頓着なこの衣類が、折角のグッドスリムな体型を中和している

東貼文化大学オカルト同好会。筋金入りのオカルトマニア木戸洋介が1年生の時に発起人となり立ち上げたサークルである。このオカルト同好会を説明するのは容易であり文字通り、UFO、宇宙人、UMA、妖怪、心霊、怪談、超常現象、禁足地、オーパーツ、ミステリーサークル、呪術、魔術、異世界、超能力、陰謀論、終末論、裏社会、秘密結社、凶悪事件、ホラー作品、マイナスZカップの女、といった具合に、これらを好むいささか物好きなメンバーが集まり活動している。活動内容としては、仮に巷で噂されている都市伝説があるとするなら

「厄介なのが馬係町(まがかりちょう)。物分かりが悪いですからね」「郷土愛にしがみついて正義を振りかざしたいだけだ。ただでさえ着工が遅れておる。目にもの見せれば、なる様になるだろ」「そうだといいんですが・・・」「何を懸念しておる。マイナスZカップの女か？」「はい」「確かに渦沢(うずさわ)にも最近出没しとるらしいが、なーに心配いらんさ。不安要素はあれど、直系の奴らがおるんだ。」「まだ調査中ですが、1人心当たりがあります」「・・・ほう。会ってみたいんだが」「おやめになった方がよろしい

更科毅志(さらしなつよし)、齢54、男。視線を向けられたガキンチョがちびり上がってもおかしくないほど釣り上がった一重瞼の冷ややかな細い目が、スイカに塩をかけるのと同様に、黒髪オールバックのヘアースタイルと背広が上下黒のコーディネートによってその眼差しがさらにニヒルを助長し、おもねった多湿の世界を見透かしているかのようである。そして年齢の割に男性読者モデル顔負けのすらっとした長身痩せ型のプロポーションがとりわけ不気味極まりない。この男、もとい、更科は、トヨシマ建設専務取締役。経緯として

豊嶋謙三(とよしまけんぞう)、齢76、男。側頭部に生えた短い白髪を後ろに流す為に使用したポマードの艶やかさが、前頭葉から頭頂部にかけて手遅れ状態のハゲた頭を際立たせている。白いワイシャツにビリジアンのネクタイを締め、その上から、胸に『トヨシマ建設』とネイビーの糸で刺繍されたライトグリーンの作業着を着用しているのだが、メタボリックシンドロームに該当するであろう基準値を超えたでかい図体がそれらの衣服をいじめている。下はグレーでツータックのスラックスと黒の革靴だ。そしてたくわえた口髭は、かくして戦国

田保は無類のコーヒー好きなのだが、そんな折、田保は利益どうこうよりも趣味で経営している喫茶店がある。その店名は『喫茶ボレロ』。内装はまさに洋風といった佇まいで、カウンター8席、4人が座を組めるボックス席が窓際に2つ。ボックス席に使用されているモケット生地の茶色いソファーとヒノキの一枚板で出来た茶色いテーブルがこの"シックさ"を作り出している立役者とも言えるであろう味わいがある。とはいえかなりシンプルな内装なのだが、これには理由があり、田保が人生の中で張りめぐらせてきた美へのアンテナが猛威を奮い、

田保実(たほみのる)、齢48、男。見てくれはその名に似つかわしくない気合いを表現したであろう黒髪のアイパーリーゼントを決め、ネイビーにホワイトのストライプが1.5cm間隔で入った三つ揃えの背広を着こなし、磨き上がったブラウンの革靴を履いている。この男、もとい、田保は海に面したこの街東貼市(ひがしばりし)の近代化を牽引した敏腕実業家である。その背景には彼の父、田保壮一郎が経営していた『東貼プラザ』なる東貼駅直結の大型複合商業施設があり、現在では東貼市のランドマーク的存在なのだが、過去に壮

バイトが終わり、ニュータウン中央通りから一本入った路地を北西に向かって歩く洋介は、綾子が言っていた「荒本ビル近くのレコードショップの右隣」の言葉を思い出しながら念仏の様に「荒本ビル荒本ビル」と心の中で呟きつつその喫茶店を目指していた。「ここ、かな？」目的地である喫茶店に着いた洋介は看板に目を向ける。看板には白地に黒い文字でシンプルなゴシック体を使ってこう書かれていた『喫茶ボレロ』。そう、ここは『喫茶ボレロ』。外観は茶色いレンガの壁に蔦が生い茂っており、洋風な門構えなのにも関わらずなぜか日本人

木戸洋介(きどようすけ)、齢22、男、東貼文化大学4年生。洋介は就職活動中の東貼文化大学に通う大学生である。特にやりたい事がなく現在コンビニでアルバイトをしている。普段13時〜18時の時間帯で月曜から金曜の週5日とゆうシフトで働いており、この日も普段通り元気よく「お疲れ様でーす」と言いながらバックヤードに入っていくと、同じバイト仲間の青木綾子が話しかけてきた。綾子は洋介と同じ大学ですでに就職が内定している。「お疲れ様でーす、そういえば木戸君ってコーヒー好きって言ってたよね？」「うん」「

『ピッ』チャンネルを鼻息荒く消したその女の名は北条礼子。「マイナスZカップの女」の異名を欲しいままにし、世間を賑わす今回の当事者である。その女、もとい、礼子は言った「笑わせんじゃないわよ。人を化け物呼ばわりしちゃってさー。もー頭にきた」と、礼子は掛けてあった毛皮のコートを右手そして左手へと通し、その両手を髪と首の間に入れ自信ありげな顔を震わせ、潤いがまんべんなく行き届いた髪を手でコートの外に出す。顔に塗られたファンデーションが首元にいくにかけてグラデーションをなしたメイクが完璧主義だ

『妖艶』とゆう文字はその女の為にあてがわれた言葉である。男を手玉に取ることだけを考えて生きてきたその女が実質これまでの人生でもてあそんだ男の数は計り知れない。所作１つをとってもたちまち男が我を忘れて興奮する。「その女は一体何者か？」疑問が絶えない謎の中で、神出鬼没の伝説的なその女は通称『マイナスZカップの女』。その女が出現するだけで真っ昼間だろうが関係なく無色透明な大気さえも邪悪な顔をした妖艶さがひとたび覗かせると禍々しい薄紫色に変色させ天気予報士までをも困らせる。『晴れ』、『雨』、『曇り』、