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バレンタインに託生から仕掛けられたチョコレート鑑定はちょっとスリリングで、そのスリルがその夜のオレ達のスパイスになっていつも以上に熱い夜になったわけだが・・・・・。ホワイトデーのお返しは未だオレの手にある。オレの仕事が押した所為と託生の都合が合わなかったのがその原因なんだが、「一日遅れって」怒るか拗ねるか。こういうイベントごとはある意味愛を試されている試練のようなものでは無いかと最近思っているから、いや前々から軽口の様に託生にはそんな事を言ってもきたから強ち間違いでも無いが。「機嫌を
託生の誕生日を祝うのは今年で何度目だろう。毎年毎年、この日が来る度に伝えている想いがある。生まれて来てくれてありがとう、オレに出逢ってくれてありがとう。そう伝えるオレに託生は託生で、僕を見つけてくれてありがとう、愛してくれてありがとう、とはにかんでみせる。ほんの一瞬の、あの日の小さな出会いの先にこんなにも愛おしい日々があるなんて、あの日のオレは予想だにしなかった。「誕生日おめでとう託生」「ありがとう、ギイ」今年も一番乗りで祝時を伝えたオレに少し眠たそうに笑って託生が腕の中に潜り込ん
帰宅するとテーブルの上にいかにもバレンタインのチョコだと主張する包みが四つ並べられていた。そしてその前で託生がにっこりと微笑んでいる。「この中に一つ僕からのチョコがあります。それはどれでしょう?因みに他のはお義母さん、絵利子ちゃん、うちの母さんから」「間違えるとどうなるんだ?」ネクタイを緩めつつ、オレは並んだ包みを一つずつ丹念に調べて見る。「間違えたら僕からのチョコは食べれません」おいおい。お袋にもエリーちもお義母さんにも申し訳無いがオレが真実欲しいのは託生からのチョコだけ。「僕
「年始早々面倒に巻き込まれた二人にはお疲れ様。あと、予定外のメンバーが参加しているが、」チラッとギイが佐智さんを見る。それに佐智さんも見つめ返し、いや睨み返したり。隣で山田さんが苦笑い。「忙しい中集まってくれてありがとう、今年も皆の元気な顔が見れて安心したよ。今年もふーふ共々」隣に座る僕の肩をギイが不意に抱く。「変わらず宜しく頼む」それから皆を見渡していた視線が僕で捉えてしまう。捉えられた視線はどうしたって外せない。だから結果、見つめ合ってしまう。「宜しく頼むは良いけど、」「ま
「来ちゃった」「来ちゃったって、」玄関扉を開けると、眩しいくらいの笑顔の佐智さん。その姿にギイは呆れている。そしてその後ろには勿論山田さんがいて、それから。「遅くなってごめんね、ギイ、託生君」「私まで良かったんだろうか?」「ええ、それは」蓑巌君に乃木沢さん。「俺達もいますよ!託生さん!!」ひょっこりと真行寺君が顔を出し、「一人?」「いえ。新さんは赤池先輩とちょっと遅れて来ます」「何かあったのか?」「いや~それが、」と話し始めようとすると真行寺君を制して、「一先ず上がっ
「どうした?」「お鍋の準備、そろそろした方がいいと思って。でもどれくらいすれば良いのか分からなくって」まだ来ていないメンバー分もだけど、何よりギイの分を何人分で計算するのが良いのか。「各五人前くらいで良いんじゃないか?」「足りる?」海鮮寄せ鍋に牡蠣の土手鍋、チゲにすき焼きに忘れちゃいけない豆乳鍋。「足りなくても他にも食べる物はあるさ。の、前に。準備するならちゃんとオレに声を掛けろよ」「そうだけど。ギイ、楽しそうだったから」「にしても、皆託生とも話したいと思うぞ?片倉とか特にさ」
「なんだ、片倉と岩下か。いらっしゃい」「なんだって、ヒドイなぁギイ」次にやって来たのは章三では無かった。アイツ、こう言う時はいの一番に現れるのに。「悪い悪い。章三がそろそろ来ると思ってたから」「赤池君まだなんだ、珍しいね」「確かに。あっ、これうち母さんの笹かま」「thankyou。美味いよなぁ片倉のお母さんの笹かま」「うん、凄く美味しいよね」ん?この岩下の柔らかい雰囲気は・・・もしかして。「もしかして二人、今一緒に住んでたりするか?」「「えっ、あっ、えーーっっと」」二
今年は年始早々、いつもの気心の知れた面々が集まる事になっていた。僕がそれを知ったのは一昨日。場所は東京の崎の家。皆の都合もあるからお店を借りるよりここの方が融通が利くのと、そのまま泊まって貰ってもそれなりの部屋数があるから。こっちの家を管理してくれている綾子さんが料理やらなんやら手伝ってくれると申し出てくれたけど、お正月からそれは申し訳が無くてそれは皆でする事にした。それでもここに居ては何かと気にかかるだろうと、ギイが綾子さんのお孫さん達の分まで旅館を手配していて、有無を言わせずのんび
次の日。外は晴天。でも勿論寒い。昨日の夜はいつも以上にと言うか、なかなか寝なかったと言うか寝かせてもらえなかったと言うか・・・。おかげでブランチだかランチだか分からないくらいに食事を終えて、それでもまだ気怠い僕を励ましながらギイが連れて来てくれたのは知らない建物だった。ちなみにまだプレゼントは貰っていない。「どこ、ココ?」「さぁ、どこでしょう?」人のよさそうなドアマンにエントランスには高そうな調度品。エレベーターに乗り込んでギイがボタンを押したのは最上階を示す18階。なんとな~く
「オレの天使は今夜も綺麗だな」「もぅ」揶揄われているわけじゃ無いけど、今の状況で言われるとなんだか照れ臭くてくすぐったい。「だって、本当だ」お互いに一糸纏わず肌を晒して、ぼくはギイの下。ゆっくりと下がっていくギイの視線に恥ずかしくて腰を捩りたくなる。「今更だろ」大きな手でゆっくりと制されて、更に下る視線が僕をたまらなくさせて行く。「でも」今更なのは分かっているけれどやっぱりこう言う時のギイの色っぽく艶めいている眼差しに見つめられると、この先の甘い熱を知り尽くしている僕は無意識に
「同じ轍は踏まないからな!」と、今年は余裕あるスケジュールを立てたギイは一昨日からクリスマス休暇に入っている。今夜はイブ。二人仲良くディナーを作ってギイが見つけて来てくれた甘さ控えめのケーキを食べて、今は今年も二人で飾り付けをしたクリスマスツリーを眺めながらまったりとしている。部屋の明かりは窓からの街明かりと、LEDのオーナメントの柔らかな物だけ。「今年も色々あったよな」「あったねー」ギイの浮気を疑ったり、佐智さんとの仲に拗ねてみたり、そんな佐智さんと久し振りにカノンを弾いたりデビュ
天使のベルと言ってもピンキリだ。ガラス製が一般的だけど、やっぱりクリスタル製とかの方が綺麗だったりする。その分良いお値段でもあるけれど。幸いにして、今年の僕の懐は暖かい。佐智さんのCDに参加した分の印税と日本でのCMに起用された分の使用料と、それからコンサートのギャラがそれなりに入ったから。だから今年のクリスマスプレゼントは妥協する事無く決められる。とは言え、贈る相手はギイだから極力メルヘンちっくな物は避けたい。「と、なるとコレが良いかなぁ」二十センチ程の大きさのソレはとてもシン
幸せを呼ぶと言う天使のベルの話を耳にしたのはクリスマスまで十日を切ったある日だった。いつものようにジョージと夕食を取るべく行きつけのお店に行く道すがら、赤信号を待っている時だった。「今年の彼女へのプレゼントは天使のベルって決めてるんだ」「あぁ、彼女はそう言うのでも許してくれそうだものな。うちは今年もブランド品かジュエリーだよ」「でも買ってやるんだろう?」「まだ別れたくないからな、俺も」後ろから聴こえる溜め息に僕とジョージは肩を竦めあう。「大変だね」「だな。タクミはもう準備したのか
「本当に託生君は」呆れるでもなく、困るでもなく佐智は何故か半泣きになりながら託生を抱き締めている。「さっ、佐智さんっっ?!」「もっと、もっと早く、やっぱり君をステージに立たせるべきだった」「えっ、あのっ」「素晴らしかった。本当に素晴らしかった」いつまでも抱き付いて離れない佐智の背にそっと手を回そうとする託生のそれは阻止をする。「いい加減離れろ」「良いじゃないかっ、教え子で、友人でライバルのその成長の感慨に浸ってるんだからっ!!」「そんなものは抱き着かなくても出来るっ!託生も、フ
ああ、やっぱり気持ちがいい。心と・・・大袈裟かもしれないけれど魂が満たされているのが分かる。スポンジが水分を吸い込むように、僕の全てが今この音楽を取り込んでいる。そしてまた、弦と弓から外へ放たれて行く。何度も満たされて、その度に解放をして。濃度を増して行く何かは曲の終りへと向かう程により濃くなって行く。一つの音楽を指揮者とオケと僕とそれから客席の聴衆とで作り上げて行く。至福だと思う。音楽を・・バイオリンをやっていて本当に本当に良かったと思う。それを僕に与えてくれたのは兄さんとギイ
「行ってきます」オレの手をするりと解いて、託生はステージへと歩き出す。ピンっ、と背筋を伸ばして。客席から沸き起こった拍手と眩ゆいライトに包まれて指揮者に並び立つ託生は本当に美しくそして格好良く見える。少しまだ緊張しているようにも見えるが、それはいい意味での高揚といった雰囲気だ。きっと、いや間違いなく素晴らしい演奏をするだろう。そうしてこの場にいる全ての人間を魅了し虜にするのだ。バイオリニスト、葉山託生を誰もが歓迎し愛するだろう。それはかなり複雑だ。託生が託生らしく自由に思うまま
「おかしな所無い?大丈夫?」「大丈夫だって言ってるだろう?」出番まで後二十分、託生は相当緊張しているらしい。姿見の前で何度もくるくると回っている。「そうだけど。ギイはほら、僕を凄く贔屓して見るから、」言ってまたくるっと。昨日の事など微塵も感じさせないその姿にほっとするやら可愛すぎて仕方ないやら。「やっぱり前髪上げた方がいいんじゃないかなぁ?」「今以上に童顔に見られたいなら良いんじゃないか?」「それはダメ!」「託生はいつも通りに十分素敵だよ」また回ってしまいそうな託生の腕を取り
「真実って・・何なんだろう」ドアが閉まった事を確認して託生が溜め息交じりに呟く。「進藤さんの言った事が正しかったとしても、兄さんがどう思っていたのかは分からない。兄さんがどう言う気持ちであんな事をしたのかなんて、今更確かめようが無いし」「死人に口なし。だが、オレには分かるよ」「兄さんの気持ちが?」「ま、分かると言っても推測の域は出ないけどな」肩を抱き寄せて、両手を包み込むように握ってオレは自分の推論を口にする。「実は彼、前に一度託生を訪ねてここに来ているんだ。その時はオレが不在だか
「私は、尚人さんに憧れていたんです」小さな応接セットに腰を下ろし、進藤は徐にそう話し始めた。「私だけでなく、他にも何人もの生徒が尚人さんに憧れていました。優しくて頭も良くて運動神経も悪くない尚人さんに気に入られたくて、遠巻きにいつも見ていました。そんなある日、尚人さんの方から声を掛けてくれたんです。嬉しかったです。何人もいる生徒の中から私を選んでくれたとそう思うと、本当に嬉しくて幸せでした。その日から私は尚人さんと過ごす時間が増えていきました。お昼休みや放課後に他愛の無い話をして、話をする以
が、そうは願ってはいても事は早々上手くは動いてくれない。最終の打ち合わせとリハも終わり明日の本番を迎えるだけとなった託生に進藤佑は訪ねて来た。運悪くオレがいたものだからスタッフも大丈夫だと思ったのだろう。わざわざご丁寧に控室まで案内をしてくれたものだから追い返すに返せなくなり、致し方なく招き入れる羽目になってしまった。甘いんだよな、日本は。他国より安全だと言う自負の所為でこれくらい大した問題じゃないとすぐに高を括る。後でしっかりとシメてやる。それよりも今はこいつの素性が問題だ。
「託生に?」「うん。マネージャー不在の時に会わせて何かあったら責任取れないからスタッフも取り継ぎはしなかったらしい。今日はもういないからと帰って貰ったそうだよ」食事の合間、託生が席を外したタイミングで政貴が教えてくれた。今日の昼間、託生を訪ねて男が一人。「そうか、そいつの」「名前とか?コレ、」差し出されたのは一枚の名刺。進藤佑・・・・、心当たりは無い。託生を訪ねて来たのなら託生に訊けば分かるのかもしれないが。「thankyou」「心当たりありそう?」「いや、オレには無い。
「はぁ~~」溜め息を吐いた僕に野沢君がハハッと笑う。「そんなに疲れたの?」「疲れたって言うか、なんかもう緊張し過ぎて」とは言えリハーサルは順調だ。僕が弾くのは勿論カノン。今回は一人で。佐智さんに一緒にお願いします!と、言ってみたけど笑顔で速攻お断りされてしまった。だから一人で。いくら気心知れている野沢君がいるからと言っても緊張はかなりする。決して若くはない、コンクールでの実績も無い僕のデビューコンサートなんて大した注目も集めないだろうと思っていたのに、何がどう伝わったのかチケ
託生のデビューコンサートは日本で、オケは政貴の所属する東京フィルにした。託生と佐智のカノンも好評で、お陰でチケットも完売した。マネージャーはオレがやっているから勿論公演に付き添って日本入り。託生はオレの仕事を心配していたが、そこはちゃぁーんと調整してある。いつもの様にほんの少し島岡に負担をかける事にはなったが、オレはどうしても託生の側にいたかった。それはデビューするからと言うだけではない。少し、気になる事があった。デビューにあたり、託生は崎姓ではなく葉山姓を名乗ることを決めた。崎
佐智さんへプロになる覚悟を決めたと連絡をしてからが大変だった。いや、大変だったのは全部じゃなく一部だけだったけど。真っ先に職場に話をした。勝手にデビューする事を謝罪して、今後も出来うる限り働かせて欲しいと言う事をお願いをしたら、快く快諾して貰えた。それから事務所探し。こっちは佐智さんと何故かギイで何かあったらしく、最終的には個人事務所を立ち上げる事になってしまった。僕は別に佐智さんの所でお世話になっても良かったしその方が心強いからそうしたかったのにギイが、「今以上佐智とは接触させない
ギイに相談しても結局これと言ったところに気持ちは落ち着かず、僕は野沢君に連絡をする事にした。東京フィルに在籍している彼ならばきっと良い異見をくれるだろうからと期待して。「良いんじゃ無いのかな」これまでの経緯と佐智さんの言葉とギイの意見を告げた僕に野沢君はさらっとそう言ってくる。「良いって?」「プロになっても。今からだと遅いくらいじゃないかと個人的には思うけど、葉山君はその方が良いと思うよ。いつだったかほら、バイオリンの方が言葉より気持ちを伝えやすいって言ってたよね?性に合ってるんだよ弾
さっきのやり取りなどまるでなかったかの様に終始和やかな雰囲気で食事会は終わっていく。ギイも佐智さんにはもう突っかからないし、佐智さんも何も言わない。たまに視線が合っても微笑み合っている。でもそれが僕からしたら怖かったりする。これまでは二人で僕の分からぬ何かを疎通しているんだろうなと勘繰っていたし、付き合いの長い二人だから口に出さなくても分かり合える事は沢山あるんだろう。だから今もお互いだけが分かる様に微笑み合っているに違いない、本音はその下に隠して。「託生はこの後どうするの?義一君は
いつも・・・・思う。最後の一音を奏で終わった瞬間に込み上げてくる寂しさ。終わってしまった楽しい時間に物悲しさを感じてしまって、もう少し奏でていたかったな・・・と思ってしまう。多分僕はこれまでもずっとそんな顔をしていたんだろう、「気持ち良かった?もっと弾いていたいよねぇ、託生君」綺麗な顔が悪戯っ子のような笑みを浮かべて僕を覗き込んで来る。「・・・・・うん」「ふふ、そうだよねぇ」小さな頷きに満足そうに呟いて佐智さんはステージを降りて行く。そこでようやく耳に拍手の音が届いて、そうだった
あの遠い夏の日に二人で奏でたパッヘルベルのカノン。日本でも卒業式や結婚式なんかでお馴染みのこの曲は本来バイオリン三本とバス一本で奏でる曲、それをバイオリン二本でしかもプロとアマで。あの時もプロとアマだったけど、今はそう、セミプロくらいに、ほんの少しくらいなは僕もマシになっているはず。色んな経験をして、色んな事を思って・・感じて。佐智さんとも憧れだった人から友人になり、それから師弟・上司と部下を経てまた今友人として。関係性がいくら変わってもバイオリンを奏でる時はいつも対等だ。そこにかなり
結局シンプルな白いシャツと黒いパンツ姿で僕はステージ脇にいる。招待客の事を佐智さんに訊ねてみたけれど「秘密」と満面の笑みで言われたし、出るまで客席を覗くのも禁止された。佐智さんが整い過ぎている綺麗な微笑みを浮かべる時、それはギイ同様に何かを企んでいる時だからだ。その微笑みに学生時代も助手時代も何度やられた事か。「緊張感してる?」「ええ、かなり」佐智さんとの直接の打ち合わせは出来ない、いや、しないまま。僕の演奏を佐智さんは聴いているけれど僕は全く。だから佐智さんがどんな風に仕上げて
『昨日よりも音に深みが出たんじゃないかい?』オーエンさんにそんな事を言われながら、それに僕も『そうですか?』なんて言いながら音合わせは無事に終わりを迎えた。『サチとのカノンの件だが、』『はい』『急で悪いが場所はここに変更になったから』帰り際に手渡されたのは一枚の地図。名称から察するにホールらしいけど、訊いた事がない名前だからとても小さな所なんだろう。ここに来ての予定変更だからそれも仕方ない。『せっかくだから聴衆の前で演奏したいそうだ』『じゃあお客さんを入れて?』『ああ。とは言