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冬の暇な時期、またしてもガズオ・イシグロの本に手が伸びてしまった。中世初期のブリテン島[5世紀、ローマ帝国にゲルマン人の侵入が始まり、ローマはブリタニアを放棄した。5世紀半ば、ゲルマン系アングロ・サクソン人がブリタニアに侵入しはじめ、ケルト系先住民のブリトン人を征服同化した]を舞台とするファンタジーである。カズオ・イシグロの文章が秀逸なのか、翻訳が秀逸なのかはわからぬが、このぶっとんだ小説の世界に私はぐんぐん引き込まれてしまった。物語は寓意に満ちており、普遍的な問題を提起している。最後のどんで
【書店主フィクリーのものがたり】・2016年本屋大賞翻訳小説部門第1位島に一軒だけある書店の偏屈店主フィクリーのものがたり。フィクリーはある夜、蔵書の稀覯本を何者かに盗まれてしまう。悲しみに暮れながら日々を過ごすフィクリーであったが、ある日書店に小さな女の子が捨てられているのを見つける。この女の子「マヤ」との出会いにより、偏屈で定評のあったフィクリーの性格に変化がおこる。この主人公フィクリーであるが、偏屈と言われるだけあり偏った考え方を表す一方で、時々魅力的な言葉やユーモアを披露する。そ
カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞受賞作クララとお日さま/ハヤカワepi文庫ネタバレにならないよう注意して書きますが先入観なしに本書を読みたい方はここから先は読まないでくださいね✳︎✳︎✳︎✳︎︎✳︎✳︎︎✳︎✳︎︎✳︎✳︎︎✳︎✳︎AF(人工親友)として開発されジョジーの家庭に買い取られたクララ店頭で人間を観察していた時のことやジョジーとの出会いや生活などがクララの淡々とした口調で語られます語り口は「淡々と」ですがクララの言葉は思いやりに溢れて
9月17日(日)ユーモア→悲哀→救い「観光」ラープチャルーンサップはやかわepi文庫あとがきからイギリスの新聞《ガーディアン》の書評記事///『観光』は、・・・各短篇も人間に対する温かさと信頼によって支えられており、救いとなるような感動的な瞬間が描かれている。・・・優れた物語を読んだというだけでなく人と世の真実を知った、と読者が思うような短篇を書ける作家はきわめて少ない。ラープチャルーンサップはそういう貴重な作家のひとりである。人の心情とその意味と出来事の詰まったこの作品
わたしを離さないでカズオ・イシグロ訳:土屋政雄感想⚠️ネタバレを含みます2016年にドラマを見ていつか原作を読みたいと思っていた。臓器提供をするために産み出されたというのを知っていて読んだけれど、途中クローン人間だと忘れてしまうことがあった。感情の描写が細かくて丁寧で共感できた。クローン人間にも感情があるんだと知ったあとに「使命」についてのシーンがあるので、そうだったなぁと。普通じゃないんだと思い出させられた。普通の人間と変わらない感情があるのに、クローン人間として「使命」として
2022年6月19日17時30分~19時30分猫町倶楽部駒井組ガエル・ファイユ「ちいさな国で」に参加。猫町倶楽部にはいくつか分科会があります。その中でも課題本を選ぶ人を主催者山本多津也氏が他人に委ねている分科会を「~組」と言っています。駒井組は編集者の駒井稔さんが関与する分科会なので駒井組。駒井稔さんはツィッターアカウントの自己紹介を引用すると。「編集者。ひとり出版社「駒井組」代表。「光文社古典新訳文庫」創刊編集長。」この分科会はさすが現役の編集
ハヤカワepi文庫訳・土屋政雄2008年8月発行2020年6月73刷解説・柴田元幸439頁優秀な介護人キャシー・Hは“提供者”と呼ばれる人々の世話をしています生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者でしたキャシーの施設での奇妙な日々の回想は残酷な事実を明かしていきます2010年公開の映画も2016年の綾瀬はるかさん主演のテレビドラマも観ていませんがおよそ内容は知っていて覚悟の上の読書でした悲しい物語なのですしかし、キャシー、ルース、トミー
訳・土屋政雄ハヤカワepi文庫2017年10月発行解説・江南亜美子481頁舞台は4~5世紀頃、アーサー王亡き後のブリテン島遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村をあとにした老夫婦は一夜の宿を求めた村で少年を託され、若い戦士を加えた4人で旅路を行きます竜退治を唱える老騎士、高徳の修道僧ら、様々な人に出会い、時には命の危機にさらされながらも老夫婦は互いを気遣い進んでいきますファンタジーの要素が色濃くにじむ作品ですしかし、基本にあるのはカズオ・イシグロの常のテ
ハヤカワepi文庫『第三の嘘』アゴタ・クリストフ(著)堀茂樹(訳)早川書房(出版)ハンガリー出身の作家アゴタ・クリストフの『悪童日記』にはじまる三部作、第二作『ふたりの証拠』を経て、発表された完結編が『第三の嘘』。ベルリンの壁の崩壊後に双子の兄弟のひとりが、子供の頃の思い出の小さな町に降り立った。彼は少年時代を思い返しながら町を彷徨い、何十年も前に別れたままの兄弟を探し求め、離れた土地でそれぞれの人生を歩んで来た
ハヤカワepi文庫『ふたりの証拠』アゴタ・クリストフ(著)堀茂樹(訳)早川書房(出版)ハンガリー出身のアゴタ・クリストフがフランス語で書いた作品『悪童日記』の続編が、この『ふたりの証拠』になります。でも、名前を名乗っていたり、“双子の少年”からもうひとりの片割れになり、「別離」の後からの話になりますので、最初は少し戸惑いますが、読み進めるにつれて、すぐに没頭させるだけの物語となっています。年齢は、『悪童日記』
ふつうの文庫本と背比べすると8mmくらい背が高いのです文庫本サイズのブックカバーに収まらなくて困ってます代わり映えしないボクのお昼ごはん来週から少し変化を加えようと何となくですが考えているのです昨夜はGABAサプリを飲まないで寝たせいでしょうか前半の睡眠状態が良くありません運動量はこんなもんでしょ明日は小江戸栃木宿方面にでもドライブしようかと思案中でありますじゃあまたね
訳・小野寺健ハヤカワepi文庫2001年9月発行2019年1月22刷解説・池澤夏樹261頁英国に住む悦子は長女の自殺に直面し、喪失感の中で自らの来し方に思いを馳せます戦後間もない長崎で長女を妊娠中に出会ったある母娘戦後、180度変わってしまった価値観についていけないでいる義父戦前は上流階級に属していたものの戦後は没落、うどん屋で生計を立てている初老の女性誰もが傷つき何とか立ち上がろうと懸命だったあの頃、淡く微かな光を求めて生きていた人々の姿を描きますしかし
訳・飛田茂雄ハヤカワepi文庫2019年1月発行解説・小野正嗣316頁戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名を成した画家の小野多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にありましたが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなり、引退後は屋敷に籠りがちになります老画家は過去を回想しながら、自らが貫いてきた信念と新しい価値観の狭間に揺れるのでした渡辺謙さん主演のドラマを観て購入カズオ・イシグロ初読ですが、冒頭に収録されている著者による序文のお陰もあって、時間の流れを無視し、連
『ヒューマン・ファクター』グレアム・グリーンイギリス情報部から情報が漏洩している事が発覚。果たして二重スパイは誰か秘密裏に調査が始まる中、かつてアフリカで活躍したものの現在は閑職的な部で古株の諜報部員カッスルを主人公としてスパイ小説。しかし、スパイ小説としての面を見せながら、その実はやはりカッスルが過去を想い、愛する人を想い、そして未来を想うカッスルの苦悩と希望を描きながら、冷戦下に繰り広げられる人間ドラマ。“モグラ”は誰かという事は早々に分かってしまうと思います
ザ・ロード(ハヤカワepi文庫)[コーマック・マッカーシー]傑作。昨夜、深夜までかかって、一晩で読み、むせび泣きました。これね、無理だよ。息子のいる人には、無理。感想ね、書きたいんだけど……まともに書こうとすると、たぶん1000ページくらい書けてしまう(笑)なので、まとまらない呟きだけ。これは、現代の文明社会が壊れてしまった後の、物語。たぶん、核戦争?かな?原因は。空も大地も灰に覆われ、日の光も射さず、植物も枯れ果て、動物も死に絶え……その死の大地を、旅するの。お
「夜想曲集音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」カズオ・イシグロ著(ハヤカワepi文庫)“NocturnesFiveStoriesofMusicandNightfall”(2000)土屋政雄訳本編:306頁(初版:2011.2.10)2019.3.2読了
10月4日、読了。<ブックレビュー>ブラッド・メリディアンあるいは西部の夕陽の赤(ハヤカワepi文庫)1,296円Amazon
オルダス・ハクスリー著『すばらしい新世界』(ハヤカワepi文庫)を読みました。**AF141年にはじまった九年戦争により世界経済は破綻し、人々は統制か破綻かの二者択一を迫られ、安定を選んだ。ベルトコンベアを受精卵の入った大量の瓶が流れてくる。薬剤等が投与され、生まれる前からアルファからイプシロンまでの五つの階級に選別される。争いごとはなくなり、人々は幸福を享受していた。そんな中、アルファにも関わらず背が低いことから他者との交流を避けていたバーナードが、休暇で訪れた旧人類保護区で野
自分はいわゆる名作映画というものは興味がありながらも、ほとんど観ていない。いつか観よう、観ようと思いながらもついつい後回しにしてしまっているのだけれども今回の「第三の男」は数少ない観ている作品のひとつである。自分が映画と原作小説、どちらを先に触れたのか今となっては思い出せないのだけれどもどちらにしても中学生時代に触れていたのは間違いないと思う。映画の方はNHKのBSでアカデミー賞特集か何かで放映していたものを録画してみたし原作小説のほうは当時刊行されたばかりのハヤカワepi文庫の第一弾ライ
前回<<--------------------「おとなしいアメリカ人」グレアム・グリーン著田中西二郎訳出版社:早川書房ISBN:4151200282おとなしいアメリカ人ハヤカワepi文庫821円Amazonあらすじ:「ヴェトナム戦争直前のサイゴンで一人のアメリカ人青年が無残な水死体となって発見された。引退間際のイギリス人記者ファウラーは青年と美しい地元娘を争っていたものの、アジアを救うという理想に燃えていた純真なライバルの死に心を痛める。しかし、ファウラ
前回<<>>次回--------------------「わたしを見かけませんでしたか?HasAnybodySeenMeLately?」コーリィ・フォード著浅倉久志訳ISBN:415200266わたしを見かけませんでしたか?(ハヤカワepi文庫)/早川書房¥756Amazon.co.jpあらすじ:「近頃、どうして階段が急にきつくなったのだろう?―中年男性の悲哀をユーモラスに描き、あまり
前回<<--------------------「光の軌跡TheSpeedofLight」エリザベス・ロズナー著富永和子訳出版社:早川書房ISBN:4151200258光の軌跡(ハヤカワepi文庫)/エリザベスロズナー¥864Amazon.co.jpあらすじ:「ジュリアンはひきこもり生活を送る科学の天才。ある日、妹ポーラが声楽家を目指してはるか遠くへ旅に出ることを決心し、掃除婦のソーラが部屋とジュリアンの世話をすることになった。戦争で地獄を経験した父の忌まわ