きっと、その場にいる誰もが思っただろう。目の前にある刀に関わる記憶が抜け落ちたのなら、『潮凪』の意味はあるのか、と。本来なら、黒い魔王も悪態をつくのだろうが、我の予想に反してルナは小さな少女の躰を強く抱きしめた。スピネルのように紅い眼からは涙が流れ出ている。獲物を狩る鷹のような無慈悲で鋭い眼光が弱まり、古い電球のような温かみを見せていた。理由こそ違えど元から二人は独りだったから、もしも銃殺のトラウマさえ無ければ互いに支え合えただろう。レナータの頭脳と、ルナの強さは何ものにも変え難いモノだ。人間の